元祖“つけナポリタン”の知られざる裏側
店主・市川さんが語る意外な苦悩とは
静岡県富士市が誇るご当地グルメ“つけナポリタン”。濃厚なトマトスープに鶏ガラを合わせたWスープに、とろけるチーズや鶏チャーシューなどをトッピング。
そして駿河湾で水揚げされた桜えびをからめた、富士山の伏流水を使った特製麺をつけてズズッといけば、口いっぱいに旨みが広がります・・・。
そんなつけナポリタンの元祖といえば、富士市吉原にある「COFFEE SHOP アドニス」さん。
いまやつけナポリタンは、コンビニなどでも販売されるほど普及していますが、すべてのはじまりはここ。アドニス店主の市川さんに誕生秘話から、意外な裏話までを伺ってきました。
誕生のきっかけはテレ東のあの番組
COFFEE SHOP アドニス 店主 市川さん
吉松 |
あの、お店の入口に“つけ富士リタン”とあったんですけど、これはつけナポリタンのことですか? |
市川さん |
あ、もともとそういう名前です。富士の名物を作ろうとして生まれた食べ物だから、富士という名前を無理くり入れているんだよね。このメニューが誕生した2008年10月からそう呼んでますよ。
でも広めていくのにややこしいから、つけナポリタンでいいんじゃないかということで別称がつきまして、世間ではそっちのほうが知られていますよね。うちでも両方の名前を使っています。 |
つけナポリタンを注文すると「つけ富士リタン流儀」というカードも付いてくる。
吉松 |
じゃあ、せっかくなのでつけ富士リタンと呼ばせていただきますね。つけ富士リタンが誕生したのは2008年10月とのことですが、そのきっかけは・・・? |
市川さん |
きっかけはあれですよ、テレビ東京のTVチャンピオンです。当時、うちが構える吉原商店街は、かなりのシャッター街だったんですよね。そこで、たくさんいたラーメンのチャンピオンたちと協力して、まちおこしを目的にしたご当地グルメ対決をやることになったんですよ。
対戦相手は「九段 斑鳩」の坂井さんがついた「佐重」さん。俺は「めん徳二代目つじ田」さんの辻田さんと一緒にやって、お互いに新しいご当地グルメを考案したあと、住民投票で競ったんです。それでうちが勝ったもんで、富士市役所や富士商工会議所が応援してくれて、元祖だと呼ばれるようになったんですよ。 |
これが元祖のからみ具合。よくつけて食すべし。
吉松 |
TVチャンピオンがきっかけだったとは・・・。どのようにつけ富士リタンを考案されたんでしょうか。 |
市川さん |
うちは喫茶店だから、オムライスとかドリアとかパスタとかを出していて、辻田さんから「お店で人気の商品はなんですか」と聞かれたときに、「一番売れているのはナポリタンですね」って言ったんだよ。
そして辻田さんはつけ麺の達人としてチャンピオンになった人でね。じゃあ、ふたつを融合してみましょうか、ということでつけ富士リタンが誕生しましたね。 |
「勝っても最初は受け入れられなかった」
吉松 |
TVチャンピオンで勝利してから、たくさんの人が来るようになったんじゃないでしょうか? |
市川さん |
そうだね。吉原商店街も少しずつだけど、活気を取り戻したと思います。 |
吉松 |
つけ富士リタンさまさまですね。いらっしゃるお客さんは外からの観光客もそうですが、富士からも多いですかね。 |
市川さん |
んーそれはそうでもなくてね。お客さんに住んでいる地域などのアンケートを取っているんだけど、基本的には外のほうが多いかな。とくに最初は外の人ばっかりでね。
富士はちょっと保守的なところがあって、とくに吉原は古い街だもんで、やっぱこう新しいものを受け入れづらかったんですね。だけど、つけ富士リタンの誕生から8年経ったいま、ようやく富士の人にも食べてもらえるようになったかなーとは感じています。 |
ランチタイムには多くのお客さんが訪れて、つけ富士リタンの注文がガンガン入る。
吉松 |
はーそうだったんですか。富士の皆さんに受け入れられるきっかけがあったんでしょうか? |
市川さん |
たぶん、最初は馬鹿にされていたと思うんですよ。「こんなもん名物じゃねえよ・・・」みたいな。実際に僕はここで長く住んでいるし、知り合いがいっぱいいるから、「なんか言ってたよ。文句言われてたよ」なんて人づてに聞くこともあって。
「やっぱなー。文句言われてたのか」ってねえ。そんなことがあったけど、8年も続いていると「ん?長く続いてるじゃん。じゃあ食べみようかな」ってなったんじゃないかなと。 |
吉松 |
ええ・・・。意外な裏話ですね・・・。 |
市川さん |
あとはもう、広報活動を富士市役所と富士商工会議所がやってくれているので、そのおかげがあるんじゃないかな。つけ富士リタンが誕生したてのころは、お店を開けなきゃならない、何百から何千と出るイベントの仕込みも自分でやらないといけない、しかも宣伝もしなきゃならない、みたいな感じで。かなりの負担でしたよ。
そしたら富士商工会議所が「もう広報とかPRは俺らに任してくれ。市川くんのところはとくに元祖だから、お店のことだけ考えてやってくれ」と言ってくれて。これで役割がきちんと分担されて、お店のことはもちろんだけど、広報活動も活発になって、いろんな人に知られるようになった気がしますね。 |
B-1グランプリでさらなる飛躍を
吉松 |
それでは、やっとつけ富士リタンを富士の人が食べるようになったいま、次にみえてくるものはなんでしょうか? |
市川さん |
やっぱりご当地グルメとしてもっと根付かせたいというのと、B-1グランプリですかね。2017年に開催される第11回大会の東海・北陸予選だったかな、それが2017年2月にここ富士市吉原でやるんですよ。 |
吉松 |
B-1グランプリの予選がここで開催されるんですか!? |
市川さん |
うちの近くにある吉原公園や中央公園、吉原市民ひろばなどを会場にしてね。もちろんつけナポリタンは出場するはずだから、差し当たってはその成功。
それでますます知名度が上がってもらって、富士の人がよその県に行ったときに「富士にはつけ富士リタンがあるよね」とパッと出てくるようにしたいなと思っていますね。 |
市川さんに聞くまで知りませんでしたが、なんとB-1グランプリの東海・北陸予選が富士市で開催されるとのこと。知名度の高いご当地グルメがいくつもある東海・北陸では激戦必至。
でも市外からだけでなく市内からも愛されるようになった、つけナポリタンの元祖、アドニスさんのつけ富士リタンならきっと・・・。ぜひ本選に進んで、さらなる知名度アップに成功してほしいと願っています。
※B-1グランプリについては2016.09.17時点の情報です。