雪が降ると大はしゃぎの静岡県民
なぜ雪が降らないのか気象台に聞いてきた
こんにちは、miteco編集長の吉松です。
2017年1月14日(土)、静岡市は初雪でしたね。
これくらいの雪でテンション激上がりするのが静岡市民。#静岡 #雪降った pic.twitter.com/gf1vWfE0Ja
— 静岡のWEBマガジン「miteco」 (@miteco_jp) 2017年1月14日
これくらいの雪でテンション激上がりするのが静岡市民・・・。
僕は大学進学で島根県松江市から静岡県に移住してきて7年目。
未だに慣れないのが「雪に対するイメージの違い」です。
静岡県民、とくに西部から中部の方は雪が降るとめっちゃテンション上がりますよね。いまでも印象に残っているのは当時大学1年生の講義中(浜松市)。
雪がちらついたときに教授が「みんな! 雪が降り始めたよ~!」と言って、15分くらい休憩になったんですよ。「うそだろ・・・」と思いました。
僕の地元では冬に雪が降るのは当たり前です。町が一面真っ白になるのは日常茶飯事。
いまパッと思い返すと、
- 学校の校門が雪で埋まった
- 自転車通学の人でも冬だけはバス通学になる
- 雪降る日、親は不機嫌、子はご機嫌
などのできごとが浮かびます。
とにかく雪は身近な存在だっただけに、僕は常々疑問に思っていることがあります。
そもそも、なんで静岡県には雪が降らないの・・・?
「静岡県に雪が降らない問題」を解決します
はい。というわけでやってまいりました。
静岡市駿河区曲金にある「静岡地方気象台」です。気象庁が静岡市に置いている気象台で、天気予報や警報、注意報などの情報を提供しています。
僕の疑問に答えてくれるのは、静岡地方気象台で気象情報官を務める寺島孝二さん。岐阜県出身で、静岡県以外にもさまざまな地域で暮らした経験があるそうです。
吉松 |
今日は「静岡県に雪が降らない理由」をお聞きするためにここに来ました! |
寺嶋 |
わかりました。普段の施設見学でも使っている資料を用意していますので、こちらをもとに説明させていただきます。とりあえずこちらをご覧ください。 |
吉松 |
あ、ほんとですか。わざわざありがとうございます。 |
日本海側と太平洋側の気象特性について
寺嶋 |
それでは「静岡県に雪が降らない」をテーマに、見学者にも説明している内容をかいつまんで、順番に説明していきますけども。 |
吉松 |
よろしくお願いします。 |
寺嶋 |
まずは冬の気象特性から。冬になると日本には北風という寒い風が入り込みますね。そうすると日本海側では「山に遮られた雲が雪を落とす」。太平洋側では「日本海側で水分がなくなった空気が流れてきて晴天になる」。極端ではありますが、これが大前提にあるわけです。 |
吉松 |
ざっくり言うと「冬は日本海側に雪が降りやすい」「太平洋側には雪が降りにくい」ってことですか。 |
寺嶋 |
その通り。しかし太平洋側と言いましても、北海道の根室あたりから九州まで含まれますよね。ですのでやはり「静岡県はどういう状況なのか」という観点で見る必要があるわけです。 |
吉松 |
おっしゃる通りです。 |
寺嶋 |
それでこれが静岡県の地図と。 |
寺嶋 |
あ、ちなみに吉松さんはどちらのご出身で? |
吉松 |
島根県の松江市です。 |
寺嶋 |
あら! 私もね、いまから30~40年前、松江に2年間ほど住んでいたことがありましてね。 |
吉松 |
あら! 偶然ですね。 |
寺嶋 |
松江市では当たり前のように雪が降るじゃないですか。日本海側の天気というのは冬に雪が降るのは当然なんですよね。 |
吉松 |
そうですね。身近な存在でした。 |
寺嶋 |
でも静岡県は違うんです。この前、1月14日(土)には静岡市で初雪が観測されましたね。街中でも降りましたけど、これって1年に1回あるかないかなんですよ。・・・というのも、やっとこさ漏れてきたものが降るわけなので。 |
吉松 |
やっとこさ漏れてきたものってどういう・・・。 |
なぜ静岡県には雪が降らないのか?
寺嶋 |
あのですね、静岡県の地形特性としてはまず「中部山岳」があるわけです。南アルプス、富士山、伊豆の山という全国屈指の山々に囲まれているんですよ。 |
吉松 |
こう見ると静岡県って山だらけですね。※写真の赤丸がついている箇所です。 |
寺嶋 |
あとは「平野」ですね。県内でもとくに人口が集中している静岡市や浜松市に注目してみると、南の海に開けた平野が広がっていますよね。※写真の青丸がついている箇所です。 |
吉松 |
ほんとだ。山岳と平野で見事に分かれていますね。 |
寺嶋 |
これらの地形特性を踏まえまして、先ほどの資料を見直してみましょう。 |
寺嶋 |
日本の周辺には、水の温度が暖かい「暖流」と冷たい「寒流」という海水が流れています。青い矢印が寒流、赤い矢印が暖流ですね。それでよく誤解されているのが、「雪が降るのは寒いから」なんですよ。 |
吉松 |
「寒い=雪が降る」みたいなイメージはあるかもしれないですね。北海道なんてとくにそんな印象です。 |
寺嶋 |
そうですね。それも事実ではあるんですけれど、じつは寒いだけでは雪は降らなくて気温が下がるだけなんですよ。 |
吉松 |
は~そうなんですか。ってこれ小学生のとき――。 |
寺嶋 |
それ! やったと思いますよ。あらためて説明すると、先ほどの暖流というお湯みたいなものに、寒流という冷たいものがやってくると水蒸気が発生します。
その水蒸気を吸収した雲が山にぶつかることで雪が降るんです。つまり、雪が多いところっていうのは、雪のもとである水蒸気が多いところってことなんですよ。 |
吉松 |
それだ! 理科の授業でやった気がします。 |
寺嶋 |
北海道といっても上のほうになると暖流が薄くなるので、北陸あたりと比べたときには降雪量で劣るケースもありますね。
実際に日本で降雪量が多かった時期というのは、北陸あたりに集中しているんですよ。だから「寒い=雪が降る」ではなくて、寒いのと湿気の相対的な関係で雪は降るんです。 |
吉松 |
めちゃくちゃわかりやすい。 |
寺嶋 |
そろそろ結論ですよ。基本的に北からくる水蒸気を吸収した雲は、山々にぶつかって水蒸気(雪)を落としながら南に進んでくると。 |
吉松 |
はい。 |
寺嶋 |
そして水蒸気を落とした空気は太平洋側にやってくる。ここまで説明してきましたが、静岡県には中部山岳がありますね。だから静岡県にはその空気までも、ぐるっと西と東に遠回りをしながら進んでくるんですよ。 |
北からくる空気が遠回りをしながら静岡県にやってくるイメージ図。
寺嶋 |
どういうことかわかりますか? |
吉松 |
静岡県には北からの湿気がほとんど届かない。めちゃくちゃガードが堅いというか。 |
寺嶋 |
そうなんですよ。ある意味で静岡県は「寒さと湿気に対する2重の防備」みたいのがある、と考えていただければわかりやすいかと思います。 |
吉松 |
寒さと湿気に対する2重の防備・・・! |
寺嶋 |
「日本海側の山々」と「中部山岳」で2重の防備です。そんな地形特性があるから、静岡県は雪が降りにくい地域になっているわけですね。これで雪のお話しは以上となります。 |
静岡県に雪が降らない理由のまとめ
雪が降らない静岡県について、6つの工程でまとめさせていただきます。
- 雪は水蒸気を含んだ雲が山にぶつかることで降る
- 山にぶつかった雲はその周辺で雪を落としていく
- 冬の日本は北風の影響で日本海側から雪が降る
- 太平洋側には日本海側で落ち切らなかった雪が降る
- 静岡にやってきそうな雪は中部山岳がブロックする
- 雪が降らない静岡県の出来上がり
「ちょっとわかんないな・・・」という方は、以下のたとえ話を参考にしてください。
- 泥だらけの靴で部屋に入る⇒汚れる(日本海側)
- 玄関マットで泥を落とした靴で部屋に入る⇒ちょっと汚れる(太平洋側)
- 玄関マットで泥を落としたのち、別の玄関マットでさらに泥を落とした靴で部屋に入る⇒あんまり汚れない(静岡県)
いかがでしょうか。だから静岡県には雪が降らないんですね。
以下、ひと息ついたときのこぼれ話です。
注意! 静岡県の雪が降りやすい場所
吉松 |
あの、静岡県でも雪が降りやすいところってあるんですか? |
寺嶋 |
そりゃありますよ。ここまでの内容は、あくまで静岡県における統計上のお話しです。 |
吉松 |
そうですよね。どのあたりに降るんですか? |
寺嶋 |
標高が高い場所とか、いわゆる山岳地帯ですよね。人がたくさん住んでいるところだと、御殿場市や小山町、函南町あたりです。これらは富士山の北東側なんですけど、結構寒いところなんですよ。 |
吉松 |
同じ県内でも気候がまったく違うんですね~。 |
寺嶋 |
あと静岡県で大雪になる場合は、太平洋側からきた暖かい湿りが北風で冷やされたときですね。要するに雪の出身地が日本海ではなくて太平洋なんです。
まあ、この条件下で東京に10cm積もったとしても、静岡市内ではまったく降らないってこともありますけどね。 |
吉松 |
は~・・・。大まかに「静岡県は雪が降りにくい」と覚えておきます。 |
寺嶋 |
そうですね。ちなみに静岡県は雪が降りにくいだけでなく、「雨が多い」「日照時間が長い」「暖かい」といった気象特性があることをご存じですか? |
吉松 |
え・・・? ところどころ矛盾してません? |
寺嶋 |
いいえ、まったくそんなことはないんですよ。 |
吉松 |
え、気になる。それ教えていただいてもいいですか。 |
はい。このまま続いちゃいます。次回、「静岡県の気象特性」について。お楽しみに!