静岡の屋台でおなじみ「さくら棒」の元祖
創業80年「栗山製麩所」のなが~い秘密
こんにちは。川名ひろと申します。
先日描かせていただいた記事です。
私は両親ともに静岡市出身、ついでに祖父母ももれなく静岡市出身という、生粋の静岡市民です。
まあそれだもんで、普通にしゃべくったつもりが方言だったり、「常識じゃんね」とうっちゃらかしていたことが静岡限定の文化だったりすることはえーかんよくあります。※そんなわけで、普通にしゃべったつもりの言葉が方言だったり、「常識でしょう」と思って放っていたことがじつは静岡限定の文化だったりすることはたくさんあります。
そんな私にとって、普段は意識しないくらいに当たり前の文化のひとつが「さくら棒」です。
さくら棒は静岡限定?
こちらが「さくら棒」。
さくら棒は静岡にお住いの方にとって、花火大会やお正月の屋台でおなじみの麩菓子(中部地方のみでおなじみという説も)。しかし、静岡県外出身のmiteco編集部2名に聞いてみると――。
福島県出身のあおいちゃん(写真左)と島根県出身の吉松さん(写真右)。
吉松 |
なんですかこれ。知らないです。めちゃくちゃ長い。 |
あおい |
見たことないですね。色がかわいい。 |
どうやら静岡県外出身の面々は、本当にさくら棒を知らない様子。麩菓子といえば、茶色で短いんだそうです。ピンクでもないし長くもないとは、いったい県外ではなにを掲げ持って屋台を回ればいいんでしょうか。
茶色とピンクの違いって? あの長さはいったいどこから? 実際にさくら棒を作っている方に、お話しを聞きに行くことにしました。
さくら棒の老舗「栗山製麩所」さんへ
掛川市横須賀町にある栗山製麩所さん。創業80年を迎える老舗で、いまでもご主人と奥さまが昔ながらの製法でさくら棒を作り続けています。
栗山製麩所のご主人。
栗山製麩所の奥さん。
なんでも、静岡市内のお祭り、安倍川花火大会や浅間神社の露店に出ているさくら棒もこちらの商品なんだとか! 焼き作業がひと息ついたところという工場におじゃまさせてもらいました。
川名 |
そ、壮観……。今日はよろしくお願いします。 |
ご主人 |
はいはい。あれはまだ途中ので、こっちが完成品のさくら棒です。 |
パッケージに乗っている凧は「横須賀凧」といって、栗山製麩所さんのある掛川市横須賀の人ならだれでも知っている絵柄だそうです。
川名 |
このパッケージ、よく知ってます。緑色のさくら棒もあるんですね。 |
ご主人 |
緑と、黄色と、ピンクと3色。でもオーソドックスなのはやっぱりピンクですね。ピンクがいちばんよく出ます。 |
川名 |
やっぱりさくら棒といえばピンクですよね。 |
茶色とピンクの違いは砂糖!
川名 |
他県の麩菓子は茶色が一般的と聞いてこちらに伺ったのですが、ピンクのさくら棒とはなにが違うんでしょうか? |
ご主人 |
他県で使われているのは黒糖で、さくら棒のは白砂糖です。ピンク色は着色料。白砂糖で作るのは静岡特有の文化ですね。 |
川名 |
なるほど! では味も他県のものとは違うんですね。 |
ご主人 |
そうですね。黒糖だと風味が独特だから、1本まるまる食べるとくどくなってきちゃう。白だと1本ぺろぺろっとかじって食べれちゃうでしょう。 |
川名 |
たしかに、あんなに長いのにいつの間にかなくなります。黒糖に比べるとクセがないから軽く食べられるんですね。 |
おいしさの秘密はグルテン!
川名 |
作るときにこだわっていることがあれば教えてください。 |
ご主人 |
うーん、なるべくグルテンをたくさん入れることかな。これがグルテンです。 |
写真は冷凍の状態です。この塊から200本くらいのさくら棒ができるんだとか。
ご主人 |
さくら棒はグルテンと小麦粉を混ぜて作るんです。グルテンを多くしないと味がね。味気ないというか、ぽそぽその食感になっちゃって。小麦粉食べてるような感じ。
グルテンは小麦粉に比べると高価なので、たくさん入れると利益は少なくなりますよ。でもやっぱり味がうまかないと意味がないから、たくさん入れるようにしてるんです。 |
川名 |
利益より味優先で作られてるんですね。レシピは決まっているんでしょうか? |
ご主人 |
だいたいは決まってます。でもあとはほとんど手加減で。焼き時間もタイマーとかないから、カンというか、匂いというか。機械はあんまり使わないもんで、手作業だから大きさなんかは不揃いになってますけど。それもいいとこですから。 |
川名 |
味ってやつですね。欲張りなので、買うときは少しでも砂糖がたくさんついていて大きいものを選んでしまいます。 |
奥さん |
周りの砂糖ばっかり先に食べちゃう子もいるね。 |
川名 |
おおいに身に覚えがあります。 |
なが~いさくら棒の起源は……?
川名 |
他県の方は長さにも驚かれるようですが、これも静岡特有の文化ということでしょうか? |
ご主人 |
そうですね。うちが始めました。 |
川名 |
えっ! じゃあ、もともとは静岡でも短かかったんですね。いまの長さになったのはいつごろなんでしょうか? |
ご主人 |
うーん……。もう30……35年くらいになるかねえ。 |
長さの起源はなんと栗山製麩所さんでした。さくら棒といえば長いものだと思って育ってきましたが、そのさくら棒文化を作った方が目の前に! 不思議な気分です。
川名 |
どうして長い麩菓子をつくろうと思ったんでしょうか? |
ご主人 |
昔は料理用のお麩を主に作っていたんだけどね、だんだん需要が少なくなってきて。お客さんのためになんとかインパクトのある商品を考えにゃいけないと思って、長くすることにしました。 |
川名 |
この長さ、あらためて考えるとインパクトしかありません。マーケティングの一環だったとは驚きました。結果的に大成功ですね。 |
ご主人 |
そうですね。いまではすっかりこっちのさくら棒がメインです。よく県外からもお客さんが来て、大事そうに抱えてかれますよ。 |
栗山さんの「お客さんに喜ばれるものを作りたい」という想いから生まれたさくら棒。客層は子どもからお年寄りまで幅広く、近所の小学生が、工場見学後におこづかいを握って買いに来ることもよくあるそうです。
お話しを伺ってから、私も久しぶりにいただきました。
白砂糖が優しい甘さ。中身のふわふわはもちろん、周りの砂糖もカリカリで美味しいです。見た目のインパクトに反して軽くいただけるので、ひとりで欲張ってもOK。もちろんだれかとシェアするのも楽しいです。お祭りの思い出に直結している味なので、食べるだけで懐かしくて幸せな気持ちになれました。
栗山製麩所さんのさくら棒は工場に直接出向くか、お祭りなどの露店、または県内のファーマーズマーケット(一部店舗)で購入できます。
いまならちょうど夏祭りシーズンが近いので、近くのお祭りに足を運ぶのが手軽でおすすめです。「子供のころによく食べていた!」という方も、「静岡県民だけど食べたことがない!」という方も、今年はなが~いさくら棒を片手に夏祭りを楽しんでみてはいかがでしょうか?