ふくろうおじさんが僕に教えてくれたこと
脱サラして気づいたらアーティストだった編
こんにちは、編集部の山口です。僕はいま、島田市金谷にある「誠一庵」というところに来ています。ここは“ふくろうおじさん”こと土屋誠一さんという彫刻家の方がアトリエ兼、ミニギャラリーを開いている場所です。
誠一庵のミニギャラリー。所せましと飾られた作品たちはどこか独特。
蓬莱橋の向こうの不思議コミュニティにいたふくろうおじさん
僕がふくろうおじさんに出会ったのは、蓬莱橋の撮影取材をしに行ったときのことでした。
⇒静岡が誇る世界で一番長い木造の橋 東海道最大の難所に架かる「蓬莱橋」の歴史
蓬莱橋については上の記事を読んでいただければと思いますが、この記事では書かなかった蓬莱橋の向こう岸には、ちょっとアクティブなおじさまたちが独自のコミュニティを形成していました。そのうちのひとりが「ひとり観光協会」として吉松編集長が取材した久門(ひさかど)さん。
⇒蓬莱橋に恋する「ひとり観光協会」に直撃! 世界一長い木の橋にかける想いとは
そして、 “ふくろうおじさん”もそのひとりでした。
橋を渡り切ろうとすると、こんな感じにテントが見えてきて・・・
なにやら地元住民の方と親しげに話している様子。テーブルには石の彫り物がびっしり。
最初は「セカンドライフ」として趣味でやっている方なのかなぁ、と思っていたのですが、「とんでもない! この方は、アーティストとして長い間活躍なされている“ふくろうおじさん”だよ!」 と久門さんに言われたときは、
正直、まったくピンときませんでした・・・
でも、少し話してると土屋さんはなんと、いけふくろうの石像※を作った方だったことがわかり仰天。まさか蓬莱橋を渡った先に、そんな作品を作っている方がいるとは夢にも思いませんでしたが、ぜひお話しをと思いその場で取材をお願いすると、すぐにOKしてくれました。
いけふくろう
東京都豊島区池袋にあるふくろうの石像。池袋駅の中にあるものがもっとも有名ですが、じつは豊島区のいたるところに設置されており、現在30か所ほどに点在しているようです。
ということで、今回誠一庵に訪れたというわけです。
ふくろうおじさんってそもそも何?
山口 | まずは「ふくろうおじさん」ってすごくユニークな名前、これってどこからついたんですか? やっぱり土屋さんといえば、「いけふくろう」じゃないかなと思うんですが、これが理由で呼ばれるようになったんですかね。 |
土屋さん | いやいや。それは全然あと。だってあれは、5年くらい前だから。どちらかといえば、ふくろうおじさんって名前があったから携わらせてもらったようなものだよ。 |
山口 | あれ? そうなんですね。では、それ以前からたくさんふくろうを作ってきたんですね。 |
土屋さん | そうそう。“ふくろうおじさん”というのは、僕はもともとふくろうをよくテーマに作品を作っていたもんだから知らないうちに定着してて。そりゃ、ふくろうをずっと作っていればそうなるよね、という感じ。 |
山口 | なんで“ふくろう”だったんですか? 鷲でも鶏でもよかったじゃないですか? |
土屋さん | なんで“ふくろう”かといえば、じつは家の近くにある公園にふくろうがいて・・・。 |
山口 | 「いて」って誰かが飼ってたりとかそういうことですかね。 |
土屋さん | いやいや、住んでたんだよ。 |
山口 | 野生のふくろうですか!? |
土屋さん | そう。金谷にある家の近くに公園があって、そこに居たの。小さいころからもうずっと見てたから、それが“ふくろうおじさん”の原点だね。 |
誠一庵に飾ってあったふくろうの写真。土屋さんは小さいころからこのふくろうを見て育ったといいます
山口 | (いたの・・・って、ふくろうって結構そこら辺に居るもんなんだろうか・・・) では、そうやってふくろうを見ていたから自然にテーマになってということなんですね。 |
土屋さん | それこそ小さい子たちが「ふくろう、ふくろう」って。それで気づいたら“ふくろうおじさん”だった。 |
脱サラしてふくろうおじさんに
山口 | 小さいころから野生のふくろうを見て、良く取り上げられるようになったとのことですが、彫刻の活動というのはずっと昔からやっていたんですか? |
土屋さん | いや、活動をはじめたのは平成元年からだから28年くらい。 |
山口 | 28年! ・・・ん? あれ、失礼ですが今年でおいくつになられますか? |
土屋さん | 今年で66歳。 |
山口 | じゃあ、30代の後半くらいから始められたということですよね? |
土屋さん | そうだね。だいたい30代の終わりごろにはじめて、40ちょっとで独立っていう感じです。 |
山口 | ってなると、それまでってどこかで修行や勉強ですか? |
土屋さん | いや、それまではサラリーマンです。 |
山口 | ええええ |
土屋さん | そうなんだよ! 普通にサラリーマンでした。いま話しても誰も信用してくれないけど(笑) きちんとサラリーマンやって管理職までなったんだよ! |
山口 | ・・・あ、そーだったんですね(ちょっと信じられないなぁ) |
土屋さん | 自動車部品を製造する工場ですけどね。そこでサンドブラストっていういまでも用いる手法で素材を加工していたので、活動と関係はしていますね。 |
山口 | ほーー。それでは、そこからヒントを得てアーティストになったというわけですね!(納得) |
こちらは、サンドブラストによるふくろうおじさんの作品。サンドブラストは細かい硬い砂を対象物に吹き付けて削っていく手法。曇りガラスを作るときなど工業品ではよく見かける手法だそうです。ただ、アートの分野で用いる人は割と珍しいんじゃないかなぁとのことでした。
サラリーマンから“ふくろうおじさん”になる決意
山口 | 40歳を目前にアーティストって大きな決断ですよね? 当時はなかなか葛藤や不安があったんじゃないんですか? |
土屋さん | 最初はね、アーティストというよりも職人になりたかったんだ。 |
山口 | 職人ですか・・・? |
土屋さん | なんというか、既製品を作る「歯車」じゃなくて「完成品」を作るのが職人だって思って。だから最初はそんなに大それたことは考えてなかった。
ところがある日、その道に入ろうと思って自分の作品を持って信頼している先生を尋ねたら、それを見ていきなり「ギャラリーで、作品展をやろう」と言い出すわけ(笑)もう、修行もなくすぐに作家デビューみたいな形になっちゃった。 |
山口 | で、せっかくそうなったわけだし、「もう、これは作家として頑張るぞ」という感じになったんですね? |
土屋さん | いや、そりゃ悩みましたよ! |
山口 | そりゃそうですか。やっぱり最初は経済的にも大変でしたか? |
土屋さん | 1年目の収入はサラリーマン時代の10分の1だったねぇ。 |
山口 | それは大変ですね。 |
土屋さん | まぁ、こういう道に入る人はみんな経験するんでしょうけどね。 |
山口 | ご家族の反対なんかはなかったんですか? |
土屋さん | 女房も働いていたけど、経済的不安はあったよ。でも、もともと僕は結婚するときから「なんかやるぞ」って言ってたんだけど、そのときに「あんた、なんかじゃだめだよ」とは言われていたんだ。で、それが「見つかった」って報告したらそこは何も言われなかったなぁ。 |
山口 | いい奥さん! |
土屋さん | でも、女房の収入をあてにするのは、ちょっと気が引けるというのはあって。責任は感じながら頑張りましたね。 |
「ふくろうの会」との出会いといけふくろうの制作
さまざまな苦労があったふくろうおじさんですが、徐々にさまざまな展覧会に呼ばれるようになり、収入もだんだんと安定してきたとのことでした。
そして、作家活動を始めて20年間ほど経ったころに、ふくろうおじさんのひとつの代名詞ともなっている“いけふくろう”の制作に取り掛かります。
山口 | ふくろうおじさんといえば切っても切り離せないのが、やっぱり「いけふくろう」だと思うんですね。冒頭でも少し話題にしましたが、その制作経緯についてお聞かせください! |
土屋さん | (自分のプロフィールを取り出しながら)あれは・・・2011年の作品だね。
これがなんでできたのかというと、今は解散してしまったんだけど「ふくろうの会」というのがあって。 |
山口 | 彫刻家の集まりですか? |
土屋さん | いやいや、これは本当にふくろう好きの集まる会で、全国に散らばっている集まり。僕も作品を作るようになってから呼ばれるようになって、たまにいまでいうオフ会みたいな感じで集まることもあったんだ。
で、この会員のなかにいけふくろうの関係者の方がいて。そこからの紹介でプロジェクトに参加することになったんだ。 |
山口 | ちなみに、土屋さんのふくろうは何番目なんですか? |
土屋さん | ・・・26番目?・・・
ごめんね。年なのかなかなかこういう数字とかが覚えられない(笑) |
山口 | こちらこそいろいろ聞いてしまってごめんなさい。 |
土屋さん | 2体担当していて、池袋駅からつながるサンシャインの地下道と池袋第三小学校が僕のふくろうだよ。 |
山口 | そうやって、ちょっとした働きかけからつながって、というのは素敵ですよね。しかも、いまや立派な池袋の観光スポットになっていますから大仕事!って感じはしないですか? |
土屋さん | そうだね。それはやっぱりああやって飾られて、たくさんの人に見られるのはありがたいことだなぁと思いますよ。 |
山口 | ふくろうおじさんのいけふくろう、僕も今度探しに行ってみますね。 |
ここからふくろうおじさんのお話しは、作品作りで大切にしていることへ。この内容は、原稿の文字数がいっぱいになってしまったので、後編でお楽しみください。
後編:
誠一庵
ふくろうおじさんの各地への展覧会や出展・ワークショップなどの情報は、Facebookから見ることができますのでぜひチェックしてみてください。