蓬莱橋に恋する「ひとり観光協会」に直撃!
世界一長い木の橋にかける想いとは
こんにちは、miteco編集長の吉松です。
いま島田市の大井川に架けられている、世界でもっとも長い木造の橋「蓬莱橋」に来ています。橋を渡った先にいる“ひとり観光協会”の久門(ヒサカド)さんに会うために――。
久門さんと知り合ったのは以前、蓬莱橋の撮影に来たときでした。
橋を渡っていくと、森の中にのぼりとテントが見えまして。なんだなんだと近寄ってみれば、数人のおじさんが談笑していたんです。
不思議なコミュニティがあるなと見ていたら、そのうちひとりのおじさんが「ここは初めて? 蓬莱橋のことなら、そこにいる観光協会の人に聞いてみなよ」と話しかけてきました。
島田市の観光協会の人がここに・・・? なんてラッキーなんだと思って話を聞いてみれば、「蓬莱橋の観光案内と商売をひとりでやっているんですよ。そこのテントにも書いてあるとおり、“ひとり観光協会”って名前でね」と。
いや、ひとり観光協会ってどういうこと・・・?
聞きたいことが山ほどでてきたんですが、その日は後ろが詰まっていたので、名残惜しみつつもそのまま帰りました。そして諦めきれなかった僕は、日をあらためていまに至るというわけです。
ひとり観光協会とは?
ひとり観光協会 久門さん
吉松 |
こんにちはー。この前はありがとうございました! ひとり観光協会について、詳しく聞きたくてまた来てしまいました。 |
久門さん |
あら! よく来てくださったね。僕でよければなんでも答えますよ。 |
じゃあ、こちらにどうぞ、と端にあるベンチに座らせていただいて質問開始。
吉松 |
さっそくですが、ひとり観光協会とはなんでしょうか? |
久門さん |
この活動は今年の1月からはじめておりまして。蓬莱橋の観光案内や記念品、飲み物などの販売をするっていうのが活動内容ですかね。それでね、名前については活動をはじめるにあたって、なにかインパクトのある言葉はないかと考えていたときに、たまたま思い付いたんです。 |
吉松 |
(思ったよりきちんとした観光協会だった・・・)名前はたまたまとのことですが、テントに書いてあるもうひとつの名前、「おもてなし観光協会」というのはなんですか? |
テントにはカッコ書きの<ひとり>に加えて「おもてなし」の表記が。
久門さん |
あーこれね。じつはね、静岡のテレビ局が放送する番組のなかで、すでにひとり観光協会として活躍されている女性の方がいるんですよ。商売をするには屋号をとる必要があるんですが、同じ名前を付けて二番煎じに思われてもなあと思って。
それで何にしようかと考えたときに、観光客におもてなしをしたいという気持ちが強いもんですから、おもてなし観光協会っていう形で屋号をとったんですよ。 |
吉松 |
あーすでに同じ名前で活躍される方がいるからなんですか。でもそれなら、すべておもてなし観光協会としてやったほうがいい気もするんですが。 |
久門さん |
とはいってもね、やっぱりあなたが興味を持たれたように、ひとり観光協会という名前にはインパクトがあるんですよ。しかも名前を考えるとき、最初に思いついたのはそれでしたので。だから自称するときもテントにも、「ひとり」を使うようにしています。 |
吉松 |
インパクトがあるし、自分の想いを貫きたいし、ということですか。なるほど。 |
きっかけは蓬莱橋への恋心
吉松 |
蓬莱橋でひとり観光協会を始めようと思ったのはなぜですか? |
久門さん |
ちょっと長くなりますけどね、私はもともと島田市長の提案で始まった「島田ゆめ・みらい百人会議」の観光分科会に入っていたんですよ。ボランティアなんですけどね。 |
吉松 |
ん、百人会議? 観光分科会? 市の取り組みですか。 |
久門さん |
そうなんです。百人会議の観光分科会についてですけどね、島田市のまちづくりを観光という視点から支援していくものでして。そこで島田市の観光資源はたくさんあるのに、住民は知らないし価値を理解していない、という話になったんです。
でも任期が2年でしたので、すべての観光資源を広めることはできないと。じゃあ、島田市を潤すにはなにがいいかと絞り込んだときに、「蓬莱橋」だったんです。たださっき言ったように、任期が2年で去年の12月に終わってしまったんですよね。 |
吉松 |
あ、もしかして、志半ばで終わってしまったから。 |
久門さん |
そう! そうなんです! 任期が終わってからは別のことをしていたんですけど、どうしても蓬莱橋のことが忘れられなくてね。それで1月からひとりで活動をはじめた、ということなんです。 |
吉松 |
まるで恋ですね・・・。忘れられずに、たった1カ月で再開するなんて。 |
久門さん |
もうそれに近いかもしれませんね(笑) |
ここでしか手に入らない記念品がある模様
テントの張り紙に気になる文面を発見。
吉松 |
テントの張り紙に「ここでしか手に入らない!! “お渡り記念木札”」と書いてありますが、これ気になりますね。 |
久門さん |
それはね、蓬莱橋の記念品として私が作っているものなんですよ。いままで蓬莱橋には記念品がなかったもんだから。 |
吉松 |
え、久門さんが作っているんですか。かなり手が込んでいますけども。 |
久門さん |
そうなんですよ。これはね、島田の地場産業である「かまぼこ板」を使っているんですけど、それに蓬莱橋の魅力を伝える焼き印をしているんです。
たとえば、天気がいいと見える蓬莱橋からの富士山と、世界最長の木造橋として世界ギネスに認定されていること。
それから全長(897.4m)から「厄無し」という語呂合わせがあること、さらには長い木の橋だから「長生きの橋」という語呂合わせがあることも書いてますね。 |
吉松 |
なるほど。島田市と蓬莱橋の魅力がこれひとつでわかりますね。 |
久門さん |
あとね、この紐。ちょっと短いと思いません? |
吉松 |
え? あ、言われてみればそうですね。 |
久門さん |
これね、私が26センチに切っているんですよ。その意味は、2+6=8じゃないですか。8といえば末広がりですから、皆さんに幸せになっていただきたいという思いで短くしているんですよ。これはいちいち書いていませんけどね。 |
吉松 |
この紐にはそんな想いが・・・。橋を渡った先にこんな記念品があると嬉しい気がします。 |
実際のところお店の売り上げは・・・?
テントの正面では飲み物や観葉植物も販売しています。
吉松 |
ちょっとデリケートな話ですけど、記念品や飲み物などの売り上げって気にされてますかね。ボランティアからスタートとしたとのことで、あまり考えていないのかなと思っているんですが。 |
久門さん |
いやいや、もちろん考えていますよ。ただ私が思い描いていた売り上げとはほど遠いですけどねえ・・・。 |
吉松 |
ああ、そうですか・・・。 |
久門さん |
とくに記念木札は厳しいですねえ。私は足を運んだ先のお土産が欲しい世代なんですけど、いまの人はそうでもないみたいで。 |
吉松 |
僕なんかいまの人に当たると思うんですけど、たしかに行った先のお土産って、なかなか買わなくなってきたかもしれませんねえ。記念品があること自体は嬉しいんですけど。 |
久門さん |
そうでしょうね。まあ、正直なところ、売り上げはね、もうお小遣いになるかならないかですよ。もうほんとに、こんなつもりじゃなかった(笑)もうちょっといいかと思っていたんですけどね。 |
売り上げが少ないのに続けられる理由
観光客に蓬莱橋の歴史を説明する久門さん。
吉松 |
売り上げが少ない、それでも続けられているっていうのは――。 |
久門さん |
やっぱりおもてなしですね。ここに来てくださる観光客をできるだけおもてなしたいんですよ。そういう志でやっていますのでね、辞めるなんて言ってられません。 |
吉松 |
久門さんにとっては、おもてなしをすること自体が、なによりも大事だと。 |
久門さん |
そうですね。言ってしまえば、いまは種まきですよ。儲かる儲からないを別にして、我慢のとき。堪えられないときもありますけども・・・。逆に開き直りの気持ちじゃないとやっとれんよ(笑)
先月、1日になにも売れない日がいくつかありまして、心が折れそうになったこともありましたけどね。でも、どれだけの人に満足してもらえるかが私の使命だと思っているんですよ。 |
久門さん |
・・・それにしても今日は渡ってくる人がばか少ないねえ。インタビューするにはちょうどいいかわからんけどね(笑) |
吉松 |
まあ、ちょうどはいいですが、いまの話を聞いたあとだと、ちょっと心苦しいですよ(笑) |
久門さん |
そうかね(笑)あ、せっかくだから島田の案内もさせてくださいよ。島田というのは案内しようとしたらキリがないほどでしてね――。 |
・・・ここから約1時間くらい、島田市で開催されるお祭りや、市内の観光スポットの説明を受けました。ちょっと長くなるので省略しますが、気になる人は久門さんのところに行ってみてください。いつだって「あら! よく来てくださったね!」と出迎えてくれるはずです。
とにかく、島田市(蓬莱橋)の魅力が伝わっていない現状をなんとかしたい、それだけの力があるからもったいない、という想いが久門さんのパワーの源。mitecoのコンセプトは「静岡の面白みの再発見」ですので、シンパシーを覚える部分が数多くあって、うんうんと頷きすぎた話でした。
まだ売り上げが少ないなど大変なこともあるようですが、「厄無し」「長生き」の橋に立ち続ける久門さんなら心配はいらなさそうです。