伝統製法の逸品を求めて「マルイエ醤油」へ
感動に出会う大井川鐵道沿線の旅【3話目】
魅力いっぱいの大井川鐵道沿線を語るシリーズ第3談。今回は家山駅から徒歩5分の場所にある醤油・味噌の醸造元を紹介します。
明治43年から続く「マルイエ醤油 川根本家」。創業年を聞かなくても、店構えからひしひしと風格が伝わってくるようです。ここを紹介したかったのは、昔ながらの伝統製法による醤油・味噌づくりを守り続けているから。
大量生産・大量販売という時代になって久しいですが、だからこそこのような店が残っていることを、筆者は嬉しく思うのです。加えて“多事業化”していないこと。ある専門に特化しながら長年続けている事実は、商品の質を物語っていると感じます。
まずは100年の蔵を見学! 酵母が生き続ける二十石桶
四代目当主の村松岳さんに、まずは蔵へ案内してもらいました。普段も見たいという方には、蔵見学を受け入れているそうです。
立ち入った瞬間、醤油の香ばしい香りが漂ってきました。もろみ(発酵中の液体)の入った桶が圧巻で、初代のころからずっと使い続けているそうです。
岳 |
100年以上使い続けているこの二十石の杉桶に、もろみをずっと継ぎ足しています。だから旨みのもととなる菌も増えつづけているんですよ。 |
Takashi |
ということは、歳月を経るごとに旨みも少しずつ増していくということですね……。すみません、製造工程を簡単に伺ってもよろしいですか? |
岳 |
まず醤油は、厳選した大豆をやわらかく蒸し、煎った小麦を合わせて麹を作ります。それから食塩と混ぜ合わせ、杉桶で1年半から2年寝かせています。 |
Takashi |
1年半から2年! そうやってじっくり熟成させることで、味の深いもろみができあがっていくのですね。 |
手作業で圧搾機に重りをのせていく岳さん。
岳 |
それからこの「梃子式圧搾機」で、醤油を搾りだします。石の重さは最大約300kg。先端にかける石の重りを徐々に増やし、少しずつ搾ることで、まろやかな味わいの醤油ができあがります。あ、危ないので天秤の下側に入らないようご注意くださいね。 |
熟成させたもろみをこの下に敷きつめ、石の重さで搾りだしていく。
Takashi |
うーむ。本当にアナログというか、昔ながらの製法ですね……。この蔵に入ってひと昔、ふた昔前に戻ったような感覚です。 |
代々伝わるお味噌と新作「けいこのおみそ」
Takashi |
味噌もやはり同様に、長い時間をかけているのですか? |
岳 |
そうですね。味噌は米麹と麦麹、食塩を合わせ、丁寧に仕込んで約1年待ちます。仕込み方は職人の勘というか、長年やってきた感覚的な部分も大きいですね。 |
長年の経験が必要とされる醤油・味噌づくり。いまではその場に、鹿児島から嫁がれた奥さま、桂子さんも参戦されて、味噌づくりに励んでいるとのこと。そうして二人三脚でできあがったのが「けいこのおみそ」です。
村松岳さんと桂子さん。
けいこのおみそ、1kgで1,296円(税込)。大人気のため現在品切れ中。 画像提供:マルイエ醤油
Takashi |
「けいこのおみそ」は、どういった経緯でできあがったのですか? |
桂子 |
マルイエに嫁いだので、鹿児島にいる両親にも、それを食べてほしいな、と思いました。でも静岡と鹿児島くらい離れた土地だと、やっぱり味覚が少し違うんですよね。向こうでは、代々のマルイエのものよりもっと甘口のものが好まれているので……。それで「じゃあ作ってしまおう」と。実家は個人で米を作っていまして、その米を使っています。 |
Takashi |
というと、代々のマルイエの味噌との違いは甘み、ということですか? |
桂子 |
そうですね……。マルイエの味噌は力強く、味噌汁にしたときにどんな具材でも合います。けいこのおみそは逆にやさしい味なので、どんな具材を合わせるか、好みで工夫してみていただければ。「味噌汁といえば」みたいな先入観をもたず、いろいろ試してみてほしいですね。 |
言われてみればたしかに、味噌汁ならコレだろうという前提の意識が、少なからずある気もします。桂子さんは以前、モッツァレラチーズとトマトをけいこのおみそに合わせてみたのだとか(とてもおいしかったそう)。
桂子 |
時代に合わせた、いろんなアイデアがあっていいと思うのです。逆に時代が変わっても、先代の想いとか伝統とか、守り続けるべきものがあって。その両方の気持ちを大切にしていきたいと思います。 |
マルイエの製品は遠くは北海道まで、全国から注文があるそうです。じつは筆者もここでマルイエの味噌を購入し、自宅でいただきました。おそらく、1度この味に慣れ親しんでしまうと、もうほかのものに代えられず、リピーターとなる方が多いのだと思います。ぜひ1度、日本伝統の手づくりの味わいを試してみてください。