ふれあい育む「サヨばあちゃんの休憩所」
感動に出会う大井川鐵道沿線の旅【2話目】
島田市から静岡市を走るローカル線、大井川鐵道シリーズの第2談。今回は沿線のとある駅について紹介します。
大井川鐵道本線は金谷、新金谷など主要な駅を除き、いまはそのほとんどが無人駅。昔ながらの木造駅舎は雰囲気があり、映画の世界に出てきそうな原風景を感じさせます。そのひとつ、金谷駅から数えて10番目の「抜里駅」。
ここでは81歳のおばあちゃんが、名誉駅長を務めています。
採れたて野菜で作る料理と笑顔あふれる空間
この写真の左から2番目に写る女性が、抜里駅名誉駅長の「サヨばあちゃん」。
サヨばあちゃんは、その活動を手伝う多くのサポーターのみなさんと、ここへ訪れる人をもてなしてきました。駅舎には「サヨばあちゃんの休憩所」という看板が掲げられています。
サポートスタッフの清水徹さん(左)と高井善史さん。
この休憩所での活動について、まず清水さんに伺ってみました。
Takashi |
ひと言でいうと、この休憩所はどういった場所なのでしょうか。 |
清水 |
いわゆる飲食店ではなくて、言ってみれば「あたたかいふれあいの場」。お茶したい人が寄って、食べたい人が食べて、笑顔になって帰っていく。とはいえ、サヨさんもしっかり調理師の免許を持っていますよ。 |
Takashi |
手料理の品がとても数多く、どれもおいしかったです。これがバイキング形式で、500円という価格で楽しめるのも嬉しいですね。 |
和気藹々とした雰囲気の休憩所内。惣菜の販売もある。
清水 |
ヨモギ、タケノコ、フキ、里芋など、このあたりで採れるもので作っています。お茶ももちろん抜里のお茶で。「落花生の煮豆」はとくに人気があります。サヨさんの惣菜は日曜のみ、川根温泉ホテルのバイキングでも提供されています。 |
「落花生の煮豆」。落花生を茹でるのではなく煮豆にしたもの。
清水 |
抜里は通常、SLは停まらない駅ですが、ブライダルトレインといって、日本旅行が企画している展望車を走らせることがあり、そのときは停車するんですよ。サヨばあちゃんの休憩所として、新郎新婦を歓迎し、できる限りのおもてなしをさせていただいてきました。 |
2017年5月にもブライダルトレインが停車、新郎新婦を歓迎した。 画像提供:サヨばあちゃんの休憩所サポーター
サヨばあちゃんの休憩所は、土日祝のみ開放。遠くは横浜や名古屋などから、列車が好きな高校生までもが集まってきます。老若男女さまざまな人たちが集まり、あたたかい関係を築ける場となっているようです。
「作る人も食べる人も楽しい、そんな時間を過ごしたい」
調理や片付け、お客さんの話相手など、忙しく動くサヨばあちゃんから少し時間をいただき、お話しを伺いました。
Takashi |
この駅舎でさまざまな人と出会うなかで、大切にしている気持ちや意識などはありますか? |
サヨばあちゃん | うーん、そうですね。食べて、お話しするってことかなぁ。お話しするあいだに、みんなが笑顔になってくれればいいな、と思います。そうすれば料理を作る人も、食べる人も楽しいから。「居場所づくり」をしたいと思って、お惣菜づくりを始めたのが20年前ですね。 |
Takashi |
居場所づくり、というのは……。 |
サヨばあちゃん | わたし、抜里の山間部に住むお年寄りにお弁当を配達しているんですよ。それで届けたときは必ず、たくさんお話しをしてきます。大変なんだけど、みなさん楽しみに待っていてくれるので……。お弁当配達を続けているうちに、「ああ、食べることは生きることで、人と話すことは希望なんだ」と、しみじみ感じました。だからこの場所でも、食べて話して、笑顔になって帰っていただきたい。それでわたしも楽しいんです。 |
そう、楽しそうに語るサヨばあちゃんの笑顔が、とっても印象に残った取材でした。きっと活動をサポートしている方も、ただ遊びにくる方も、そんなサヨばあちゃんの想いに惹かれて集まってくるのだと思います。
最後に、みなさんで1枚。
大井川鐵道を走る列車の車窓から見えるのは、心からの笑顔とあたたかな会話が生まれる優しい空間でした。