SL急行で往復約7時間のローカル旅へ
感動に出会う大井川鐵道沿線の旅【4話目】
大井川鐵道沿線の魅力に迫るシリーズ第4談。
筆者としてはいつも走っている姿を撮るばかりのSLやトロッコ列車ですが、本当の魅力は乗ってみてこそわかるもの! 今回は、大井川鐵道広報の山本豊福さんに連絡をとり、実際に乗車させていただきました。
大井川鐵道株式会社広報の山本さん(右)と徳丸茜さん(左)。新金谷駅にて。
Takashi |
このたびはありがとうございます。車窓の見どころなど伺ってもよろしいですか? |
山本 |
まずは乗ってみてください。全体の雰囲気を感じとるには、終点まで行っていただくのがよいかと。 |
Takashi |
つまり井川までですね(こりゃ結構な長旅だ……)。 |
山本 |
そろそろ2番茶の時期(静岡では6月中旬~7月中旬が目安)だと言われているので、抜里駅あたりキレイかもしれませんね。 |
抜里駅には以前ご紹介した「サヨおばあちゃん」がいらっしゃいます。
山本 |
11:52新金谷発SL急行に乗車、千頭駅ですぐに乗り換え井川駅まで。帰りは普通列車になるので金谷駅到着が19時をまわりますが……。じっくり楽しんでみてください。 |
往復約7時間のローカル旅へ、いざ出発。シュポーッ!
大井川鐡道名物「SLおじさん&SLおばさん」
新金谷駅で乗りこんだSL、この日の客車はトーマス号にも使用されるオレンジ色のものでした。
よく見られる茶褐色の客車は昭和初期に製造された旧国鉄のもので、こちらのオレンジ色は戦後のものだそう。色だけ見ると新しいように感じますが、それでも昭和20年代。しかも扉は手動です。
Takashi |
(あれ、車内は全席禁煙なのに灰皿がある) |
その理由は通称「SLおばさん」によるガイドアナウンスで伝わりました。
SL急行には旅の案内役となるSLおじさん、SLおばさんがいる。
SLおばさん |
備えつけの灰皿は、昔の雰囲気を残そうということで、そのままにしてあります。トーマス号にも使われるこの客車。その際にはこの車内もトーマス仕様となりまして――。 |
旅の案内役であるSLおばさんは「SLおじさん」とともに、大井川鐵道の風物詩。その声に耳を傾けつつ、車窓風景にみとれつつ。
茶畑がひろがる抜里駅付近。
ガタンゴトン、という音に合わせて、旅はのんびりと進みます。
ふれあいが生まれる空間
ぼうっとしながらあることを思いだした私。新金谷駅で大井川鐡道ならではの駅弁を購入していたのでした。
新金谷駅で販売している「大井川ふるさと弁当」。ほかにも数種類ある。
山女の甘露煮、桜エビの佃煮など、素朴なおかずが懐かしい容器にぎっしり。静岡らしさのある田舎の味わいです。おまけにSLの写真が1枚添えられていました。嬉しい。
抜里駅を過ぎて川根温泉まで来ると、私が座る席の反対側(正面向かって右側)の席の方々がざわつき始めました。
この写真は正面向かって左側ですが、右手には「川根温泉 ふれあいの泉」があります。じつは車内から男性用露天風呂が見えるので、そこから手をふる男性入浴客に、みなさん反応したんですね。
列車の通過を待つ人々と乗客が手をふって心を交わす一瞬の間、これも大井川鐵道の醍醐味。そして、終点も近くなってきたころ、車内でもあるふれあいが生まれます。
童謡『故郷』をハーモニカで演奏するSLおばさん。みなさんしばらくはその姿を見つめるだけでしたが、そのうち、あまりにも自然に、車両内での合唱となったのです。
うーさーぎーおーいし、かーのーやーまー……。
自然な流れのなかで一体感が生まれ、自然体でやさしい気持ちになれる。そんな、笑顔あふれる空間でした。
千頭駅も見どころいっぱい
塩郷駅付近。吊り橋の下を通過する。
大井川に架かる橋のなかで最長の吊り橋がある塩郷、往路でふたつ目の停車駅となる下泉駅などを通過し、終点・千頭駅へ。
千頭駅には「きかんしゃトーマス」に登場するキャラクター、ヒロとパーシーの姿も。時期がくれば、ここにトーマスとジェームスも並びます。
復路へ備える機関士の仕事をひと目見ようと、運転室付近にもギャラリーが集まっていました。
終点に到着してからも忙しなく作業する、機関士や機関助士。
SLはボイラーで石炭を燃やして水蒸気を発生させ、その圧力でシリンダーが動くことで、レールの上を走ります。彼らが少し気を抜いただけで、人力を要するSLはたちまち、動かなくなってしまうのです。
大変な仕事ですがその反面、とても楽しそうに見えました。自らの手作業で乗客を運んできた達成感とか、やりがいとか。そういった感情が見え隠れした気がします。
運行状況や機関士の方に余裕があるときに限り、運転室内に入らせてもらえることも。「見せてもらえたらラッキー」くらいの心構えで、覗いてみてください。
それから、千頭駅ではこちらも見どころ。SLの進行方向を変える「転車台」。
明治30年製造のイギリス製で、製造所が判明している同国製としては、日本に現存するもので最古とのこと。
SLは往路、復路ともに進行方向を向いて走るため、転車台は当然、新金谷駅にもありますが、新金谷駅はハイブリッド式。対して千頭駅のものは人力のみで回すのです。ぜひこの“儀式”も楽しんでいきましょう。
遠くから眺めるだけだった大井川鐵道のSL。そのなかではさまざまなドラマ、人とのふれあいがありました。今後また撮りにいく際にも、視点が少し変わりそうな気がします。
さて、今度は井川線に乗り換え、トロッコ列車で井川まで。次回、その模様をお伝えしていきます。