私、富士山の空気になじめませんでした
高山病にならないために考えたいこと6つ
「登山はもう諦めて、8合目にある山小屋で泊まってください! ところで、君の名前は?」
・・・ライターの安藤です。いま、私に話しかけてきたのは富士山で救護を担当するお兄さんだそうです。8合目を目前に、高山病による吐き気や目まいでまったく動けなくなりました。
そういえば、ちょっと前に救護のヘリが飛んでいたので、一瞬「私を迎えに来たのか」と思いましたが違ったようです。
さて、山口からお話したとおり、富士登山は舐めてかかると危険です。台風のようなイレギュラーや滑落事故もありますが、高山病で命を落とすこともあるといいます。そこで、みなさんが安全に富士登山できるよう、私が高山病になった原因と対策についてお話しします。
ううっ、気持ち悪い。
高山病でダウンしました
そもそも、高山病ってどんな病気なんでしょうか。一般社団法人日本登山医学会がエグいことを言っていました。
急性高山病:標高が上がれば空気が薄くなり、酸素も減ります。それに合わせて酸素と結びついたヘモグロビンも減ります――(中略)頭痛がもっともよくある症状なのですが、体中どこでも低酸素状態なのでやられる臓器によりどんな症状でも起こりえます。
やられる臓器によりどんな症状でも起こりえる!!
楽しそうな表情です。ただし、すでに身体の中にはあまり酸素がありません(新7合目付近)。
どうやら、高山病は「身体の中の酸素が薄くなって、いろいろな臓器が不調を起こす」というものらしいです。私が体験したのは、頭痛、動機、めまい、倦怠感、食欲不振、吐き気だけでした。
「だけ、じゃないじゃん!」と思った方もいるかもしれません。でも、どれも一般的な高山病の症状だそうです。
わけのわからない臓器がやられるより、私の症状はマシだった気がします。
高山病になる人が富士登山で考えるべきこと
では、私のように高山病になる人は、どのような富士登山をしているのでしょうか? 何事もPDCAを回す(やってみて、悪いところを改善する)ことは大切なので、写真とともに振り返りながら「どうすれば高山病にならなかったか」を考えてみました。
1.登山はスポーツであるという意識を持つ
霊峰富士の美しさに魅了され、登山に対する意識が低かった私(5合目付近)。
富士山は日本人の心であり素晴らしい山ですが、登山そのものはいわばスポーツに過ぎません。
ちなみに、“こじらせ系アラサー男子”である私は、富士登山のときに「これが霊峰富士か。荘厳な雰囲気だ。いまから、mitecoのヒット祈願のために登頂して、日本一を目指そう」と、少し感極まりながら登山をしていました。
・・・が、こういう気持ちが富士登山では油断を生みます。
高山病にならないために、「いまから長い道のりを歩かなければならないんだ」という意識を強く持ちましょう。
2.現代科学を過信しすぎない
酸素サプリに頼り過ぎて富士山の空気の薄さになじめていない私とサプリを渡される山口(写真左)。
酸素サプリや酸素ボンベは富士登山の携行品として人気です。でも、私のように5合目から酸素サプリを食べ続けていると、身体が富士山の空気の薄さになじめません。このように、現代科学に頼っているから高山病になるのでしょう。
じつは、私は6合目くらいから調子が悪かったのですが、高地の空気に順応できていなかったからだと思います。酸素サプリは、「1日10~20粒を目安に摂取してください」と注意書きにありましたが、「20粒まで大丈夫」と、むやみに摂るべきものではありません。
あくまでもいざというときのお守り程度と考えておきましょう。
・・・関係ないのですが、富士登山で高山病になって以降、miteco編集部の空気になじめていないような気がします。
これも、酸素サプリの摂りすぎが原因でしょうか?
3.体力のなさを自覚する
「日差しがまぶしい」と目を閉じるも、体型的に写真映えが違う吉松(写真右)と私(6合目付近)。
同じグループ内でも人それぞれ体力は違います。とくに私たちのグループは、編集長の吉松(24歳)や山口(26歳)、そして私(今年で29歳)というメンバー構成です。体力差があります。
私のようにデスクワークで運動不足の場合、アラサーになるとガクンと体力が落ちていますが、私はそのことを自覚できていませんでした。
富士登山は自分の身体と向き合う場です。複数人で富士登山をするときは、「いっしょに行こうね」という意識よりも、高山病にならないように自分の体力とペースに合わせて登るようにしましょう。
ちなみに、スマート体型の吉松と同じペースで歩くと、体力の減り以外にもいろいろと不具合が生じます。膝とか。
「ドヤッ!」(吉松※24歳)
・・・若さって素敵です。
酸素サプリもいいけど、まずはグルコサミンのサプリを飲もうと思いました。
4.岩を見たら休んでいいと思え
山口が撮影しているのはただの岩ではありません。立派な休憩ポイントです(新7合目付近)。
「岩を見たら休め」
編集部・安藤悟(登山初心者)
「自分のペースで歩こう」という話に近いですが、険しい山道を登るのはかなり疲れます。とくに新7合目以降は岩道が増えてきて、余計に体力を取られているものです。
高山病予防のためには小まめな休憩をして酸素を吸う。だから、岩を見かけたら休んでもいいというルールを設けましょう。
※ただし、ほかの登山者の邪魔にならない程度にしてくださいね。
5.リュックサックでお腹を押さえつけない
よく見るとリュックサックでお腹が締め付けられています(6合目付近)。
高山病になる原因は体内の酸素が減るからです。言い換えると、腹式呼吸をして上手に酸素を取り込めば、高山病になりにくくなります。
でも、リュックサックのベルトでお腹を締め付けると腹式呼吸ができません。もし、高山病が心配な方はリュックサックのベルトを外すのもよいかと思います(私はリュックサックのベルトを外して下山しました)。
重心が不安定になるので、歩くのが大変ならベルトを締めたほうがよさそうです。
6.人差し指をろうそくと思い込む
人差し指がろうそくに見える私(意識は正常です)。写真を見て気付きましたが、夜景キレイ!(8合目)
「人差し指をろうそくと思い込み、息で火を吹き消す・・・」と言うと、「この人、ついに高山病でおかしくなってしまったんじゃないか?」と思うかもしれません。
たしかに、高山病で体調はおかしくなりましたが、これは、れっきとした高山病を改善する方法のひとつです。肺の深い部分から息を吐き出すと、酸素を上手に吸うことができ、高山病の症状がやわらぐそうです。
人差し指をろうそくに見立てて息を吐くこの行為ですが、じつは、歌手や役者さんの腹式呼吸のトレーニングでは一般的。私もロックバンドのボーカルの端くれです。だから、意識すれば腹式呼吸はできますが、これが高山病対策になるとは。
ちなみに私は、高山病のときに運び込まれた衛生センターの女医さん(美人)から、「私の人差し指をろうそくだと思って、息を吹きかけてみてください」と言われ、女医さんの人差し指に、10回「ふぅーっ」と、息を吹きかけています。すると女医さん(繰り返しますが美人です)から「(腹式呼吸が)上手ですね」と褒められました。
・・・ドキドキしました。一瞬、「高山病も悪くないな」と思いました。
ただし、このドキドキは高山病の動悸によるものかもしれません。
富士山は逃げません
富士登山をした日は台風が来ていたので、いずれにしても登頂は難しかったと思います。でも、それを言い訳にするのは忍びないです。
今回の富士登山は、私の高山病が原因で登頂できなかったと感じています。
6合目を過ぎたあたりからすでに「高山病かも?」と疑っていて、8合目直前では「登頂は絶望的だ」と思い、落ち込んでいました。
この表情、果たしてもうろうとした意識なのか、責任の重さなのか・・・(8合目目前)。
やはり、重い責任を感じていたのですが、冒頭に登場した救護のお兄さんはこんなふうに励ましてくれました。
「富士山は逃げないから! 人生は1回しかないから、高山病になったなら無理しちゃダメだよ!」
たぶん、富士山は永遠に逃げません。「来る者は拒まず、去る者は追わず」の姿勢で、何千年も昔からそこに立っています。
私たち登山者が逃げるのを許してくれるのに、自分自身は絶対に逃げない。高山病になったりケガをしたり、あるいは台風になったりしたときは、「絶対に登頂しなければならない」と思わず、諦めてまたチャレンジしたらいいんです。
それを受け止めるだけの度量が富士山にはあります。
高山病で意識がもうろうとしていくなかで、「富士山って、男らしくて偉大だな」と思いました。