三島スカイウォーク完成の裏側にあるドラマ
地元企業が架けた情熱と苦難の10年

  • posted.2016/11/26
  • 山口拓巳
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三島スカイウォーク完成の裏側にあるドラマ 地元企業が架けた情熱と苦難の10年

2015年の12月にオープンし、今年(2016年)の9月には100万人の入場者数を突破した静岡の新しい観光スポット「三島スカイウォーク」

10月某日に僕と吉松編集長が訪れ、見どころやお楽しみポイントについて三島スカイウォークを運営する株式会社フジコーの宮下さんにお話しをお伺いしました。

そのお話しのなかで三島スカイウォークは、地元・静岡への貢献を強く意識していることがわかってきました。

つり橋を作り眺望が楽しめる展望台を設置しただけでなく、周辺に地元のグルメが堪能できる露店やお土産物屋さんも充実。さらには、花の種が入った木製のチャーム「flower drop」など、自然共生を考えた仕掛けもたくさんあったからです。

もちろんつり橋はまだしも、こうしたテーマパークや大規模な公園というのは決して珍しいものではないかもしれません。しかし、その多くは自治体や建築・建設に関係するような大企業がほとんどです。

取材をしていくうちに、いったいどうしてそこまで手の込んだスポットづくりをいち民間企業が取り組んでいるのかということが気になってきました。

後編では三島スカイウォークを引き返しながら、このつり橋ができるまでの背景やストーリーについて宮下さんに伺ってみることに。そうすると、この巨大なつり橋ができるまでには大変な苦労と問題があったこと、そしてそれを乗り越える多くの人の想いに触れることができました。

きっかけは地域への恩返しの気持ち

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skyawalk_01_f3山口 このスカイウォークそのものってどうやって作られることが決まったんですか? というのも、いくら地元企業といえどもこれだけ大規模な観光スポットを作ってしまう、というのはあまり聞いたことがなくて・・・。そのきっかけとはなんだったのでしょう?
skyawalk_01_f2宮下さん 三島スカイウォークのきっかけとしては、まず弊社が店舗を展開しております静岡、とりわけ本社のおかれる三島に対して何かしら貢献というか恩返しがしたい、という気持ちがあったことが大きいですね。
skyawalk_01_f3山口 恩返し、ですか。
skyawalk_01_f2宮下さん はい。私たち株式会社フジコーはパチンコ店を展開する会社。地域の方々が必要不可欠な仕事といえるんです。当然、そこに住む人がお店へ足を運んでくれなければ商売が成り立たないわけですから。
skyawalk_01_f3山口 あー、なるほど。そう考えるとパチンコ屋さんとローカルってすごく関係性が大切ですよね。
skyawalk_01_f2宮下さん その通りです。ですから、社長を中心に地域への貢献というのは、三島スカイウォークの建設への大前提でしたね。

「足慣らし」が三島スカイウォークへの大きな一歩に

skywalk_02_03代表を魅了したというこの地からの景観、たしかにすごい!

skyawalk_01_f3山口 地域貢献への想いが三島スカイウォークへとつながっていくわけですが、それだけであれば街中にレジャー施設を作ったり、なにかのイベント開催だったりという形も考えられるように思います。どういった経緯で、この地に観光スポットを作ろうという動きになったのでしょう?
skyawalk_01_f2宮下さん かれこれ10年ほど前になるのですが、沖縄や東北といった地方から社員を採用している時期があったんです。

 

で、そういう社員は長期休暇の折には地元に帰省するんですけれども、その際になにか土産話というか、思い出を作って帰ってほしいなと思いまして、会社で富士登山を計画したんですね。

skyawalk_01_f3山口 富士登山・・・! やっぱりいい思い出になりますものね。
skyawalk_01_f2宮下さん そうなんです。でも、ここのきっかけになったのはその一歩手前で。じつは、この富士登山を前に代表がその足慣らしとして箱根山へ登ったときのことがきっかけなんです。代表がそのときにいまこうして目の前に広がる富士山を含めた眺望を見て。
skyawalk_01_f3山口 代表さんが・・・?
skyawalk_01_f2宮下さん そのときに、こうした景色って県外出身者はもちろんなんですけれども、代表も含めた県内の人間でもなかなか気づかないものじゃないかっていう話になったんです。

 

実際、県内の人って意外に富士山を意識していなかったり、地元に眠っている絶景を見ていなかったりするんじゃないのか、であればこれをぜひみんなに知ってほしい、という話を代表が社員へ相談したことが大きな一歩となりました。

 

具体的な計画としてはここがスタートとなりますね。

skyawalk_01_f3山口 なるほど・・・。灯台下暗しというか、当たり前にあるものって、かえってその貴重さには気づきづらいものですよね。
skyawalk_01_f2宮下さん そうですね。もともとあった地元へ何か恩返しがしたいという気持ちがあったというお話をしましたが、その具体的な手段としてこうした代表の体験と合わさる形で三島スカイウォークの建設へと向かうことになりました。
skyawalk_01_f3山口 三島スカイウォークの建設は、そんな恩返しや地元への愛着の気持ちが原動力となったんですね。

三島スカイウォークがつり橋になったワケ

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skyawalk_01_f3山口 それで観光スポットを作ろうという話になったわけですが、どうして「つり橋」。それも日本最長のつり橋を作ろうという話になったのでしょう?
skyawalk_01_f2宮下さん ここになにかを作ろうと考えたときに、まずは富士山の眺望がすばらしいことを活かしたいなと考えました。そのためのものとしては、観覧車だったり温泉だったりと他にもいろいろ案はあったんです。

 

最終的に、きっかけが山登りだったということもあって、ウォーキングというか体を動かすことともつながるつり橋にしようかという案が出たんですね。

 

それで調べてみると、つり橋って観光用のものというのは先ほど(前編参照)も申し上げた通り、ほとんど存在していないということがわかって。そのうえで日本一の長さを作れれば話題性も十分だということになって、本格的に計画がスタートしたんです。

三島スカイウォークの苦難は法律や歴史とのすり合わせ

skywalk_02_02橋の向こう側には露店がズラリ。

skyawalk_01_f3山口 日本最長のつり橋である三島スカイウォーク。こうして壮大な想いからはじめられたわけですが、始めてみてからの苦難やトラブルといったお話しはありますか?
skyawalk_01_f2宮下さん それはもう、山のようにありますよ(笑)なにしろ日本で一番長い、大きい、ということは今までにはなかったものを作るというわけですし、観光用として作るのであれば、というこだわりも相まって前例のないような試みもたくさんしています。

 

ここに建てることを決めたときなんですが、そもそもここは本当になにもない山林でした。しかも、古くは箱根の関所が構えられ、幕府の直轄領への入り口となっていた地域という由縁もあって、むやみに切り拓けないような条例が三島市に制定されていたんです。

 

だからいまでも建物を建てられる範囲が決まっているといった縛りがありますね。

※箱根山は、江戸時代における東海道を監視するために設けられた重要な「箱根関所」が置かれていました。

skywalk_02_04そうした縛りから生まれたというアンカレイジを利用した展望台。

skyawalk_01_f3山口 たしかに言われてみると、橋を渡る手前側には建物がありましたが向こう側はほとんどが露店ですね。
skyawalk_01_f2宮下さん そうなんです。法律とか条令とかとなってしまうとなかなかそれを変えることは難しいので、いろいろな縛りをクリアしていくというのがすごく大変でしたね。

 

もちろん、地権者様とのお話合いもあったり、周辺の住まわれている方に理解していただいたりすることも含めて、じつは作る前から多くの困難があったんです。

skyawalk_01_f3山口 ははぁ・・・。気の遠くなるような事業ですね・・・。それでは着工までにも長い時間がかかったのではないですか?
skyawalk_01_f2宮下さん そうですね・・・。決めてから実際に建設を始めるまでには7~8年を要しました。それで着工からは3年ですから・・・。
skyawalk_01_f3山口 足掛け10年の大事業! 
skyawalk_01_f2宮下さん そういうことになりますね。

skywalk_02_06一見なんの変哲もない橋の橋脚ですが・・・。

skyawalk_01_f3山口 さきほど「観光用としてのこだわり」という言葉を伺いました。この点はどういった部分に表れているんでしょう。
skyawalk_01_f2宮下さん そうですね。たとえば、三島スカイウォークの橋脚。橋には必ずそれを支えるための脚が必要になるんですが、なかでもつり橋はその重量を両端の橋脚で支えなければなりません。だから、かなりの強度が求められます。
skyawalk_01_f3山口 そうですね。見るからに大きい・・・。
skyawalk_01_f2宮下さん で、こういった橋脚って通常はボルトや溶接部分がむき出しになっていることが多いんですね。観賞用ではないですし、余分なコストもかかってしまうので。でも、三島スカイウォークではそういったボルトが見えないデザインを採用しています
skyawalk_01_f3山口 たしかに! いわれてみると、つなぎ目がわかりません。
skyawalk_01_f2宮下さん ありがとうございます。じつはこれ全部溶接でくっつけているんです。

 

といっても巨大すぎて溶接して作り上げてから運搬するのは難しいので、いくつかのパーツにわけてこちらに運んでから現地で溶接工さんをお呼びして・・・。

skyawalk_01_f3山口 この場所でやった、ということですか。
skyawalk_01_f2宮下さん そうです。なかなかないと思うんですけれど、ここでやりましたね(笑)

基準がないところから始めた建設

skywalk_02_13見るからに丈夫なワイヤー! じつはこれにもつり橋だからこそ「揺れる」にこだわった構造にも秘密が。

skyawalk_01_f3山口 これだけの巨大なつり橋ですから、やはり頼める設計会社や建設会社はかなり厳選したのでしょうか?
skyawalk_01_f2宮下さん そうですね。細かい部分や露店に関してはできる限り地元、三島もしくは県内の企業様とパートナーシップを提携していきたいのですが、設計・建設に関しては日本でも名だたる企業様にお願いしています。

 

具体的にいえば、設計はレインボーブリッジをご担当なさったところ。さらに、建設は東京ゲートブリッジや東京スカイツリーの橋脚のうち1本を担当しているところです。

skyawalk_01_f3山口 すごい! 日本の巨大建設のオンパレードだ! やはりそれくらい難しい工事になったのでしょうか。
skyawalk_01_f2宮下さん そうですね。日本最長のつり橋ということで、安全性は最優先です。そのため設計会社も建設会社も、経験や会社の持っている専門技術を重視してお願いするところを決めました。
skyawalk_01_f3山口 たしかに前例のない巨大な建設となれば、できる会社も限られてしまいそうですね。
skyawalk_01_f2宮下さん つり橋にするからには、多少の揺れが出るようにしたいしという思いもありまして。それが、より難度の高い設計・建設を求めることになりました。

 

何度も風洞実験を繰り返して設計をして、絶対に落ちない強度を確保することにも時間を大きく費やしまして・・・。さらに、出来上がってからも弊社(株式会社フジコー)の社員や作業員が、全員でつり橋の上に乗って歩き回ったりして、振動に関する安全性のチェックをしました。

skyawalk_01_f3山口 そのチェックはある意味命がけですね・・・。
skyawalk_01_f2宮下さん そうかもしれませんね。また、つり橋はもともと生活に利用するような固定観念があったからか、法律によって運営方法や安全性に関する部分での法律整備が十分ではありませんでした。

 

たとえば、風が強いときはつり橋が通常よりも大きく揺れるのはもちろんなんですが、具体的に「どれくらいの風速があると渡ってはいけない」といった決まりはなかったんです。

skyawalk_01_f3山口 えええ。それじゃあ、スカイウォークを作るときにその基準から設けたということですか?
skyawalk_01_f2宮下さん その通りです。現在は風速15m/sで規制をかけるようにしています。実際これくらいの風となると嵐のような状況ですし、とても渡る気にはならないとは思いますが(笑)でも、橋は全然大丈夫なんですよ。もちろん、それなりに揺れはしますが。

こうして今まで誰にも知られていなかったような、スカイウォークの建設秘話をお伺いしながら渡る戻り道。つり橋の真ん中ほどでチャーム「flower drop」を橋の下へと投げます。

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静岡の人にその魅力を再発見してほしい。地元に人を呼び込んで貢献したい。そんな言葉の数々には宮下さんや株式会社フジコーさんの地元への想いがあふれていました。こうした人がいるからこそ、ローカルは盛り上がったりその形を変化させたりできるのだな、とあらためて感じます。

ちなみにここでは語られていませんが、ここはもともと水道管も通っていないような場所。露店やカフェ、トイレで使われている水は、すべて地下から吸い上げている水で賄われています。

地域への想いからほとんど街の機能を持たせるほどの大工事を成功させ、三島市の新たなシンボルとなった三島スカイウォーク。その誕生には数々のエピソードや裏話がありました。訪れた際には、その趣向とこだわりぬいたスポットをぜひ堪能してみてください。

三島スカイウォーク

住所:〒411-0012 静岡県三島市笹原新田313
電話番号:055-972-0084
営業時間:9:00~17:00(年中無休)