変わりゆく街並みにたたずむ粉もの専門店
「オコデモン」で楽しむ新食感のお好み焼き
「変わらないね。」
高校の同級生に久しぶりに会うと、私はこの台詞を言われることが多い。過ぎていく時間のなかで、何年経っても変わらない存在であることがわかると、ちょっと安心する。だけど、私だけどこか取り残されたような寂しさもある。
変わるものと変わらないものが混在するのは人間だけじゃなくて、暮らしている街だって同じだ。
再開発事業である「OMACHI創造計画」が進み、新しい建物が立ち並ぶ七間町。モダンな雰囲気に包まれるこのエリアに、お好み焼きともんじゃを楽しめるお店「オコデモン」があります。懐かしい香りが漂うお店では、どんなお好み焼きが作られているのでしょうか。
落ち着いた雰囲気でお好み焼きを楽しめる
静岡駅から歩いて約15分。新しいビルが立ち並ぶ七間町の通りを抜け、一本奥の人宿町に入ると見えてくるのが、可愛らしい看板が目印のオコデモンです。
粉もの専門店として2018年の9月にオープン、白を基調とした店内には落ち着いた雰囲気が漂っています。
お店の名前は、メニューであるお好み焼きの「オコ」、おでんの「デ」、もんじゃ焼きの「モン」が由来になっているとのこと。看板に描かれているキャラクターも、おでんが耳に刺さっていたり、色がお好み焼きの茶色になっていたりと、お店のメニューがモチーフになっています。
お好み焼きの概念を覆す食感
お好み焼きは地域性が出やすい料理で、作り方や使用する具材などに違いがあります。
オコデモンでは牛すじを使ったものや、キャベツの代わりにネギを使ったネギ焼きなど、いわゆる関西風のお好み焼きを味わえます。静岡でこの味を楽しめるお店は少ないため、食べたことがない方も多いかもしれません。
お好み焼きの人気TOP3は、「3種ミックス」「豚オコ」「牛すじオコ」。メニューはもんじゃ焼きやおでんのほか、焼きそば、ホタテバターなど鉄板焼き料理も充実しています。シンプルなのにクセになる蒸しキャベツは、野菜が苦手な方にも食べやすい一品です。
お好み焼き、と聞くと「ふわふわ・モチモチ」というイメージはありませんか? 私も「もちっとした食感の食べ物」というイメージだったのですが、オコデモンのお好み焼きは違います。
「とろとろ」。カタカナではなく、平仮名なのがポイントです。
できたてのお好み焼きはホクホクで、まるでオムレツのような食感。じつはこの食感、焼き方だけで作り上げられているんです。生地に卵や山芋などを混ぜずにこの仕上がり、お好み焼きに無限の可能性を感じます。
今回いただいたのは人気メニューの豚オコ 850円
さて、ここで皆さんに質問です。「お好み焼き」ってどうやって食べてますか?
人数分に切り分けて、お皿に載せてお箸でパクッと。想像しただけでお腹が空いてきますが、この食べ方ではお好み焼きが冷めやすく、少し味が重たく感じられるのです。ではどうやって食べたら良いのでしょうか?
まず、ヘラでお好み焼きを一口サイズにカット。テーブルに肘をついて、顔をグイッと前に出して(鉄板に近づけて)そのままヘラから食べます。お皿もお箸も使いません。お好み焼きの本場と言われる関西や広島では、ごくごく一般的な食べ方なんだそう。
「でも味はあんまり変わらないんじゃない?」と思った方、そんなこと言ったらお好み焼きに怒られちゃいます。それぐらい全然違うんです。
私も最初はヘラを使って鉄板から食べていたのですが、こぼしそうになり、途中からお皿と箸を使って食べることに。取り皿に置いて二口目を食べたとき、思わず声に出してしまいました。
「さっきのほうが美味しかった」と。
お好み焼きは鉄板からそのまま食べるのが、一番美味しいです。ヘラを使って食べることに抵抗がなければ、ぜひこの食べ方を試していただきたい。
(お好み焼き好きなのに、この食べ方を全然知らなかったのが悔やまれます。これまで食べてきたお好み焼きに全力で謝りたい……。)
お好み焼きに加えて、おでんもいただきました。私は大根とちくわが大好きなのですが、どちらもダシがたっぷりと染み込んでおり、パクパクと食べられちゃいました。
分厚い大根も魅力的ですが、おすすめしたいのが牛すじ。じっくりと煮込まれた牛すじは柔らかく、口の中からあっという間にいなくなります。
おでん盛り合わせ 700円
おでん盛り合わせには大根と牛すじが必ず含まれており、残りの具材は松永さんがチョイス。何が入っているか待っている間に予想するのも楽しそう。
お好み焼きがキライだったからこそ今の味にたどり着けた
お話を伺った店長の松永さん
店長の松永さんにお店を始めたきっかけを聞くと、「じつはお好み焼きが好きではなかった」と予想外の返答がきました。
松永 | 家でお好み焼きが出ると、テンションが下がっていましたね(笑) だから大阪や広島といった本場のお好み焼きを食べたときに、「こんなに美味しいものなのか!」とすごく驚いて。あの感動は、好きではなかったからこそ味わえたものだと思うので、今考えるとキライで良かったなと感じています。
また、「OMACHI創造計画」の担当の方と話していくうちに、新しく変わっていく七間町の雰囲気に下町文化っぽいお店があったら面白いと思って。焼肉とか鍋とか、皆で囲んで食べるような大衆的なお店が昔から好きでしたしね。 |
海 | 街の雰囲気も踏まえてオープンさせたんですね。メニューはどうやって決めたんでしょうか? |
松永 | メニューを決めるときもインスタ映えのような変わったものではなく、あくまでも皆が知っているものが良いなと考えていました。ほかのお店との違いを作るとしたら、食べたことがない味を提供するしかないなって。
自分自身、舌は肥えているほうではないと思います。結婚式で出されるような料理の「繊細な味」は、あまり分からないのが本音です。舌が単純だったので、美味しい・美味しくないの区別がはっきりしていました。 |
鉄板からの食べ方がわからなくても、ちゃんと教えてもらえます。
松永 | だから自分が美味しいと思えるものであれば、お客さんも共感してくれるのではと考え、たどり着いたのが今の味です。「また来たい」「オコデモンのお好み焼きが食べたい」と思ってもらえるように、この店の味を広めていきたいですね。 |
少しだけ照れくさそうに話す松永さん。クールな印象があったのですが、お話を聞くなかで熱い思いがヒシヒシと伝わってきました。彼がもつ雰囲気のギャップは、お好み焼きにも通じているのかも、なんて思ったことは秘密にしておきます(笑)
「サウナしきじに行くと、半日は”良い人”でいられる」とサウナ愛も語ってくれました
「とろとろ」のお好み焼きを楽しめるオコデモン。初めての食感のなかに、どこか親しみやすさを感じる味わいは、再開発が進む七間町に佇むオコデモンのお店そのものを表現しているのかもしれません。移ろいゆく景色のなかで、変わらない存在はやっぱり魅力的でした。
気になる人と初めてご飯に行くとき、上京した友達と久しぶりに会うとき。お好み焼きは、緊張で硬くなってしまった気持ちをほぐし、相手との心の距離もグッと近づけてくれます。未体験のとろとろ食感、ぜひ一度ご賞味あれ。