暮らしに胸が詰まったなら水曜文庫へ!
店内に並ぶナンセンスな本たちで息抜き
こんにちは、ライターの馬場です。
静岡市のおしゃれタウン、鷹匠。そこで気になるまちの古本屋さんを見つけました。静岡市内で気になった古本屋さんは、浅間通りの馬場町にある「あべの古書店」に続いて2軒目です。
その古本屋さんとは、つるやビル1階にある「水曜文庫」さん。公式HPを見てみると、「これからの目標を書きます。ナンセンス・ブックスを集める」と書いてあります。
ナンセンスな本を取り扱う古本屋さんとは? そもそもナンセンス・ブックスとは? そんな疑問を店長の市原さんに伺ってきました。
お母さんがやっていた水曜日の文庫屋さん
水曜文庫の店長、市原さん。
馬場 |
こんにちは、本日はよろしくお願いします。まず、このお店を始めたきっかけを聞かせていただけますか。 |
市原 |
4年前くらいかな。このお店をはじめるとき、本は買いませんでした。自分が持っていた本と、両親が持っていた本と、もともと新刊書店に勤めていたので、そのときに集めていたものを合わせたら、この辺の棚はいっぱいになって。 |
馬場 |
じゃあ、昔から本はお好きだったんですね。 |
市原 |
うん。でも本を読むようになったのは高校を卒業してからでしたね。集めるきっかけになったのは、この内田百閒っていう人の本で。 |
市原 |
これ、エッセイなんですよ。随筆。ただ、日々のことが書いてあるだけなんですけど、なんだかそれが面白くって。僕がまだ若かったときに、ちょうどこのシリーズが月に1冊くらい出ていて、それを買うのが楽しみだった。 |
馬場 |
ほーー。それで、棚いっぱいになるほどの本が集まって、お店に。あの、店名の水曜ってどういう意味があるんでしょう。 |
市原 |
おしゃれな横文字の名前をつけようと思ってたんだけど。母親が昔、家で近隣の子どもたちに絵本を貸すような文庫をやっていて。それが毎週水曜日に開かれていたので、そこからとったんです。ほかには全然思いつかなかったし、まあ覚えやすくていいかなあって。 |
馬場 |
あ、じゃあ本好きだったお母様の想いを継いでいるっていう形なんですね。 |
市原 |
両親もぼくも、本の専門家じゃないからあれだけど。母も普通の主婦をしながら、そういうことを好きでやってましたね。 |
役に立たないけど魅力的な本たち
馬場 |
水曜文庫さんのHPを見ていてひとつ気になる言葉があったんですけど。「目標はナンセンス・ブックスを集めること」のナンセンス・ブックスとはなんでしょう。 |
市原 |
ああ、それはそのまま、意味がない本ってこと。ぼく自身、小説とか人文書を読むんだけど、そういうものってあんまり生活の役に立たないんですよね。でも、面白いし。
会社の売り上げを伸ばす本とかがたくさんあるなかで・・・うまく言えないけど、役に立つから偉いとかじゃなくて、ためにはならないけど暮らしに寄り添ってくれるようなものもがあってもいいかなあって。 |
馬場 |
暮らしに寄り添うものかあ・・・。たしかにそうですね。 |
市原 |
それは、ナンセンスとはあんまり関係ないかもしれないけど。 |
馬場 |
というと、本自体がってことですか。 |
市原 |
そうそう。児童書だったら子どもに寄り添うものだし、服飾の本は生活に関するもので。ただ、文学とかそういうものがなにに寄り添うのかっていうと・・・。役には立たないけど、いいじゃんね。仕事やそれ以外のことで、楽しみがひとつあると。そういう意味では、ちゃんと人に寄り添うものだし。疲れたときはぼーっと過ごしたいし、世の中で間違ったことがあれば、それに怒ることも必要でしょう。 |
馬場 |
わたしも、忙しいときやなんか間が持たないとき、やたらと小説を読みたくなりますねえ。この棚に並ぶナンセンス・ブックスは、そういう人たちの手にどんどん渡っていくと思うんですが、読み手にとってどんな存在であって欲しいですか。 |
市原 |
うーん、それは時間つぶしであってもいいし、イライラしたときに読んで落ち着くためのものでもいいし。あんまりたいそうなことは考えないけど、本を読めばどこか自分のなかに残るものだしね。
よくお客さんに、「どんな本を読んだら面白いですか」って聞かれるんだけど、どんな本だって作家さんが一生懸命書いたんだからたいてい面白いし、ここにあるどれも、読んだら寄り添ってくれるものだろうと思っています。 |
水曜文庫のこれまでとこれから
馬場 |
なんだかまぬけな質問で申し訳ないのですが、古書店をやっていてよかったこと、つらかったことってありますか。 |
市原 |
つらいのは、荷物を階段から降ろすこと。日ごろはここに座っているでしょう。うちはひとりでやっているので、夏場とかはもう、たまらんですね(笑)よかったのは、4年間やってきたなかで、だんだん若年の人とのつながりができてきたこと。いまぼくは52なんですけど、30くらいの人と集まって話すのは、楽しいですね。 |
馬場 |
ブログで拝見したのですが、映画や音楽などいろんなジャンルの方とつながっていらっしゃいますよね。 |
市原 |
お客さんとの話のなかで、面白い人がいるよって聞いたらイベントで呼んでみたり、「映画☆おにいさん」っていう本当の映画好きが映像を見せてくれる会をここで開いたり。あとは、本好きが集まる読書会があって、それが終わるとみんなここへ話に来てくれる。そういうのは、楽しいなあって思います。 |
馬場 |
素敵なことですねえ。じゃあ、今後もそういう空間であるための取り組みはしていく予定で。 |
市原 |
せっかくこういうスペースがあるんだから、いろんな変な人たちが集まるようなことをできたらいいですねえ。まあ、かといって経営的にもたくさんできるわけではないし、もっとプラスアルファの前向きなものがないと続いていかないかなと。だから、これからどうしようっていうのはないですね。 |
馬場 |
ないんですね! |
市原 |
店をはじめるときに、ひとり分くらいの食いぶちができればなんとかって思っていて。まあ周りの人にはいろいと気を使ってもらっているから、迷惑をかけていないというわけでは全然ないんですけど、そうやって暮らしていられたらいいかなって。だから、このペースが続いていけばいいなあとは思います。 |
馬場 |
そういうなかで、市原さんが古本屋さんを続けられるのってどうしてでしょう。 |
市原 |
うーん、ほかにはなにもなかなか難しいし、一番にはやっていて楽しいから。4年経ってやっと、いろんなつながりができて、ここに置けないものは別の本屋さんに買ってもらうって道もできたので、本を捨てないでおくことはできますし。売ることも大切だけど、古本屋は新刊屋さんみたいに本がどこからか自動的に入ってくるわけじゃないから、預かることも大事な役目なんだよなって、最近わかってきたかなあ。 |
古本屋は、不要になった本が売られ、必要な人に買われていくための中間地点なのは間違いありません。しかし、水曜文庫で感じたのはそんな無感情なものではなく、もっと人肌の温度の中で本がふわふわと滞留するイメージ。
棚に収まっているそれを手に取り買って帰るというよりも、ふっと寄り添って個々の暮らしへ連れ帰るような印象を受けました。わかりますか。わたしもよくわかりません。
きっと、実際に行ってみたら感じていただけるかなあと。
取材時に市原さんがおっしゃっていた「ナンセンス・ブックス」のきっかけ、内田百閒の本を買わせていただいたのですが、たしかにこれを読んだからと言ってわたしは革命家にはなれませんし、恋愛がばつぐんにうまくなるわけでもありません。
ただ、暮らしのなかでいやな出来事や忙しさにアップアップと溺れそうな気持ちになったとき、その本を読んでいる間はきちんと呼吸をしているような気持ちになれるのでふしぎ。「これが寄り添うってことかあ!」とそんな気持ちを味わいたい方は、ぜひ水曜文庫へ足を運んでみてくださいね。
先述のとおり、ライブやイベントごとなども行われていますので、そちらもチェックしてみてください。