「ここの映画館は絶対になくさない!」
七間町唯一の映画館「静岡東宝会館」の覚悟
かつては「シネマ通り」と呼ばれていた静岡市葵区七間町。全盛期は映画館20館、スクリーンでは30もありました。
でも時代の流れによって、いまでは1館のみに。「静岡東宝会館」は七間町唯一の映画館として、今日も映画上映を続けています。
運営元の日映株式会社が静岡東宝会館をオープンさせたのは、昭和58年(1983年)。当初は同じ施設内に、「静岡東宝」「東宝プラザ」「東宝スカラ座」の3館を設けて運営していました。
現在は「時代を生き抜いていくために観られる映画の選択肢を増やす」という想いから、東宝系作品以外も流せるよう名称も変えて、5スクリーンで運営中です(スクリーンはCINE1~CINE5)。
先月の特集記事でも度々話題に上った七間町唯一の映画館は、いまの七間町になにを想う?
静岡東宝会館から見るいまの七間町
お話を伺うのは静岡東宝会館の支配人、篠原将仁さん。支配人になってから8年経つそうです。
篠原将仁
静岡東宝会館支配人。富士宮市出身。鹿児島県の天文館シネマパラダイスの立ち上げに関わる。以前は2010年に閉館した富士市の映画館「富士シネ・プレーゴ(日映運営)」で働いていた。
吉松 | はじめに七間町のいまをどう見ていますか? |
篠原 | 「昔は映画街だった」という事実はみなさん知っていると思います。そうでなくなったいまも、町は七間町という通りを衰退させないために、一生懸命頑張っているように見えますよ。 |
吉松 | 篠原さんもそう思われますか。七間町の方々に話を聞いていますが、みなさん同じようにおっしゃいますね。 |
篠原 | 日映と七間町の映画通りをつくってきた静活さんが、新静岡セノバに移転されてからは、少し閑散としてしまった事実はありますけどね※。移転の流れも見てますし、「客層が変わったな」と肌で感じることもありました。 |
吉松 | それでも一生懸命頑張っているのが、いまの七間町ですか。 |
篠原 | そうですね。閑散としたとは言っても、最近は大きなマンションも建っていますし、柚木さん(スノドカフェ七間町オーナー)みたく新しい人たちが七間町にお店を構える状況もあって、数年前に比べて雰囲気は変わってきてると思うんですよ。 |
※静活の新静岡セノバへの移転:静活株式会社は2011年10月、自社で運営する映画館「オリオン座」をはじめとした計9スクリーンを七間町で閉館し、新静岡セノバのシネコンに移転しました。
七間町のスクランブル交差点付近にそびえる「ザ・エンブル七間町(写真左)」。隣接するマンション「エンブルタワー七間町」と一緒に新たなタワーマンションとして注目されています。
篠原 | だから私たちも変わらないといけないなと。 |
吉松 | 変わる? 東宝会館さんが? |
篠原 | 町を歩く人が増えてきたので、路面にある利点を活かして、よりふらっと来られるような環境にしたいなと考えていまして。 |
吉松 | たしかに映画館が路面にあるのは強みですね。 |
篠原 | たとえば、「午前十時の映画祭」といって昔の映画を映画館で観られる取り組みを始めたり。この七間町を盛り上げるではないですけど、また来たくなる町、新しい人を呼び込む町にできればと、私たちも頑張っています。 |
もっと七間町の東宝会館を知ってほしい
吉松 | 七間町が元気になってきているとはいっても、率直にいまの経営は大変なんじゃ、なんて思っているんですけど・・・。 |
篠原 | まあ、昔に比べたらかなり落ちましたね。それでも市内の映画館から私たちを選んでくださる方も多いので、おかげさまでやっていられます。 |
吉松 | 安心しました。お客さんの層はどうですか? |
篠原 | 若い方は減ってしまいましたね。時代の流れもあると思いますし。でも私たちは「ビートルズ」とか「オアシス」といった音楽映画をはじめとして、ほかではかけていない映画の上映にも力を入れていて。そういったニッチな作品だと固定ファンの若い方もいらっしゃいます。 |
吉松 | あの、少し前に七間町で「この町にどんな印象を持っていますか?」という街頭インタビューをしたんですけど。そのとき若い世代からは「映画」って言葉が出てこなくて。やっと飛び出したのは50代の男性からでした。 |
篠原 | あー・・・そうですか。静活さんの移転が2011年10月なので、いまの高校生とか大学生だと七間町の昔の状況はさほど覚えていないかもしれないですよね。 |
篠原 | そういえば、若年層の話だと静活さんが移転したとき、「向こうに映画館が全部行ってしまった!」と言われる方もいましたね。いや、ちょっと待ってくださいと(笑) |
吉松 | 「まだ静岡東宝会館があるぞ!」と(笑) |
篠原 | とはいっても、おっしゃるように若年層をはじめとして、七間町に映画館があることを知らない方もいると思うんです。だからアピールするために、七間町名店街の方にお願いをして、通りの目立つところに映画のポスターを貼らせていただいていまして。 |
篠原 | これは七間町名店街と私たちの密な関係で生まれたもので。すごくいい位置にスペースをもらえていると思います。 |
吉松 | 七間町に来ると、そのポスターは必ず目に留まりますね。 |
篠原 | そうですよね。町を歩くみなさんに、「静岡東宝会館は七間町で頑張っているよ!」と少しでも知ってもらえていると嬉しいです。 |
※本記事公開の翌日、「ポスター掲示のスペースはコインパーキングになる」との情報を得ました。残念ですがまた別の形で情報発信できることを祈っています・・・。
日映社長「ここの映画館は絶対になくさないぞ!」
館内でもっとも大きな劇場「CINE1(1階)」。画像提供:静岡東宝会館
吉松 | 七間町の歴史を踏まえると、この町に映画館は欠かせないものだと思います。東宝会館さんは七間町唯一の映画館としての自負みたいなものはありますか? |
篠原 | もちろんです。私どもが七間町で頑張ることで、町の活力につながればと常に考えています。たとえば、東宝会館を目的に来たお客さんが、七間町でお買い物をしたり食事をしたりして、七間町を知るきっかけになれたらいいなと。 |
吉松 | 映画館でありながら七間町のハブでもあると? |
篠原 | そうですね。周辺地域でここでしか上映しない作品を観るために市外、県外からいらっしゃるお客さんもいるので。たくさんの町の方が「やっぱり東宝会館が好きだよ」と言ってくださることもありますし、なんとか七間町へ還元していきたい気持ちは強いです。 |
館内で2番目に大きな劇場「CINE2(4階)」。 画像提供:静岡東宝会館
吉松 | そう言っていただけるのは、いち市民としてかなり嬉しいです。 |
篠原 | それとうちの社長は、「ここの映画館は絶対になくさないぞ!」と言っているんですよ。 |
吉松 | !! 続けていただけるんですね・・・。 |
篠原 | 私たちも絶対にここは残して、七間町を盛り上げていくという気持ちでいます。これは会社で決めていることなので頑張りたいですね。 |
吉松 | 心強いというか、めちゃくちゃ安心しました。今後もぜひよろしくお願いします。 |