大地震とウワサの「東海地震」ってなに?
防災先進県のしぞ~かで暮らす【#1】
静岡はいいモノ、コトがたくさんある場所です。でも一方で、心配のタネをかれこれ40年くらい抱え込んでいることは県民の方、もしくは県外の方でもよく知っているはず。
そうです。
静岡県は、ずいぶん昔から「大地震がそのうちくる!」といわれている場所。僕が生まれる前から「東海地震」と呼ばれる、非常に規模の大きい地震がくることが予想されていました。
今回から数回にわたり、東海地震について発信していきます。担当は、産まれてこのかた静岡県外に住んだことがなく、ずっと地震に怯えている編集部の山口です。
で、「東海地震」ってそもそもなんだ?
僕が小さいころから、地震はものすごく身近な存在でした。学校では毎学期のように防災訓練。家の近くには、「海抜〇m」と書かれた表示の看板が付いた電柱と、意識せずにはいられない環境だったからです。
でも「くるくる」といわれているうちに、兵庫で、新潟で大地震が起きました。そして6年前には忘れもしない東日本大震災が、去年には熊本地震まで発生しています。
正直、「あれ? 静岡はいつくるんだ・・・?」と思ってしまう始末。来ないほうがいいには決まっていますが、数々の大地震をテレビで見ていると、こんな現実が自分の街に訪れたとき、どうやって身を守るべきかがきちんとわかっていないような気がしたんです。
そもそも、静岡にくる地震ってどんな地震なのかもイマイチ・・・。
というわけで、来ました。
ここは静岡市葵区にある「静岡県地震防災センター」。名前の通り、防災関連の展示や資料を見ることができる県の施設です。
各都道府県にも同じような施設があるとのことですが、静岡の防災センターのすごいところは、ほとんどの部分が地震に関するものに特化していること。各種体験コーナーや避難グッズ、家具の固定方法にいたるまで、ありとあらゆる地震関連情報が詰まっています。
その充実ぶりにより、県内外から防災関連企業や自治体の方が情報収集に来たり、一般の方や海外の方も地震に関する知識を求めて訪れたりするそうです。
つまり・・・。ここで聞けば間違いないということ!
さっそく、お話しを伺ってみましょう。
東海地震は「世界で唯一」を持つ地震
取材に応じてくれたのは、静岡県危機管理部危機情報課の防災担当専門監 西井晃さん。
山口 | 本日はお忙しいなか、取材させていただきありがとうございます。 |
西井 | いえいえ、静岡の防災対策に役立つのであれば、いくらでも協力しますよ(笑) |
山口 | がんばります! さっそくなんですが、「東海地震」について改めて概要を教えていただけますでしょうか。 |
西井 | はい。その前に、まず地震の起こる仕組みについてですね。地震の原因には大きく「内陸直下型」といわれるものと、「プレート境界型」と呼ばれるものがあります。東海地震と呼ばれている地震は、どちらによるものかわかりますか? |
山口 | これは学校でやりましたね。「プレート境界型」です。ちょうど、駿河湾のところにプレートがあったとか、そんな話でしたよね? |
西井 | さすが静岡育ち。その通りです。
このプレート境界型の地震というのはその名の通り、隣り合うプレートとの境界で引き起こされる地震です。「プレート」は地球の岩盤のことで、「ユーラシアプレート」や「フィリピン海プレート」といった複数あります。これらは毎年数センチ程度ですが動いていて、そのときに隣り合うプレートを引きずり込んでいくんですね。
しかし、引きずり込んでいくといつかは、上にあるプレートがそのひずみに耐え切れなくなる。そして、元に戻る際には岩盤そのものが大きく動くことになりますから、大地震が発生するというわけです。 |
資料中の地震の起きる仕組みについて。理科でやったような気がする・・・。
西井 | 静岡県を含め東海地域はフィリピン海プレートとユーラシアプレートの境界があるエリアで、歴史上も定期的に大地震が発生しています。
このエリアのことを南海トラフ※と呼ぶのですが、ここでかつての宝永地震(1707)が、その後は安政南海地震と安政東海地震(1854)が発生します。そして東南海地震(1944)、南海地震(1946)と続きます。このように見てみると、南海トラフでの地震は約100~150年の感覚で発生していますよね。
ところが、1940年代に起きた最後の大地震のときに、静岡県の部分(駿河トラフ※)だけ地震が発生しなかったんです。 |
山口 | それで「そろそろでは」ってことですかね? |
西井 | そうです。1970年代にこのことがわかって、当時の地震研究者が「近いうちに、まだ起きていない駿河湾を震源にして大地震が起こるんじゃないか」と唱えた。静岡県を中心に起こる東海地震という名称はこのときから出始めたものなんです。
少し話題が逸れますが、地震の名称というのは「後から付けられる」のが一般的なんです。東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)もそうですし、兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)もそうですよね。東海地震は「まだ起きていない地震」に名称が付いた、唯一の事例です。 |
山口 | 名前が付くと「地震が来るぞ!」という意識がつきやすいですから、そういう意味ではよいのかも・・・。思わぬところに唯一がありました。 |
※南海トラフ:駿河湾から九州の南側に至る大きなプレートの境目。
※駿河トラフ:南海トラフの内、駿河湾の中にある部分
東海地震の規模ってどれくらい・・・?
東海地震が起こるメカニズムと、どうして静岡では地震が来るといわれているのかについてはわかりました。
ところで、地震といってもその規模や被害はそれぞれですよね。東海地震ではどの程度の被害が想定されているのでしょう?
山口 | 地震でまず怖いのは、揺れによる建物の倒壊や津波・土砂災害だと思うんです。東海地震は、いったいどれくらいの規模の揺れが起こると想定されているんですか? |
西井 | 静岡県を中心に研究者や各自治体で被害想定をしているんですが・・・。じつはいま想定しているのは先ほど申し上げた70年代に議論された東海地震。さらにそれよりも発生確率は低いものの、より大きく甚大な被害を起こす恐れがある「南海トラフを震源域とする巨大地震(南海トラフ巨大地震)」も含めて、ふたつのレベルで想定・対策を行っています。 |
山口 | な、南海・・・。なんですか? それ。 |
西井 | さきほど「東海地震の地域だけ、前回から100年以上経っても大地震が来なかった」と説明しました。ところがこれは1970年代の話ですから、そこから40年も経ってしまった。
そこで、そもそもこの地域の地震は単独(静岡県だけ)では発生しないのかもしれない、という考え方が最近になってされることも出てきたんです。
つまり、南海トラフ全部が一緒に動くような大地震が来る可能性が示唆されたんです。 |
山口 | それって、とんでもない規模の地震ですよね・・・? |
西井 | そうですね。もうそうなると静岡県どころではなく、東海・近畿・四国・九州南といった非常に広い地域を「千年から数千年に一度」と呼ばれるレベルのとてつもない大地震が襲うということが予想されます。
具体的な推測としては、従来から言われてきた東海地震が「M(マグニチュード)8.0~8.7」、南海トラフ巨大地震は「M9程度」と予想されています。 |
山口 | 東日本大震災のマグニチュードって、確か9.0でしたよね? そう考えると匹敵するような地震が起こりうると。 |
西井 | マグニチュードというのは0.1上がるごとにその規模が1.4倍になるんです。実際にどれほどのエネルギーとなるのかは正確にわかりませんが、その程度の地震は予想しています。 |
これが予想震源域。赤色の点線で示された場所がもし一気に動いて地震になったら・・・。
山口 | なんというか、想像を絶する地震ということがわかりました。
こんなことを聞いて申し訳ないんですが・・・。僕は小さいころから東海地震は「明日きてもおかしくない」って言われてきたんです。でも結局、そんな日はいまのところきていませんでした。いずれの地震についてもなんですが、起こる確率のようなものはあるのでしょうか? |
西井 | 東海地震を含めた南海トラフ沿いで発生する大地震は、30年以内の発生確率は70%と考えています。南海トラフ巨大地震に関してはその10分の1程度です。
プレートのひずみが蓄積されていっていることは観測されていますし、「いつかは起こる」と考えなければなりません。しかし、その「いつか」は30年経ってからの話ではなく、いまかもしれないんです。そのための対策が求められます。 |
山口 | ・・・そうですよね。 |
「いつか」のために対策する自治体の取り組み
静岡県では、地震に備えていくつもの資料を用意しています。これもそのひとつ。記事中にもデータをお借りしています。
山口 | 大規模地震がいつくるかはわからないけど、いつかくる。そのための対策だというお話しでした。やっぱり静岡県って地震に関する対策が進んだ場所なんでしょうか? |
西井 | いよいよ本題、という感じですかね(笑)静岡県の防災対策は、あらゆる面において日本でも高いレベル、世界で見てもここまで対策をしている地方自治体というのは非常に稀なレベルだと考えています。
具体的には、「学校・幼稚園施設の耐震化率」「木造住宅耐震補強工事への助成数」で全国1位の水準を誇っています。この結果、静岡県内の建物のおおよそが、震度7程度の揺れに対しても耐えられるようになってきているんです。これが、防災に県民と一体になって取り組んできたことのひとつの成果ですね。 |
山口 | 震度7って、それこそ東日本大震災の最大震度でしたよね・・・? 全国1位ということは、他の都道府県に比べても安心度は高いといえるかもしれません。 |
静岡県が取り組んでいる防災対策により、さまざまな分野で国内トップクラスの水準に。
西井 | そもそも、ずっとくるといわれている場所ということもあり、他県に比べ先駆けて長い期間、計画を立てて実行してきた成果が表れているのかな、と思いますね。
しかもこの対策ですが、当初は東海地震を想定したものとして進めてきましたが、先ほども申し上げた通り、より大きな被害が想定されている南海トラフ巨大地震に対する部分も無視できません。
そのため、レベル1(東海地震)、レベル2(南海トラフ巨大地震)の2段階に分けて対策を進めています。 |
山口 | 当初の想定だけでなく、より大きな部分にも対策の手を広げているんですね・・・。 |
西井 | そうですね。いまはレベル1に関しては「生命と財産を守る」ことを、レベル2では「生命だけは守る」という方針ですが、もっと対策の充実度が上がればこの点も変化してくるのかもしれません。なによりも着実に行っていくことが大切です。 |
結局、地震の予知ってできるの?
長らく東海地震では、「予知」ができるとして対策を進めてきたという一面もありましたが・・・?
山口 | 建物に対する以外の部分では、どのようなものがあるでしょう? |
西井 | 自治体や教育機関が主導となる防災訓練の実施(こちらも参加率全国一位)や、地震の予兆となるような少しの変化も見逃さないための観測網の充実が挙げられます。 |
山口 | 防災訓練は小学生のころからやってましたね。学期ごとにやってたんじゃないかというくらい、頻繁にやっていたのは静岡ならではだったのか・・・。
でも気になるのは観測網です。東海地震は世界で唯一「予知ができる地震だ」と見聞きしたことがあるのですが、これは本当なのでしょうか? |
西井 | 予知に関しては、結論から申し上げれば「できる可能性はあるが、過度に期待できるものではない」というところです。静岡県内にある地震に関する観測施設は非常に多く、日本中を見渡してもここまで充実している地域はないでしょう。
ですが、地震によっては予兆からすぐに起きることや、予兆がなく起きることもあるんです。観測網は確かに広いですが、かといって確実に予知できるまでには至らないのが現状です。 |
山口 | なるほど。だからこそ、起こったときにどうするべきか、が重要になってきそうですね。 |
西井 | まさしくおっしゃる通りです。 |
山口 | 具体的な対策方法や内容について教えていただけますか? |
西井 | いや、その前にひとつ忘れていることがあると思うんです。 |
山口 | ・・・え? |
西井 | まだ、津波のことやっていないですよね? |
そうです。地震といえば、ただ揺れが恐ろしいだけでなく、津波の発生によっても大きな被害が出ることで知られています。東日本大震災でも大部分の被害が津波によって引き起こされていることは多くの方がご存じですよね。
次回、東海地震で想定される津波とその対策。さらに、地震対策で覚えておくべきことについてです。