七間町の歴史がパフォーミングアーツを引き寄せた?
スノドカフェオーナーが描く21世紀の七間町
――最近は新しい人たちが七間町を引っ張ろうと動いてくれているんですよ。
こう話したのは、専門店が立ち並ぶ七間町商店街をまとめる七間町名店街の副理事長、望月さん。
そして新しい人たちのひとりとして、名前があがったのは柚木康裕(ゆのきやすひろ)さんでした。
株式会社オフィス・スノドの代表として、オルタナティブスペース「スノドカフェ七間町」オーナーや「CCC(静岡市文化・クリエイティブ産業振興センター)」プログラムディレクターを務めています。
そこで柚木さんに七間町の現状を踏まえつつ、自身が進める活動について語っていただきました。
七間町の現状はかなりシビア?
吉松 | 柚木さんから見て、いまの七間町はどう映っていますか? |
柚木 | 絶対的に楽観視はしていないですね。まずお店が閉まると空いたままという現実があって。 |
吉松 | 新規でオープンするお店が少ないんですか。 |
柚木 | やっぱり時代の流れで閉まるお店はありますけど、その次にオープンするお店がいつまでもないんです。七間町だけではないし、たとえば目抜き通りの一番目立つところもそうですね(2017年夏に閉店したバーガーキング呉服町店があった場所)。あのような一等地にお店が入らないなんて、東京だったら考えづらいですよ。 |
奥のビル2階に「バーガーキング呉服町店」がありました。
柚木 | 要するにそれが静岡の小売業の現実かなと。とくに専門店ばかりの七間町は大変だと思います。 |
吉松 | 七間町の小売業はかなりシビアですか。 |
柚木 | ネットでいろいろ買える時代なので、町の路面店はどうしても厳しいですね。 |
吉松 | 一方で全国にシャッター街が増えている時代で、多数の専門店が営業している七間町は頑張っているともいえる気がします。そのあたりはどう思われますか? |
柚木 | いまはたしかに頑張ってます。でも現実を見れば、このままお店がなくなっていくかもしれない。そもそも静岡街中での商売は少し難しいところがありまして。 |
吉松 | どんなことですか? |
柚木 | 静岡で買い物する人は静岡市民ばかりなんですよ。これは大きな問題。よく静岡市民の購買意欲を高めようって言われますけど、それは根本的な解決策にならない気がしています。 |
吉松 | そうすると外からお客さんを連れてくるしかないですか? |
柚木 | いわゆるインバウンドを海外ではなくて、市外から呼び込む必要がありますね。 |
吉松 | でもお店が入らないから、外にアピールできず、どんどん衰退していくかもしれないと・・・。 |
柚木 | たとえば、空きテナントの賃料を下げるとかすれば、状況は少し変わるかもしれないですね。でも町は複雑な利害が絡み合ってる場所なので、そう簡単にはいかない。
それ自体は仕方ないと思うしかないです。そのなかで「自分たちはどうやって生きていくか、仕事していくか」ってことのほうが重要ですね。 |
七間町の歴史がパフォーミングアーツを引き寄せた
スノドカフェ七間町。カフェ営業をはじめ、個展、勉強会、ワークショップなどのイベントを随時開催しています。写真提供:柚木康裕
吉松 | 柚木さんが主体となって動いている、スノドカフェ七間町やCCCによる七間町へのアプローチ。どんな想いで活動されているんでしょうか? |
柚木 | スノドは自分の考えを具現化するところ。シンプルです。自分はアートやアーティストの面白さに出会ったことで生活が豊かになったので、みんなにも紹介しつつ、感じてくれる人たちと新しいなにかを生み出したいと考えています。 |
吉松 | 七間町の歴史を踏まえると、アートやアーティストには理解がある町だと思います。 |
柚木 | でも最初はそんなことを考えずに、たまたま縁があって出店したんですけどね。運営しているうちに七間町のことを勉強し始めて、少しずつ町のことがわかってきました。
CCCの話をすると、いまちょうど「かわら版」っていう小新聞を出していて。これは人々とパフォーミングアーツ※をつなぐためのものとして作りましたね。
※パフォーミングアーツ:演劇などの身体表現によるパフォーマンス。 |
七間町、人宿町、駒形界隈からパフォーミングアーツを発信する「かわら版」第1号。編集はすべて柚木さんが担当。10月15日(月)CCC発行。
吉松 | かわら版、これはどういった経緯で作成されたんですか? |
柚木 | 自分がいまやりたいことをみんなに見せたかった。要するに七間町には映画の歴史があって、その前には芝居小屋の歴史があるわけですが、ここにきて再び大道芸、芝居、ダンスが集まり始めているんです。 |
吉松 | そうなんですか! その流れは知らなかったです。 |
柚木 | もしかすると、この流れを「なんで?」って思う人もいるかもしれませんね。でもなんら不思議ではなくて、その歴史が我々を引き寄せたって思うんです。そういうことを自分は言いたくて、かわら版はこのことを伝える目的もあります。 |
柚木さんが主催する市民創作舞台プロジェクト「セブンエレファンツブリングハピネス」の稽古の様子。MIRAIEリアンコミュニティホール七間町と七間町天国にて、2018年1月8日(月祝)開催予定。写真提供:柚木康裕
吉松 | まさに原点回帰ですね。 |
柚木 | そうですね。物事をつくるにあたって、エリアの話はすごく重要で。ほかのエリアではできません、たとえば、鷹匠も伝馬町も紺屋町も呉服町もできません、ここでしかできないことがある。それが一番大事です。 |
吉松 | 七間町だからこそのパフォーミングアーツということですか。 |
柚木 | パフォーミングアーツは七間町でしかできない、あるいはここでやるのがふさわしいんです。「21世紀、パフォーミングアーツを加えて七間町を盛り上げようよ」っていうのが自分のやりたいことですね。 |
目指す「パフォーミングアーツの日常化」
柚木 | あと、そもそもパフォーミングアーツっていうのは、静岡市が誇るべき財産なんですよ。 |
吉松 | どうしてですか? |
柚木 | 25年も続いている「大道芸ワールドカップin静岡」と、20年も続いている「SPAC(静岡県舞台芸術センター)」というふたつの存在。これは大きいです。 |
吉松 | 言われてみればたしかにそうですね。 |
柚木 | 大道芸ワールドカップは去年、4日間で200万人ものお客さんが来ています。そしてSPACは県立の劇団が県立の占有劇場を使って活動している全国でも稀有な取り組み。これらを活かさない手はないと思うんですよ。 |
吉松 | おっしゃるとおりです。 |
静岡県舞台芸術センター、通称「SPAC(Shizuoka Performing Arts Center)」。2017年11月現在、天井改修中。
柚木 | でもいま十分に活かされていないのが現状で。というのも、大道芸ワールドカップはあくまで4日間のイベントでかつ、イベントのための組織で運営していることから日常的な活動は難しい。
そしてSPACは、世界で評価されるくらい専門性の高い集団であるがゆえに、少し敷居が高い。市民にとってSPACという存在はまだまだ馴染みがないんです。 |
吉松 | もしかして、七間町をそこに絡めようと考えているんですか? |
柚木 | 正解。七間町によるパフォーミングアーツの日常化を目指しています。 |
吉松 | 日常化・・・! |
柚木 | 大道芸ワールドカップが開催されていない361日を七間町が担う。市民がパフォーミングアーツに触れる機会が増えてくると、SPACの敷居の高さを少し下げられるかもしれない。そんな流れをこの町でつくる。
すると七間町は、ほかの町とは違う特徴を持つことができるんです。自分は明確にそう思ってるので、あとはどのようにつくっていくか、それだけですね。 |
パフォーミングアーツ×学び=??
柚木 | 最後にスノドを絡めた話をしますと、ゆくゆくは市民大学といいますか、社会人大学の場にしたいと思っています。大人が日常的に学びのために集う場所。 |
吉松 | 大人の学びの場ですか。さきほどの話と軸は違いますけど、どちらも「日常」がベースにありますね。 |
柚木 | 芸術を町に持ち込むとき、そこには日常的に学べる場がどうしても必要なんですよ。 |
吉松 | どういうことですか? |
すでにスノドカフェ七間町では、トークイベントなどで学びの場づくりを実践中。写真提供:柚木康裕
柚木 | 日本での芸術は、往々にして趣味のことを指しますよね。「好きなことやれていいね」っていう。でもそうではなくて、人にとって大事なんです。日々の活力、感性を高めないと人間死んじゃいます。そういうことを学びを通して知る必要があるんです。 |
吉松 | 納得しました。芸術の重要性を学ぶ場と、それを実感できる場がひとつの町にあると、人は集まってきそうです。 |
柚木 | そうですね。七間町のパフォーミングアーツの流れが大きくなって、ゆくゆくは七間町が全国からパフォーマンスを観に来る町になったら面白いですよね。 |