静岡クリームソーダ図鑑【vol.1】
「純喫茶のい」ときめきを呼ぶ昔ながらの1杯
透きとおるメロンソーダに顔を寄せ、「きれい」と笑う顔がかわいい。グラスの結露をでたらめになぞった指先が光って見える。さくらんぼの種を舌で転がす姿が、どうして直視できない。クリームソーダ、それはわたしの妄信する青春の日々そのものだ。
純喫茶やカフェ、ときにはレストランまで。街のクリームソーダを巡る連載をはじめます。がらんどうに抜け落ちてしまった青春を埋めにいこう。
vol.1 純喫茶のい
初回ご紹介するのは、静岡市葵区の「純喫茶のい」。静岡駅から徒歩15分ほど、昔ながらの商店が軒を寄せ合う駒形通り沿いにあります。鮮やかな立て看板と、店先に繁った緑が目印。駅からはすこし距離があるものの、道中複雑でないので迷わずたどりつけるはずです。
今では珍しい昭和型板ガラス
味わいあるレトロな佇まいですが、じつは2019年の6月で2周年。この場所で40年以上営業していた喫茶店跡を、家具もそのままに活用しています。店内はテーブル席が4つとカウンター、お店の奥にはひっそりと個室もありました。
本棚に谷崎潤一郎がひととおりそろっていたので、間違いなく信頼できる。
利用者には若者もいれば、サラリーマン、おじいちゃんおばあちゃんまで。ふらり立ち寄って、思い思いの時間を過ごすといいます。
メニューのラインナップは「純喫茶」そのもの! 軽食メニューはトースト・サンドイッチをメインに写真のとおりです。
ドリンクはコーヒーのほかミルク、ココア、ソーダ水、レモンスカッシュ、ミックスジュースなどなど。壁には「フルーツサンド 700円」と手書きの文字がありました。
純喫茶のいのクリームソーダ
こちらが純喫茶のいのクリームソーダ(470円)。なぜわたしたちはクリームソーダを目にすると「ひゃぅ~ん」みたいな情けない声が出てしまうのでしょう。
まさしく、ぼくのわたしの求めていたクリームソーダに違いありません。理想形すぎるあまりマボロシかと思いました。「ちゅん!」としたさくらんぼ、バニラアイスとソーダの境界へ偶発的に現れるしゃくしゃくのシャーベット。この部分っておいしくて大好き。
炭酸水にメロンシロップを加えたソーダのお味も、昔ながらの正統派です。脳をとろかすような甘さ。
感覚的な表現ばかりですが、クリームソーダ・ラバー同士、伝わるものがあると信じています(念)
クリームソーダのおともに
ご主人はもともと、名古屋を代表する老舗純喫茶に勤めていた人物。純喫茶のいからは、その愛すべき喫茶文化へのリスペクトが垣間見えます。
たとえば朝7:00から行っているモーニング※。愛知のおとなりさんとして、静岡県民も馴染みがあるかもしれません。
そんな純喫茶のいらしいメニューをお望みなら、「小倉トースト(350円)」をぜひご賞味ください。サクふわ、もちもちの厚いトーストにたっぷりと乗った粒あん。けっして誇大に言うわけではなく、ほんとうに、これまで食べた小倉トーストのなかでいっとうおいしかったです。
※モーニング:午前の時間帯、喫茶店やレストランにて「ドリンク+軽食」など特定のメニューを割安に提供するサービス。
あんこの優しい甘さと爽やかなクリームソーダは、ちょっと泣けちゃうくらい相性がいい。価格としてのお得さならモーニングがおすすめですが、心が泣きたい気分なら「小倉トースト×クリームソーダ」を推します。
綴りを見て、バンドのNEUが由来かと思ったのですが違いました。
ドイツ語で「新しい」の意。とってもかわいいコーヒーカップ。
抜け落ちた青春を1杯のクリームソーダで埋めようなんて、正直難しいことでした。わたしの10代はとうの昔に過ぎた。暗やみの砂丘でまたたく手持ち花火も、ブラウスに透けるド派手な下着も、クリームソーダ越しの彼女も取り戻せない。
でも幸い、クリームソーダは溶けても逃げやしないし、そういうところが好きだ。透きとおった炭酸水を流し込むあいだは、知覚過敏の痛みもうすらいでいく。
大丈夫、わたしはいますぐにでも青春時代へ飛び込んでゆける魔法を知った。純喫茶のいには、そう思わせてくれるときめきがありました。
追伸、クリームソーダ・ラバーのみなさんへ
「ぼく・わたしの青春はこれ」という静岡県内のクリームソーダ情報をお待ちしています。クリームソーダのお店は知らないけど、知覚過敏の名医なら知っているという方も、以下からぜひご連絡ください。
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