「お産」を男が真剣に語る「おっさんラボ」
出産を想像できない男性必見レポ
こんにちは、編集部の山口です。
突然ですが、みなさん「お産」についてどういう印象をお持ちですか?
「神秘の瞬間」「新たな生活のスタート」といったイメージをお持ちの方もいるでしょう。また「まだまだ自分には関係のない世界の話」と、将来のことだとあまり考えていない方も多いかもしれません。
僕も、「子どもはまだ考えたことないし、お産というのも遠い将来の話だなあ」と思っているうちのひとりです。
でも今年で僕も27歳。もう若くねぇな、って思ってしまう場面もあります。いざというときにおろおろしてしまっては、お父さんとしての威厳もないもの。まだ結婚すらしていないですが、ちょっとずつお父さんになる練習をしてもよいのかもしれません・・・。
お産を身近に感じられるおっさんラボってなんだ?
「もしかしたら、そろそろそういう年齢?」と感じる男性や、「もうすぐお父さんになる!」という秒読みに入っているプレパパさん。そんなみなさんを対象にした座談会が静岡市で開催されていることはご存じでしょうか?
その名も「おっさんラボ」。さまざまな立場や経験をした男性同士が集まって、お産や育児に関係する話し合いの場となっているみたいです。
一方的な講義ではなく、率直な疑問や感想を話し合えるようなので、敷居も低そう・・・。これであれば、まったく知識ゼロの僕でも参加できるのではないか、そう考えて申し込むことにしました。
おっさんラボの会場へ!
取材も含めてお願いすると、ふたつ返事で承諾をいただける連絡が来ました。去る1月の開催日に、会場となっている静岡市葵区の「アイセル21」へと向かいます。
この人と。
青木雄太
プロのデザイナーとして働く浜松在住のアラサー男子。mitecoのサイトデザインや名刺デザインにかかわる。2016年には大学時代から付き合っていた後輩と結婚。確実に「おっさん」への階段を登っていく。山口とは大学の先輩後輩の関係。ちなみに、青木さんの結婚相手は山口の大学同期である。
山口 | おはようございます! 朝早くに静岡市まできてくださってありがとうございます。 ※AM8:30 |
青木 | おはよう。普段は車か電車だけど、さすがに今回は新幹線でパワームーブした。 |
山口 | あらためてありがとうございます。昨年はご結婚おめでとうございました。で、突然なんですけれど・・・。お子さんとかってもう考えているんですか・・・? |
青木 | え? いや、まぁいつかは人並みにほしいよね。 |
山口 | なるほど。本日は「おっさんラボ」に参加していただくわけですけれども、そうなるとちょっと身近な話題ですよね。 |
青木 | そうだね。遠からず自分にも関係してくるかなぁ、とは思うよ。 |
山口 | ずばり、気になること。みたいのはありますか? |
青木 | 「立ち合い」ってあるじゃん? |
山口 | お産の。ですかね? |
青木 | そうそう。あれって、やっぱりしたほうがいいのかなぁ、とかって考えちゃうよね。仕事もあるし、どこまでお産に向かい合うべきか、って気になるところ。もしかしたら、お母さん側からすると、「いやぁ・・・ちょっと・・・」みたいなのかもしれないし・・・。 |
山口 | 確かにちょっと気になりますね。今日も話題になるかもしれません。 |
なんて、話していると会場に到着。
この会館の和室でおっさんラボは開催されます。
おっさんラボのルールは「語り合うこと」
前回はお産を控えていたり、すでに体験していたりするような男性陣が多かったそうですが、今回はまだ経験がない大学生や20代の男性がそろいました。奥のブルーのシャツを着た男性が主催者の宮入さんです。
和室に入って待つこと数分。今回の参加者が出そろい、自己紹介をはじめることになりました。はじめにおっさんラボ主催者である、宮入さんがルールと自己紹介についての説明をします。
宮入 | 今日は休日の早い時間にもかかわらずお越しいただきありがとうございます。さっそくなんですが、おっさんラボではまず自己紹介をします。で、この自己紹介なんですがお手元にある、首から下げるネームプレートに「呼んでほしい名前」を。そして、バインダーの用紙には「自分の持つ『お産のイメージ』」を漢字一文字で書いてみてください。 |
むむむ。さっそく難題が・・・。お産に対するイメージかぁ。
周りを少し見てみると、悩みつつもみんなスラスラと書いていく・・・。
奥さんと「共」に乗り越えていくイメージを持つという参加者さん。
いろいろなことを初体験していきながら成長を「感じる」という方。
さまざまな考え方やイメージがあるんだなぁと「ふむふむ」と思い聞いていました。この自己紹介は準備ができた人から発表していく形式。どう自己紹介しようかな、と考えていたところに青木さんが自己紹介を始めました。
青木 | どうも、浜松から来ました青木です。お産に関するイメージは、結構そのままですが「生」。生まれるということって、一番「生きる」ってことを実感する瞬間ではないかなと思って書きました。今日はよろしくお願いします。 |
山口 | (なるほど) |
ちなみに僕が書いたのは「育」という字。赤ちゃんはお腹の中でも育つわけですが、これからもっとたくましく、ひとりの人として育つ、さらにそれによって親や周りも育っていくんだろうな。そんな風に昨年に子供が生まれ、育児に取り組む兄夫婦を見ていて感じたので選びました。
こうして、参加者の方々が自己紹介と「自分のお産に対するイメージ」を語っていき、最後は宮入さんの番です。
宮入 | おはようございます。主催者の宮入学です。年長者ではありますが「がく」と呼ばれることも多いです(笑)私は昨年に自分の子どもが生まれたんですけれども、その話を含めていろいろを語り合えればいいな、と思います。
で、私が選んだ漢字は「迷」の字。私はお産に立ち会った経験者ですが、やっぱりわが子はそりゃもう本当にかわいいです。だけど、一方で私にとってのお産体験は「迷う」ことだらけだったんです―――。 |
今回の参加者はみんなお産未経験。だから僕も含めてみなさん、ポジティブな一文字を選んでいくなかで、宮入さんの「迷」はものすごくインパクトのある単語でした。
自分の子どもだからめちゃめちゃにかわいい。なのに・・・
宮入 | みなさん、お産に立ち会おう、と考えていますか? 私はじつは最初迷っていたんです。いてもやってあげられることはほとんどないんじゃないか、って思っていたから。でも、私の姉に話したら「絶対に立ち会いなさい」といわれたので、そう強く言われるからには必要なんだろう、と思って立ち会うことに決めたんですね。
で、奥さんの陣痛がはじまって産婦人科の分娩室に通されて・・・。どうなると思いますか? 看護師さんからは「なんかあったら呼んでくださいね」って言われるんです。でも、「なにか」が「なんなのか」わからない。
奥さんは痛がってるからナースコールを押すと、来てくれるんですけど「うーん。まだですね」といわれて去っていく。私からしたら、奥さんは辛そうだし、わが子はすぐにでも産まれるんじゃないかと気が気ではないんです。
だけど、プロの看護師さんからしたら、この状態は「なにかあった」というわけではないんですね。 |
山口 | それは、気が気ではないですね・・・。 |
宮入 | それで、いよいよ産まれるってタイミングになると、看護師さんが動き出して分娩が始まる。私たちの場合には難産ではなかったと思うんですが、すぐに産まれてきた。
わが子だ、いよいよご対面。今度はどう思うか。・・・「うわっ」って思ったんです。 |
山口 | (あれ? 人生で一番うれしいタイミングだと思ってたんだけどなぁ) |
宮入 | なんでかっていうと、産まれたばかりの赤ちゃんって赤黒いんですね。想像していた以上に。だから、びっくりしちゃう。もちろんそのあと体を拭いたり、呼吸が始まったりしていくうちに、血色も戻っていくのだけれど。正直なところ、ちょっと怖いと思ってしまったんです。産まれたての赤ちゃんを見てもわが子だという実感がない。
で、それよりも奥さんがぐったりとしてしまっていて、そちらをケアしなければならないっていう頭になって。しかも、そのときはまったく意識していなかったんだけれど、私がわが子を抱いたのはその次の日だったんです。看護師さんから不意に手渡されて・・・、それがはじめて抱いた瞬間。
とても小さくて愛おしいんだけど、一方でなにもわからない状態が怖い。「この先、奥さんにも子どもにもどう接していけばいいのか」と迷ってしまった。喜びの半面、そこにあったのがさまざまな迷いでした。 |
パパに求められるのは「理解して支えとなってあげること」
こうしてお産未経験の僕からすれば、本当に未知の体験談をお聞きしたところからはじまったおっさんラボ。この交流会の特徴は、「あまり語られない父親目線でのお産」ですが、一方でやっぱりどうしてもお母さんのことはわからない。そこで、その疑問に答えたり、進行のお手伝いをしたりしてくれる方がいます。
それがおっさんラボの本家、「お産ラボ」を運営している方々です。じつはおっさんラボは、女性のお産体験を語り合う場であるお産ラボに、宮入さんが男性でありながら参加したところから始まったといいます。おっさんラボでは、「そのときお母さんはどんな気持ちなのか」「どのような苦悩があるのか」という視点から男性陣にアドバイスをくれます。
・・・「静岡には助産院がたくさんある」「産後の痛み」など、さまざまなお話しをいただけたのですが、あまりに濃密なのでここではひとつだけ。それはおっさんラボにお子さんを実際に連れてこられた、お産ラボの代表者も務めていらっしゃる増本さんによる「産後に女性がなるガルガル期」の話。
増本 | 女性って産前産後で性格が変わるという話なんですが・・・。
産前は赤ちゃんをお腹で育てているときには、赤ちゃんを守るために女性ホルモンがたくさん分泌されているんですね。だけど、産後にはこれはなくなる。いきなりそのホルモンの分泌量が変化するから、精神的にすごく不安定になるってよく言われるんです。
私自身も経験しているんですが、本当になんでもない状態なのに急に涙が出てきたり、産前には気にならないような何気ない一言もすごく傷つく言葉になってしまったり・・・。また、意味もないのに無性にイライラしてしまうこともあります。これは、産後のガルガル期と呼ばれるものなんですね。 |
山口 | これは男性が知っていると知らないでは、大きく変わることですね。知らなかったら喧嘩になってしまいそう・・・。 |
増本 | そうなんです。だから、愛が育まれてできた子どものはずなのに、それが元で夫婦仲が悪くなってしまうこともあるみたいで。
それを防ぐためには、お母さん側も自分のケアをしていくことはもちろんなんですが、旦那さん側も「ガルガル期というのがあって、精神的に不安定な状態になっているんだ」ということを理解してあげて、そのうえで接してあげる。
そうすれば、本来の仲のよさってすぐに取り戻せるし、ふたりの子どもをより愛せる環境が作れるようになってくるんです。 |
子どもは夫婦の愛の証で財産そのもの。でも夫婦がお互いを理解しあわないと、わが子に上手に愛情は注げない・・・!?
お産について「生」の声で話し合おう
こうしてさまざまな「お産」や「産前産後」をテーマに、経験者・未経験者が語り合うおっさんラボ。2時間半という長い時間での話し合いでしたが、どの話題も濃く、終わってみれば「あっという間」だったという印象でした。
帰り道、あらためて青木さんとおっさんラボについて話をしました。
山口 | 想像以上に濃密な時間でした・・・。どうでしたか? |
青木 | ちょうど立ち合いについて気になっていたところで、その話題が出たのはラッキーだな、って思って聞いてたんだけど・・・。思った以上に・・・。 |
山口 | 難しさや、迷いみたいのがある、というお話しでしたね。 |
青木 | そう。でも、だからこそ立ち会う必要があるんだろうなぁ、と。宮入さんのお姉さんが「絶対立ち会うべき」といったのにはそういう理由がある気がするんだよね。奥さんとの良好な関係もそういうときに一緒に悩めるかもしれない。 |
山口 | ですね。印象的だったことはなんでしょう? |
青木 | 出産後の痛みが頭に残る、という話。産むときに「鼻からスイカを出す痛み」というのは聞いたことがあるけど、産後に痛むというのは初耳で驚いたよ。「二度と産むか!」って思うくらい痛いんだけど、わが子がかわいくてそのうち二人目ってなるのは「母は強し」と思っちゃった。 |
山口 | 僕はそれ聞いて「男でよかった」なんて思っちゃいましたね・・・。 |
青木 | 男はそういう痛みや苦しみがないからこそ、奥さんのケアも子どもに対する接し方も勉強していかなきゃな、って思えたのが一番大きかった。
とくにこういう場だと体験談を直に聞けるから自分のことのように感じられて、深く考えさせられるのは足を運ぶ意義があるなぁって。
いますぐとは思っていないけれど、また自分にとってお産が身近な存在になったときにはお伺いしたいね。 |
山口 | お互いアラサーですし、青木さんはご結婚。意外にそのタイミングは近いかもしれません。 |
青木 | ですねぇ・・・。そのときはまた行こう。 |
出てきた話はどれも知らないことだらけで、ここに書かなかったことのなかにも「え!? そんなことになるの?」みたいな驚きや、「ここで知っておいてよかった」のような安心感もありました。これは実際に同じ空間で、一緒に考える人がいたからこそ成り立つものかもしれません。
これまでお産について真剣に考えてきたことのなかった男性の方、一度おっさんラボに足を運んで休日の2時間を使って語りあってみると身になるはずです。僕も、自身がお産をもっと身近に感じられるようになったときには、もう一度参加してみようと感じました。
また今回は触れられませんでしたが、女性陣のための「お産ラボ」も静岡市内を中心に開催されています。気になる方はぜひ、WEBサイト・Facebookページをチェックしてみてください。
「おっさんラボ」Facebookページ
https://www.facebook.com/events/570252259831880/
※こちらは前回開催時のイベントページです。
「お産ラボ」WEBサイト
※こちらには取材時のおっさんラボに関するレポートも掲載されていますよ!