これを観れば旅行気分!景色のよい映画5選
映画日和 ~5月号~
みなさん映画は好きですか? 大迫力のスクリーンとサウンドに見入っていると、いつの間にかその作品の世界に入り込んでしまったような感覚に陥って、感情移入をしたり、景色に感動したり・・・。
そんな、普段は味わうことや知ることができないような、別の世界・遠く離れた場所に連れて行ってくれるのも映画の魅力です。
でも一方で、「どれを観ようか迷ってしまう・・・」そんな方もいるかもしれません。年間に公開される映画は、日本だけでもじつに1,000本以上。そのうえ、DVDレンタルのお店に並んでいる映画も合わせればその数は無限といってもいいくらいですよね。
そこで、そんな数ある映画を前にひとつを選べない方へのお手伝いを、miteco編集部の山口と静岡市のミニシアター「静岡シネ・ギャラリー」の副支配人のお二方で、毎月おすすめの映画をテーマに沿って選出する企画が、こちら「映画日和」。
これを読んで、「映画が観たい!」と思ったらその日が映画日和です。
映画にどっぷりな3人が送る、「雑談あり、ネタバレなしのおすすめ映画コラム」。今月号もはじまります。
5月号のテーマ「観るだけで旅行気分! 景色がすごい映画」
5月といえば、その初旬にゴールデンウイーク(GW)が待ち構えている月。どこかへ旅行に出かけたり、思いっきり体を動かしたりしてリフレッシュする連休ですけれども・・・。
今年はどこにも行けなかった・・・。
なんていう方もいるかもしれません(僕のように)。
そこで、今回はそんなGWに思ったよりも遠出ができなかった人や、そもそもどこにも行かなかった人でも家に居ながら旅行気分にさせてくれる映画! ということで静岡シネ・ギャラリーのおふたりに作品を選んでいただくようにお願いしました。
さて、今回はどんな映画と出会えるのでしょうか?
あれって実際にある風景なんです 『ロード・オブ・ザ・リング』
2003年『ロード・オブ・ザ・リング』 監督:ピーター・ジャクソン |
山口 | さて、それでは今回は海野さんから教えてください! |
海野 | はい。1発目からかなりの変化球にはなるんですが、『ロード・オブ・ザ・リング』です。 |
山口 | おお。それはびっくりですね。「あ、ミニシアターの方でもそういうめちゃめちゃメジャーな作品を選ぶことがあるんだ!」という意味もあって(笑) |
海野 | 普通に『バック・トゥー・ザ・フューチャー』とか大好きですよ(笑) |
山口 | でも、たしかに『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズ、続編『ホビット』シリーズも含めて景色が本当にすごくって、現実感がないんですけど・・・。ロケもふんだんにやってつくられた作品でしたよね? |
海野 | そうですね。もちろん、ブルーバック※を使っての撮影やミニチュアセットもやってはいるんですが、基本的にはニュージーランドで撮影が行われている映画です。 |
山口 | この手の作品の場合にはMASSIVE※をはじめとした、CGや衣装なんかに目がいってしまうんですが、言われてみれば、風景がはちゃめちゃによかった印象がありますね。見直したら、これはもうニュージーランドに行きたくなっちゃうかもしれない・・・。 |
海野 | ですね。この映画は物語の舞台、架空の世界である「中つ国」と、それをつくり出すのに使われた現実に存在するニュージーランドの2か所が同時に楽しめる、という贅沢な作品だなあと思って選びました。 |
山口 | たしか、物語のスタート地点でもある「ホビット庄」のセットはまだ残ってるんでしたっけ? |
海野 | そうですね。『ロード・オブ・ザ・リング』のときには確か壊してしまったと思うのですが、それが現地の人の想像をはるかに超えるような大ヒットを記録して。『ホビット』シリーズが決まって、またここでロケをするとなったときに、「もう、これは残すしか・・・!」ってなったんでしょうね。このときのセットがそのまま残っています。 |
山口 | そのままテーマパークになりますもんね。実際に見てみても美しそう。 |
海野 | もう、たまんないでしょうね(笑) |
『ロード・オブ・ザ・リング』での主人公のひとり、アラゴルンを演じるヴィゴ・モーテンセンの主演作品『はじまりへの旅』ですが、なんと静岡シネ・ギャラリーで続演が決定! 5月26日まで上映していますから、まだの方はぜひ足を運んでみてくださいね!
※ブルーバック:背景などの合成をしやすくするために、ブルーシートを背に撮影をおこなう手法。
※MASSIVE:群衆シーンを生成するソフトウェアで、数千、数万といった莫大な数のモブシーンをそれぞれ独立させた状態で動かすことができる。『ロード・オブ・ザ・リング』で使用されたほか、『300<スリーハンドレッド>』などで使われたことで知られる。大作映画のモブシーンをつくり出すのに、大きなイノベーションを起こした。
世界遺産を贅沢使いで別世界の旅へ 『落下の王国』
2006年『落下の王国』 監督:ターセム・シン |
山口 | では、次に川口さんがおすすめする作品ですけど・・・。 |
川口 | ですね。僕が選んだのは、『落下の王国』。「風景のよい映画」と言われて真っ先に思い浮かんだのがこれですね。2006年製作の作品で、2008年にここ(静岡シネ・ギャラリー)でも上映してました。 |
山口 | この作品は・・・世界遺産の見本市状態ですね(笑) |
川口 | もう本当にすごいですよね。13か国の世界遺産と24か国以上でロケ撮! とんでもない規模での大作ですね。極めつけは、構想26年、撮影期間4年!
もうなんだか黒澤明みたい!(笑) |
山口 | (笑)気合入りまくった作品ですよね。 |
川口 | この前のmitecoさんの焼津さかなセンターじゃないけれど、「このどんぶりにどこまでネタを盛りつけられるか」みたいな作品ですね。 |
山口 | 読んでいただきありがとうございます(笑)でも、あんまりてんこ盛りでは少しくどく感じそうですね。 |
川口 | それがこの作品のよいところで、世界遺産をがんがん出してその風景を堪能! みたいなものではなくて、主人公が語る作り話のなかの世界の景色として、こういう世界遺産が登場するんです。
インドが多かったと思うんですけれども、インドの話の場面として出てくるわけじゃないという。 |
山口 | めちゃめちゃ贅沢(笑) |
海野 | 本当にそうですね。ストーリーとしては、映画が登場して間もない1910年代だったと思うんですけど、そのころにスタントマンをしていたという俳優が事故で半身不随になってしまった。
病院で絶望していると、ある少女がやってきて自分の作った物語を聞かせる代わりにモルヒネを持ってきてもらうというものです。 |
川口 | で、この作り話で世界各国の絶景や世界遺産がどんどん登場してきて。 |
海野 | そう。一つひとつのロケ地で1本ずつ映画が撮れてしまうんじゃないか、ってくらい美しい映像がバンバン出てくるんですよ。 |
山口 | それをひとつの世界観として完成させるというのは難しいですよね。美しくて有名な景色ほどやっぱり印象が大きくなっちゃいますから、そりゃ構想26年というのにも納得ですね。 |
パリ別視点で堪能する! 『パリ、ジュテーム』
2006年『パリ、ジュテーム』 監督:オムニバス |
山口 | 次は海野さんの出番ですが・・・。 |
海野 | ファンタジーがふたつ続きましたが、今度は実在のまちにフォーカスした作品。しかもオムニバス作品として完成させた『パリ、ジュテーム』ですね。 |
山口 | これは気になっているものの、まだ観れていないやつですね。参加している監督さんや俳優さんたちがとにかく豪華。景色がよい、みたいな意味でもさきほどの2作品とは打って変わってすごく都市的ですが、どのあたりがおすすめポイントでしょう。 |
海野 | とにかく豪華な出演・制作陣なのはひとつの魅力なんですが、「パリをくまなく堪能できる」という点から選びましたね。
というのもこの作品は、監督がそれぞれ別の地区で撮影しましょう、というルールを設けたうえで作られているんです。 |
山口 | ははー。なるほど。いわゆる「おしゃれな街パリ」だけでないところがのぞけそうですね。 |
海野 | まさにその通りで。たとえば、パリと言われると白人の文化圏で華々しいイメージがありますが、一方で移民も多い都市なんですよね。
『ベッカムに恋して』(2002年)の監督、グリンダ・チャーダの作品では、アラブ人の女の子に恋をするボーイミーツガールのストーリー。
いわゆる「A面なパリでの王道な青春ストーリー」ではない「B面」が垣間見えるところによさがありますよね。 |
山口 | それはたしかに僕たちではなかなか気づけない視点かもしれません。 |
海野 | でも、だからといってメジャーどころを押さえていないというわけではないですよ。いかにもパリ、という話から、パリにはこんなところも、みたいな切り口もそろってます。 |
山口 | いろいろな監督の作品が同時に堪能できるのも魅力的です。 |
海野 | それぞれ5分程度のとても短い作品たちなんですけれども、それだけに普段はやらないような実験的な手法を取り入れたりする監督もいれば、逆に「あーこれは、あの監督さんだ」と一瞬で気づけるほど、見事に自分の方法で撮り切っているようなものもあります。
もちろん、そのどれもがパリの美しさを表していて、観光ブックを開くような気持ちで観るのもよいですね。 |
山口 | 切り口は変わりますが、60年代ヌーヴェルバーグの監督たちが撮った『パリところどころ』とも関係しているんですかね? |
海野 | でしょうね。もちろん影響はされているはずですよ。
その視点で行くと、この映画がさらに影響を与える形で、他の都市でもやってみようということで、『ニューヨーク、アイラブユー』という作品が作られています。
こうしたオムニバスは、ハリウッド以外でも活躍する監督や俳優を知る入り口としてもおすすめですよ。 |
沖縄の人たちの生活に溶け込んでみませんか? 『ナビィの恋』
1999年『ナビィの恋』 監督:中江裕司 |
川口 | 僕のふたつ目の作品は『ナビィの恋』です。これね。僕の趣味も入っちゃってるんですけど。 |
山口 | 沖縄好きなんですね! 結構訪れているんですか? |
川口 | そうですね。結婚を機にあまり行かなくなっちゃったんですが、それまでは毎年必ず旅行してましたね。 |
山口 | なんか・・・すみません。意外でした(笑) |
川口 | ええ。なんでですか?! すごく景色もよくて当然、海もきれいだし素敵ですよ。
で、この『ナビィの恋』はですね。粟国島(アグニ)という離島を舞台にした話で、僕自身はここには行ったことがないものの、これを観ると「沖縄行きたい!」ってなるという理由で選びました(笑) |
山口 | じゃあ、沖縄っぽいビーチにサンゴ礁にという感じの映画ですかね。 |
川口 | もちろん、赤い瓦やシーサーみたいな沖縄っぽさはあるんですが、じつは山口さんが想像するほどランドスケープ的な沖縄の美しさを映し出すシーンはあんまりないんですよ。「もっと海も映して良いのに」って感じるくらい。 |
山口 | あれ? いわゆる沖縄が「どん」と来るわけではないんですね。 |
川口 | ストーリーも昔の恋人が島に戻ってきて、おばあちゃんと戻ってきたおじいちゃんが一緒に駆け落ちしちゃう「おばあちゃんのラブストーリー」っていう。それが沖縄かと言われれば・・・(笑)
でも、島のなかの小路を歩いたり、漏れてくる音楽に耳を傾けたり、本当にそれだけですごく沖縄っぽいんですよね。 |
山口 | ちょっとマイナーどころが紹介されるような映画なんですね。 |
川口 | ですね。島の人の生活感や文化感にどっぷりとつかれるような内容になってます。
村上淳がバックパッカーのような感じでふらっとこの島に訪れるキャラクターとして登場するんですけれど、自分をその立場に置いたような感じで、沖縄の静かな暮らし、独特な陽気さを感じさせるんですよ。 |
山口 | 沖縄好きがおすすめする沖縄映画! |
川口 | (笑)
それと、あんまりつなげるのも違うかなとは思うのですが、やっぱり空気の根底には「戦争」というものもあって。そこも含めて『ナビィの恋』では沖縄独特の文化感というか、空気を作っているなあと感じさせます。
沖縄民謡の大御所たちが三線を鳴らすシーンなんかでは、そういうじんわりしたものを感じますね。ここまで丁寧に沖縄という場所に向き合った映画というのは結構珍しいんじゃないかな。 |
山口 | 『パリ、ジュテーム』もですが、外側よりも内側の視点から描き出した映画、という感じがしますね。 |
川口 | そうですね。
いま、もうちょうどいい時期ですよ、沖縄。海開きもするくらいだし・・・。 |
山口 | とりあえずいけないうちは『ナビィの恋』で。 |
川口 | ですね。見直しましょう(笑) |
モンタナの雄大な自然とフライフィッシングに彩られる 『リバー・ランズ・スルー・イット』
1992年『リバー・ランズ・スルー・イット』 監督:ロバート・レッドフォード |
山口 | で、おふたりから2作品ずついただいたので最後は僕の選んだもので、『リバー・ランズ・スルー・イット』を。
これはブラッド・ピットの出世作としても知られてますけど、とにかく景色がきれいな映画なんですよね。 |
海野 | これはほんとにきれいな映画ですよね。 |
山口 | ストーリー含めて、きれいで「嫌味のない映画」だなあと感じますね。モンタナの雄大な自然のなかで暮らす兄弟と神父さんをやっているお父さん、そして献身的で優しいお母さん。
ハリウッドのカントリー調で兄弟ものの鉄板みたいな作品だと思うんですが、めっちゃ生真面目で勤勉なお兄さんと、やんちゃだけど天才気質で繊細な弟くんの兄弟愛が描かれてて・・・まあいい話ですよね。 |
海野 | 風景が兄弟・家族ともマッチしていて、なかなか折り合いがつかないようなときでもフライフィッシングをしているときは無言でも絆がつながっていて・・・ほのぼのとしていて、よい作品ですね。 |
山口 | 無垢すぎて生きづらい弟をブラッド・ピットが見事に演じ切っていて、それをなんとか救ってあげようとするお兄さんという構図で、それ自体もありがちなものではあるんですけど、いい意味であっさりとしていて、暗い部分が極力省かれているのが特徴だな、と個人的に思います。
よい風景とよい人間が出てくるよい映画、がピッタリですね。 |
海野 | 映像はもちろんなんですけど、個人的にはモノローグがすごい好きで。もちろん、この部分の映像自体もとてもいいんですが、ここでタイトルになっている「リバー・ランズ・スルー・イット」という言葉が登場してきて、その言葉とともにフライフィッシングをするおじいちゃんが映されるんですよね。
この言葉自体がやっぱりここに住んでいる人でなければ、ふらっと立ち寄った人ではとても出てこないような深みがある言葉だなあと感じます。 |
山口 | 自伝小説の最後ということで原作も最後こうなっているのかもですが、あそこのフライフィッシングの釣り糸がしなるシーンなんかはほんとにため息が出るくらい美しいですよね。 |
川口 | 兄弟ものっていうのは最近、すごく弱くなってきてしまっていて。そういう意味では、6月10日から公開予定の『マンチェスター・バイ・ザ・シー』がすごくおすすめ。 |
山口 | それも兄弟ものですかね? |
川口 | ですね。オスカーも受賞しているし、間違いなくヒットするだろうっていう作品なので、ぜひ見に来てほしいですね。 |
気になる作品はチェックを!
いかがでしたでしょうか? 今回は大作から名作まで国もロケーションも異なる作品が登場しましたね。形式や見どころもそれぞれで特徴がありますので、気になった作品もきっとあるはず。ぜひ、旅行には行けなかったけど風光明媚な映像が観たいという方は、チェックしてみてくださいね。
また、現在静岡シネ・ギャラリーで公開中の『はじまりへの旅』や来月公開予定の『マンチェスター・バイ・ザ・シー』も要チェックです。詳しい情報や上映時間については静岡シネ・ギャラリーのWEBサイトでご覧ください。
それでは6月号もお楽しみに!