静岡お茶屋の新スタイル「chagama(チャガマ)」
70種類以上のお茶に煎茶エスプレッソ?
静岡は日本一のお茶どころ。どの町にも伝統のあるお茶屋さんが立ち並ぶなか、”まったく新しいスタイル“でお茶を提案するお店があります。
ここは静岡市葵区鷹匠にある、日本茶販売店「chagama(チャガマ)」。静岡で140年以上も続く製茶問屋「株式会社マルモ森商店」の直営店です。
店内は昔ながらのお茶屋さんとはかけ離れた、和モダンでスタイリッシュな雰囲気。またchagamaの店内には、ふたつのスペースがあります。
ひとつは日本茶鑑定士などが厳選した、約70種類以上のお茶に出会えるこちらの「お茶スペース」。
そしてもうひとつは、エスプレッソマシンで淹れる「煎茶エスプレッソ」などを味わえる「カフェスペース」です。
まさに「伝統(従来のお茶)×新しさ(煎茶エスプレッソ)」の掛け合わせ。
静岡県外から来たので、あまりお茶に親しみがない僕(吉松)でしたが、この斬新さには惹きつけられました。
簡単には語れない日本茶の奥深さ
chagama 店長 森しおりさん
ということで、chagamaさんに連絡をしまして、店長の森さんに伝統と新しさについて聞いてみることにしました。
吉松 |
聞きたいことがいくつかありまして、まずはお茶について知りたいんです。たとえば、70種類以上あるお茶について、それぞれどんな違いがあるんですか? |
森さん |
そうですね。香りや味わいなどが一つひとつ違うんですけど、ざっくり分けると4つくらいのジャンルになりまして。 |
吉松 |
4つのジャンルですか。 |
森さん |
ええ。いろんな茶葉を混ぜたブレンドのお茶、玄米茶をはじめとした製法の違いによるお茶、ブレンドの原料となる茶葉を使った品種ストレートのお茶。
あとは変わり種ですかね。変わり種は、日本茶にショウガやバジルなどをブレンドしたフレーバーティーです。 |
吉松 |
お茶といっても、いろいろありますね・・・。 |
森さん |
品種がすごく多いんですよ。あとは、産地によっても分けられるんです。たとえば、同じ品種でも静岡で生産したお茶と、他県で生産したお茶では味がまったく違うんですよね。 |
並んでいる黄色の入れ物の中はすべてお茶です。
吉松 |
・・・これ、どうやって自分好みのお茶を選べばいいんでしょうか。 |
森さん |
なにが好きかによりますね。苦いのが好き、渋いのが好き、甘いのが好きとか。でもはじめは難しいと思いますから、うちでは「どんなお茶が飲みたいのか」をまず聞きますね。そうすると何種類か合うのが出てくるので、試飲していただいて選んでもらいます。 |
吉松 |
なるほど。自分で選ぶ必要はないんですね。 |
森さん |
そうですね。ちなみにお茶の面白いところはほかにもあって、高いものが必ずしも万人の口に合うわけではないんです。 |
吉松 |
あ、そうなんですか。 |
森さん |
もしかすると、100g/3万円と100g/600円のお茶を飲み比べたときに、後者のほうが合うこともあるかもしれないんですね。
これは安い舌とかそういうわけではなくて、淹れ方や好みの影響が大きいんですよ。だから、うちでは「お口に合うお茶を探しますよ」っていう形をとっています。 |
新感覚すぎる煎茶エスプレッソ
森さんに「僕がすごくサッパリしたお茶が飲みたい、と言ったときはなにをおすすめしますか?」と聞いたところ、富士山2合目でとれるお茶と、梅ヶ島で育ったお茶を選んで淹れていただきました。
どちらも爽やかな香りで後味スッキリ。個人的には、よりサッパリとした味わいだった梅ヶ島のお茶が好みでした。そんな感じでちょっとひと息入れながら、次は「新しさ」の質問へ。
吉松 |
あの、エスプレッソマシンで淹れるお茶についてなんですけど、僕は学生のころに少しバリスタをやっていた時期があるんです。
だからこそ「お茶をエスプレッソにする」という工程がまったく予想つかなくて、どうなっているんですか? |
森さん |
そうですよね(笑)まずは飲んでみますか? |
吉松 |
え、いいんですか。 |
森さん |
もちろんです。 |
吉松 |
マシンに茶筅(ちゃせん)が置いてありますけど・・・。 |
森さん |
エスプレッソマシンを知っている方だと、そこを気にされますね。これは煎茶ラテなどのミルクと合わせたドリンクのときに使うんですよ。 |
エスプレッソマシンからお茶が抽出されています。はじめて見た光景でかなり不思議。
こちらがエスプレッソマシンでお茶を抽出した「煎茶エスプレッソ(324円)」。さっそく飲んでみたところ――。
吉松 |
・・・これお茶ですか? |
森さん |
お茶ですよ(笑)甘み、旨み、苦み、渋み。お茶本来の味がすべて詰まっているんです。 |
吉松 |
お茶って本来こういう味なんですか・・・。なんていうか、ちょっとえぐみのある、おだしの味がします。 |
森さん |
あ、そうですね。旨み成分が、こんぶとかに入っているアミノ酸なんです。しょっぱいと感じる方もいますよ。 |
吉松 |
あーなるほど。新感覚すぎます。 |
吉松 |
それで、お茶エスプレッソはどのように作るんですか? |
森さん |
正直なところ、とくに変わったことはしていなくて。葉っぱをエスプレッソに寄せている感じですね。グラインダー※で細かく挽いてっていう。
※グラインダー:コーヒー豆を挽く機械のこと。 |
吉松 |
そうなんですか。作り方は意外と普通ですね。 |
森さん |
いまでは、ほかでもやっているところが出てきているので、よそだと違うかもしれませんけどね。 |
吉松 |
もしかすると、chagamaさんがお茶エスプレッソの発祥ですか? |
森さん |
どうなんですかねー(笑)うちの前にどこかでやっているところがあったらしいですけど、上手くいかなくて宣伝はしていなかったみたいなんですよ。
ですので一応、謙虚に静岡初とは言ってます。もしかすると日本初かもしれませんね。 |
お茶との縁がずっと切れないように
そもそもなぜ、エスプレッソマシンで淹れるお茶をはじめとした新しいスタイルを提案しているのか。そんな疑問が沸いてきました。
吉松 |
chagamaさんには、「お茶スペース」と「カフェスペース」がありますよね。お茶スペースはわかるんですが、カフェスペースはどうして設けているんですか? |
森さん |
静岡は日本一お茶を消費している県ですけど、それでも以前と比べると消費量はすごく減っているんですよ。とくに20代~30代の若い世代は、お茶離れが進んでいまして。 |
吉松 |
あー、日常的には、あまり飲まなくなっている気がしますね。 |
森さん |
そうですよね。あと市内にはたくさんのお茶屋さんがありますけど、どれも格式高いので、若い世代の方がはじめて入るには難しいところがあると思うんです。
だからもっと入りやすいお店にしたいってことで、エスプレッソマシンを使ったドリンクを提供するスペースを作ったりしていますね。 |
吉松 |
なるほど。内装がスタイリッシュなのも、その理由からですか。 |
あらためてお茶の入れ物を見てみると、若い世代に親しみやすいデザインだとわかります。
吉松 |
chagamaさんは、若い世代に「日本茶ともっとフランクに接してほしい」みたいな気持ちがあるんですか? |
森さん |
若い世代に限りませんが、やっぱりありますね。というのも、いますぐお茶を買ってくれという気持ちではやっていないんです。うちは10年~20年経ったときに、みなさんとお茶の縁をつなぐ窓口としてのお店なので。 |
吉松 |
お客さんとお茶の縁をつなぐ窓口ですか。 |
森さん |
まあ、運営元のマルモ森商店は静岡でずっとやってきて、静岡に恩返しがしたいとchagamaを出店したんですね。あえて東京などに出さなかったのは、静岡からお茶を発信していきたいっていう気持ちからです。 |
吉松 |
はーそうなんですか。ひとつの使命感みたいな話ですね。 |
森さん |
そうかもしれませんね。ですので、長い目でお茶を飲む方を増やしていく。そのうちここの人は変わるかもしれないし、来ていただく人も変わると思うんですけど、ずっとお茶との縁が切れないようにしたいですね。 |
僕なんかお茶離れの世代(今年で24歳)だと思うんですが、お茶の説明を聞いたり実際に飲んだりするなかで、グッと興味が高まりました。見事に縁をつながれちゃっています。
chagamaさんは、ものすごく入りやすい外観と内装ですし、販売しているお茶のパッケージなども親しみやすい。「お茶屋さん」と聞くと格式の高さを感じてしまいますが、ここは「お茶のテーマパーク」とでも呼んだほうがしっくりくる気がしますね。
ちなみに「煎茶エスプレッソ」について、わりと大変な飲み物なので、飲みに行くなら覚悟しましょう。どうやら、日本茶やエスプレッソに慣れていないと少し飲みにくいそうで。
森さんも「県内の方だったら若い人でも飲めますけど、県外の方だと飲めない方もいらっしゃいますね」と話していました。
・・・でも一度は飲んでみてほしいです。なんていったって静岡初ですから。