本誌独占!Uターン移住者の面接ウラ話
キャリアカウンセラーが語る静岡の企業風土
東京から離れ、地方でのんびり暮らしたい。しかし、いざ静岡に移住するときは職探しが課題になるという人もいるだろう。
そこで大切なのは、静岡県の仕事の現状、静岡の企業風土に合わせた仕事選びや面接活動だ。
今回は、移住時の職探しについて考えるにあたり、静岡の求人事情に詳しい紅林佳子さん(NPO法人キャリア・エール代表理事、オフィス.K代表)からお話しを伺った。
静岡へ移住する前に知っておきたい仕事の分布
静岡市出身の私は、「静岡=商業」というイメージが強い。しかし、静岡県の仕事の分布はどのようになっているのだろうか。まずは、地域ごとにどのような仕事があるかを聞いてみた。
安藤 |
静岡県は東西に広い県です。まずは、移住を考えている人に向け、地域別にどのような仕事があるか教えていただけますか? |
紅林さん |
浜松市や磐田市のように西部地域は、自動車・バイクに代表されるモノづくり中心のエリアです。
静岡市を中心とした中部地域は商業が盛んで、ホワイトカラーの仕事が目立ちます。これらに対し、東部地域は非常に複雑です。 |
安藤 |
複雑というと、東部の仕事はどのようになっているのでしょうか? |
紅林さん |
富士市は製紙業や自動車産業、裾野市や御殿場市は精密機械の研究所や工場など、モノづくりが盛んです。
伊豆に行くと、宿泊・観光サービス業ばかりで、非正規求人の仕事が多く見受けられます。一方、沼津市や三島市は大きな企業が少なく、いろいろな業種が混ざっています。 |
安藤 |
なるほど。地域別の求人数はどうでしょうか? |
紅林さん |
中部・西部と比べると、東部は絶対数が少ない状況です。ほかにも、首都圏と比べると、静岡県内全域で職種の幅も狭く、年収も落ちてしまいがちです。 |
職場や学校を東京に残して移住する選択肢
プロのキャリアカウンセラーから見ると、静岡への転職は難しいようだ。たとえば、生活拠点を静岡に移し、仕事や学校は東京という人もいるという。
安藤 |
仕事の選択肢や年収の不安を考えると、静岡への移住は難しそうですね。 |
紅林さん |
ただ、子育て世代のなかには、自宅を静岡に移して東京の会社や学校へ通勤や通学をするご家族もいますよ。
新幹線なら、三島市から東京まで新幹線で約1時間なので通勤圏内です。三島駅から東京行きの新幹線に乗る小学生やサラリーマン・・・という朝の光景はそこまで珍しくありません。 |
安藤 |
小学生まで新幹線通学するんですか! |
紅林さん |
静岡の子育て世代は「私立の学校へ子どもを通わせたい」という考えが根強いです。静岡は自然が豊かで住みやすいですが、教育環境では東京に負けてしまいます。だから、学校だけは都内の私学へ通わせる人もいるんです。 |
東京のほうが絶対的に労働時間は長い
ここ数年、都内の企業では働きすぎの問題を取り上げられることも多い。そこで、忙しさについて率直な疑問をぶつけてみた。
安藤 |
年収が高い東京に拠点を残す場合、たとえば、仕事が忙しすぎて困ることはありませんか? |
紅林さん |
たしかに、東京のほうが絶対的に労働時間は長いと感じます。私の経験談ですが、前職では静岡から東京へ通っていて、「新幹線の終電があるから」と、同僚を残して帰宅することも多々ありました。
もし、終電を逃したら職場で寝るか、近くのカラオケボックスで寝るか・・・という生活をしていた時期もあるくらいです。 |
安藤 |
それは大変ですね! |
紅林さん |
家事と仕事の両立が大変でしたね。その代わり、東京のほうが仕事の速度、そして仕事に対するPDCAのスピードは速いと感じました。 |
静岡の企業風土は穏やかすぎる
東京は仕事のスピードが速いと語る紅林さん。一方、静岡の企業はどんな特徴があるのだろうか。
安藤 |
東京の仕事のスピードに疲れた人が移住を検討する・・・という話は耳にしました。では、紅林さんの目から見て、静岡の企業はどういうイメージでしょうか? |
紅林さん |
静岡の企業は総じて「人に優しい」という印象があります。社長や上司が部下の生活を考えているケースも多いです。 |
安藤 |
へぇ。なんだか誇らしい気がします。 |
紅林さん |
ただ、「人に優しい」のはよいことばかりじゃないと考えます。たとえば今までの慣習、文化を変化するのになかなか踏み出せなかったり、新たに仕組みや改善を導入できなかったりするところもあるのではと思います。 |
安藤 |
たしかに。私も制度や実力主義より、社員の生活を考えることが多い気がします。 |
紅林さん |
そうですよね。よいことでもありますが、職場の仕組みをロジカルに整えるのが苦手なのかな。県民性のようなものなので、いざ「職場の仕組みを変えるぞ」というときに大変なパワーが必要とされていると感じます。 |
安藤 |
なるほど。それなら、ロジカルに働ける東京の人が転職すると、静岡で活躍できそうですね。 |
紅林さん |
いえ、静岡の「人に優しい」企業風土は、東京の人と静岡の人の双方が働きづらい原因になるんです。 |
大切なのは静岡流の働き方を理解すること
お話を聞く限り、東京流の働き方は、静岡の企業に足りない部分を埋められると感じた。しかし、静岡県民の反発を招くこともあるようだ。
安藤 |
どうして、双方にとって働きづらさが生まれてしまうのでしょうか。 |
紅林さん |
東京の大企業で働いていた人のなかには、「前職にはあれがあったのに、ここにはこれがない」とか、「ムリ・ムダ・ムラが多い」と指摘し、仕事を改善しようとする人もいます。
「いままでの方法で成果を出せている」と感じる静岡の人たちからすると、東京の働き方は「口うるさい」とか「怖い」と感じてしまうこともあるのではないでしょうか。 |
安藤 |
たしかに、反発してしまう経営者や管理職の人も多いかもしれません。 |
紅林さん |
そうですね。静岡ならではの働き方もありますので。職場の改革を期待される一方、東京から移住する人は、静岡県民の空気に合わせる気持ちも(お互いに相手を受容する意識と姿勢)あるといいですね。 |
面接ではポータブルスキルを売り込もう
もしかすると、東京の人にコンプレックスを感じている静岡の企業もあるかもしれない。東京から地方への移住者が面接を突破するためのポイントを尋ねた。
安藤 |
私も経営者ですが、お話を聞いて東京の人を採用する不安を感じてしまいました。 |
紅林さん |
そうですね。たとえば、大企業で大勢の部下を従えていた人だと、「こんな職歴がある人だと手に余る」と思われて、採用を見送られてしまうこともあると思います。 |
安藤 |
せっかく実力があるのにもったいないですね。では、東京の転職希望者はどんな方法で仕事を探し、面接に臨むのがよいでしょうか。 |
紅林さん |
よく、私たちは「テクニカルスキルより、ポータブルスキルを軸に考え、アピールしなさい」と伝えています。 |
安藤 |
すみません、初めて聞く単語です・・・ |
紅林さん |
テクニカルスキルとは、「プログラミング言語の知識」のように、特定の仕事でのみ使える専門技術です。
一方、ポータブルスキルは、「仕事を進める段取り」や「対人コミュニケーション能力」のように、どんな業界や職場でも活用できるスキルを言います。 |
安藤 |
なるほど。では、どのようにスキルをアピールするのがよいでしょうか? |
紅林さん |
仕事で出した結果ばかりを話すより、「仕事をどのように遂行してきたか」「その経験は転職後にどのように生かせるか」など、仕事の過程を伝えるほうがいいですね。
もちろん、仕事の結果を出すことは大切ですが、成功までの道のりにはさまざまなポータブルスキルが必要です。 |
安藤 |
なるほど。ポータブルスキルを軸に考えると仕事も見つけやすそうです。 |
紅林さん |
そうですね。職探しや採用面接のヒントになればと思います。 |
東京で働いていた人が地方移住をするとき、静岡で自分の職歴を活かした仕事を探すのは大変だ。そこで、「自分の経験はほかの職種に活かせるか」を考えると、職探しがうまくいく可能性が高くなるかもしれない。ぜひ、視点を変えて転職活動に臨んで欲しい。
なお、この取材撮影は静岡駅前会議室(静岡市葵区)にご協力いただいた。今回のようなインタビュー取材のほか、セミナーや会議の開催にも対応しているのでぜひ活用してほしい。