あの「大スターマイン!」はいったい誰が?
安倍川花火大会の名物アナウンサーに直撃!
「大スター! マ~イ~~ン!!」
音声が脳内再生された方は、もれなく安倍川花火大会に来たことがあるはずです。握手!
安倍川花火大会は、打ち上げ数1万5000発、来場者60万人という夏の一大イベント。静岡市の人口が70万人くらいなので、すさまじい人出ですよね。かくいう私も60万人のうちのひとりで、物心つくかつかないかのころから度々足を運んでいます。
そんな安倍川花火大会で、ひときわ目(耳?)を引くのが会場アナウンス。1度でも行ったことがある方には、この気持ちをわかっていただけることでしょう。ついつい一緒に口ずさんでしまうんです。
会場では、老若男女がアナウンスに合わせて「大スターマイン!(動画参照)」。これに慣れると、よその花火大会ではもう満足できません。
と、大スターマインについて熱く語りはしましたが、私が知っているのはスピーカー越しの声だけ。姿を見たことはなく、お名前もわかりません。私だけでなく、ほとんどの方がそうではないでしょうか。どんな方がやっているのか、非常に知りたい……!
というわけで、気になる「大スターマインの人」について、まずは安倍川花火大会本部にお電話して聞いてみました。
「大スターマイン」のアナウンスは誰が……?
画像提供:小澤花奈子
川名 |
突然すみません、安倍川花火大会のアナウンスをされている方についてお伺いしたいんですが……。 |
大会本部 |
ああ、岸さんね。アナウンスはいつも岸好子さんにお願いしてますよ。 |
川名 |
きし……よしこさん……! |
あっさりお名前がわかりました。
連絡先を教えていただいたのでお電話してみたところ、なんとご本人と直接お会いできることに! アイドルに会いに行くようで非常に緊張します。
今回は編集部の吉松さんに同行していただいたため、お留守番の山口さん(静岡市出身、同じく編集部)には地団太踏んでうらやましがられました。大スターマインの人、あらため岸さんに対する静岡市民の愛は深い。
ドキドキしながら当日を迎え、岸さんの事務所へ伺います。
「大スターマインの人」はひとりじゃない?
川名 |
(おおお、この方が……)こんにちは。今日はよろしくお願いいたします。 |
岸 |
岸です。よろしくお願いいたします。 |
岸好子
1988年から安倍川花火大会のアナウンスを担当。普段は各種イベントの司会やナレーション、ラジオのパーソナリティーを務めるほか、司会者とスタッフの育成にも携わる。
岸 |
今日は「安倍川花火大会のアナウンスについてお話を」って伺ってますけれど。 |
川名 |
はい、ぜひ! |
岸 |
じつは私ひとりでしているわけではないんですよ。私は声を出しているだけ。 |
川名 |
えっ? と、いいますと……。 |
岸 |
本部の桟敷席(さじきせき)の横に、トラックがあるのはご存じ? 私、いつも当日はそこにいて、4人のチームでアナウンスをしているんです。今日はチームのお兄さまたちもいらっしゃってますからね。 |
てっきり、放送席のような場所があって、岸さんひとりがアナウンスをされているのかと思っていました。アナウンスは例年、安倍川花火大会の実行委員の方と一緒に行っているんだそうです。
岸さんの計らいで、チームの方も交えてお話を聞かせていただくことになりました。
アナウンスチーム登場!
安倍川花火大会のアナウンスチームのみなさん。
上段左から、杉浦さんと藤田さん。岸さんの隣に座っているのが角皆(つのがい)さんです。
川名 |
あらためまして、今日はよろしくお願いいたします。チーム内ではどういった役割分担をされているんでしょうか? |
岸 |
声を出しているのは私なんですが、花火の点火だとか、アナウンスのタイミングだとかは、みんなこの方たちにやっていただいています。 |
角皆 |
花火大会が19時から21時までっていうのは動かせないんですよ。毎年花火の数も変わりますけど、とにかく2時間以内。1分単位でなく、秒単位でプログラムを組んで、進行をしなきゃならんわけですよね。だから私は、時計の針の動きで合図をして、岸さんにしゃべってもらうっていうことをしています。 |
杉浦 |
私と藤田さんは無線を使って、岸さんのアナウンスが入るいいタイミングを見計らって点火の合図を出すんです。時間に追われたからって急いで上げちゃうと、前に上がった花火の煙に隠れてきれいに見えなくなってしまうので。 |
角皆 |
打ち上げたら、OKだとかまだだとか、無線でふたりが言ってくれるので、また時計を見て岸さんに。 |
川名 |
時間の管理と進行を角皆さん、杉浦さん、藤田さんが担っているということだったんですね。 |
川名 |
みなさん、花火大会には長く携わってらっしゃるんですか? |
岸 |
角皆さんはもう50年くらい手伝ってらっしゃるのよね。藤田さんは何回目から? |
藤田 |
私は15~6年前からですね。最初は自転車置き場の係とか、下積みからですけど。 |
杉浦 |
私もそのくらいです。 |
川名 |
(プ、プロだ……) |
静岡市民として、静岡へ恩返しがしたい
会場内に設置される拡声器。ここから岸さんの声が会場全体に響きます。
川名 |
岸さんは1988年からアナウンスを務められているそうですが、きっかけはなんだったんでしょうか。 |
岸 |
私は、じつは東京の出身なんです。転勤で静岡へ来て5~6年のときかしら。祝賀会の司会をしていたら、出席されていた方から「あんた、安倍川の花火見たことある?」って声をかけられて。「呼んであげるからおいで」っておっしゃるものですから、「じゃあ」って歩いて行ったの。
そうしたら、目の前で花火がバンバン上がっていて。硝煙がパラパラパラ~って落ちてくるくらい。「へぇ~すごいですね。こんな近くではじめて見ました」なんて言ってたら、「岸さん、アナウンス聞いてる? 来年あんたがやるんだよ」ってプログラムを渡されて(笑)その翌年、本当にお声がかかったんです。そこからですね。 |
川名 |
岸さんに声をかけた方の行動力がすごい。 |
岸 |
お仕事の場でお声がけいただきましたけど、私としては、ずっとボランティアのつもりでさせていただいているんですよ。
というのも、私最初に「来年あなたがやるんだよ」って言われたときに、「あ、私、静岡市民として認められたんだ」って思ったんです。よそものでしたから。
日ごろ、ラジオとか結婚式の司会とかをさせていただいてますけれど、花火の司会をすることで市民の方に喜んでいただけるんなら、それが恩返しになるなって。 |
市民による手づくりの花火大会
川名 |
ちなみに実行委員のみなさんは、どうやって運営に携わるようになったんでしょうか? |
杉浦 |
私は、いまの町内に引っ越してきた途端に町内会長から「花火好き?」って言われてからそのまま。 |
藤田 |
「3年だけですよ」なんて言いながら20年続けてるような人ばかりですけどね(笑) |
川名 |
愛が深い! 苦労も多いと思いますが……。 |
岸 |
ほんと、みなさん責任感を持ってやってらしてすごいと思う。実行委員のみなさんっていうのは市民自体なんですよね。安倍川花火大会は、イベント屋さんが入っていません。商売がからむイベントじゃないんです。
花火の翌日は、夜明け前から河原のお掃除をされるんですよ。実行委員の方と、あと周辺の子ども会や老人会、地域の方とかが集まって。 |
川名 |
実行委員以外の方もたくさん参加されるんですね。 |
藤田 |
企業のボランティアさんたちも来ますね。何百人か集まって、花火のカスやゴミを拾ってきれいにしてから会場を市に返すんです。 |
岸 |
そういえば、去年から7時15分の静岡市のあいさつのところで黙とうを始めたんですけれど。それも新聞の投書欄に、「せっかく慰霊の花火大会なので、黙とうをしてはどうか」って声があったからなんです。市民の方のお声だったのですぐに取り入れて。 |
川名 |
あれは市民の方の提案だったんですか。 |
岸 |
すっかり花火がメインみたいになっちゃってますけど、もともとは慰霊のための祭典なんですよ。それを忘れないようにって。 |
1945年6月19日から20日にかけての静岡大空襲で、2000人以上の犠牲者が出ました。亡くなった方は、安倍川の河原で荼毘に付されたのだそうです。安倍川花火大会は犠牲になった方々の慰霊と戦後の復興のため、1953年から開催されるようになりました。
岸 |
14時から観応寺のご住職と、身延山の若い修行僧の方たちを招いて慰霊祭をしていますから、そちらもいらしてくださいね。 |
川名 |
市民が市民のために始めた催しだったんですね。ぜひ伺います。 |
大会パンフレットには、一つひとつの花火にスポンサー名とメッセージが掲載されています。
川名 |
市民主体といえば、個人でスポンサーになって花火を上げられるのも特徴的ですよね。 |
岸 |
「おじいちゃん見てる?」とかメッセージ付きでね。 |
角皆 |
県内では静岡だけなんですよ、読み上げて打ち上げるのは。 |
川名 |
たしかに1度市外のお祭りに行ったときは、ひたすら花火が打ち上げられていました。いつか自分もスポンサーになってみたいです。 |
「大スターマイン」の掛け声は花火屋さんへのエール
画像提供:小澤花奈子
川名 |
最後に、いちばん気になっていたことを……。「大スターマイン」のアナウンスが生まれた経緯をお聞きしてもよろしいでしょうか。 |
岸 |
最初は他愛もないことだったんですよ。大昔から花火が上がると「かぎや~」「たまや~」って言うじゃないですか。それでいまから20年くらい前かな、安倍川花火大会のアナウンスをしているときに「スターマイン」というのがはじめて出てきて。
「スターマインってなんですか?」と伺ったら、「連続打ち上げ花火のことで、きれいなんだよ」というふうに言われたんです。それで私、「みなさん、次は特別な花火が上がりますよ、楽しみにね~」ということを伝えたくって。
でも、急に「○○花火店~!」とも言えないじゃない。だから代わりに、花火屋さんにエールを送るようなつもりで「スターマイーン!」って。 |
川名 |
ほお~! |
岸 |
その年は、4つか5つくらい「スターマイン」があったので、全部言ってみたんですよ。ひとつだけじゃ不公平だし。それで、前回も言ったんだからって翌年も。
そうしたら、「あれはいいね」って唱和してくださるようになったみたい。みなさん、思い切り声を出すと気持ちがいいっておっしゃって、ストレスの発散にもなるんですって。じゃあ続けましょうって。 |
川名 |
そうだったんですか! もうあれを聞かなきゃ夏が始まりません。 |
岸 |
みなさん楽しみにしてくださってるのね。「安倍川花火大会で夏休みが始まる」って。 |
川名 |
それはもう! 今年も楽しみにしています。 |
今年の夏も安倍川で「大スターマイン!」
画像提供:小澤花奈子
まだ薄明るい19時ごろ、河原に座りながら岸さんのアナウンスを聞くと、「夏が来たんだなぁ~」と感じます。6号花火から始まって、静岡市のスターマインがあって……。
小さいころは家族と一緒に、大きくなったら友達や恋人と。そして大人になったら子どもを連れて。今年で64回を迎える花火大会には、市民の方のたくさんの思いがつまっています。
会場では、ぜひ岸さんたちアナウンスチームや、実行委員の方たち、ボランティアの方々にも思いをはせてみてくださいね。私も安倍川花火大会を支えてくださる方たちに感謝とエールを込めて、「大スターマイン」を叫んでこようと思います!
花火大会はいよいよ明後日。お時間のある方は、同会場で14時から執り行われる慰霊祭もあわせてどうぞ!
アイキャッチ画像提供:小澤花奈子
安倍川花火大会
日時:2017年7月29日(土)19:00~21:00(荒天順延)
会場:安倍川河川敷(安倍川橋上流)
電話番号:054-221-7199(安倍川花火大会本部)/ 0180-99-5873(実施可否の問い合わせ・当日のみ)