2017年映画ベスト3を振り返る!
「DVD発売が待てない!」【映画日和12月号】

  • posted.2017/12/18
  • 山口拓巳
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2017年映画ベスト3を振り返る! 「DVD発売が待てない!」【映画日和12月号】

映画好きのみなさん、お待たせしました。映画好きが映画好きに贈る「映画日和」12月号です。

静岡市唯一の単館系ミニシアター「静岡シネ・ギャラリー」副支配人の川口さん、海野さんと『ブレードランナー2049』を観たとき、あまりの音響のすごさに鳥肌立ちっぱなしだったmiteco編集部の山口が対談形式でお送りします。

これを読んで「映画が観たい!」と感じたら、その日が映画日和ですよ!

テーマ「2017年のベストはなんだ?」

2017年もいよいよ12月。いろいろとあった1年間を振り返りながら、新年へと向かう準備をする師走です。映画も今年1年でまた、名作・傑作がたくさんスクリーンに登場しました。これを振り返ろうというのが今月のテーマです。

今回はジャンルを問わず、「2017年日本公開の映画でよかった映画」を各担当者がベスト3形式で紹介。とくに1番については、細かく語ってもらおうというのが主旨です。

副支配人・海野さんの選ぶ2017年ベスト3

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海野

じゃあ、僕から紹介しますね。「DVDがくるまで待ちきれない!」という気持ちもあるなかで、「DVDでこそ見てみたい」といった部分も考えてみようかな、と。

3位:『ブレードランナー2049』

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海野

まずはこれ。『ブレードランナー2049』。SF「サイバーパンクの金字塔」続編ですね。
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山口

以前、紹介していただいた『不思議惑星キン・ザ・ザ』しかり、海野さんはSF好きですよね。
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海野

ガチガチのバトルものはそこまででもないんですが、SFとかファンタジーってバトルを取ると、テーマが「人間とはなにか?」みたいなビッグクエスチョンになるじゃないですか。

 

そういう作品が好きなんですよね。ブレードランナーは、まさにそういうテーマをSF映画に持ち込んだ傑作だったので、やっぱり続編は期待しました。

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川口

難しかったと思うんだよね。こんなに評価の高い映画だから前作を裏切っちゃいけないし、そのうえで超えていなくちゃならないという・・・。


そんな心配はなんのその。圧倒的リアリティと重厚感。

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海野

見事にそこを超えてきたところがすごかったですね。映像も音響も凝りに凝っているので、ハードな世界観も含めて何度も見返したいなあと思い3位です。

2位:『クボ/二本の弦の秘密』

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海野

2位は12月22日まで静岡シネ・ギャラリーでも公開をしている『クボ/二本の弦の秘密』です。これは、もうとにかく予告編を観てくれと。ぶったまげると思います。だってこれ、ストップモーションなんですよ
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山口

(予告編を観ながら)ええええぇ・・・!? 狂気の沙汰だ・・・。
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海野

まさに狂気ですよ(笑)でも、ストップモーションという概念そのものを見事に破壊してくれた傑作ですね。DVDであれば、なによりメイキングの特典が付いてくると思うので、そこをチェックしたいです。
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山口

たしかにこのメイキングは気になりますね。
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海野

さらに吹替も字幕もよいので、どちらも見てほしいです。もちろん間に合えば観に来ていただけても嬉しいですね(笑)

※ストップモーション:アニメーションの一種で、コマ撮り撮影によって1枚1枚の写真をつなぎ合わせる手法で作られた作品のこと。

1位:『パターソン』

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海野

それで1位なんですが・・・。これはジム・ジャームッシュ監督の最新作で、「なにも起こらない」の傑作です。

あらすじ:『パターソン』

 

ニュージャージー州パターソンに住む、バスの運転手の主人公パターソン。毎日、隣で寝ている妻にキスをして、いつものように支度をし、いつものように仕事をする。そんな生活の中で心に浮かぶ詩を、秘密のノートに書き留めていくのが日課だ。はたから見れば変化のない日常だが、毎日その姿は少しずつ違う。思いがけない出会いや人との交流を紡ぐ7日間の物語。

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山口

ジム・ジャームッシュといえば、『ストレンジャー・ザン・パラダイス』のイメージがありますね。あれも・・・。
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海野

「この町に行けば・・・、あの町に行けば・・・」といろいろなところへ行ってみるんだけど、やっぱりどこに行ったってなんか起こるわけじゃないし、ロケーションが違うだけで結局同じことをやってる(笑)

 

『パターソン』もまさにそんな映画。退屈な映画といえばそうかもしれないんですが、毎日のちょっとした変化とか、日々のうつろいの美しさに気づかされる作品です

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山口

ハマればこれはとてつもなく美しいものに見えてくる映画。
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海野

そうですね。そうじゃないと「平凡なバス運転手の日常を1週間見続ける」という苦行のような映画にはなっちゃうんですが・・・。ただ、個人的にはハマった作品でしたね。

 

『ストレンジャー・ザン・パラダイス』はもちろん『コーヒー&シガレッツ』のようなジム・ジャームッシュ監督の手法が濃縮された、集大成的な1本じゃないかと思います。

こちらは発売されたばかりのアメリカ版のブルーレイ。日本版は2018年3月7日発売予定です。

副支配人・川口さんの選ぶ2017年ベスト3

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山口

それでは次に川口さんお願いします。
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川口

最近は子供も大きくなってきたので、自分のための映画はなかなか・・・。『ブレードランナー2049』は観たかったなあ・・・。
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山口

お忙しいですものね・・・。
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川口

なので、静岡シネ・ギャラリーで流しているものはきちんと観ようと今年は努めていまして、そこから3本選定しました。

3位:『スイス・アーミー・マン』

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川口

1本目は11月に公開した『スイス・アーミー・マン』ですね。新鮮なんだけど、僕たちの青春時代にあったようなちょっと荒唐無稽な感じがよくって。
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海野

『マルコビッチの穴』とかミシェル・ゴンドリーに通ずるところがあるよね。
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川口

そうそう『ヒューマンネイチュア』とか、ああいうの(笑)まず設定で面白い、でもそれだけじゃなくそのあとの展開も面白い。アイデア勝負で終わらず、最後まで引っ張ってくれるような作品は久しぶりでハマりましたね


この荒唐無稽っぷり。でも、ストーリーの奥行きにも魅せられる

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川口

それと、普段映画を観ないような知り合いからも「あの、ダニエル・ラドクリフが死体のやつってまだやってる?」って聞かれて。単純に嬉しかったですね。

 

アート系の作品ってあんまり一般受けしないことが多いんですが、この作品は届いているんだなあと。実際にかなりのお客さんが観に来られたので、観てない方はぜひDVDで鑑賞してほしいですね。

2位:『マンチェスター・バイ・ザ・シー』

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川口

やっぱりこれは外せない。『マンチェスター・バイ・ザ・シー』ですね。
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山口

あれ? てっきりこれが1位にくるもんだと思っていました。
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川口

これはたしかに「いろいろな意味で年間1位だよな」ってのはあるんですけど、あえてですね(笑)


『グッド・ウィル・ハンティング』で共演している、マット・デイモンプロデュース、ケイシー・アフレック主演という点にも注目。

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川口

今年のアカデミー賞主演男優賞は『ラ・ラ・ランド』のライアン・ゴスリングでしょうと言われていたなかで、本作主演のケイシー・アフレックが受賞したのは衝撃でもあり、嬉しかったですね。

 

なにしろ配給前の段階からとにかく気になっていた1本だったし、試写会に行って「これは絶対に流したい」と強く感じた作品だったので

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海野

映画のテーマで「乗り越える」を扱うことは多いんですが、とくにこの作品はその部分を丁寧に描いていて、登場人物がすごく等身大なんですよね。映画のヒーローじゃない、普通の男がいかに自分に降りかかった悲劇と向き合うか。
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山口

これは泣きましたね。「感動作!」とかそういうのじゃなくって、とにかくよい時間をありがとうみたいな(笑)ローリングストーン誌が「傑作!」とひと言だけだったのにも観たあとには納得です。

すでにamazonビデオでは配信開始。2017年で絶対押さえておきたい1本なのでぜひ。

1位:『ありがとう、トニ・エルドマン』

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川口

そんな傑作『マンチェスター・バイ・ザ・シー』を差し置いて1位にしたいと思ったのが『ありがとう、ト二・エルドマン』です。2017年のアカデミー賞で外国語映画賞にノミネートされ、残念ながら受賞はならなかったんですが、もうとにかくじんわりとくる作品です。

※2017年のアカデミー賞外国語映画賞は『セールスマン』が受賞。

あらすじ:『ありがとう、トニ・エルドマン』

 

ルーマニアはブカレストのコンサルタント会社で働くイネスの父は大のいたずら好き。でも娘とうまくいってないのがひとつの悩み。たまに会っても仕事の話で、娘が楽しく暮らしているのか心配だ。ある日突然、彼女の職場に現れた父だったが、いったんはドイツに帰すことになりそうだった。ところが少しすると、「トニ・エルドマン」と名乗る変装をした父親が登場。いったい父はなにを考えているんだ・・・?

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川口

まずこの作品はべらぼうに長い(笑)映画館で観る分には「お金も払っちゃったし・・・」と頑張ってみるかもしれないけど、DVDなら途中から観ることもできるのでいいかな、と。
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山口

どんな話なんですか?
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川口

ひと言でいうと「こじらせ親子のこじらせムービー」なんですが(笑)お父さんはとにかくいたずらばっかりしちゃう。娘も娘で「なんだこの親父は」と怒ったりもするんだけど、これが120分間延々と・・・。


たしかにこの変装は変すぎる・・・。

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山口

結構間延びしちゃう印象ですね・・・。
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川口

そうなのよ(笑)人によってはやや飽きちゃうくらいかもしれないです。でも、そっから残りの40分。これは、もうすごいですよ。とにかく泣いて笑ってが同時にくる。感動が連続で押し寄せてきます。
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山口

120分粘ってからのいい映画。
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川口

もう、最高級の感動・多幸感が味わえますね。「愛は不毛じゃない」がキャッチコピーなんですが、まさにそれを噛みしめられる映画です。

DVDは2018年1月6日発売予定。これは気になる!

miteco編集部・山口の選ぶ2017年ベスト3

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山口

最後は僕ですが、本当に悩みましたね。とにかく今年もいい作品が多かったので・・・。ここまで被りなしなんで、ここまでに挙がっていないなかから選定します。

3位:『ラ・ラ・ランド』

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山口

やっぱり2017年の1本といえば、これは外しちゃいけないのかなと思いますね。アカデミー賞も『タイタニック』と同じノミネート数、実際に6部門受賞と、多くの人がベスト1に挙げてもおかしくないかなと。
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川口

これは観てて楽しかったねえ!
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山口

なにしろ悪いっていうところがほとんどない。ライアン・ゴスリングもエマ・ストーンも完ぺきだし。ミュージカル映画にありがちな「ちょっと薄っぺらい感じ」も全然なくて、ジーンとくる感動と楽しさが同居してる。


予告編だけでももう1回観たくなる!

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海野

デミアン・チャゼル監督は『セッション』からすごかったですからね。
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山口

それくらいの才能なんでしょうね。ストーリーも『セッション』を観ている人だと、こういうちょっとしたエグさがあるというか、アクの強い感じも含めて愛せる作品じゃないかなと。最初の渋滞のシーンで「これぞミュージカル」からああいう展開。もうすごくいいです。
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海野

じつはあの渋滞のシーンでの歌は、主人公ふたりの子ども時代に感じた「夢」が描かれているんですよね。見直すときはそんな歌詞にも注目してほしいです。

2位:『わたしは、ダニエル・ブレイク』

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山口

悩みますが2位は『わたしは、ダニエル・ブレイク』ですね。今年の映画のなかでもダントツに泣いたのはこれかもしれないです。「俺ってこんなに泣くっけ?」と思うくらい(笑)
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川口

(笑)でもいい映画ですよね。
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山口

ケン・ローチといえば、労働者階級とか社会的弱者を扱うというイメージが強かったので、とにかく暗いのかななんて思ったんですが、そんなことはなくて。昔かたぎの「おやじ」が、慣れない時代と闘いながら懸命に毎日を生きていくストーリーには純粋に胸を打たれました。

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川口

これぞ巨匠の作品ですね。
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山口

本当にそのとおりですね。「いい話」が観たいなら『わたしは、ダニエル・ブレイク』を推します。

1位:『gifted/ギフテッド』

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山口

今年はそれこそ前半からとてもいい作品に出会えたのですが、12月に入ってもう残り少ないところで出会えた傑作『gifted/ギフテッド』を。悩みに悩んだ1位です。
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海野

おお。それがきましたか。

あらすじ:『gifted/ギフテッド』

 

7歳の姪メアリーと片目の猫フレッドと静かに暮らす独身男性のフランク。ささやかでつつましい生活は、メアリーが秘めている天才的な才能によって変化が訪れるように。「普通に生きてほしい」と願うフランクと「持てる才能を活かすのがメアリーとっての幸せ」と譲らず、英才教育を勧める祖母エブリン。子供にとっての幸せとは一体なにか・・・?

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山口

もともと『(500)日のサマー』を観て、マーク・ウェブ監督は好きだなと感じていたんですが、一方でいわゆる感動名作を手掛けるような人ではないと思っていて。それこそDVDでサラっと観るような。
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海野

そのあとに『スパイダーマン』を撮っていて、久々にヒューマンドラマを撮ったなと思ったんですが、その手法は『(500)日のサマー』とは思いっきり違う。あの印象で観ると意外だったかもしれないですね。
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山口

そのギャップもあってやられちゃいましたね。こんな泣ける映画かと(笑)こうやっていうと、なんだか今年はやたら泣いているような気もしますが・・・。

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川口

僕はあのおばあちゃん。気持ちわかるし好きだったなあ。
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山口

僕もですね。考え方はすごく共感しますし、みんなそう思うよなそりゃと。だけど、主人公のクリス・エヴァンスが必至で姪っ子を守ろうとする姿に泣けてきちゃうんです。あの構図はずるい(笑)
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海野

映画では描き出されてはいないんですが、クリス・エヴァンスの子ども時代やお姉ちゃんの話、家主で管理人のオクタヴィア・スペンサーもあまりセリフは多くないんだけど、いろいろと考えさせられます。

 

マーク・ウェブのすごいところは、貧困層の話と繋がっているのにそういう部分が全く見えないというか、色彩がきれいな仕上げになっていますよね。人についてもダウナーな部分は見せつつ嫌味がない

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山口

みんな聖人君子じゃなくて、よい部分も悪い部分も描かれていて、ただの「天才と親」みたいな話ではなく丁寧に愛情が見える傑作ですね。

心温まる映画をどうぞ

いっきに冷え込みが強くなってきた今日この頃ですが、今回集まったのはほとんどがハートウォーミングなヒューマンドラマ。観れば思わず笑いがこぼれたり、泣けたりする名作揃いです。すでにDVDや配信が始まっているものもあれば、まだのものもありますが、気になる作品はぜひチェックしてみください。

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