浜松市に暮らすドードー鳥と人間の夫婦
「メノタ」に聞いたスコシフシギな世界たち

  • posted.2017/08/25
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浜松市に暮らすドードー鳥と人間の夫婦 「メノタ」に聞いたスコシフシギな世界たち

静岡を舞台にした漫画の代表といえば『ちびまる子ちゃん』。最近だと、アニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』の聖地が沼津にありますね。

地元や住み慣れた土地が登場する作品は、なんだか特別に思えるもの。キャラクターのセリフから垣間見えるちょっとした「あるある」に、親近感が湧いてしまうことは少なくありません。

そこでみなさんに、静岡県民であればきっと特別になる作品『奥さまはドードー鳥』をご紹介します。

『奥さまはドードー鳥』って?

menota_00©Menota/libre 2017

『奥さまはドードー鳥』の舞台は静岡県浜松市。ですが、作中では少し様子が異なっています。そのタイトルどおり、メインキャラクターである奥さんの「高橋ももね」は、現実には絶滅鳥類となっているドードー鳥。

じつは、この世界では人間と鳥がパートナー同士であることが当たり前です

だからといって、ファンタジーすぎないところがミソ(と、わたしは思っている)。夫・夏彦は平凡なサラリーマンで、夫婦ふたりの生活は果てない苦難や、壮大な冒険に追われるような波乱万丈なものではありません。

読んでいるうちに、「本当に浜松に住んでいるのでは?」と感じてしまうほど、セリフや世界観にリアリティがあるんです。

わたしがこの作品と出会ったのは、ツイッターがきっかけ。浜松市の大学に在学していたころ、著者である「メノタ」さんを見つけました。日々アップなさるイラストを追うようになり、はや2年……。今年の3月、ついに『奥さまはドードー鳥』の単行本が出版されたということで、お話を伺ってきました。

映画から影響を受けた「人間×人外」の作風

menota_01『奥さまはドードー鳥』著者、メノタさん

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馬場

今日はよろしくお願いします。さっそくですが、『奥さまはドードー鳥』が生まれたきっかけを教えていただけますか。
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メノタ

もともとは趣味で描いていたもので。わたしが人外モノが好きなので、普通のサラリーマンと、擬人化とかじゃないなにか動物をペアで描きたいなと思ったんです

 

最初は「高橋さんと妻」ってタイトルでツイッターにあげていたのを、去年の夏くらいに漫画を出したリブレさん(コンテンツ制作会社)からお声がけいただいて、単行本の形になりました。運がよかったです。

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馬場

なるほど。以前拝見したのですが、高橋夫妻が住んでいるのは浜松市だそうで。たぶん、わたしが通っていた大学のそばだと思うんですけど・・・。
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メノタ

あ、そうかもしれません。静岡文化芸術大学。あの近くに住んでいる設定です。
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馬場

やっぱり! あまりのピンポイントさにびっくりした記憶があるのですが、それってどうしてですか?
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メノタ

前まで浜松駅の南側にある砂山町に住んでいて、よく駅に遊びに行っていたんです。そのときのお散歩コースが、ちょうど文芸大くらいまでで。あそこ、ちょっと車が入ってきにくくて、ホームタウン的な魅力があるのがいいなあと。

menota_02©Menota/libre 2017

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馬場

あのふたりが浜松に住んでいること、作品を好きになったあとに知ったので嬉しかったです。ももねちゃんや夏彦さんの生活って、うまく言えないんですがピッタリ、ちょうどかわいくて。
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メノタ

わ、ありがたい。
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馬場

セリフ回しとかで、なにか気をつけていることってありますか。
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メノタ

それが、あんまり・・・(笑)でも夏彦さんは、言葉の節々に遠州弁を入れたいなあと思っていて。かと言って、あんまりディープなものになるとわたしも詳しくないので、たまに「だら」とか入れてみたり。遠州弁、すごくかわいくないですか。
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馬場

いいですよねえ、だら。方言やちょっとした「静岡あるある」が出てくるたびに親近感が湧くのですが、東京とか、都会を舞台にしなかったのはなぜでしょう?
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メノタ

わたしは関西の出身で、静岡に移ってから8年経つんですけど。東京のことはわからないので描けないんです(笑)それに、最初は趣味であげていただけだったので、身近な浜松にしようって。
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馬場

舞台が地方っていうリアルさと、人間と鳥の夫婦っていう設定のバランスが絶妙だと思います。メノタさんのほかの作品も、結構ファンタジーなお話が多い気が。『果ての星通信(青年・マルコが宇宙で働きながら、いろいろな星を巡るお話)』ですとか。

menota_03『果ての星通信』 画像提供:メノタ

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メノタ

SF好きなんです。宇宙法則とかが出てくるようなものじゃなくて、「スコシフシギ」、略してSF
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馬場

なるほど・・・! そういった不思議のエッセンスが利いた作品は、なにに影響を受けているんでしょう?
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メノタ

なんだろう。映画はすごく好きです。できたら映画みたいなお話を作りたいなあと思ってますね。わたしたちから見たらおかしいことでも、その世界ではそういうものとして受け入れられているような・・・すみません、まとまってなくて(笑)
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馬場

そんなことないです。メノタさんの作品を読んでいると、ぐっと気持ちが入り込んじゃうワケがわかりました。

『奥さまはドードー鳥』の裏設定

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馬場

あの、いまから少し、ただのファンとして聞きたかったことを伺ってもいいですか。
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メノタ

ありがとうございます。どうぞ(笑)
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馬場

いろんな創作キャラクターをお持ちだと思いますが、いちばんのお気に入りってどの方でしょう?
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メノタ

うーん、夏彦さん。最初は眼鏡をかけた、冴えないおじさんだったんですけど。どんどんと趣味が入っていって、あんなふうなくたびれたサラリーマンに。
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馬場

ああ~お気持ちわかります。じゃあ、『奥さまとドードー鳥』はほんとうにメノタさんのご趣味が詰まった作品なんですね。ももねちゃんは、練って練って出来上がったキャラでしょうか?
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メノタ

いえ、もうほんとうに落書きから。単行本を出すにあたって、『クロフネ』というWEBコミック誌で何話か連載をさせていただいたんですけど、そのときはデフォルメが進みすぎてボールみたいになっちゃって。「もうちょっとドードー鳥に戻しましょうか」って言われたくらい、描きやすいです。

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馬場

ボールのももねちゃん、想像しただけでたまらないです。この作品に関して、「話してないけどこんな裏設定ありますよ」みたいなのってありますか?
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メノタ

そういうのを考えるの好きで、たっくさんあります。たとえば、夏彦さんの会社は八幡町(浜松市中区)にあるとか
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馬場

リアル!
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メノタ

あとは、鳥と人間が一緒に暮らす世界なので、子育ての仕方も変わってくるじゃないですか。ももねの両親は飛べる小さめの鳥なんですけど、生まれたのは大きめの飛べない鳥で。
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馬場

たしか、ご両親はモズでしたよね。
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メノタ

そうです。そういう家庭のために、浜松の市役所には子育ての案内をしてくれる人が常にいて。人種を問わず、いろんな人間や鳥が乳母さんみたいに子供の面倒を見てくれるっていう設定もあります。それでももねは、ちっちゃいころ七面鳥の乳母さんと仲がよかったっていう。
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馬場

細かいですねえ。そういうことをお考えになりながらも、ドーンと作品に出すわけではなく。
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メノタ

ひとりで妄想したり、メモ代わりにツイートしてあとから「そういえばこんなこと言ったな!」って自分で思い出すくらいです(笑)

メノタさんの「好き」だけが詰まった作品

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馬場

こうしてお話を伺っていると、作品への愛が深いな~と思うのですが、メノタさんが絵を描かれるときのモチベーションってなんでしょう。
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メノタ

モチベーションって呼べるのかはわからないんですけど、新しいことをしようってときにアイデアがわーっと湧いてきます。そんなもったいぶったことじゃなくて、文具屋さんに入ってノートを1冊手に取るとか、新しいペンを買うと「このノートやペンで描きたいお話があるな。よし、描こう」って。
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馬場

めちゃくちゃ素敵ですね。そうしてできた作品をツイッターにあげられて、いまや5,000人以上のフォロワーさんがいらっしゃるわけですけど。読者の層は幅広いですか?
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メノタ

これまでは、女性のほうが圧倒的に多くて。でも『奥さまはドードー鳥』を描くようになって、ご夫婦で一緒に読んでくださっていると感想をいただいたり、鳥好きの男性に読んでもらえるようになったりしたのは嬉しかったですね。掛川の花鳥園でオフ会をしている方とか。

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馬場

生粋の鳥好きだ・・・。わたしも動物が好きなので『奥さまはドードー鳥』は読んでいて楽しいのですが、とくに疲れたときに読み返したくなるんですよね。作品を描くうえで、「誰かを癒せたらいいな」って考えることはありますか?
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メノタ

そういうお言葉をいただけるのはありがたいんですけど、わたしは本当に好きなように描き散らかしてるだけなので・・・(笑)言っていただけるのは意外だなって思います。
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馬場

(笑)今後も『奥さまはドードー鳥』のお話は続いていくご予定でしょうか?
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メノタ

そうですね、単行本の番外編的な感じでツイッターにあげていくつもりでいます。
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馬場

すごく楽しみです。じゃあ最後に、メノタさんとしての今後の展望を聞かせてください。
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メノタ

もう1冊、本を出版できたらいいなあと思います。けど、とりあえずは趣味の範囲で、お話をひとつ完結させるのが目標ですね。まだまだ漫画家って肩書きは恐れ多いんですが、今後お仕事で絵を描ける機会を増やせるようがんばります。

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メノタさんの言葉の端々から滲み出る、登場人物やそれぞれの舞台、設定への愛がみなさんにも伝わっていたらなによりです。「丸1日、部屋にこもって絵を描くだけの日が欲しい」というほど多忙な毎日のなかで、これほどゆるやかで幸せな日常を描けるのは、実際にももねちゃんと夏彦さんの生活を覗き見ていないと難しいような。

もしかするとふたりは本当に、浜松のとあるアパートの1室で暮らしているのかもしれませんね。

メノタさんの作品が気になった方は、ぜひTwitterpixiv『奥さまはドードー鳥』の単行本をチェックしてみてください。ドフー。

アイキャッチ画像(『奥さまはドードー鳥』単行本表紙):©Menota/libre 2017

静岡から魅力的なカルチャーを発信するヒト