紫陽花から始まったドライフラワー専門店
草花に埋もれる日本平の一軒家・ダーワ
洗濯機はおろか照明すらないわたしの部屋に、首をもたげたまま色もそのまま、濡れそぼったような湿りけだけをなくした紫陽花があります。
質素なワンルームを「雨風しのぐだけの場所」にしないでくれた、3輪のドライフラワーを購入したお店。日本平の山のなかにあるドライフラワーショップ「ダーワ」です。
「わたし車を持っていないからいけないわ」と目を伏せた女の子、好きな男の子を誘ってふたりで行きなね。
ダーワのあらまし
静岡市清水区、日本平に続く細い道を降りていくとその中腹、すこし小高くなった場所に立派な一軒家が建っています。
ドアを開けると、店内にみちみちと漂う花の甘いかおり。ダーワでは、「プリザーブドフラワー」※や着色・脱色といった加工は一切せず、自然な草花の美しさをそのままドライフラワーに落とし込んでいます。
季節によって面々は変わりますが、常時7,80種類ほどの草花が壁や天井を埋め尽くし、年間でいうとその品ぞろえは120を超えるそう。
※プリザーブドフラワー:生花を特殊な液体で脱水し、着色液に漬けて乾燥させる製法。
先ほど上がって来た階段も、庭に植えられた木も、テラスもオーナーの和田さんご自身が手がけました。そんな「ものづくり」に熱を注ぐ姿勢はドライフラワーにも反映されており、店舗に並ぶ60種類以上の草花は日本平と長野に持つご自身の畑で育てています。
立ち枯れの紫陽花を追いかけて
和田さんがドライフラワーの魅力に取りつかれたのは30年ほど前、立ち枯れの紫陽花を見て以来だと話します。脳裏に残るその画像を追いかけ、いま現在もっとも多く育てているのも紫陽花の株。
「それでも、なかなか自然には勝てない」と言いますが、オーナーの育てた草花は市場に並ばない珍しいものも多く、一輪いちりんにふしぎな引力があります。
取材に伺った12月中旬、店内にぶらさがるお花のうち畑で採れたものを見せてもらいました。
左からセファラリアギガンティア、クリスマスローズ、アメリカーナ。なかでも薄ピンクやむらさきの花びらに透き通る花脈の美しいクリスマスローズは、1月から収穫を開始しているため、いまが狙いめかもしれません。
ローナス、キャナリーグラス、アンモビウム。
ふわふわとしたのがラムズイヤー、とげとげはルリタマアザミです。
2月からはミモザ、4月には小麦の収穫を。5~9月まではとくに畑仕事に忙しく、夏場になると店内の8割が自家栽培の花々であふれるのだとか。
四季折々のバラエティ
「畑の収穫に追われない冬季は、店内もさみしくなるのか」というと、そんなことは全くなく。冬場になると、ちょうどいま夏を迎えている南半球から、面白い植物をたくさん仕入れます。
オーストラリアやニュージーランドが原産の輸入花たち。ワインボトルに1輪さしておくだけでさまになる、ずるいくらいの存在感です。
お花の価格は、500~800円がほとんど。30年間で値段を上げたものはたった数種類しかないと言います。
種から作ることで、収穫の労力はかかってもひと株咲けば、あとは増やしていくだけ。儲けより、ひとりでも多くの人にドライフラワーと親しんでもらうためだと話してくれました。
このほかダーワでは教室も開いており、5人の生徒さんがいれば5人違うものを作ります。別の家に帰って別の人へ贈るのに、同じものを作っても意味がないから。部屋のどこへ飾るのか、誰にプレゼントするのかを考えながら、一人ひとりが自由に花を束ねます。
教室の詳しいお問い合わせは、ダーワへお電話くださいね。
静岡県内でドライフラワーのみに特化したお店は、片手で足りるほどしかありません。とくに最近は若者からの需要も高まり、オーナーは市場へ飛んだり畑へ走ったりと忙しそうです。
「ぼくの生活すべてがドライフラワー中心なので、いまの暮らしが一番の幸せで。ほかにこれといった欲はほとんどありません。ずっと僕は、ドライフラワーのほうを向いていたんです」
なんて素敵な日本語でしょうね、すばらしい、すばらしい。わたしはこちらのお店へ来るたびに、車の助手席で、買ったドライフラワーをうっとり眺めて家まで帰ります。
花の色、葉の付き方、褪せ具合、どれをとってもひとつとして同じものはないのがドライフラワーです。お好みのものと出会えますように。あなただけの、一緒に暮らしたい1輪を探してみてください。