商店街の復活をかけた一か八かの作戦
富士山コスプレ世界大会の主催者に直撃!
静岡市清水区で育っているレイヤー文化。
発信地の清水駅前銀座商店街で、11/18(土)~11/19(日)の2日間にわたり「富士山コスプレ世界大会」が開催されました。
今年で5回目となった通称「富士コス」。地上波のニュースをはじめ、Yahoo!ニュースにも取り上げられるなど、全国的なコスプレイベントへと成長しています。
一昨年はコスプレイヤー1,400人と、33,000人にものぼる一般来場者が参加し、年々盛り上がりを加速させている様子。
富士コスってどんなイベント? なぜ清水駅前銀座商店街が会場に? さまざまな疑問を解消すべく、同商店街の理事長でイベントの実行委員長も務める伊東さんにお話を伺ってきました。
富士山コスプレ世界大会とは?
画像提供:富士山コスプレ世界大会実行委員会
ゆっけ | コスプレイベントは全国でさまざまなものがありますが、「富士コス」はどんなイベントなのか教えていただけますか? |
伊東 | コスプレイヤーによるランウェイパフォーマンスをはじめ、ステージパフォーマンス、人気コスプレイヤーのトークショー、撮影会、写真展、痛車展示、コスプレ体験などの二次元に特化したイベントです。
コスプレイベントのなかには一等賞を決めるものもありますが、富士コスでは誰が一番かを決めることはありません。 |
ゆっけ | そうなんですね。5回目となる今年は、新たなチャレンジもあったとか。 |
伊東 | 参加者の増加に伴ってエリアの拡大を図りました。エスパルスドリームフェリーとのコラボ企画で豪華帆船のオーシャンプリンセス号を貸し切って、船内&船上での撮影会を試みたり。 |
ゆっけ | 今年はゲストコスプレイヤーも豪華でしたね。 |
伊東 | 富士コスお馴染みの七海あくあさん、KANAME☆さんをはじめ、人気コスプレイヤーの麗華さんも登場していただきました。 |
実行委員長が語る開催までの道筋
画像提供:富士山コスプレ世界大会実行委員会
ゆっけ | いまでは「コスプレの聖地」とまで呼ばれるようになった清水駅前銀座商店街ですが、どんな経緯で富士山コスプレ世界大会が開催されるようになったんでしょうか? |
伊東 | ご縁で私は商店街の理事長を務めさせていただいておりますが、ご覧のとおり商店街はかつての賑わいを失い、シャッターも目立ち始めています。 |
ゆっけ | 商店街のシャッター通り化は全国的にも深刻な問題ですよね。 |
伊東 | はい、全国どこでも悩みは同じです。人口は減り、売上も右肩下がり・・・。よほどの動機がなければ商店街で買い物をしてくれる状態じゃなくなっています。 |
ゆっけ | たしかに。商店街でとくに若い人の姿はほとんど見られないです。 |
伊東 | 昔の清水駅前銀座商店街を知っていた人はかつての賑わいを忘れてしまっているし、いまの若い人はそもそも清水駅前銀座商店街を知りません。
知らない商店街に人は来ないので、「だったらまずは名前を売ろう」と。そう考えたとき、打開策には特殊で奇抜なものが必要だったんです。 |
ゆっけ | それでコスプレに。どんなキッカケだったんでしょうか? |
伊東 | 藤枝にある共立アイコムという会社が飛び込みでいらしたんですが、そこで新規採用した女性がたまたまコスプレイヤーだったらしく。
入社早々に彼女が企画したプレゼンが社内で採用され、依頼先となったのが我々清水駅前銀座商店街でした。 |
画像提供:富士山コスプレ世界大会実行委員会
ゆっけ | やはりレイヤーさんの存在があったんですね。伊東さんはすぐにコスプレに可能性を感じたのでしょうか。 |
伊東 | 当時はコスプレがなにかもよくわかりませんでした。ですが、素人目で見てもみなさんクオリティが高くカラフルだったので、こういう人たちが商店街に来たら年齢層が高い人だけでなく、若い人も来るんじゃないかと思いました。
あとコスプレイヤーは雨に弱いみたいで、屋根のあるアーケードや駅前という立地条件もいいようです。 |
ゆっけ | なるほど。 |
伊東 | それで「商店街が盛り上がるなら、一か八かやってみよう!」と、なんの確証もないままその年の12月に第1回を開催しました。 |
ゆっけ | 1回目から手応えはありましたか? |
伊東 | 正直イベント前夜は、本当にコスプレイヤーが来るのか心配で眠れませんでした。それでも当日は多くの方々が来場してくださって、安心しましたね。 |
コスプレで注目されるローカル商店街のこれから
画像提供:富士山コスプレ世界大会実行委員会
ゆっけ | コスプレという若者文化を通してローカル商店街を盛り上げた成功例だと思いますが、今後の商店街の展望を聞かせていただけますか? |
伊東 | 私が理事長に就任した当時、清水駅前銀座商店街には30店舗以上もの空き店舗がありましたが、いまでは減少傾向にあります。空き店舗が埋まってくれるのが商店街としては喜ばしいことなので、かつての賑わいを取り戻していきたいです。 |
ゆっけ | 素晴らしいですね。やはりコスプレの影響は大きいのでしょうか。 |
伊東 | 常設コスプレスタジオ「清水ノンタウン」ができたことで、富士コスなどのイベントがない日でもコスプレイヤーを見かけることが多くなってきました。コスプレによって、清水駅前銀座商店街が広い世代に認知されてきていると感じます。 |
ゆっけ | 僕自身も清水に住んでいるのですが、たしかにコスプレイヤーを見かける頻度が増えました。では、富士コスの展望については? |
伊東 | 昨今、コスプレイヤーの活動が活発化しており、自分の表現の場を求めている方が増加しています。静岡在住のコスプレイヤーを中心に表現の場を提供し、イベントを通して背中をポンッと押してあげたいんです。 |
ゆっけ | 静岡のコスプレイヤーにとって貴重な環境だと思います。近い将来、七海あくあさんのような静岡を代表するコスプレイヤーも多く輩出されそうですね。 |
伊東 | とくに静岡中部はシャイな方が多いので、富士コスのようにコスプレのハードルが多少低めの場を提供し、そこで場馴れしてもらいたいんですね。
そこからさらに横浜や東京の大きなイベントへ進出していただきたいので、ぜひ富士コスをステップアップの場所にしてもらえたらと思っています。 |
取材時に伊東さんに教えていただいた、七海あくあさんの言葉がとても印象的でした。
「コスプレイヤーはかつて引き篭もりだった方も多いんです。ところがこういう表現の場を与えられて、自己表現ができるようになり、自分ではない新しい自分になることで外に出られるようになってきました。コスプレがきっかけで元気になり、学校へ通えるようになったり、会社に行けるようになったり」
七海さんの言葉のとおり、誰しもが新しい自分になることができ、自由に表現を楽しめる。それがコスプレの最大の魅力だと思います。
ローカル商店街から発信されるパワー溢れるサブカルチャー。かつてのシャッター通りと若者文化とがどのように絡み合っていくのか、今後の動きも注目です。