「別れの季節に見たい映画」6選!
映画日和 ~3月号~
こんにちは、編集部の山口です。
みなさん映画は好きですか? 空いた時間をつぶしたり、デートで映画館を利用したりする人や、気になる監督さんや役者さんを追っかけたり、映画化された好きな原作ものを観に行ったりする人。じつにたくさんの楽しみ方が映画にはありますよね。
一方で年間に公開される映画は、日本だけでも1,000本※を超えています。そのうえ、DVDレンタルのお店に並んでいる映画も合わせればその数は無限といってもいいくらいですよね。「映画を観たいけど、どれを観たらよいのかわからない・・・」と感じてしまう方もいるかもしれません。
そんな迷えるみなさんに朗報!
今月から毎月「いま観ておきたい映画」を紹介する連載企画、その名も「映画日和」をスタート! この記事を読んで映画が観たくなったり、ふとしたときに映画館やレンタルショップの看板が気になったりしたら、その日が「映画日和ですよ!」って意味です。
この企画では、プレゼンテーターたちが月ごとのテーマに沿って、数本のタイトルを紹介しあう形式をとります。プレゼンテーターは、miteco編集部の山口と、静岡シネ・ギャラリー副支配人である川口さんと海野さんのお二方!
映画に対してDOPEなおふたりと、「雑談あり、ネタバレなしのおすすめ映画コラム」スタートです!
ちなみに「シネ・ギャラリーがわからない!」という方はこちらをチェックしてみてください。
「映画日和」今月のテーマは?
「映画日和」の今月のテーマは、
「別れの季節に観ておきたい映画」
です。
やっぱり3月はいろいろな別れが待っている季節ですから。でも、単純な「別れ」というと映画の場合には恋愛が絡んでしまうこともしばしば・・・。そこで、シネ・ギャラリーのおふたりには「恋愛が絡まないものも含めて選んでください!」と連絡済み。
さて、どんな映画が紹介されるんでしょうか・・・?
というわけでやってまいりました。静岡市は葵区伝馬町にある静岡シネ・ギャラリー。
育ての親との別れと新しい価値観との出会い|『サイダーハウス・ルール』
1999年『サイダーハウス・ルール』
監督:ラッセ・ハルストレム
海野 | この映画は、孤児院がひとつの大きな舞台になっている物語です。主人公のホーマーは、孤児院で育った子どもなんだけれども、結局もらわれずに大人になってしまった珍しい子として登場します。 |
山口 | あれ、別れられなかった・・・。 |
海野 | まあまあ(笑)それで、この孤児院を運営している方はお医者さんの「ラーチ先生」という人。孤児院の子どもたちの健康を管理するのはもちろんのこと、夜には読み聞かせをしたり、映画を見せたり・・・「お父さん」みたいな人なんです。 |
山口 | ほうほう。 |
海野 | で、じつはこのラーチ先生は、ただ子どもの面倒を見ているだけでなくて堕胎手術も請け負ってるんです。これは、無責任に捨てられ続ける孤児たちに胸を痛めていた彼なりの信念があっての行為なんですが、この物語の舞台になった時代のアメリカ(メイン州)はまだ堕胎が認められていなくて違法なものでした。 |
山口 | 主人公のホーマーは、どうかかわってくるのでしょう? |
海野 | ホーマーは孤児院にいる年数が長くて、孤児院の経営や手術の助手のようなこともやっていたんです。息子であり、助手であり、ラーチ先生とホーマーの絆はすごく硬い。でも、ホーマーにはラーチ先生の堕胎に対する考えだけは理解できなかった。 |
山口 | 理解するのは難しそうですね・・・。 |
海野 | その価値観の違いからの反発。さらに孤児院では自分よりも年下の子どもたちがもらわれていくのを見て憧れていたホーマーは、あるときラーチ先生に堕胎を依頼したカップルに頼んで、孤児院を離れることになります。 |
山口 | あ、「別れ」ですね。 |
海野 | そうです。小さいころからすべてを教わり、むしろラーチ先生の教え以外を知らないといってもいいホーマーがこの孤児院を大人になってから離れるというのは、一般的な親子の別れよりもはるかに大きな別れだと思うんですよね。 |
山口 | そうかもしれないですね・・・。彼の価値観のすべてが先生から教わったものと言えそう。 |
海野 | まさに。新しい日々で成長や発見の毎日に充実しているホーマーなんですが、あることがきっかけでラーチ先生の考えについて正面から悩まなければならない場面にでくわすんです。 |
山口 | それは・・・? |
海野 | 残念。ここからはネタバレなので、いえませんね(笑) |
山口 | ぐぬぬ。でも結構重そうな映画ですね・・・。 |
海野 | いや、全然そんなことなくて、この作品はむしろその別れのあとに出てくるリンゴ農園での生活がメイン。ここのリンゴ畑の風景や音楽は素晴らしくて。登場人物たちはそれぞれ心の弱さを抱えているんですが、いわゆる「悪人」は出てこないのもいいところだと思います。
重いテーマを扱う一方で青春の爽やかさも感じさせるいい作品ですね。 |
逃れられないと思っていた宿命に別れを告げる|『天使の分け前』
2012年『天使のわけまえ』
監督:ケン・ローチ
山口 | 次は川口さんに紹介いただきましょう。最初はなんという作品ですか? |
川口 | ケン・ローチという名監督の作品のひとつ『天使の分け前』ですね。この作品は比較的新しい作品で2012年ものなんですが、「あ、この人はまだハッピーな作品が作れるんだ」と感じた映画。 |
山口 | というと・・・? |
川口 | ケン・ローチは大好きな監督さんで初期から追っているんですけど、基本的に作品の登場人物は「イギリスの労働者階級」といった「社会的弱者」でほぼ統一されているんですね。で、その人間模様を描くのが本当に上手でリアリティもすごいと定評のある方なんです。
ただ、そういうテーマなので、どうしてもバッドエンド的な作品が多くて・・・。労働者階級の子どもたちが不幸で、親との死別をはじめとしてとにかく切ないんですね。 |
山口 | なんというか、こういうテーマの作品は、どうしてもバッドエンドに対して宿命染みたものを感じますね・・・。
今回は「別れ」がテーマですが、この作品はなにと別れるものなんでしょうか? |
川口 | で、そんなケン・ローチ監督がハッピーエンドを描いたのがこれ。別れでいえばズバリ「労働者階級として定められた運命との別れ」ですね。
この『天使の分け前』は、つい非行を繰り返してしまう社会的弱者である若者の「ロビー」が主人公。彼が奉仕活動の清掃員をしているときに、現場監督のおじさんに、ウィスキーのテイスティングをする会場へ連れて行ってもらうことが始まりになります。
そこで自分にはテイスティングに関する特別な才能があると気づくんですね。お酒利きの世界に入っていくことで、どうやったって逃れられないと思っていたいまの生活から「もしかしたら離れられるんじゃないか」、とウィスキーにのめりこんでいく、というお話しです。 |
山口 | あ、すごく面白そうなサクセスストーリーですね。これは気になる。 |
川口 | タイトルとの絡みも本当にいいところで・・・。ここはぜひ観て知ってほしいですね。 |
ある日突然訪れた両親との別れに姉弟は・・・?|『ルート225』
2006年『ルート225』
監督:中村義洋
海野 | では、次の私の番ですね。これは、邦画です。 |
山口 | お! じつはおふたりが紹介する映画ってこれまで全部、洋画だったんです。読者の方のなかには「洋画が専門の人なの?」という声があったり・・・。 |
海野 | いえいえ、そういうことではなかったんですが、たまたまですかね・・・。 |
山口 | すみません。話が逸れましたが、なんという作品でしょう? |
海野 | 『ルート225』という作品で、別れは「両親との別れ」ですね。 |
山口 | ・・・となると、死別ということですかね? |
海野 | いえ、それが全然違って。別の異次元に迷い込んでしまうっていう・・・。 |
山口 | SFものなんですね。 |
海野 | そうですね。でも、ほかの星に行っちゃうとかではなく、中学生のお姉ちゃんと弟のふたり姉弟がちょっと出かけて帰ってくると、家にいたはずのお母さんがいない。
でも、そこには作り立てのシチューがあって・・・。じつは「ほとんど一緒だけどちょっとだけ違う異次元」に迷い込んじゃったとわかってくるんです。 |
山口 | あ、『キン・ザ・ザ』とはまたちょっと違いますね(笑)それで戻る方法を探っていく、というわけですね。 |
海野 | はい(笑)ただ、もちろん映画のストーリーの根本には「元の世界に戻る方法を見つけようとする」ことがあります。でも、それ以上に突然両親がいなくなってしまった世界で、「姉弟がどうやって生きていくのか」という思春期の成長を描き出す映画なんですね。
とくにお姉ちゃん役を演じる多部未華子さんが本当に上手で。当時実際に中学生くらいの年齢だと思うんですが、「思春期の女の子」を見事に演じ切ってます。
弟の前では強がるんだけど、いざひとりになると・・・みたいな。そこから段々と成長していくことも含めて感動的ですね。 |
山口 | ちなみに、結局主人公のふたりは元の世界には戻れるんですか? |
海野 | それは言えません(笑) |
夫がこの世に存在しなくなる|『リリーのすべて』
2015年『リリーのすべて』
監督:トム・フーパ―
山口 | それではこれで最後の作品となりますね。川口さんですがなにを選びましたか? |
川口 | 最後だから、ベタに恋愛ものを・・・。でもちょっとひねくれた恋愛というか、ちょうどアカデミー賞の発表もあったので、『リリーのすべて』を紹介したいかなと。 |
山口 | あ! これはもう凄まじい映画ですね。かなり衝撃でした。 |
川口 | 観てるんですね。じゃあ、ご存じかとは思うのですが、紹介ということで説明を。 |
山口 | はい。お願いします! |
川口 | リリー・エルベというのは「世界で初めて性別適合手術を受けた男性」ですね。いまでいうところのニューハーフというか。
エディ・レッドメインが演じるリリー・エルベという名前は、女装をするようになってから名乗る名前でアイナー・ヴェルナーというのが本名なんですけど・・・。
で、じつは彼は既婚者で、夫婦はふたりとも画家をやっているんですね。それで、あるとき奥さんがアイナーに女装を頼んだうえでモデルになってもらうんですけど、ここで「あれ?」って思う。 |
山口 | 気づいちゃうんですよね。 |
川口 | あれ? 女装をしているとしっくりくるぞ、ってやつですね。しかも、そのまま外に出てみると男性にモテちゃう。
本当の自分は女性なんじゃないか、と確信を得るようになっていくと。で、「これは大丈夫なのか?」と思ってお医者さんにもかかってみるんですが・・・。 |
山口 | でも、時代が時代でなかなか理解が得られない。 |
川口 | そうですね。いまでこそですが、ふたりが生きた時代は1920年代で。どこの医者も精神疾患だと判断しちゃうんです。
でも、ある医師が性別不一致と判断するところから、性別適合手術へとつながっていくというのが大枠のストーリーですね。 |
山口 | この「別れ」は、不一致していた「性別への別れ」ということですかね? |
川口 | もちろんそれもそうなんですけど、僕個人としては、奥さんのゲルダに注目したいですね。というか、その視点から見るともうたまらないですよ。だって、夫であり愛した男性が女性になるという未曾有の体験をするんですから。
一言でいえば「旦那との別れ」ではあるんですけど、死別するとか離婚するとかって、ある意味過ぎ去っていくものですが、この映画では最後まで奥さんは旦那・・・。旦那だった女性と一緒にいるんですよね。 |
山口 | まさに究極の愛と友情ですよね。確かそんなキャッチコピーだった。 |
海野 | これは本当にすごいとしか言いようがないんですが。
ゲルダは、愛する夫の願いを叶えてあげたいと思うわけですけど、それは同時に自分の「夫」という男性がこの世に存在しなくなるということなんですよね。 |
山口 | ちょっと想像がつかないですが、そういうことですよね。 |
海野 | それで印象的だったのが、あるときゲルダが「アイナー」と呼んだら相手がいら立って「もう私はアイナーではなくリリーなんだ。アイナーはすでに存在しない」と怒られるんですけど・・・。
もう、この時点でどうあがいてもハッピーエンドは来ないし、そうしたのは奥さん自身なんですよね。 |
川口 | この映画で奥さんゲルダを演じるアリシア・ヴィキャンデルは、2016年のアカデミー賞で助演女優賞を受賞してます。まあ、でもそりゃ獲りますよっていう迫真の演技ですね。
正直、主演でもおかしくないくらい存在感のある役で、それくらい難しく、素晴らしい演技でした。
感情移入という意味では、やっぱりこのアリシアが演じるゲルダの目線から女性に観てほしいです。これは、観ていて涙が出てくるんじゃないかと思います。 |
故郷との別れとホームシックを克服する女の子|『ブルックリン』
2015年『ブルックリン』
監督:ジョン・クローリー
山口 | さて、これで3月分は終わりですね。 |
川口 | 山口さんにはなにかないんですか? |
山口 | あ・・・。じゃあ、1本だけ。
そうですねえ。おふたりほど詳しくはないんですが・・・。『ブルックリン』は感動しましたね。 |
川口 | 故郷との別れですか。 |
山口 | そうですね。アイルランドの女の子が親元を離れてニューヨークのブルックリンへと渡航するというストーリーに「あ、ホームシックとはこのことか」とすごく強く感じましたね。
そして、それを乗り越えていくエイリシュ(主人公)を演じるシアーシャ・ローナンも魅力的で。もちろんきれいな人なんですけど、華やかな感じでめちゃめちゃ美人! というのではなく「なんだか惹かれちゃう」人なんですよね。 |
海野 | シアーシャもそうですし、街並みもすごくきれいなんですよね。ブルックリンとアイルランドの差を演出するという意味での見せ方もすごく凝っててます。
はじめてのニューヨーク行きの渡航の船でのシーンと、アイルランドへ一度帰るときのエイリシュや乗客のファッション、色という細かい部分でもよい演出ですよね。音楽も素晴らしかった。 |
山口 | いまの時期には親元、故郷を離れるような学生さんや社会人の方も多いと思いますし、そういう方にこそ観てほしいな、って思いますね。ホームシックの解決方法ってこうなんだ、みたいな(笑)
確かこちらは2016年アカデミー賞にノミネートはあったんですけど、落としちゃったんですよね。 |
川口 | 惜しくも受賞なりませんでしたね。でも、素晴らしい作品だと僕も思います。 |
山口 | ありがとうございます。それでは、これも加えて5作品を紹介させてもらいますね!
本日はありがとうございました。 |
静岡シネ・ギャラリーで公開の作品も要チェック
いかがでしょうか? 今月も残すところあと少しですが、もし時間があれば新生活に入る前に気になる作品を観てみてください。こうしてみると、「別れ」といってもさまざま。自分の最近あった別れのことも思いつつ観てみると、より感動できるかもしれません。
さて、今回紹介した作品は全て過去のものですが、じつは静岡シネ・ギャラリーでは『天使の分け前』の監督、ケン・ローチの新作『わたしはダニエル・ブレイク』が4月29日(土)から公開です! もちろん、それ以外にも気になる映画がたくさん。WEBサイトも要チェックです!
予告編はこちら!
それでは4月号までお楽しみに!