日本武尊伝説に真っ向から対立!
焼津=八重津(大崩海岸)説ってなんだ!?
焼津は静岡市清水区草薙と並んで日本武尊伝説が残る地のひとつ。天叢雲剣で草を薙ぎ払い、火を付けて敵を滅ぼしたという神話が、焼津という地名の由来とされています。
しかし、そんな定説に異を唱える「焼津=八重津(大崩海岸)」説があることをご存じでしょうか。
これが焼津=八重津説だ!
静岡県民ならご存じかと思いますが、焼津市は「やいづ」と発音するのが一般的です。県外出身者の知人は、「やきつ」と言っていました。
静岡弁で「やーづ」と発音する人もいますが、地元住民のなかには「やえづ」と呼ぶ人もいるのだそうです。
じつは、「やえづ」という発音に注目し、『しずおか方言風土紀(静岡新聞社編)』内で「焼津=八重津(やえづ)説」を紹介したのが、静岡大学・山口幸洋教授。書籍内で、「八重津」という言葉が焼津の語源ではないかと持論を展開していました。
では、八重津とはどのような意味でしょうか?
書籍を読んでもピンと来ず、ネットで調べてもわからなかったので、自分で考えてみました。
日本語では、「八重:幾重にも折り重なる」「津=港、船着き場」という意味があります。「焼津=八重津」説を知るためには、焼津の海沿いを見てみるのが早いです。
複雑に入り組む大崩海岸
八重津を体現しているような複雑な海岸線といえば、“東海の親不知”として知られる焼津市の「大崩海岸」が当てはまります。
大崩海岸は、一部で「リアス式海岸のようだ」と呼ばれるほど、複雑に入り組んだ海岸線です(学術分類的には違うようです)。
だから、昔の人たちが焼津の海岸線を見て、八重津と呼んでも不思議ではない。これが、山口氏の提言する焼津=八重津説のルーツだと考えられます。
なお、2013年の台風以降、大崩海岸の道路(県道416号線)は通行止めの状態が続いています(2016年8月時点)。
古代の人たちが「やえづ」と呼び、恐れながらも親しんだ・・・かもしれない美しい断崖絶壁は、いまもなお私たちに自然の畏怖を与えています。
以上が焼津=八重津を根拠づける地形由来説です。
ロマンある港町、焼津
ちなみに、日本武尊と焼津は無関係ではないかとする説はほかにもあります。せっかくなのでご紹介しましょう。
説として、「栄える港=八重津」だと唱える人もいます。「八重=にぎわっている」「八重=映え・栄えがなまった言葉」など。いずれにしてもにぎわう港町だったから八重津で、焼津ではないか、という意見です。
あくまでも一般の方が考えたことらしいのですが、結論としての八重津という漢字は同じ。ただの偶然かもしれませんが、出来すぎているような気もしませんか?
今回は、焼津の地名説を3つお話ししました。
奈良時代にはすでに名前が付いていた地名なので、本当の由来を確かめる方法はありません。
しかし、日本武尊説が持つロマンや地形説の民俗学的な面白み、にぎわいを見せていた港町説など、どの説もワクワクしませんか?
こんなふうに、あなたがお住まいの町の地名を調べてみると、意外な事実に出会えるかもしれません。