「雨の日に観たくなる」映画5選!
映画日和 ~6月号~
静岡の「映画が好きだ!」というみなさん、こんにちは。普段は味わうことのできない、映像と音楽に没入する約2時間にどんなステキな出会いが待っているのか・・・。
でも、一方で「映画を観たいけど、どれを観たらいいのか・・・」と悩んでしまう方もいるはず。
じつは、国内だけでも1年で公開される映画は1,000本を超え、さらにDVDレンタルのお店やストリーミング配信のタイトルも考えれば、その数は無限といってもいいくらいですよね。
そんな数ある映画から、今日の1本を選べないあなたにお届けする「映画日和」。miteco編集部の山口と静岡市のミニシアター「静岡シネ・ギャラリー」の副支配人のおふたりで、毎月テーマごとにおすすめの映画を紹介します。
これを読んで、「映画が観たい!」と思ったらその日が映画日和です。
6月号のテーマ「雨の日にピッタリな映画」
6月も終わりに近づいていますが、まだ梅雨真っただ中。静岡も今月7日に梅雨入りしたと気象庁の発表がありました。もうすぐ、カンカン照りの夏が来るわけですけど、この時期はなにかとジトジト・ジメジメしていて、なかなか外出の機会もありませんよね・・・。
でも、そんなときにこそ観たくなるのが映画じゃないですか?
「あー。この雨じゃ今日は家でのんびり過ごそうかな」とか「映画館でのんびり過ごそう」とか思う週末も多いはず。というわけで、今月はそんな雨の日だからこそ観たい映画を、シネ・ギャラリーの副支配人の海野さんと川口さんにお願いしました。
山口 | では、今月もよろしくお願いします! |
川口 | よろしくお願いします。 |
海野 | よろしくお願いします。 |
さて、今回はどんな映画が紹介されるんでしょうか・・・?
雨と鎌倉とアジサイと梅雨どき邦画の鉄板『海街diary』
2015年『海街diary』監督:是枝裕和 |
山口 | では海野さんからお願いしましょうか。 |
海野 | はい。今回は、「雨の日にピッタリ」ということで、そこから「梅雨の時期といえばアジサイだよなー。アジサイといえば、鎌倉だなあ。鎌倉といえばこの映画は外せない!」という連想ゲーム的に『海街diary』ですね。 |
山口 | なるほど。アジサイ! 鎌倉! んでもって雨のシーン! まさに今回のテーマにうってつけな名作ですね。 |
海野 | この作品は、鎌倉を舞台に3姉妹と腹違いの妹である4人目の女の子が引っ越してくるところから、4人やその周りの人間模様を描いていくようなストーリーですね。梅雨の時期だけでなく1年を通して時間が流れるので、四季折々の鎌倉の美しい風景を楽しめるっていう意味では、そんなにどっぷり「雨」というわけではないんですが・・・。 |
山口 | 墓参りのシーンとかは、すごく印象的ですよね。 |
海野 | そうですね。やっぱり天気って映画のなかでは心情の描写に使われることが多くて、『海街diary』でもそうですね。綾瀬はるかさんが演じる長女「幸」と4姉妹の母親である大竹しのぶさんが演じる「都」が、一緒におばあちゃんの墓参りに行くところ。
あそこの雨って、ふたりの近付きそうでなかなか吐き出せない想いもあった、というのを表現していてとてもセンチメンタルなんですよね。そのうえアジサイが咲いてて・・・。墓参りのあとも、とにかくきれいですね。 |
山口 | 是枝監督の作品って、あんまり邦画を観ない方でも「あ、是枝さんなら」と思わせてくれる良作を連発してますよね。やっぱり僕もすごく感動しました。この前の『ナビィの恋』じゃないんですが、いわゆる「観光地の鎌倉」ではなくて、素朴でちょっと田舎なんだけど、趣があって景色が素晴らしい街だなあと。 |
海野 | そういう風景を切り取る才能というか、やっぱりいまの日本人のなかでも素晴らしい作品をつくる監督さんのひとりだと私も思いますね。 |
とにかくダウナーな映画なら『別離』
2011年『別離』監督:アスガル・ファルハーディー |
川口 | では、僕の番なんですが・・・。じつは僕にとって雨の季節は、とにかくジメジメ、ダウナーって感じで(笑)海野くんは「雨の綺麗な映画」を取り上げてますけど、僕は雨の描写とかは考えず、「雨の日にダウナーな自分だったらこれを観たいなあ」と思って選びました。 |
山口 | たしかに雨の日ってそれだけで憂鬱という方も多いですよね。 |
川口 | 1作品目はアスガル・ファルハーディーの『別離』です。これは本当にジメジメジメジメしてるやつで・・・(笑)
アスガル・ファルハーディーの作品は基本的に本当に緻密な物語で、あとで思い返そうと考えると「・・・すごい!」としか思い出せないくらい細かい。 |
海野 | これは僕も。とにかく入り組んでいるので・・・。 |
川口 | 『別離』は、イランの中流階級くらいの夫婦の話。奥さんのシミンは国から出たいと考えているんだけれど、義父はアルツハイマー病。主人公である夫ナデルはなかなか出るとは考えられないというところで、離婚話になって別居中。
とはいえ、ナデル自身も四六時中世話はできないので、ホームヘルパーのラジエーを雇った。というところがスタート。 |
山口 | もう、スタートからぐちゃぐちゃですね(笑)覚えきれない。 |
川口 | ある日、ラジエーがあろうことか介護する相手であるナデルのお父さんをベッドに縛り付けて出かけちゃうんです。しかもこれが原因で彼はベッドから転落して意識不明になっちゃうと。
それを帰宅して発見したナデルは、もうぶち切れちゃってラジエーを玄関から突きのけたら勢い余って彼女は階段から落ちちゃう。
すると、ラジエーはじつは妊娠していて、その日に流産したことがわかるんです。これでラジエーの夫が怒りナデルを相手に裁判を起こします。 |
山口 | ドロッドロの展開ですね(笑) |
川口 | もう、ほんとに(笑)この裁判の争点は「ナデルはラジエーの妊娠を事前に知っていたかどうか」に絞られるんですが・・・。
ここにナデルの娘が絡んでくるんです。彼女はある日「お父さんは事前にラジエーの妊娠を把握していた」と確信する。
しかし、これを裁判で証言すればお父さんの罪が確定するわけですから、証言台に立つかで葛藤していくと。 |
山口 | 娘はつらい・・・。 |
川口 | 今度は、そんなこんなで精神的にまいっていく娘を見かねた別居中のナデルの奥さんが「いや、もう示談にしなさいよ」と夫に話すわけですが、「示談にすれば罪を認めることになる」とナデルはかたくな。んで、夫婦仲はさらに冷え切る、と。 |
山口 | 観てるだけで暗くなりそうですね・・・。 |
川口 | でも、でもですよ。じつは裁判では被害者であるラジエーもまた隠し事をしていたんです。
・・・というわけで、もうみんながみんな嘘をついていて、それは保身というよりも「私が真実を言えば誰かが傷つく」みたいな構図で。
もう、ほんとうに観てる側も「うーん・・・」となってしまうやつですね。 |
山口 | うーん・・・。説明だけでもなりました(笑)
『別離』と聞いて、夫婦の別れの話かと思ったんですが、物語の核は裁判にあるんですね。 |
川口 | そうなんですが、ラストシーンでこのタイトルの意味がどういうことかというのも投げかけられますね。このラストがもうなんともジメジメしてて・・・。後味が悪い・・・。 |
山口 | 密なストーリーでこうモヤモヤっとした作品って不思議と惹かれちゃうんですよね。 |
川口 | それで、じつはこのアスガル・ファルハーディーの新作『セールスマン』がシネ・ギャラリーでも7月7日(金)まで公開中ですね。ちょうど梅雨真っただ中に(笑)
もう、これもジメジメしてて、後味の悪さたるや・・・。 |
山口 | 極上のサスペンスとドロドロが味わいたいならこれで決まりですね(笑) |
コメディタッチでいい映画を観るなら『ミッドナイト・イン・パリ』
2011年『ミッドナイト・イン・パリ』監督:ウディ・アレン |
山口 | この部屋もジメジメしてきましたが・・・。次は海野さんですね。 |
海野 | はい。そんなジメジメとはもう正反対といってもよいですね。『ミッドナイト・イン・パリ』です。ウディ・アレンの作品で、わりと最近ではありますかね。2012年日本公開です。 |
山口 | ウディ・アレン! もう、観なくちゃ! って感じなんですが、じつは『アニー・ホール』しか観たことのないにわかファンでして(笑) |
海野 | ウディ・アレンはいいですよ。もう、ニューヨークの生粋の映画人。西海岸系の陽気なアメリカ人というより、ちょっとどんよりした天気が似合う監督さんだなあ、と思うのですが、雨のシーンが多くてしかもとても美しいのが特徴なんですよね。
今回選んだ『ミッドナイト・イン・パリ』は、そんななかでもまさに雨についての会話から始まるという作品です。 |
山口 | うってつけですね。 |
海野 | 舞台はその名の通りパリで、主人公はそれこそ西海岸出身な感じのアメリカ人で映画脚本家であり小説処女作を執筆中のギル。
その婚約者のイネスと一緒にパリを訪れるんですが、このギルはパリが大好きな青年で、イネスはどっちかというとマリブで優雅に買い物したい女の子。
イネスに「想像してくれよ、この街を。1920年代にはフィッツジェラルド、ヘミングウェイ・・・名だたる小説家たちが雨に打たれて・・・」なんて言うと、イネスは「なんであんたのパリはいつも雨に打たれてるのよ!」って突っ込みがはいるようなカップルです(笑) |
山口 | 出だしから面白いですね(笑) |
海野 | やっぱり、テンポ感はすさまじくいいですね。
ある夜にギルがひとりで飲みながら街を歩いていると古めかしい車が止まって、「早く乗れ!」って言われてそのまま乗ると、まさに彼が理想として描いていた、20年代のパリのカフェに行き着いているんですね。
ピカソとかヘミングウェイもいて、彼らと楽しく話ができる。しかも、自分が悪戦苦闘している小説を偉人に「お、君のもなかなかいけるじゃない」みたいな感じで褒められる(笑) |
山口 | はは(笑) |
海野 | それで、毎晩のようにそのカフェを訪れているうちに「いま自分が生きている世界よりもこっちのほうが・・・」と思い始めたり、ピカソの愛人と結構いい感じになったりとかして・・・。
このなかで、雨のシーンが登場するんですけど、本当に素晴らしい描写ですね。 |
山口 | 俄然観たくなりましたね。 |
海野 | ウディ・アレンの作品はどれもそうなんですが、わりと短めのものが多くてかつ、そんなに考え込まないで観られる。
ささっとひと筆書きで描かれたような軽いタッチの映画を、こちらもサクサクっと観られるという意味でおすすめです。 |
とことんダウナーになれる『ロゼッタ』
1999年『ロゼッタ』監督:ダルデンヌ兄弟 |
山口 | 『ミッドナイト・イン・パリ』で盛り上がってから、次に川口さんなんですが・・・。 |
川口 | さらに落ち込む感じです(笑) |
山口 | もうとことんダウナーですね(笑)今回の『映画日和』はテンションがジェットコースターになりそう。 |
川口 | はい。もう落ちましょう。まず、これはリュック・ダルデンヌとジャン=ピエール・ダルデンヌ兄弟の作品です。もう、世界的な巨匠ですね。カンヌ映画祭の常連監督。 |
山口 | 名前は何度か観たことあったのはそれか。 |
川口 | 有名ですからね。日本ではなかなかあれですが。
『ロゼッタ』はこの兄弟がはじめてのパルム・ドール(カンヌ映画祭の最高賞)を獲得した作品で、世界観自体はケン・ローチ※にも似てますね。労働者階級の女性ロゼッタが働いていた工場をクビになるところから始まります。いきなりダウナーです。 |
山口 | うわって思いました(笑) |
川口 | もうね、梅雨ですからいいでしょうと(笑)というか、海野君はそんな陽気な映画ばかり選ぶのすごいね。ウディ・アレンみたいに雨の日も「ちょっとくらいなら傘をささないで歩こう」みたいな? |
海野 | そんなことないよ(笑)普通にダウナーなとこもあるけど、そちらがもう重いから、バランスとろうと思って選んだわけで、全然ありますよ。 |
川口 | あ、配慮してもらってたのか・・・。 |
※ケン・ローチについては『天使の分け前』『わたしはダニエル・ブレイク』を3月号で紹介しています。詳しくはこちらで。
山口 | まあ、そりゃ雨の日が続けば誰もが多少は気分が下降しますよね。『ロゼッタ』の見どころはどこでしょう? |
川口 | 工場を辞めたあとに、たまたま出会ったベルギーワッフルのお店で働く青年リケと出会って、そこで働けそうになるんだけど・・・いろいろあって人が足りてるという理由で断られちゃって、やっぱり働けない。それで、リケがロゼッタの住む場所に遊びに行ったとき、池に落ちちゃうんですよ。
その瞬間、「このまま彼が死んだら働けるんじゃ・・・」と思わず考える。でも、助けるんですけどね。こういう救いようのない希望とモラルみたいな話が何度も出てきて・・・。 |
山口 | これもまた観てるだけで暗くなりますね・・・。 |
川口 | とはいえ、これは多少の救いがあります。どこか、っていうのはネタバレだから言えないですが・・・。その点は『別離』とはちょっと違いますね。
あと、この作品は雨が降っているわけではないんですけど、住んでるトレーラーは、周りがいつもぬかるんでるんですよね。そういう「ぬかるみ」みたいのがすごくよく描写された名作だと思います。 |
雨も含めた色彩美にほれ込む『ムーンライズ・キングダム』
2012年『ムーンライズ・キングダム』監督:ウェス・アンダーソン |
山口 | では、ジェットコースターの〆に僕が紹介する作品なんですが、『ムーンライズ・キングダム』です。 |
川口 | はいはい。これは当館でも上映しましたね。 |
山口 | あ、そうだったんですね。じゃあ、よかった(笑)
選定理由はふたつあって、ひとつは「雨がストーリーの中心になってる作品」だからですね。小さな子供がボーイスカウトで訪れた島で、その島に住む女の子とプチ駆け落ちみたいのをする。
駆け落ちとはいえ、島なのでこの幼いふたりはサバイバルをするわけですけど、そこに台風が迫ってくるみたいなストーリーです。 |
川口 | とにかく色彩はすごいですよね。ウェス・アンダーソン。 |
山口 | そうですね。ボーイスカウトのキャンプもそうだし、ファッションや家の内装もきれいでほんとに魅力的。 |
海野 | もうひとつの理由は・・・? |
山口 | 僕は梅雨って週末に外出する気が起きなくなってくるんですよね。そういうときこそ「普段はあんまり見ないような映画を観よう」と思うなあと。
じつは『ムーンライズ・キングダム』のような作品ってあんまり観ないんです。いま、しゃべっててもなかなかうまく作品が説明できないというか・・・(笑) |
川口 | わかります(笑)これは、いい作品なんだけど説明が難しい。 |
海野 | ウェス・アンダーソンの作品は、子どものおもちゃ芝居みたいなんですよね。
彼の「おもちゃの箱庭で、どんなファンタジーが繰り広げられるのか」みたいな。だから、ストーリーもちょっと変というか・・・。 |
山口 | とてつもなくオシャレで、かつ絶妙にダサい。って感じですね(笑) |
川口 | ただ、だからつまらない、ってことじゃなくて。たとえば、もう豪華すぎるキャストをほんとにほいほい消費していったり・・・。そういう意味での完成度は素晴らしいですね。 |
海野 | ちなみに公開中の『マンチェスター・バイ・ザ・シー』には、『ムーンライズ・キングダム』のヒロインだったカーラ・ヘイワードが出演してますね。 |
雨の日にはのんびり映画、観てみませんか?
いかがでしたでしょうか? 梅雨も終盤ですが、まだ毎日傘を持って歩く季節です。「あんまり外出したくないなあ」と思ったら、映画館に足を運んでじっくり映画観賞したり、家で映画を観たりするのもおすすめです。
そんなときに観たい映画を紹介してもらいましたが、さまざまなバリエーションが楽しめそう。ダウナーからコメディまで、気になる作品があればぜひチェックを。
現在、静岡シネ・ギャラリーでは、アスガル・ファルハーディー『セールスマン』、そして今期もっとも傑作という呼び声も高い『マンチェスター・バイ・ザ・シー』が公開中です。こちらもお楽しみくださいね。
詳しい情報や他の上映作品情報については、シネ・ギャラリーのWEBサイトでご覧ください。
それでは7月号もお楽しみに!