五月病から店主の思い出の1枚まで
月刊ソネレコ【#3】
静岡県に生きる「音楽が友達」という人にきっかけを。今月もギリギリお届けできました「月刊ソネレコ」です!
浜松市の中心街でひっそりと佇む、いまや絶滅危惧種のリアルレコードショップ「sone records(ソーンレコーズ)」。
sone records(通称:ソネレコ)
静岡県浜松市の田町で営業するリアルレコ屋。国内外のインディー全般を中心に取り扱う。「これもあんの!?」「これはなんだ?」という発見が音楽好きの心をくすぐり続ける。
Twitter:@sone_records
店主のクワケンさんに、音楽で栄養をとっているらしい吉松が月ごとのテーマを提示し、そのテーマに沿って数枚ピックアップしてもらうこの連載。
音楽のまちとして知られる浜松から、国内外のインディーをメインに毎月発信しています!
「月刊ソネレコ」5月のテーマ発表
ソネレコの店主クワケンさん。
吉松 |
月刊ソネレコ、5月もやってまいりました。今日はですね――。 |
クワケン |
5月病だよね! |
吉松 |
先月ちらっと話しましたね! レギュラーの新入荷と5月病に合う音楽を。それとクワケンさんの思い出の1枚があれば、エピソードを添えつつ紹介してもらいたいなと。 |
クワケン |
うわあ、思い出の1枚か。ちょっと考えていいですか。 |
月刊ソネレコ【#3】
- 新入荷(2枚)
- 五月病(2枚)
- 店主の思い出の1枚(1枚)
それぞれの枚数はこのとおりです。「思い出の1枚」をぶっこんでみましたが、これ意外と誰にでもあるんですよね。クワケンさんはきっとディープな1枚をあげるはず・・・。それでは計5枚をピックアップしてもらいます!
新入荷「Twinkle Twinkles / CRUSH」
吉松 |
新入荷の1枚はなんでしょうか。楽しみですねえ。 |
クワケン |
1回目の連載で紹介したルビースパークスみたいな感じで、日本のバンド「トゥウィンクルトゥウィンクルズ」にしようかな。 |
吉松 |
名前はめちゃくちゃ見たことありますけど、ガールズバンドってこと以外は知らないですね。 |
クワケン |
すごいかわいいインディポップでね。大阪出身のナナちゃんを中心に始まったバンドで、昔は浜松に呼んだこともあったな。いまはメンバーチェンジして、ロンドンに移ってるみたいだけど。 |
「Twinkle Twinkles / CRUSH(税込1,620円)」。日本は大阪発の3ピースガールズロックバンド「Twinkle Twinkes」による7インチシングルです。可憐で浮遊感のあるセンチメンタルなボーカルを、爽やかに疾走するギターサウンドが運ぶジャングリーなインディポップ。レコードストアデイ※に発売予定でしたが、延期して2017年5月10日にリリース。DLコード付きです。
♪Twinkle Twinkles – 1:28
吉松 |
ガーリーでキュートなジャケットをしておりますねえ・・・。 |
クワケン |
このジャケットを裏切らない音をしてるでしょ・・・! |
吉松 |
まさに。ゆるいポップさと疾走感がグッドですね。 |
クワケン |
みんなこういうの嫌いじゃないと思うんだよね。甘酸っぱい感じで。 |
吉松 |
テンポもミドルで乗りやすい。 |
クワケン |
短い曲だけど途中で転調したりして凝ってるよね。一本調子でもないしさ。まあ、最近はインディポップがブームみたいになってるから・・・。「これぞインディポップ!」を紹介させてもらいました!(笑) |
※レコードストアデイ:毎年4月の第3土曜日に世界同時開催されるイベント。当日限定のレコードが世界中で販売される。クワケンさんによるとレコ屋が減少してきたなかで、「たまには地元の個人店に行こうぜ!」みたいなノリで始まったそう。
新入荷「V/A / TYPICAL GIRLS」
クワケン |
次は、悩んだけどこれかな。 |
吉松 |
目がチカチカするくらいのアヴァンギャルドなジャケットですね。 |
クワケン |
これはね、現行のガールズポストパンクバンドが収録されたコンピ。 |
吉松 |
あ、コンピなんですか。 |
クワケン |
そうそう。女の子のパンク代表のスリッツ※1っていうバンドがいるんだけど。彼女らの曲、『ティピカルガールズ』からコンピ名はとっててさ。 |
「V/A / TYPICAL GIRLS(税込2,581円)」。1970年代に起こったパンクムーヴメントに影響を受けた、現代のガールズポストパンクバンドのコンピアルバムです。2016年にリリースされた第1弾に続いて、2017年4月7日リリースされた第2弾。全16バンドを収録、LP+コード付き。
♪MIDNITE SNAXXX – no time to spend
クワケン |
この手の音が好きなら間違いないね。 |
吉松 |
僕、パンクはかなり疎いんですが、どんなバンドが集まってるんですか? |
クワケン |
俺が店を始めた2010年前後くらいのとき、インディ界隈でキーワードになっていたようなバンドメンバーがやってるメンツばっかり。バンド名を見ると「なんだ?」って思うかもしれないけど、言ってみれば豪華だね。 |
吉松 |
ポストパンクの入門編みたいな? |
クワケン |
わりとね。こっからパンク界隈のバンドを掘り下げられると思う。広がりを持てる1枚。 |
吉松 |
そういう1枚はリスナーとしてありがたいですねえ。 |
クワケン |
あと個人的な話をするとね、ボーイレーサー※2っていう90年代からやってるインディポップバンドがいて。そのフロントの夫婦がやってるレーベル「エモーショナルレスポンス」から出てるんだけどさ。俺が個人的にボーイレーサーが好きなんだよ。 |
吉松 |
ボーイレーサー。なんで好きなんですか? |
クワケン |
リリースしまくる名物バンドみたいな感じで。イケてるんだけど、第1線じゃない扱いをされてるんだよね。ボーカルのスチュアートとジェーンは味があるし、ちょっと泣きのメロディで最高なんだけど・・・。そんなふたりがやってるレーベルから出てるから、俺としてはグッときちゃうんだよ。 |
※The Slits(スリッツ):イギリスのガールズパンクロックバンド。1976年後半に結成。当時はパンクといえば男性のイメージで、女性のみの編成はかなり珍しかったそう。
※Boyracer(ボーイレーサー):イギリスのインディポップバンド。ノイジーでローファイなサウンドにアドレナリンが止まらない。
5月病「MAC DEMARCO / THIS OLD DOG」
吉松 |
続きまして5月病に合う音楽を――。 |
クワケン |
5月病ですね! 待ってました! とりあえず1枚目はマックデマルコかなと。 |
吉松 |
紹介文を見るとめちゃくちゃ有名みたいですけど、ちょっと知らないですね。 |
クワケン |
あ、ほんと? 10年代のインディなら、いまのところ一番ブレイクしたアーティストになるんじゃない? デマルコが履き潰したスニーカーがオークションですごい値段になるとか、わけのわからない現象が起きてるよ。 |
「MAC DEMARCO / THIS OLD DOG(税込3,661円)」。カナダ発のシンガーソングライター「MAC DEMARCO」による3枚目のフルアルバムです。アコースティックギターと柔らかい電子音、100%自然体のゆる~いボーカルにとにかく浸れるインディロック。2017年5月3日リリース、全13曲入り、レコ屋限定のレッドヴァイナルLP(赤色のレコード)+DLコード付き。
♪MAC DEMARCO – THIS OLD DOG
クワケン |
マックデマルコはね、あれだけ売れたのに一緒に鍋を囲めるような、近所の兄ちゃんみたいな風貌なんだけど。最初のシングルジャケットとか、風呂上がりのぶよぶよの身体を撮ったやつで、次は化粧してグラムロックみたいな感じだった。 |
吉松 |
この音楽性からは想像つかないですけど・・・(笑) |
クワケン |
世界中で大ブレイクしたのは、14年のアルバムのサラダデイズからだろうね。それでも一切変わんないんだよなあ。 |
吉松 |
音楽性が変わらない? |
クワケン |
そう。力の抜けた感じとか、メロディも鼻歌みたいだし。マイペースでやってるんだよね。奇跡の存在。 |
吉松 |
たしかに生気を吸い取られるくらい力が抜けてますね。そのゆるさが5月病にぴったりじゃないかってことですか。 |
クワケン |
いいんじゃないすかね。やる気のない午後とかさ、「今日はもう仕事いいや。デマルコ聴いてるよ俺は。すんません、有給で!」みたいな。 |
吉松 |
はっはっは(笑) |
クワケン |
5月病じゃないにしても、忙しいサラリーマンのみなさんね。天気のいい日はデマルコ聴いて、ビールを飲んでゆっくり過ごしましょうと。そういうことだね。 |
5月病「Soft Kill / Choke」
クワケン |
今度はねえ、ソフトキル。会社辞めたいって人に聴いてもらいたい。 |
吉松 |
あら、そこまでいっちゃいます。 |
クワケン |
マックデマルコがサボろうだったら、ソフトキルは歯を食いしばって頑張れと。 |
吉松 |
辞める後押しじゃなくて、もっと頑張れのほうでしたか(笑) |
「Soft Kill / Choke(税込3,337円)」。アメリカはポートランドを拠点に活動する「Soft Kill」のオリジナルフルアルバムです。深いリバーブのかかったメランコリックなサウンド、低音で淡々と歌い上げるボーカル、思わず身体が揺れるハンマービートが心地よいポストパンク。2016年4月11日リリース、LP+DLコード付き。
♪Soft Kill – Whirl
クワケン |
ダークな感じでビートはダンサブルだよね。ちょっとニューオーダー※1みたいな。 |
吉松 |
ニューオーダーめっちゃわかります。エイティーズ※2の雰囲気もありますね。ドラムの感じとか。 |
クワケン |
これはねえ、俺的にはすげえいい。泣きながら踊る感じ。たまらんなと。やる気をなくしたみなさんは、これを聴いてもう1回頑張れと(笑) |
吉松 |
(笑)押しつけがましい感じがないので、やる気ないときにはピッタリですね。 |
クワケン |
無駄に明るくないからね。かといって死にたくなるような暗さでもない。絶妙なラインをいってる。 |
吉松 |
精神安定剤としてはめちゃくちゃよさそう。 |
クワケン |
「外はいい天気だけど、俺の心は真っ暗だよ・・・」ってときに聴いてほしいですね。 |
※New Order(ニュー・オーダー):イギリスはマンチェスターを代表するニューウェイブバンド。カルト的な人気を誇る伝説のポストパンクバンド「Joy Division(ジョイ・ディヴィジョン)」が前身。
※80s(エイティーズ):ここでいうエイティーズは、1980年代にアメリカやイギリスを中心に流行ったポップミュージックのこと。シンセをはじめとしたデジタル楽器がよく使われた。「Wham!(ワム!)」「Culture Club(カルチャー・クラブ)」「Van Halen(ヴァン・ヘイレン)」などは日本人にも馴染み深い。
店主の思い出の1枚「Flying Saucer Attack / Distance」
吉松 |
思い出の1枚は考えつきそうですかね。 |
クワケン |
そうだねえ。思い出っていうほどではないし、これといったエピソードがあるわけじゃないんだけど・・・。 |
吉松 |
だけど? |
クワケン |
すごい好きなバンドで、フライングソーサーアタックにしようかな。シューゲイザーで語られたりするんだけど、もっとサイケとかアンビエントとか。本人たちは“ルーラルサイケデリア”って言ってた。田舎のサイケデリックみたいな意味でね。 |
「Flying Saucer Attack / Distance(税込3,089円)」。イギリスはブリストルを拠点に活動している「Flying Saucer Attack」が1994年にリリースした、シングルと未発表曲を編集したコンピアルバムのLPリイシュー版です。神秘的なホワイトノイズに響く甘く淡いメロディが揺れる、サイケデリックでアンビエントなシューゲイザー。全8曲入り、見開きジャケット+ライナーノート付き。
<♪Flying Saucer Attack – Soaring High
クワケン |
90年代のブリストルは、マッシブアタックとかポーティスヘッドとか、ヒップホップから派生したトリップホップが有名じゃない? その裏側のシーンにいたのがフライングソーサーアタックで。 |
吉松 |
裏側にこんなバンドがいたんですか。ブリストルといえば、トリップホップのイメージしか・・・。どこで知ったんですか? |
クワケン |
昔に目を通してた読めやしない海外の音楽雑誌だったかな。ニューリリース特集でそれぞれの作品に点数がつけられていたんだけど、フライングソーサーアタックはすごい高くて気になるなと。それで聴いてみたらめちゃくちゃよくてさ。 |
吉松 |
なにがよかったんですかね。 |
クワケン |
嫌味のないノイズで神秘的なところになるのかなあ。このアルバムとかギターノイズだけどアンビエントやドローンみたいな、いわゆる音響派っぽい曲もあるのね。そういうのってパッと聴いていいと思えるものではないじゃない。 |
吉松 |
そうですね。あんまり思えないですね。なにかきっかけがないと。 |
クワケン |
そのきっかけがこのバンドだった。アンビエントとかドローンの泥沼にハマった入口になった気がするんだよね。・・・やっべ、いいこと言い出してるな俺(笑) |
クワケン |
ちょっとよく言いすぎてるけどね。 |
吉松 |
いやいや、思い出の1枚ってそういうものだと思います。というか、僕はかなり好きですね。 |
クワケン |
でしょ! 夜の田舎道でね、車で走ってるときのBGMにしたりして。 |
吉松 |
音の雰囲気にはピッタリですねえ。 |
クワケン |
じつは俺は実際にしたことあるんだけど、「ルーラルサイケデリアってこういうことか!」って思ったね。うちの裏道(浜松市)は本当に田んぼしかなくて、そこでたまたま流してたときだった。もう本当に「こういうことか!」って。 |
吉松 |
これといったエピソードめっちゃあるじゃないですか・・・。 |
月刊ソネレコ【#3】はこれでおしまい。
5月も明日で終わりですが、あなたは5月病を引きずっていないでしょうか? もうマックデマルコでサボるよりも、ソフトキルで頑張ったほうがいいタイミングですかね。まあ、1日くらいならマックデマルコでも・・・。
ちなみに思い出の1枚のエピソードを、音楽好きの友達に聞くのはかなりおすすめです。その人の音楽ルーツから地元の話題まで出てくるんですよね。結構盛り上がります。
次は6月ですか。6月といえば梅雨なわけで、「雨」をテーマのひとつにしようかなと考えています。それではまた会いましょう!