街のスキマにできたシェア屋台「肴町Little」
むき出しの鉄骨屋根に集まる小さなお店たち
ゆりの木通りに面する、一見するとシャッターのおりた古ビル。ときが止まったようなこの建物のちょうど裏側に、今年2月うぶ声あげたばかりのお店があります。
「肴町Little」は、街中にぽっかりとあいた小さなスキマへ、するりと入り込んだ「シェア屋台」です。
屋台って、お祭りの? ううん、どちらかというと台湾やバンコクの屋台街みたいな。ええっ、それって、とってもおもしろそう。
ランチも「ちょっとお茶にする?」も乾杯も。浜松街中の新しい選択肢、肴町Littleをご紹介します。
肴町Littleのあらまし
浜松駅から徒歩10分。清水銀行の立体駐車場を北側にまわると、見落としてしまいそうなほどか細い路地のいりぐちに、小さな立て看板が出ています。
この奥で、赤い鉄骨をむき出しに、煌々としたネオンを掲げるのが肴町Little。
天井にめぐる骨組み屋根、無骨なレンガ造りのベンチ、ラフで飾り気のない3台の屋台。空き家のガレージ部分をリノベーションしたという店舗からは、施工前の建物の息づかいが聞こえてくるようです。
リノベーションを手掛けたのは、静岡文化芸術大学の卒業生ふたりで構成されるデザイン事務所「+tic(プラスチック)」。創造性・発展性を秘めた設計に、でっかいロマンを感じました。
施工前。悪い意味でなく、今の姿とさほど変わりません。クール。 写真提供:丸八不動産
さらに運営の丸八不動産は、築50年超のクリエイタービル「KAGIYAビル」、今年2月にオープンした田町の都市型ブリュワリー「OCTAGON BREWING」を企てた会社でもあります。
ちなみにKAGIYAビルはmitecoライターの男の子ふたりが取材済みです。
現在、肴町Littleに出店しているのは3つの個性豊かなお店たち。街のスキマの屋台村を、ちょっとのぞいてみます。
まぜそば・中華そば「sonogo no kakeru」
「sonogo no kakeru(ソノゴノカケル)」は、とんこつ魚介ベースがウリのラーメン屋さん。中区幸町の人気ラーメン店「麺喰いkakeru」閉店後、メニューに改良を加えた形で店主が再オープンさせたお店です。
季節に合わせてメニューを変えているとのことで、いまのおすすめを聞くと「辛いのが平気なら、『トン辛節のつけめん』ですね。でも本当に辛いので……。大丈夫ですか? 本当に、辛いです」とひかえめな笑顔。こわいけど気になる。
トン辛節のつけめん 900円
チュルチュルぷりりん、もっちりな太めの麺がつけ汁によく絡みます。そこに鶏と豚のダブルチャーシュー。しっとりとして分厚くて、それでいてあっさりと食べられました。「脂身の多いお肉は苦手」という方も、これならペロリのはずです。
そして、辛い。人より辛いものが得意なわたしも、めっちゃ、めっちゃ汗が出ました。
ただ辛いだけではなく、とんこつを20時間煮て仕込んだという無添加の特製スープは、しっかりと旨みも感じられます。このクオリティが屋台村でと考えると、ありがたすぎるな。
淡麗煮干し中華そば(冷) 800円
日によってはまだ汗ばむ時期、冷たいラーメンもいいですね。
メニューはどれも700~800円程度。さらに毎週火曜をメンズDAY、水曜日はレディースDAYと称して、それぞれ男性のお客さま大盛り無料・女性にはワンコインラーメンを販売しています。
「ラーメン大好き、でもひとりでお店に入るのは気が引ける」なんて女の子も通いやすい、ラフな雰囲気でした。
紅茶専門店「Southern Cross Jr.」
この日「sonogo no kakeru」と同時に出店なさっていた「Southern Cross Jr.(サザンクロスジュニア)」は、フレーバーティーを中心とした紅茶専門店。浜松市内で紅茶に特化したお店は少なく、実際に「やっと出会えた」と喜ぶ紅茶好きの方も多いと言います。
アイスミルクティー 380円
いただいたのはミルクティーのアイス。くせや渋みはなく、茶葉のコクが感じられます。まろやかなミルク感に豊かな香り、つい「おいしい」と口に出していました。最近始めた「タピオカミルクティー」も、すでに人気メニューになりつつあるとか。
そんなSouthern Cross Jr.の魅力は、「市内で数少ない紅茶のお店」であると同時に「国内でも珍しい茶葉を扱っている」ことにあります。
たとえば2017年に誕生した、日本発の紅茶ブランド「THE THIRDWAVE TEA」の茶葉。アジア産のリーフに矢車菊や金平糖をブレンドした、見た目にもかわいい紅茶をいただけます。これらを1杯から飲めるお店は、じつはSouthern Cross Jr.が日本唯一です。
さらに8月からスタートしたのは、最高級紅茶メーカー・ムレスナティーから「ライチフレーバー」「バニラ&ラズベリー」「ミント」の3種類。わたしは特にミントティーの、汗がすうっとひく清涼感に心を掴まれました。
なおこちらもsonogo no kakeru同様、水曜日のレディースDAYを実施中です。THE THIRDWAVE TEAのストレート(HOT・ICE)が200円に。「おいしい紅茶はそんじょそこらじゃ飲めないもの」となかば諦めていた、紅茶ラバーのみなさんへ朗報でした。
ワイン&点心「しょぼくれ夕日飯店」
写真提供:丸八不動産
sonogo no kakeru、Southern Cross Jr.のランチ営業は14:30で終了。太陽が沈むころ、肴町Littleのネオンにふたたび明かりがともります。
主に週末の夜、営業を行っているのが「しょぼくれ夕日飯店」。ナチュールワインと点心(中華料理のなかでも軽食)のお店です。
赤ワイン(グラス) 700円、よだれ鶏 380円 写真提供:丸八不動産
焼売 4個180円 写真提供:丸八不動産
ムム、謎の組み合わせ。この日の取材では伺えなかったのですが、これが「合う」らしいんです。
店頭に立つおふたりは飲食で働いてきた経験も豊富。お料理もワインもばつぐんにおいしいと聞いて、おなかが鳴りました。しかもメニューはどれも500円前後と、安すぎやしませんか。
中華そば・紅茶・ワイン・点心。それぞれに特化したお店がひとつ屋根のしたにぎゅっとおさまっているなんて、聞いたこともないけれど、楽しくないわけがないです。出店スケジュールはすこし不規則なので、事前のチェックをお忘れなく。
10月の出店スケジュールはこちら。 写真提供:丸八不動産
また出店者さんも募集中とのことでした。曜日や時間がずれるだけで、がらっと顔ぶれが変わるのもおもしろそうです。「小さくお店を始めてみたい」「本業の片手間に好きなことをやりたい」という方は、ぜひ問い合わせてみてくださいね。
店内のポップなウォールアートを手掛けたのは、イラストレーター・faceさん。 写真提供:丸八不動産
街でぽつぽつと目につくスキマ。そのうちひとつが、オレンジの光と、おいしそうな匂いと、笑い声で満たされていくのは、なんだかスキップしたいくらいに嬉しいことです。