川からあんみつ?珍喫茶店「どんぐり」
まるでアトラクションな沼津の謎を調査!
こんにちは、編集部の山口です。
じつは僕、最近とあるウワサを耳にしたんです。
「沼津に意味のわからない喫茶店がある」
という話。「意味のわからない喫茶店」って、これ自体がわりと理解できないのですが、どうやら珍スポットのようで、沼津市民に聞けば「あー、はいはい。あそこね」と反応されるほど知られたお店らしいです。
・・・気になる。
まずはmitecoライターであり、沼津市出身のともちゃんに話を聞いてみます。
山口 | 最近、「沼津に意味のわからない喫茶店がある」って話を聞いたんだけど・・・。 |
とも | あーはいはい。あんみつがおいしい「どんぐり」ですね! |
山口 | どんぐりっていう店名なんだ。そこ、今度行ってみたいんだけど案内お願いできる? |
とも | 全然オーケーですよ! 駅から近いんで、沼津駅で会いましょう。 |
「意味のわからない喫茶店」から「駅の近くであんみつを販売している店『どんぐり』」へとだいぶ具体性を帯びてきました。でも結局、肝心の「意味のわからない」がわかりません。
沼津の珍スポット「どんぐり」にいざ
はい。沼津駅に来ました。
今日「どんぐり」に案内してくれる、ともちゃんです。
とも
mitecoライターもしている大学3年生。沼津市には高校卒業まで暮らしていた。猫好き。
山口 | 今日はよろしくお願いします! |
とも | ようこそ沼津へ。じゃあ、さっそく行きましょうか。 |
山口 | ちなみにどんぐりに関する事前情報で、「沼津に住んでいる女子校生だったら一度は行ったことあるお店」って話があったんだけど、ともちゃんも行ってたの? |
とも | 行ってましたね。習い事をしている場所がここから近かったので、その帰りとかに寄ってました。 |
どんぐりは、沼津駅から徒歩10分程度の距離にあるらしい。沼津駅南口から中心街のひとつ「仲見世商店街」に入って、少し歩いた角を右。
曲がるとすぐに出てくるのがこの看板。
まさしく今日の目的地「どんぐり」です。黄色い看板にはたしかに「あんみつ」の文字。
「意味がわからないあんみつ屋」と聞いていたので、「見た目が突飛な純喫茶とかかな」と思っていたんですが・・・
これ、どう見たって定食屋ですよね。
駅ビルの最上階とかにありそう。いたって普通のお店じゃないか。
山口 | 思ったより普通のお店・・・? |
とも | いやいや、まあ、とりあえず入ってみましょう。 |
山口 | つっても、なんの変哲もない定食屋じゃ・・・。(ガラガラ) |
・・・!?
「意味がわからない」の意味がわかる
お店に入ってすぐ目に飛び込んできたのは、回転寿司店のようなカウンター形式のテーブルと椅子。そして、回転寿司ならお寿司が乗ってクルクル回っているはずの場所に・・・
川・・・?
そんでもって「三島」「沼津」。
まったくもって意味がわからない。
でも店内の雰囲気はめっちゃいい。まさに純喫茶の佇まいで、照明や周囲に貼られたポスターに流れる音楽は歌謡ポップス。レベッカの『フレンズ』が大音量でかかる店内は、いるだけで昭和にタイムスリップした気分になります。
ただし! この川の存在感が半端じゃないので、もうそっちにしか目がいきません。
とも | ふふふ。びっくりしますよね。 |
山口 | びっくりというか、もはや混乱してる。初めてモンハンをやったとき、ドドブランゴにくしゃぼこにされたのと同じ気分。 |
山口 | んん? |
山口 | えええええ!? なんか流れてきたよ!? なにこれ。桶!? |
桶が流れてきました。中身は空。ウワサの「意味がわからない」がなんとなくわかってきました。これは理解不能。
画期的な「どんぐり」の注文システム
とも | はいはい! まずは食券を買いましょう! |
山口 | あ、ここ食券制なんだ。思ったより近代的。 |
食券は入り口左。よく見るアレです。
食券を購入したら空いている席に座ります。地名が席名になっているようなので、今回はとりあえず「沼津」を選びました。普通ならここで店員さんが来たり、呼出ボタンを押したりするわけですが・・・
どんぐりでは桶を捕まえます。
捕まえたら、席名の書いてあるプレートに食券を挟んで乗せる。そんで桶を川に返す。
・・・そこはかとなくシュール。
ここまでお店の方とのコミュニケーションはなし。昭和レトロ感満載の店内に搭載された注文システムは、回転寿司やファーストフードのドライブスルーをしのぐ無人システム。桶と川で圧倒的な近代化が図られてました。
食券を桶で送ってからは、のんびり待ちます。桶が定期的に流れてくるのでぼんやり川を眺めているだけでもいい暇つぶし。
カウンターの上には『東海道五十三次』が貼られています。
そして、気づきました。席名は東海道五十三次でもおなじみ、江戸時代の宿場町だった地名が並んでる。
流れてきた「あんみつ」
・・・待つこと数分。
流れてきたー!
ひ、光ったー!
川を流れる桶で注文したら、注文した品が桶に乗って運ばれてきました。これは、わかる。ただまさか、席名が光るとは・・・。
これで注文が来たことを知らせるわけですね。なにはともあれ、あんみつゲット。
とも | こんな感じです! 面白いですよね。 |
とも | いただきます! |
とも | うーん。あまい。おいしい。 |
山口 | いやあ、面白い。そんでかわいい。 |
というわけで、沼津市「どんぐり」は、注文からメニューの受け取りまでを店内を流れる川と桶でおこなわれる「流れあんみつ屋さん」でした。
ちなみにあんみつは甘さはあるものの、全体的にしっとりした感じでまったくしつこくない。甘いものがあまり得意でない人でもペロリと食べられそうなくらい、あっさりいけちゃう逸品でした。
でもどうしてこんなお店に?「どんぐり」誕生の秘密
さて、たしかにどんぐりがアトラクション的にも楽しめる喫茶店で、珍スポットだということはわかりました。こんな形式のお店は初めてです。
しかしもしかしたら僕が知らないだけで、じつは沼津では一般的な喫茶店のスタイルなのかもしれない・・・。
山口 | ともちゃん。こういうスタイルのお店って沼津だと普通なの? |
とも | まさか(笑)どんぐり以外では見たことないです。 |
山口 | だよね(笑) |
どうしてこういうお店ができたのか気になりすぎる・・・。
というわけで、どんぐりのご主人に直撃。お店のできたきっかけやカウンターについてお伺いします。
山口 | どんぐりはいつごろからあるんでしょう? |
ご主人 | 41年前からだね。昭和51年。 |
山口 | (生まれてない)当時から内装は変わっていないんですか? |
ご主人 | 変わってないねえ。リバーカウンターも開店のときから。 |
山口 | リバーカウンターって、真ん中の川のことですか? これも開店当初から!? |
ご主人 | そう。それまでは魚屋をやってたんだけど・・・・。 |
山口 | 魚屋さん!? |
写真中央がもともと家族で営んでいた魚屋さんらしいです。
ご主人 | そうなんだよ。自分の代になって「なにか面白いことをやりたいな」と。それで知り合いから「大宮にこういう(リバーカウンター)喫茶店がある」って教えてもらったの。
実際に見に行ってみたら「あーこれは面白いな」と。お店の人に話して、のれん分けみたいな形でここに開店したのよ。 |
よく見てみると、ご主人の恰好は白い服、前掛け、ゴム長靴と魚屋さんのそれ。ルーツがわかって納得です。
話を伺ってわかったのは、「リバーカウンター」という正式名称を持つこの配膳システム。じつは回転寿司よりも前に考案された仕組みとのことです。それを魚屋さんのご主人が見つけて、沼津の地へ持ち帰りました。
リバーカウンターを作っている会社はずいぶん前に倒産してしまったみたいで、いまやこのシステムでお店を運営しているのは、日本を見渡しても元祖といわれる大宮の喫茶店「田むら」と「どんぐり」くらいとのこと。
ただの珍スポットじゃなくて、日本の飲食店の歴史すらも感じさせるお店でした・・・。
お店のジュークボックスも当時からずっとある
山口 | ちなみにお店に入るとまずリバーカウンターに気を取られがちですが、店内の雰囲気もいいですよね。BGMも昭和歌謡とかで、自分が子供のころに親の車で流れていたのを思い出します。 |
ご主人 | いまの人たちだとジュークボックスも珍しいでしょ? これまだ動くんですよ。 |
店内左手に置いてあるジュークボックスは、なんといまだに現役。
山口 | 動くんですか! ほとんど見たことなかったんですが、現役ともなると初めてかもしれない・・・。 |
ご主人 | 開店したときから置いてあって、いっとき使わなくなったんだ。ほら、CDの時代になっちゃったでしょ?
だからLPがなかなか見つからない。それで20年くらい放置していたんだけど、ここ最近また動かすようになったんだ。 |
山口 | そんなに長いこと動かしてなかったら止まってしまいそうですが・・・。 |
ご主人 | そうなのよ。やっぱり壊れちゃってて。
でもね。あるとき、若い子がジュークボックスのまわりできょろきょろとコインを入れるところを探してて。「あー聞きたいんだ」と気づいたんだよね。
最近の若い子たちはやっぱりこういう機械を見ることはないし、お店の雰囲気も「レトロだ!」って喜んでくれるもんだから、じゃあ直してあげなきゃって。東京の業者さんにお願いして直したの。 |
山口 | すごい! やっぱり僕もこういうレトロな機械には惹かれますもん。 |
ご主人 | わたしもね、ジュークボックスとかLPとか好きだからさ。直ったのが嬉しくて、神田※まで行ってレコード探してたくさん買ってきてさ。周りにもポスターとかジャケットとか貼り付けたらそれがまた受けちゃって(笑)
昔流行したものが、それを知らない世代に受け入れられて、好きになってくれるというのはいいね。 |
※神田:東京都千代田区神田。古書店が多く立ち並ぶ街という印象の強い神保町は老舗レコードショップのメッカとしても知られる。
取材後、楽しそうにジュークボックスを操作して音楽を流したともちゃん。選曲は『ワインレッドの心』。渋い。
お店を構えて41年間、沼津市の街中で、知る人ぞ知る珍スポットとして営業をしていたどんぐり。
かつて若者であふれ返っていた時代、放課後16:00過ぎになるとリバーカウンターは女子校生で埋まったといいます。男子が入るのはなんだかはばかられる、そんな雰囲気すらあったというんだからすごい。
そこから女子校生の姿はまばらとなったものの、土日になれば家族連れでにぎわうというのがいまのどんぐりです。なかには3世代でどんぐりへ足を運んでいるご家庭もあるんだとか。
物珍しいお店というだけでなく、沼津になくてはならないもののひとつとして機能しているのだと気づきます。
たしかにこんなに昭和レトロ感満載のお店、そうそう見つかるものじゃないでしょう。
リバーカウンターを楽しみながら、ジュークボックスで古く懐かしいヒットソングを流しながら、40年以上続くあんみつを食べられるのはここだけ。
とっておきの時間を過ごせる・・・かもしれません。