まるで運命?“なにか”に呼ばれた小劇場
「あそviva!劇場」主宰あまるが感じるロマン

  • posted.2017/12/04
  • 吉松京介
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まるで運命?“なにか”に呼ばれた小劇場 「あそviva!劇場」主宰あまるが感じるロマン

静岡市葵区七間町の始まりともいえる芝居小屋の歴史。その流れを現代に受け継ぐかのように2015年、七間町の隣町に「あそviva!劇場」が生まれました。

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GOTOビル2階にあそviva!劇場があります。

あそviva!劇場は人宿町に構える、いまや静岡街中で数少ない小劇場のあるBAR。地元はもちろん全国からパフォーマーが集まり、定期的な公演を実施しています。そして主宰は、業界では知る人ぞ知る大道芸人あまるさん。

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画像提供:あまる

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あまる

岩手県北上市出身、育ちは群馬県。芸歴18年の大道芸人。あそviva!劇場主宰。NPOしずおか大道芸のまちをつくる会代表(2005年~2007年、2011年~2013年)。本名は餘目哲(アマルメサトシ)。

あまるさんは、あそviva!劇場の運営と平行して、七間町通りで「劇街ジャンクション」を年に数回開催中。「劇場が街にはみ出す」をテーマに、アーティストがパフォーマンスを繰り広げるアートイベントです。

七間町に新しい風が吹いていると、何度も伝えてきたこの七間町特集。ひとつの風を吹かせているのは、あそviva!劇場、そしてあまるさんかもしれない。

あそviva!劇場をスタートさせた経緯から、七間町の「原点回帰」を目指しているようにも見える、その活動に迫ってみます。

あそviva!劇場の意外な誕生秘話

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あらためて大道芸人のあまるさん。あそviva!劇場にお邪魔しました。

asoviva_face_02吉松 2015年に「あそviva!劇場」が誕生したとのことですが、七間町のすぐそばでスタートさせたのはやはり理由があったんでしょうか?
asoviva_face_01あまる いや、最初は町のことを考えたうえでのスタートではなかったんです。そもそもは静岡浅間神社で毎年開催されている春の例大祭「廿日会祭(はつかえさい)」がきっかけで。
asoviva_face_02吉松 そうだったんですか。どういう流れがあったんですか?
asoviva_face_01あまる 例大祭では大道芸の興行を任せてもらって、お祭りの期間中に芝居小屋を建てて公演をしていたんです。出演する大道芸人は全国から集めていたんですけど、お祭りのなかでは音などの問題で「もてなす場所」と「泊まる場所」をどうしても作れなくて。

 

そしたら浅間神社商店街の理事であり、このビルのオーナーでもある方に「あまるくんお祭りのなかじゃなくて悪いけど、街中にこういう場所があって・・・」と案内されたのがここでした。

asoviva_face_02吉松 ということは、最初は劇場ではなかったと。
asoviva_face_01あまる そうですね。芸人の宴会場というか、生活の場として提供いただきました

※春の例大祭「廿日会祭」:今川時代以前から400年以上続く伝統あるお祭り。「駿河の大祭」とされている。

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あそviva!劇場のステージ。

asoviva_face_02吉松 生活の場から劇場になった経緯は面白そうですね。
asoviva_face_01あまる 僕が劇場に興味を持った背景が大きな理由なんですけど。大道芸にのめり込んだきっかけは、「大道芸ワールドカップin静岡」でして。そこでパフォーマーごとにプログラムも、作り出すドラマも違うことにときめいたんですね――。

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あそviva!劇場の客席。

あまるさんいわく、道端が舞台となる大道芸を突き詰めると、個性よりも「いかに集客して集金するか」という方向に特化してしまうそう。あらかじめ断っておくと、これ自体は本来、大道芸の本流であって、否定するわけではありません。

でもそればかりになってしまうと、大道芸ワールドカップが放つような「ドラマにあふれた大道芸の世界」は育たなくなってしまう。そんな危機感を持ったとき、本当にこだわった世界を発信する場所が必要だと考えました。

asoviva_face_01あまる そこで劇場に収容できる人数がすごく重要になってきて。50人未満がベストだと思ったんです。パフォーマーはお客さん一人ひとりを意識するし、お客さんは大道芸に近い感覚で観られると
asoviva_face_02吉松 収容人数を考えたときに、このスケールがピッタリだったんですか。
asoviva_face_01あまる そうですね。思ってたものと空間のイメージが合致したので、ちょうどいいなと。オーナーにお願いしたらふたつ返事で「いいよ」と言ってくださって。そこからですね、あそviva!劇場がスタートしたのは。
asoviva_face_02吉松 想像していた流れとは全く違っていました。
asoviva_face_01あまる そうですか(笑)七間町のことを考え出したのは、オープンの準備をし始めたころでしたよ。
asoviva_face_02吉松 お、そのきっかけを教えていただけますか?

運命を感じた七間町でのつながり

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あそviva!劇場は、月に数回、BAR営業をしています。

asoviva_face_01あまる まずはスノドカフェ七間町の柚木さん。柚木さんが運営する清水のスノードールなどで、昔から僕たちみたいな若者に場所を提供してくださっていて。「そういえば、少し前に七間町にお店をオープンしたよな。これは同じ住民になれるな」と。※スノドカフェ七間町は2014年にオープン。
asoviva_face_02吉松 柚木さんとは昔からお付き合いがあったんですね。
asoviva_face_01あまる そうなんです。ほぼ同時期には、いまはなくなっちゃいましたけど「このみる劇場」っていう小劇場を運営していた劇団渡辺から「あまるさん劇場つくるらしいですね。僕たちも来月につくるんですよ」みたいな連絡があって。
asoviva_face_02吉松 不思議な流れですね・・・。
asoviva_face_01あまる そうなんですよ。しかも七間町の映画館の空き地を利用して活動していた「アトサキ7」には、ジャクリングのワークショップを開かせていただいたりしてお世話になっていて。これもまたご近所さんになるなと。

 

だから運命的なものを感じたんですよ。「なにかに呼ばれているな」っていう。そこでやっと七間町で活動する意味があるんじゃないかと思い始めましたね。

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BAR営業のメインメニューは「静岡おでん」。1本100円です。

asoviva_face_02吉松 七間町通りで定期的に開催している「劇街ジャンクション」は、七間町で活動する意味のひとつなんでしょうか?
asoviva_face_01あまる 私自身は静岡で生まれ育ったわけではないですけど、七間町に静岡東宝会館以外の映画館がなくなったとき、さみしいなと思ったんです。劇場がなくなった町の喪失感というか、そこを少しでも埋められるよう「あそviva!劇場」を知ってほしいと

 

でも劇場は閉じられた空間なので、「町に劇場がある存在感を示すには」と考えたときに、町を劇場に仕立ててアプローチしてみようと思いました。

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あまるさんによる七間町でのパフォーマンス。 画像提供:あまる

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2017年12月2日(土)に開催された「劇街ジャンクションvol.2」の会場案内図。

asoviva_face_02吉松 劇街ジャンクションは、2016年10月末に1回目を開催していますが、あそviva!劇場のオープンからイベント開催まで早かったですね。
asoviva_face_01あまる まあ、ひとりではない心強さはありましたよね。柚木さんにしろ劇団渡辺にしろ、たまたまここに集まってきたわけで。みなさん精力的に活動されているので、僕たちもできることからやってみようと。
asoviva_face_02吉松 なるほど。
asoviva_face_01あまる あと七間町名店街さんのバックアップもありますね。あそviva!劇場は名店街に所属してないんですけど、それでも七間町での活動を後押ししてくれている。いまでは「この町ならできることは多いかもしれない」と漠然と考えています。

「町にアーティストが集まるのは素敵なこと」

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asoviva_face_02吉松 柚木さんが「いま七間町に大道芸、芝居、ダンスが集まり始めている。これは七間町の歴史が我々を引き寄せたって思うんです」と話していました。先ほどあまるさんも「なにかに呼ばれている」と話していて、少し驚いたんですけど・・・。
asoviva_face_01あまる そうそう。そうなんですよ。柚木さんのおっしゃる通りです。僕は勝手にロマンを感じていますよ。
asoviva_face_02吉松 あまるさんはまさに七間町へ大道芸を持ち込んでいる方だと思いますが、活動を通して町を元気づけたいなどの想いを持っているんでしょうか?
asoviva_face_01あまる 活動の結果としてそうなればといいとは思います。でも僕たちが第一文句に「町を元気にしたい」と言うのは気持ち悪いなと思っていて
asoviva_face_02吉松 どういうことですか?

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asoviva_face_01あまる 活動はあくまで僕たちなりの提案をしているだけなんです。「町にアーティストが集まるのは素敵なことじゃないか」という。実際にそうなれば、町は元気になるんじゃないかなと思いますけど、それはあくまで結果なので。
asoviva_face_02吉松 「町が元気になる」がゴールだとすれば、活動はゴールまでの流れでしかないと。
asoviva_face_01あまる そうですね。まあ、街中の代謝はまだあるぞと、それを七間町で示しやすいのは大道芸かなと思っています。
asoviva_face_02吉松 ちなみに来年オープン予定の「キネマ館」には、劇団渡辺さんが劇場を持つ話もありますね。
asoviva_face_01あまる 彼らが復活してくれるのは嬉しいですよね。七間町で「今日はどこになにを観に行こうか」なんて会話が成立するようになるといいなと思います

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数多くの芝居小屋が映画館に移り変わって、いまは専門店の立ち並ぶ商店街へ。そんな歴史を持つ七間町は再び、大道芸や劇などであふれる町に変わろうとしています。

面白いのはこの流れを作っている人たちがほとんど、七間町で生まれ育ったわけではないこと。やっぱりどうしても、町の歴史がみなさんを引き寄せたと思ってしまうわけで。

特集のテーマ「七間町ではいま、いったいなにが起こってる?」。その答えは町に呼ばれたクリエイトな人々によって、かつての姿に戻ろうとする不思議な流れでした。

キネマ館が復活する1年後、また数年後にはどんな姿になっているんでしょう。

七間町は今日も変わり続けています。

※本記事で「七間町特集」は一旦終了です。

七間町特集アーカイブ