おつまみなら弁天島の「あさりの酒蒸し」
シーズン真っ盛りのほろ酔いあさり探訪
お久しぶりです。ライターのしょうへいです。
すべての手順を素通りしたうえで、みなさんへ最初に問いたいことがあります。
「おつまみドラフト会議」という遊びをご存じでしょうか? 知っている人も多いとは思いますが、知らない方のために説明させていただきます。
おつまみドラフト会議:野球でいうドラフト会議のおつまみ版。誰が一番のおつまみ球団を作れるかを競う遊び。基本的な流れは以下の通り。数巡繰り返して自分のチームをコーディネートしていく。
①「せ~の」などの掛け声で自分のチームに加えたいおつまみを宣言
②宣言したおつまみが被らなければ自分のチームに加えられる
③被った場合はじゃんけんなどの適当な方法で勝敗を決め、勝ったほうが獲得
④負けたほうは残った人同士で①~③をもう1度おこなう
このゲームの醍醐味は、「あぁ~それこんな早い巡目でとってくる?」「それは次の巡目で絶対チームに入れたかった~」と相手に言わせることですね。
さて今回は、おつまみドラフト会議で3~4人集まったら3巡目以内には必ず出現し、「あぁ~とられた」と一同が納得してしまう逸品、「あさりの酒蒸し」に焦点を当てたいと思います。
ここまで長かったですね。
あさりの酒蒸しを肴に飲み歩く旅へ
なんといっても私はあさりの酒蒸しの大ファン。
おつまみのなかではトップクラスに好きなのです。そもそも、お茶漬けに合わない茶がないのと同様に、酒に合わないあさりの酒蒸しなどあるわけがない。
そして浜松市から湖西市にまたがる浜名湖は、うなぎ、しらす、牡蠣が獲れることで有名ですが、じつはあさりの名産地でもあります。しかもあさりのシーズンは3月~5月と言われているんです。
だからこそこの時期、みなさんにあさり酒蒸しを知ってもらいたい。
というわけで、浜名湖に面したリゾート地のひとつ「弁天島」へやってきました。ここは浜名湖料理を味わえる料亭が数多くある島。紹介のためにあさりの酒蒸しを肴にして、飲み歩いていこうと思います。
またこの旅には探訪に欠かせないナイスガイな編集長、吉松京介さんに同行していただきました。
でも完全にあさりを舐めた顔をしていますね。しかも「あさりの酒蒸しだけで飲み歩きできるの? 大丈夫?」と言っていました。
たかが酒蒸しと思っている編集長にひと泡吹かせてやろうと思います。
洋風の味付け!? 浜菜坊の「ガーリックバター蒸し」
1軒目はこんな店にやってきました。
静岡県では関東風の蒸したふっくらした鰻が有名。でもあえて蒸さず、2種類の炭を使い、皮はパリッとしたうま味を残した関西風のうな重、そして浜名湖名物の牡蠣カバ丼が味わえる「浜菜坊」です。
肝心のあさりですが、浜名坊さんではなんと2種類のあさりの酒蒸しを用意。ひとつは和風でベーシックな「あさりの酒蒸し」で、もうひとつは「あさりのガーリックバター蒸し」という白ワインで味付けした洋風の珍しい料理です。
せっかくなので、珍しいほうの酒蒸しをいただきたいと思います。
こちらがあさりのガーリックバター蒸し。貝の殻が「ぱぁ~」と開いてきたら食べごろです。
いただいてみると、白ワインとガーリックバターの汁に浸され、濃厚で芳醇な味わいのなか、見事に浜名湖産のあさりと融合した逸品でした。これには編集長も初っ端から「うますぎる」「あさりの酒蒸しの見方がだいぶ変わった」と大絶賛です。1軒目からひと泡吹かせてしまいました。
そして・・・
これは酒がほしい!!
持ちうるおつまみ力を存分に発揮されてしまい、僕らの衝動はもう抑えられません。店員さんにおすすめのお酒を用意していただきました。
特別本醸造「正雪」という日本酒です。漁港で有名な静岡市清水区由比のお酒で、魚料理に合うような辛口ですっきりした味わいが特徴。より料理の美味さを引き立ててくれるような印象でした。
次にいただいたのはこちらです。
やっぱ酒といったらビールがほしいっしょ~。「こんなグルメ企画でビールって、家じゃねえんだから」って思われたでしょ~。でもこれ、ただのビールではないのです。
このビールは「ザ・プレミアムモルツ マスターズドリーム」というお酒で、ダイアモンド麦芽を使用し、手間と時間をかけてじっくりと作られた一級品。このお酒を飲める店は現在のところ、静岡県内ではかなり少ないらしいのですが、ここ浜菜坊さんではいただけます(2017年3月時点では弁天島で唯一)。
よく「ビールは喉で味わえ」と言いますね。しかしこれは喉で味わう前に口のなかの美味しいフィルターが反応してしまうほど、濃厚な味が広がるのです。
あさりの酒蒸しの汁を飲んで、正雪を飲み干す。そしてほっとひと息つき、あさりの身を口に放り入れて、ぐっとビールをひと口。・・・限られた人の道楽に感じますね。
そんなこんなでほろ酔いになりながらおいしくいただきました。
浜菜坊
THE王道の味? 「太助」のあさりの酒蒸し
次に足を運んだお店はこちら。昭和50年創業、弁天島の老舗「太助」です。
でもつい最近、リニューアルオープンをしたばかりで、ロケ日の3月15日付はプレオープン中でした。「入れないかも」と諦め掛けていたものの・・・。
流石店長。気前がいい。
特別にお店へ入れていただきました。
店内は落ち着いた雰囲気で、和の心が感じられます。これは期待が高まる! こちらでもさっそく、あさりの酒蒸しとそれに合うお酒を用意していただきました。まずは酒蒸しから。
THE王道。この酒蒸しは知ってる! 知ってる!
・・・。
・・・じゃない!!!
よく見てください。貝の粒がでかい。
レモンと比べるとよくわかる、こんなあさり見たことありますか? もはやもう別の貝とも言えるでかさ。あさりも真珠を作ると聞いたことがありますが、もうこれ自体が宝石のようでした。
口に入れてみると身の歯ごたえがしっかりしていて、あさり本来のおいしさが和風の上品な味付けによって引き立てられています。そのままいただくもよし、添えてあるレモンを絞ってもよしですね。しかも噛めば噛むほど味が出てくるので、一個の貝をいつまでも噛んでいられる。
きちんとあさりが主役を演じている。そんな印象でした。
この絶品の酒蒸しに合う、といって出していただいたお酒はこちら。
浜松酒造の純米吟醸「直虎の夢」。
いま大河ドラマで話題のおんな城主、直虎のような凛として透き通った味わいです。これがまたこの酒蒸しに合うんですよ。かの直虎はこんな贅沢を夢見ていたのでしょうか。
素晴らしい旅だ。
この勢いで次の店に行っちゃいますか。
太助
あさり探訪、順調なはずが・・・?
・・・あさりを取り扱っている店が全然ない。
太助以降、弁天島にあるお店を数軒回りましたが、どこも「あさりはいまはないねえ」という対応でした。
お店の方によるとじつはいま、浜名湖は温暖化による生態系の変化により、あさりがかなり減少しているとのこと。毎年恒例だった弁天島での潮干狩りも、2016年に続いて今年も中止。
沖のほうのあさりもかなり貴重だとされていて、お店で取り扱うのは難しいそうです。ここまで順調に来れたのが、むしろ奇跡というべきかもしれませんね。
それにしても、こんな素晴らしい宝がいつか食べられなくなる可能性がある、というのは悲しいですね。
弁天島の名産のひとつを守るため、少しでも次の世代にもこの味を語り継ぐために、我々が生態系を崩してしまうようなことはあってはならない。地球の環境問題も身近に迫ってきていると痛感させられました。
この味を忘れず、しっかり思い出に留め、ありがたみをもって生きていくことが大切なのではないでしょうか。・・・守っていこう、島人の宝。
とはいっても、浜菜坊さんや太助さんではなんとか食べられます。いまがシーズンですので、この機会にぜひこのおいしさを噛みしめに行ってはいかがでしょうか?
おわり。