静岡市の移住推進に参画する常葉大生に直撃
学部生から見た静岡市のリアルな現状とは

  • posted.2017/01/09
  • 吉松京介
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静岡市の移住推進に参画する常葉大生に直撃 学部生から見た静岡市のリアルな現状とは

全国の地方が抱える人口減少問題。

静岡県、とくに静岡市は全政令市において、0~64歳までの人口減少率がもっとも激しい自治体です(出典:静岡市企画課『静岡市の人口の現状』)。2015年には政令市の人口目安70万人をギリギリ保つ約70万5千人となってしまい、基準を下回るのも時間の問題だという話もあります。

そのなかで人口減少の改善に向けたプロジェクトのひとつがスタート。常葉大学造形学部の「安武研究室」を主体とした学生団体「未来デザイン研究会」が、静岡市と共創で移住推進プロジェクトを進めているとの情報をキャッチしました。

じつは静岡市において、人口減少が顕著なのは若年層です(とくに18~22歳)。ちょうどこの層にあたる常葉大学の学生さんたちは研究を踏まえて、「静岡市のことをどう思っているんだろう」という疑問が沸いてきました。

実際に安武研究室の学生に聞いてみる

そこで「研究を通して静岡市ってどう思う?」という視点から、安武研究室の学生さんに直接聞いてみることに。

福士&小野寺

疑問に答えてくれるのは、安武研究室および未来デザイン研究会に所属する福士夏季さん(4年生 / 裾野市出身)と小野寺夏海さん(3年生 / 静岡市清水区出身)です。

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常葉大学 造形学部 安武研究室

造形学部ビジュアルデザインコースの学生が所属するゼミナール。ビジュアルコミュニケーション(図や写真などで伝える伝達方法)の視点でUX(顧客満足体験)を研究・開発をしている。安武研究室が中心となり、学生の自主グループで産学官共同の実践開発を進める「未来デザイン研究会」、市民の暮らしに対する誇りを可視化してブランディングする「シビックプライド研究会」の活動もしている。

気になる移住推進の研究内容は?

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吉松

吉松

まずはいままでの活動から聞いてみたいんですが、プロジェクトの発端はどこだったんですか?
福士

福士

最初は静岡市創生会議と企画局から、安武研究室へ開発の依頼がきたんです。2015年でしたね。行政のお堅い言い回しではなく、顧客中心のコミュニケーションを考えてほしいという内容でした。
吉松

吉松

はじめは自治体の依頼だったんですか。
福士

福士

そうですね。そこから私たちは東京都の八重洲にある移住推進センターで、取材や移住フェアの視察を通して“移住を考える方の本当の期待”を、ペルソナ・シナリオ法という専門手法を用いて分析しました。分析した結果は30代夫婦の「東京暮らしへの未練」という期待と、60代シニア層の「好きなことをしたい」という期待に集約したんです。
吉松

吉松

そのあとは・・・?
福士

福士

30代主婦のほうを「変わりたい、でも変わりたくない」、60代シニア層のほうを「新しい自分に出会いたい」として、さらに「静岡市の生活の基本情報」を加えた3つのパンフレットに仕上げました。どれも研究室で学んでいる「UXデザイン」「ビジュアルデザイン」の、両方の知識と技能を実践で活用するプロジェクトになりましたね。
吉松

吉松

なるほど。
福士

福士

あと私たちは開発したパンフレットを「静岡生活」とネーミングしたんですけど、2016年の後半から静岡市全体のプロジェクト名「いいねぇ、静岡生活」に発展して、いまも行政との共同研究は続いています。

静岡生活写真提供:安武研究室

吉松

吉松

行政との共同研究ではどんなことを?
福士

福士

移住してきた方々を紹介する冊子の編集とさまざまなデータの可視化、また東京の有楽町にある移住相談センターを利用される相談者にあった情報を、記事やデータとして渡したりしています。
吉松

吉松

はー。自治体とそこまで密接に関わっているんですか。
福士

福士

そうですね。関連したほかの研究活動でいうと、私の代と小野寺の代で内容は大きく違っていまして。私の代ですと、市民50名に静岡市で暮らす誇りを聞いて、それらをエピソードや写真にまとめてポスターにしました。

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ポスターでは、市民が誇りに感じるエピソードとそれを表す写真を「みんなが住み続けたい!」「わたしが勧めたい!」などの要素をマトリクスに分けています。

福士

福士

研究の結果、静岡市の魅力的な一面はわかったんですけど・・・。これがいまの静岡市の人口減少を食い止める要因にはならないという話になったんです。そこで小野寺たちの代では、ダイバーシティプロジェクトをしたんだよね。

 

※ダイバーシティ:多様な人材を活かそうという考え方。

吉松

吉松

ダイバーシティプロジェクトではどんなことを?
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小野寺

福士さんたちの研究を経て、「静岡の自然が好き」「静岡の人が優しい」と考える人がいることはわかりました。でもまったく別の魅力が静岡市にあったとして、それが人口減少を食い止めるようなものじゃないかなって。多様な考え方を持っている人々の生き方が、これからの静岡市の誇りや力になるのではという仮説を立てたんです。
吉松

吉松

新しいですね。面白いです。
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小野寺

私たちは多様な考え方を持っている人たちを、ダイバーシティな人たちって呼んでいるんですけど。そんな方たちに「いまの静岡市をどう思いますか」「静岡市で暮らすなかでの転機はどこでしたか」と聞いてみたプロジェクトですね。

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こちらはダイバーシティな人たち(例:アートの支援活動、ワークショップの開催などを積極的にしている方)のお話しを分解、分類して作ったグラフ。Aは「個人の考え方に多様性がある」、Bは「個人と都市との接触の仕方に多様性がある」、Cは「都市環境に多様性がある」とのことで。

吉松

吉松

これでなにがわかったんですか?
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小野寺

パっとみたときにCが圧倒的に少なかったんですよね。なので、静岡市自体に多様性を育む環境はあんまりないんですけど、静岡市で積極的な活動している人たちはそこに左右されず、勝手にやっちゃってるっていうのがわかったんです。
吉松

吉松

静岡市は多様性を育てるアプローチが少ない、でも個人で頑張っている方はきちんといるってことですか。なるほど。
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小野寺

まあ、あくまで私たちが取材したなかでのお話しですけどね。

研究生は県外に就職する傾向があるらしい・・・

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吉松

吉松

この研究を通して静岡市へのイメージって変わりましたか?
福士

福士

もともと静岡市に対して愛着も興味もなかったですから、やってみてはじめて静岡市を知れたことは大きな変化でしたかね。なんかある?
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小野寺

そもそも好きも嫌いもなかったので(笑)いろいろ通してわかったことが多いのはよかったなと思いますけど・・・。でも勉強している内容と静岡市の就職先だとギャップがあって。
吉松

吉松

勉強内容と就職先のギャップ?
福士

福士

じつは私たちからすると、顧客満足のデザイン開発やサービスデザインの専門的な研究を活かした仕事をしようってなったときに、その場が少ないのが課題なんです。だからイメージが変わったからといって、これから住み続けたいかというと、じつはそうではないなと。
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小野寺

静岡市の行政にしても、大学で勉強していることに追いついていないというか。私たちがやっていることを静岡市の職員の方にプレゼンをしても、「学生はすごいね」で終わっちゃうことが多くて。

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吉松

吉松

研究をすればするほど理解が得られない。だから外に目が向くって感じですか。
福士

福士

安武先生(安武研究室の教授)もよく言うんですけど、研究会に参加している学生はとくに県外に就職する傾向があって。一方で常葉大学の学生に人気なのは、地元の安定した仕事らしいんです。
吉松

吉松

へー。学内でも大きなギャップがありますね。
福士

福士

はい。穏やかな暮らしがしたい学生が県内に残る傾向もあるよね、って話もしているんです。
吉松

吉松

地方ならではの話というか。
福士

福士

造形学部の進路は以前ですと出版や印刷業界が中心だったんですが、私たちの研究は受託ではなくてUXデザインを活かした新しいIT産業やメーカーになってくるんですね。そんな仕事が県内にあるかというとなかなか・・・。
吉松

吉松

そのあたりだと外のほうが選択肢は多そうですね。
福士

福士

いま3年生の小野寺はちょうど就活中ですけど、彼女も県外志望ですよ。私は大阪で就職が決まっています。

静岡市での暮らしやすさは体感できない?

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吉松

吉松

あの、静岡市って地域のランキングでわりと上位に入っていますよね

 

※共働き子育てしやすい街の地方都市編1位(出典:日経DUAL 日本経済新聞社『自治体の子育て支援に関する調査』)、政令指定都市幸福度ランキング10位(出典:監修/寺島実朗 編/日本総合研究所 システム分析協力/日本ユニシス総合技術研究所『全47都道府県幸福度ランキング2016年版』)など。

福士

福士

ですね。いろんなランキングで上位にいますね。
吉松

吉松

素朴な疑問なんですけど、あれどう思いますか。

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福士

福士

・・・ほんとかな?(笑)
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小野寺

みんなと「ほんとかよ~」って言ってました(笑)
吉松

吉松

(笑)中からみるとそうでもないですか?
福士

福士

外から見て魅力的な部分はもちろんあって、その恩恵を受けている部分も確かにあると思うし。でも自分たちが静岡市で暮らしたときに体感することってあんまりないですね。
吉松

吉松

そうかー。おふたりは県外に出るってことですけど、体感していないことも理由にあったりしますかね。
福士

福士

ん~。県外に出てはじめて暮らしやすさに気付くんだろうなっていうのはすごくありますよ。
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小野寺

そもそも外を知らない場合は、選びようがないというか、わからないんじゃないかな~って思ったりしますけどね。
福士

福士

静岡市も県外に出てもいいけど、いつか戻って来てねって方針があった気がします。やっぱり一度は外に出てみないとわからないんじゃないですかね。
吉松

吉松

そうですね・・・。そのとおりだと思います。ちなみに就職の話に戻っちゃいますけど、静岡市での起業って考えはなかったですか?

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福士

福士

あ、自分たちがですか? 確かに。でもそこまで・・・。
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小野寺

ちょっと力不足かなと(笑)
福士

福士

でも面白そう。憧れますね。

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移住推進プロジェクトに参画して、研究を進めてきた学生のふたりだからこそ出てくる言葉ばかり。若者の人口流出が加速する静岡市の背景が、少し垣間見えた気がします。

静岡県のローカルメディアをやっている身としては、人口問題に少しでも寄与したいわけですが、福士さんの「県外に出てはじめて地元の暮らしやすさに気付くんだろうな」には正直、ぐうの音もでませんでした。

僕は島根県松江市出身で、静岡県に住みはじめてから地元の暮らしやすさに気付いています。逆もまた然りで、他県から来ているからこそ、静岡県の暮らしやすさには気付きやすいです。小野寺さんが「外を知らない人はそもそもわからない」と言ったように、移住してやっと暮らしを比べられる視点を持ちました。

でも彼女たちと僕が決定的に違うのは、「地元にはいいところがある。それは知っているけど体感がない」と言い切れているところ。僕は島根県に住んでいるころ「ここはなにもなくてつまらないところだ」と考えていました。

自分が地元のよさを知っていなければ、移住先に行っても比べようがない。だから移住するにしても、いま住んでいるところのよさを知っていてほしい。やっぱりそこからだよな、とあらためて気付かされたところで、失礼させていただきます。

常葉大学 造形学部 安武研究室

住所:〒420-0911 静岡県静岡市葵区瀬名1-22-1
HP:http://miraidesign.blogspot.jp/(未来デザイン研究会)
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