【緊急開催】苦情で廃止が進む除夜の鐘
大みそか目前!J-1グランプリ2016 in静岡
いま「除夜の鐘」という文化が廃れつつあることをご存じでしょうか? 静岡県牧之原市にある大澤寺(だいたくじ)さんでは十数年前に「うるさい」という匿名のクレームが相次ぎ、除夜の鐘を止めてしまったと言います。
古くから続く文化がなくなるのは寂しい。そこでmiteco編集部では、「J-1グランプリ2016 in静岡」(除夜の鐘-1)と題して、2016年の大みそかに除夜の鐘が撞けるお寺さんをピックアップ! 一人ひとりの品評を加えながらご紹介していきます。
司会進行は日本文化に詳しい編集部の山口。グランプリの最優秀賞を決める審査員は日本文化に詳しくない編集部見習いの馬場です。
また今回のイベントにふさわしい、特別ゲストのお話しも頂戴しています! さっそく、J-1グランプリの模様を見てみましょう。
除夜の鐘と梵鐘
そもそも、除夜の鐘とはなんでしょうか? 司会進行の山口に説明してもらいます。
山口 | あらためまして司会進行の山口です。除夜の鐘は、大みそかにお寺さんの梵鐘(ぼんしょう)を108回撞く習慣です。108回撞くのは、人間の煩悩の数とか、四苦八苦(4×9+8×9=108)とか、いろいろな理由があると言います。ただ、最近では回数にこだわらないお寺さんも増えたそうです。 |
吉松 | ちなみに記事の冒頭でご紹介した大澤寺さんは、「除夕の鐘(じょせきのかね)」として夕方に梵鐘を撞いているそう。形を変えながら文化を守っているのは素晴らしいことだと思いますね。 |
馬場 |
へ~! |
安藤 |
勉強になります。 |
|
ありがとうございます。それではみなさん、除夜の鐘を撞けるお寺さんを思い思いに紹介してください! |
推薦者:吉松京介(miteco編集部 編集長)
吉松 |
よろしくお願いします。 |
1.龍潭寺(りょうたんじ)さん(浜松市北区)
吉松評価 / 井伊度:★★★
吉松 |
僕が推薦したいのは浜松市北区の龍潭寺さんです。1月から浜松市が舞台となる大河ドラマ「おんな城主 直虎」がスタート。龍潭寺さんは井伊氏の歴代当主が眠り、直虎が出家した場所ということもあって、2017年大注目のお寺さんなんです! |
吉松 |
除夜の鐘では、先着108組に記念品贈呈・甘酒サービスの大盤振る舞い。ちなみに1月1日~1月5日までは誰でも自由に鐘をつけます。この懐の深さに心をうたれましたね。
しかし、やはりいまは井伊家由来の地として押さえておきたい。来年への飛躍の願い込めて井伊度★3つとさせていただきました! |
山口 |
まさに今年が終わり、そして新しい年の始まりを告げる鐘の音を聞く場所としてはうってつけのスポットですね。龍潭寺さんはお庭もきれいなので、年はじめの日中に訪れる方は鐘を撞くついでに中を見物していくのをおすすめします! |
龍潭寺
推薦者:安藤悟(miteco編集部)
安藤 |
よろしくお願いします。 |
2.代通寺(だいつうじ)さん(富士市)
安藤評価 / 地元民の愛着度:★★★
安藤 |
私が推薦するのは富士市にある代通寺さんです。以前は108回をきちんと数えていたそうですが、最近は回数を気にせずに除夜の鐘を撞いていると聞きました。
ちなみに代通寺さんでは、毎朝6時から7回、お上人さんか奥さんが梵鐘を撞いているそうです。7回はお題目「何無妙法蓮華経」が、7文字というのに由来しているとのお話しでした。 |
安藤 |
地元の人いわく、「奥さんが梵鐘を撞いた日は鐘の音が軽いので、お上人さんが体調不良ではないかと心配になる」とのこと。
富士市大渕地区のシンボルになっているエピソードも聞けたので、地元民の愛着度★3つとしました! |
吉松 |
毎朝6時から7回も鐘をついているんですか!? でもそれが地元民の愛着につながっているようで、いまの時代に逆行する話でほっこりします。また奥さんが撞く日は音が軽いという地元民の声なんて、まさに地元民の愛着度★3つのエピソードで素晴らしいですね。 |
代通寺
推薦者:山口拓巳(miteco編集部)
山口 |
よろしくお願いします。 |
3.龍津寺(りょうしんじ)さん(静岡市清水区)
山口評価 / アットホーム度:★★★
山口 |
僕が推薦するのは、静岡市清水区の小島にある龍津寺さん。以前、mitecoでも小二田教授と一緒に足を運ばせていただきました。小島の人のコミュニケーションの場として機能していて、地元の人から愛されているなぁと感じる場所です。
ご住職の勝野さんも本当にいい方。気さくに話を聞いてくださるだけでなく、ヨガやマルシェを開催するなど、地域を盛り上げようという活動にも積極的です。 |
山口 |
1~2回しか訪れていないのですが、その温かい雰囲気に「なるほど、ご住職のお人柄がお寺さんの空気をよくしているんだな」と妙に納得。というわけで、「アットホーム度」★3つです! お堂も立派な場所で、鐘もかっこいい音が響き渡りそう。個人的にも行ってみようかな。 |
安藤 |
取材後※もプライベートで2回くらい行きましたが、まさにアットホームでとても雰囲気がいい。俺も勝野さんに大変お世話になりました。あと、小島観音も注目したいですよね。 |
※取材:2016/10/7~10/8に掲載した清水区小島町の記事ですが、安藤も取材に同行していました。
龍津寺
推薦者:山口拓巳
山口 |
再び僕で恐縮です。 |
4.法多山 尊永寺(はったさん そんえいじ)さん(袋井市)
山口評価 / 厄除け度:★★★
山口 |
どうしても追加で推薦したいのが、袋井市の法多山・尊永寺さん。袋井市が誇る著名なお寺さんで、僕も毎年お正月にはお守りを買いに行きます。
名物はなんといっても厄除け団子ですよね。食べるためにはめちゃめちゃ並ぶ必要がありますが、味はおいしくて厄除けも兼ねられる、というのはなんともありがたいなぁと思います。 |
山口 |
そんな法多山・尊永寺の除夜の鐘ですから、もちろん厄除けに効果があるのではないでしょうか? 煩悩を振り払うだけでなく、厄も除けられそうという意味で、「厄除け度」★3つとさせていただきます! |
安藤 |
厄除け団子は静岡を代表する銘菓のひとつと呼びたい。ありがたみもありそうなので、厄除け度の高さには納得です。ありがとうございました! |
法多山 尊永寺
除夜の鐘の作法
「J-1グランプリ」の候補となるお寺さんは以上です。ただいま審査員の馬場が最優秀賞を決めておりますので、結果は少々お待ちください。
さて除夜の鐘は、1年の始まりを迎える大切な行事。作法を守って除夜の鐘を撞きたいところです。梵鐘を撞くまでの流れも山口に説明してもらいましょう。
山口 |
かしこまりました。梵鐘を撞くまでの流れは、簡単に言えばこんな感じです。 |
- 鐘を撞く前に合掌(手を合わせる)
- 新年の抱負や願い事を祈りながら1回鐘を撞く
- 鐘を撞いたら合掌
山口 |
厳密におこなうお寺さんでは、107回までを今年中に撞き終え、新年の始まりとともに108回目を撞きます。時間が限られているので、撞き終えたら速やかに次の人と交代してください! |
安藤 |
こういう話になると、山口って心強い。 |
馬場 |
また勉強になりました・・・! |
吉松 |
なんでこんなに詳しいんですか。 |
龍津寺・勝野さんの除夜の鐘にまつわるありがたいお話
ここで冒頭で触れた、特別ゲストに頂戴しているお話しをお送りします。
その特別ゲストとは、なんとグランプリの候補にもなっている、龍津寺のご住職・勝野さんです。除夜の鐘文化について、ありがたいお話しを聞くことができました。
J-1グランプリに寄せた除夜の鐘のお話
写真提供:龍津寺
吉松 |
今回、J-1グランプリと題してmitecoで除夜の鐘を扱うことになりました。編集者がそれぞれのお寺さんの見どころを見つけ、ミシュランガイドのように「★」を付けて品評する・・・という企画です。 |
勝野さん |
変わったことを考えましたね(笑)ちなみに、龍津寺の除夜の鐘は「もてなし度&幸せ度:★★★」だと思います。 |
吉松 |
乗っかっていただいてありがとうございます(笑)ところで、除夜の鐘ってどんな文化なんでしょうか? |
勝野さん |
除夜の鐘で鐘の音とともに消し去る「煩悩」は、欲ばかりでなくて、私たちにとっての「苦しみのタネ」となる“過去への執着”や“ないものねだり”です。除夜の鐘ではそれらを取り除き、清々しく新しい年を迎えるための準備になります。
除夜の鐘を撞きながら、今年一年の良かったことも悪かったこともすべて手放そうと。たとえて言えば、清水エスパルスのJ1昇格の喜びも鄭大世選手の得点王も過去の話。今年はJ1で厳しい戦いも待っているので、しっかりと準備しましょう!ということなのです。
なんのこっちゃという感じでしょうか(笑) |
山口 |
いや、でも本当にその通りで、J1昇格を決めた徳島戦を現地で見て泣いた僕ですが、それも過去。気を引き締めて来年もいかなければ、また降格してしまうかもしれませんからね!
サポーターとしてもあらためて、兜の緒を締めなおす必要があります。勝野さんさすが! いまはシーズンオフですが、移籍情報とかも・・・。 |
安藤 |
それ、いまそこまで関係ないよね・・・? |
山口 |
すみません、エスパルスの話題が出てうれしくて・・・。話が逸れました。 |
龍津寺と除夜の鐘
写真提供:龍津寺
安藤 |
龍津寺さんの大みそかはどんな感じですか? |
勝野さん |
私がお預かりしている龍津寺でも、除夜の鐘は昔から行わせていただいています。朝から檀家さんが準備してくださって、だいたい200人の方が撞きに訪れます。
境内では甘酒とおしるこを振舞い、鐘を撞いた方には全員に「厄除けのお札、干支の色紙、ミカン、秘密のプレゼント(一部は家族でひとつ)」を差し上げます。
住職の私はみなさんの無事を祈り、お堂の上で2時間ずっとお経をお唱えしています。 |
吉松 |
2時間もお経を・・・。 |
勝野さん |
また、大みそかの日は大学やお仕事の都合で普段は村を離れている若者たちが帰省します。そして、お寺さんに集まって焚き火に当たりながら話をして盛り上がります。除夜の鐘がお互いの近況を語り合う同窓会のような役割も果たしているんですよ。 |
山口 |
なるほど。小島ならではの素晴らしいお話しですね。 |
これからも続いてほしい除夜の鐘の文化
写真提供:龍津寺
勝野さん |
ちなみに小島には、遠くで聞く除夜の鐘を楽しみにしている人もたくさんいらっしゃいます。 |
山口 |
除夜の鐘を聞いて楽しむ、ですか。 |
勝野さん |
お寺さんの川向こうに老人ホームがあるのですが、中にはお子さんやお孫さんたちといっしょに除夜の鐘を聞く寝たきりの方もいます。
除夜の鐘を聞いて、「あぁ、今年も無事に生きてるなぁ」と一年の巡りを実感されるんです。小島では村中の人たちが音の響きを通じて、分かち合いをしているんですね。 |
安藤 |
こういう話に弱いんだよな・・・。 |
山口 |
ところで近年、苦情が増えて除夜の鐘ができないお寺さんが増えているそうですが、勝野さんはどのようにお考えでしょうか? |
勝野さん |
おそらく、元旦お正月からお仕事になってしまった方が増えて、ゆとりがなくなってしまったからなんじゃないかと思います。以前は、お盆もお正月も一斉に休む時期だったんですね。
たとえば、この村では、大寒(1月20日頃)は山の神さまの日で、入山禁止・男女のまぐわい禁止(!)とされています。その日に山に入るとケガするぞ。要するに、休みなさいよということなんですね。効率や経済性ばかりでなくて、人として文化としてみんなが一斉に休む日があってもいい気がします。
ともかくも、除夜の鐘は年に一度、数時間のことですから、楽しみにしている方のことも想像して、伝統の灯火を消さぬようご理解いただけたらと思います。 |
J-1グランプリ・最優秀賞の発表
今回、「J-1グランプリ2016 in静岡」と題し、除夜の鐘を撞ける静岡県内のお寺さんをご紹介しました。
どのお寺さんも魅力たっぷりでしたが、これはあくまでグランプリ。一番を決めなければなりません。
そして審査員の馬場も、J-1グランプリの最優秀賞を決めた様子。いったいどのお寺が受賞するのでしょうか・・・?
馬場 |
今回のJ-1グランプリ、最優秀賞は・・・「代通寺」さんです!
どのお寺さんもよかったと思いますが、「甘酒を振舞ってもらえる」という龍潭寺さんと迷い、僅差でこちらに。なんといっても「奥さんの撞く鐘」のエピソードに心が温まりました。
龍津寺の住職・勝野さんのお話もありがたく、除夜の鐘という文化の大切さを感じました。来年の年明けはいつもより耳を澄ましながら過ごしたい。
また作法の勉強もできたので、わたしも実際に撞きに行って、日本の伝統に今一度思いを馳せてみたいと思いました。 |
J-1グランプリ2016、編集部のプレゼンテーション次第では、ほかのお寺さんに軍配が上がったかもしれません。どのお寺さんにも鐘にまつわるエピソードがいくつもあるのですが、除夜の鐘という文化や梵鐘そのものを大切にしている証拠だと思います。
また急な取材にも関わらず、龍津寺の勝野さんには快くお話いただき、本当にありがとうございました。あらためて感謝の気持ちでいっぱいです。この場を借りてお礼を言わせてください。
そしてまだまだ除夜の鐘が撞ける静岡県内のお寺さんを知っている方は、ぜひTwitterやFacebookなどで編集部に教えてくださいね!