若者が生き返らせた富士市吉原の廃ビル
マルイチビル1962はなぜローカルを選んだのか?
静岡県富士市にある、吉原商店街。ご当地グルメが食べられる飲食店や昔なつかしいおもちゃ屋さんなどが並び、商店街の先には岳南鉄道というローカル線が通っています。
しかし、シャッターが下りてしまった店や廃墟ビルも数多くあります。
そんななかで1962年から建ち続ける廃墟ビルを、2015年に若者がDIYリノベーションし復活させた、「MARUICHI BLDG.1962(マルイチビル1962)」という建物があることを知りました。
廃墟好きの私にはたまらない!! しかしなぜこの吉原で? 誰がなんでこのビルを? 気になることがたくさん・・・。
商店街の一角にたたずむ元廃ビル・・・
この白いビルがMARUICHI BLDG.1962。
ビルの横はくり抜かれたような、ぶち破ったような・・・。
4階建ての建物で、1階はイベントなどで使うレンタルスペース。2階はピザ屋さん(昼はカレー屋さん)、3~4階がシェアオフィスだそうです。
じつは今回、MARUICHI BLDG.1962の運営マネージャーであるippei tamuraさん(以下、ippeiさん)に、お話しをしていただけることになっています。
MARUICHI BLDG.1962の中へ・・・!
オフィスまで階段でのぼります。壁は黒板になっていておしゃれです。
花 |
ん? なんだあの字は・・・。 |
ケレン?
ほかにもいくつかケレンさんのサインを発見。きっと、ケレンはお調子者だけど憎めないタイプの人だと思います。
キョロキョロしながら階段をのぼりippeiさんのもとへ。
ippei tamura
静岡県富士市出身在住。1986年生まれの31歳。保育士に始まり、良くも悪しくもさまざまな職業を転々と経験。つながってきたヒト、モノ、コトを軸にして、現在は隠れ家的ピザ屋でJUNKなピザを提供する一方、ライブ企画や各種イベントの立ち上げ、企画などをおこなう。「OLD PIZZA HOUSE bird」オーナー。リノベーションビル「MARUICHI BLDG.1962」運営マネージャー。シェアハウス「ROOM1986」管理人。静岡県登録富士山世界遺産ガイド。
OLD PIZZA HOUSE birdの店内。
花 |
今日はよろしくお願いします。さっそくですが、なぜ廃墟ビルをリノベーションしたのか教えてほしいです。 |
ippei |
もともと商店街占拠ってイベントがあって、このビルの横にある立体駐車場を使ってフェスをやったんです。4階~屋上をフェス会場に変えるみたいな。
「この町の使われていない場所は、アイディア次第で面白く活かせるんじゃないかな?」ってことを考えていた仲間3~4人とそのフェスイベントを2~3回やっていたら、駐車場のオーナーが「お前ら面白いからイベントだけじゃなくて、実際に物件も手掛ければ?」って。 |
花 |
おぉっ。 |
ippei |
そのオーナーさんはいまでもお世話になっているんだけど、古いものを若い人が面白く使ったほうが魅力的な町になるって考え方の人で、「ビル買っちゃうから、あとはなんとかして」って。そんな感じで始まったんだよね(笑) |
花 |
あとはよろしくですか!? すごい素敵なオーナーさんですね。 |
ippei |
そうそう(笑)だから「とりあえずつくろう!」って、ビルの中身は当時の仲間たちで決めていきましたね。 |
花 |
なるほど。このビルの内装もDIYが多いのですか? |
ippei |
そうですね、ほとんど。本格的な工事以外は全部自分たちで塗ったり、つくったりってところが多いです。専門技術を持った仲間がいっぱいいたのでかなり助かりました。僕自身は相当さぼっていたけど・・・。 |
花 |
おぉ~、いい仲間ですね。階段にあるスプレーやチョークのアートもみんなで描いたのですか? |
ippei |
あぁ、あれはそうだね。階段の数字はいまはニューヨークなんかでも個展をやっているアーティストだね。黒板のチョークも関西出身の大好きなアーティスト。このふたりにも商店街占拠がきっかけで出会って、去年はここでも個展をやってもらったんだよねー。 |
花 |
・・・名前もかいてありますよね。ケレン。 |
例のサイン。
ippei |
(爆笑)あれは名前じゃなくて「ケレン」。これから削るってこと。このあと、この壁部分削りますーって意味の印だよ。結局、なんかいい感じだからそのまま残してるんだけどさ。 |
花 |
自己アピールの強い人のサインかと思いました。 |
ippei |
いろんなところにいるからねケレンさん(笑)
まあ、設計もみんなで決めたから、普通なら1階を飲食店にするのをあえて2階にしたり・・・。そういうこともあって、まだまだこの商店街のなかでは怪しい存在かも(笑) |
花 |
1階はレンタルギャラリーだから毎回、店が違いますもんね。 |
ippei |
そうそう。なんにでも使っていいようにしてるから、いろいろな人が使っています。近所のおっちゃんが「お前ら今度はなにしてるんだ?」って(笑) |
次に手掛ける廃墟ビルは〇〇に変身?
ippei |
あとね、じつはすでに、次の廃墟ビルを手掛けるプロジェクトも始まって、プロジェクトのリーダーとして関わらせてもらうことが決まっています。個人的には「ゲストハウスにしたらどうかなー?」なんて考えてるんだけど。
もともと、この商店街は吉原宿、宿場町だったんですよね。でもいまはビジネスホテルだけだから、人とのコミュニティがあるゲストハウスがつくれたらいいなぁって思います。意外と外人さんも来るんです。フジシティって言葉の響きで(笑) |
花 |
なるほど、フジシティ。 |
ippei |
まだなにも手をつけていませんが、近くなのでその廃墟ビル見ますか? |
花 |
見たいです! |
お言葉に甘えて、ゲストハウスにする(?)予定の廃墟ビルへ。
入り口に到着。
花 |
いい感じの廃墟ビルですね(興奮)。 |
ippei |
でしょ~。上はもっといいよ~! |
花 |
最高です・・・。ちなみにゲストハウスにするとしたら、やはりこの味を残しつつ――ですか? |
ippei |
そこは絶妙(笑)全部が全部、このテイストを残したほうがいいってわけじゃないかな。ただね、いまはオーナーを含め、俺の身の周りの人たちで廃墟を再生しているのだけど、リノベーションに興味のないオーナーもたくさんいるし、行政や県のお金などで、なんとかしてもらえないかって人もいるし。周辺一帯、都市計画でどどんとマンションやデパートにしちゃいましょう!ってな考えの人ももちろんいる。 |
花 |
ほー。そんななかで、なぜippeiさんたちはDIYリノベーションにこだわるのですか? |
ippei |
かなり安いコストで面白いものができて成功事例ができれば、「うちもしようかな」ってなる人もいるはずだから。ビルを買って「1億かけて人が来るビルになりました」でなくて、「500万でできたんです」って事例をつくりたい。
安くいいものができるのかって思ってもらえたら、じゃあうちも売るよとか、一気にいろいろなことが変わると思うんです。
そういう点から考えると、自分たちのできる範囲でセンスのいいものを作るために、廃墟感を残すってのはコストダウンにもなるし、もともとある建物や周辺へのリスペクトにもなるかなって。それをまず自分たちの手でやらなくちゃって感じ。 |
花 |
まず自分たちで結果を出してからってことなのですね。見習わなきゃ・・・。 |
富士市吉原で発信するワケ
廃墟ビルの屋上に到着。
花 |
お話しを聞いていて思ったのですが、仲間が多いですね。 |
ippei |
ん~、富士から出てしまった人もたくさんいるよ。でも情報はすぐ手に入るし、目に見えないけどつながれるコミュニティは、静岡でも東京でもどこにいてもできる時代だから。そういう意味では「Think global, act local※」。ローカルな場所にいたって面白いことはできて、世界中には発信できる。
※Think global, act local:地球的な視野で考え、地域で行動せよ。 |
花 |
なるほど、ローカルならではのつながりの強さもありますしね。 |
ippei |
そうそう。ここの人は同じ価値観や活動している人を見つけると「逃さねぇ」ってなる(笑)すぐに名刺交換を始めるし、人が人を呼ぶからここ(吉原)に仲間が集まるのかな。 |
花 |
先ほど横で行われていましたね(笑)※カメラマンとして来てくれた友人とシェアオフィスにいた映像クリエイターの中田さんが名刺交換。 |
ippei |
逃さないね~(笑)それと吉原はやりたいことをやらせてくれる町だと思ってます。自分のなかでは魅力的場所です。だからといって新しいことだけじゃなくて、お祭りがあってちゃんと昔からのことを大切にしているところも好きです。ってことを端っこから発信していきたいなぁ~(笑) |
この廃墟ビルがどんな風に生まれ変わるのか楽しみです。富士市吉原の古き良き部分を活かしつつ残すために、真面目に面白いものをつくりだすippeiさんや、その仲間がいるこの町の空は明るく感じました。
これからもippeiさんの活動に注目していきたいですね。ちなみに、MARUICHI BLGD.1962のHPはコチラです。