春の夜風から静岡のバンドまで
月刊ソネレコ【#2】
静岡県に生きる「音楽が友達」という人にきっかけを。今月もやってまいりました「月刊ソネレコ」です!
浜松市の中心街でひっそりと佇む、いまや絶滅危惧種のリアルレコードショップ「sone records(ソーンレコーズ)」。
sone records(通称:ソネレコ)
静岡県浜松市の田町で営業するリアルレコ屋。国内外のインディー全般を中心に取り扱う。新旧を問わないバラエティに富んだ、ニッチな品ぞろえが素敵。
Twitter:@sone_records
店主のクワケンさんに、音楽を抱いて寝ているとウワサの吉松が月ごとのテーマを提示し、そのテーマに沿って数枚ピックアップしてもらうこの連載。
音楽のまちとして知られる浜松から、国内外のインディーをメインに毎月発信しています!
「月刊ソネレコ」4月のテーマ発表
ソネレコの店主クワケンさん。
吉松 |
月刊ソネレコ、今月もよろしくお願いします。 |
クワケン |
はーい。よろしくね。 |
吉松 |
テーマなんですけど、前回の新入荷が好評だったんですよ。だから新入荷だけはレギュラー化しちゃおうかと。 |
クワケン |
あ、そうなの? 俺は紹介しやすいからまったく問題ないよ。 |
月刊ソネレコ【#2】
- 新入荷(2枚)
- 春の夜風に吹かれながら(2枚)
- 静岡県のバンドから(1枚)
それぞれの枚数はこのとおりです。前回よりボリュームアップした計5枚をピックアップしてもらいます!
新入荷「DIET CIG / SWEAR I’M GOOD AT THIS」
吉松 |
それでは新入荷の1枚からで。 |
クワケン |
じつはね、新入荷はあるかなと思って1枚はもう決めていて。 |
吉松 |
あ、そうなんですか。さすがですね。 |
クワケン |
これなんだけどね。ダイエットシグっていうバンドのデビューフルアルバム。 |
「DIET CIG / SWEAR I’M GOOD AT THIS(税込3,218円)」。アメリカはニューヨークの男女デュオバンド「DIET CIG」の1stフルアルバムです。キュートでハスキーなガールボーカルと、パワフルでエモいドラミングがぶつかり合うローファイガレージポップ。2017年4月7日リリース、全12曲入りLP+DLコード付き。
♪DIET CIG – Link in Bio
吉松 |
1発目から飛ばしたバンドですねえ。事前にちらっと連絡したときに、ホットなやつが入るって言ってましたけど、もしかしてこれですか? |
クワケン |
ああ、そうだね。ホットなうちの1枚。2年前くらいにカセットが出て、そのあとに7インチが出て、そのころからすごくいいなと思ってたから、ずっと楽しみにしてたんだよね。 |
吉松 |
楽しみにしていた1枚はどうですか? |
クワケン |
多少似たような曲もあるんだけど、すごくいい。センチメンタルなメロディのガレージロックで、曲自体は切なくないんだけど、キュンときちゃうような。キュートでハスキーなボーカルは特徴的だよね。 |
吉松 |
たしかにそうですね。センチメンタルってのはとくにわかります。ノレてかつグッときちゃう。 |
クワケン |
だけどライブはね、元気いっぱいで。観ていて楽しいだろうなっていう。 |
吉松 |
お、ハチャメチャな感じですか? |
クワケン |
ハチャメチャ・・・ではないかな。すごい動くけどね。とくにボーカルのほうは。 |
新入荷「WESTKUST / JUNK EP」
吉松 |
新入荷の2枚目はなんでしょうか。 |
クワケン |
めちゃくちゃ悩むけど・・・ウェストカストかな。 |
吉松 |
ウェストカスト。前回のベストセラーでも話題に出てきたやつですね※。 |
クワケン |
そうそう。2012年にスウェーデンのレーベルからデビューEPとして出て。15年にはアメリカのレーベルがリイシューで出したんだよ。だから純粋な新譜じゃないけど、今度はリイシューのほう。 |
吉松 |
リイシュー盤の新入荷ですか。 |
クワケン |
うん。2012年のほうは売り切れているんだけど、最近それをDJとかでかけると5年も経ってるからか、「これ誰ですか?」みたいに聞かれるもんでね。だからなんらかの形で入荷できればなと思っていて。 |
※前回のテーマ「ベストセラー」では、ryo hadano『me me me(CD)』が登場しましたが、レコードならウェストカストの12インチが一番売れたと話していました。
「WESTKUST / JUNK EP(税込2,657円)」。スウェーデンの5人組、男女ツインボーカル「WESTKUST」が2012年にリリースしたデビューEPのリイシュー盤12インチです。全身を駆け抜けるようなフレッシュさに、スウィートメロディが浮遊する青春シューゲイズポップ。全4曲入り12インチ+DLコード付き。
♪WESTCUST – Touch
吉松 |
僕、ドストライクですね。これは最高。走り出したくなっちゃいますね。 |
クワケン |
ね。止まんないっすよ。ほんとに。青春はじめました※ですよ。※吉松の名刺に書いてあるキャッチコピー。 |
吉松 |
はっはっは(笑)ありがとうございます。 |
クワケン |
まあね、これはEPで4曲しか入ってないけど、全部が疾走系で駆け抜けていく。変にスローなやつとかないから。無駄がない。全速力だよね。2012年の俺のレビューとかやばいから。いま読むと恥ずかしい。 |
さ・い・こ・うーーーー!!!!!!!!!x1000 感動の涙が止まりません!!!!!(中略)初期Painsも超えた疾走する青春ノイジーポップに心を掴んで離さない男女ボーカルによるあまりにもピュアであまりにも青い感動のメロディーが次から次に降り注ぐ2012年完全マストな鳥肌盤!!!!!!!ジャケットにしめされたストレートエッジの証も泣かせるLtd250 これです!!
sone records公式HP「Westkust – Junk EP (12″+DL)」より
当時のレビューがこちら。ちなみに新入荷のリイシュー盤は新しいレビューになっています。
クワケン |
当時、リリース前にバンドキャンプで1曲だけ発表されていて、それを聴いたらもうたまらんくてね。そのころはラグジュアリーっていうレーベルと直接やり取りしていて、アルパカスポーツの7インチとかスウェディッシュポップみたいのを取り扱っていたんだけど、そしたらこいつが出るっていうから「うわうわうわ、これはくそやべえ」って思ってね(笑) |
吉松 |
いや~これはなりますよ。シューゲイズの男女ボーカル好きにはマストな気がします。 |
クワケン |
素晴らしいよね。これもダイエットシグとは違うけど、メロディがセンチメンタルで。こういう男女ボーカルの疾走胸キュンみたいなのはすごい好きだし。うちっぽいといえば、うちっぽいかな。 |
春の夜風に吹かれながら「Tara Jane O’Neil / Tara Jane O’Neil」
吉松 |
続きまして、前回は春の1枚でしたけど、今回は春の夜風で。3月が昼だとすれば、4月は夜みたいなイメージですけど、そんなチョイスをお願いします。 |
クワケン |
それならこれかな。タラ・ジェイン・オニール。日本版なんだけどね、近いうちにアナログもとる予定だよ。※4月26日(水)or27日(木)の入荷予定だそうです。 |
吉松 |
毎度ですけど初見ですね。どんな感じなんですか? |
クワケン |
もうここまでの雰囲気とはガラッと変わるね。彼女はいつもいいけど、この1枚はとくにいいから。とりあえず聴いてみて。 |
「Tara Jane O’Neil / Tara Jane O’Neil(税込2,160円)」。アメリカのカルフォルニア州を拠点に活動するシンガーソングライター「Tara Jane O’Neil(タラ・ジェイン・オニール)」による、9枚目のオリジナルソロアルバムです。優しくウェットなボーカル、物悲しいアコースティック、幽玄な残響音らが包むドローンフォーク。2017年4月21日リリース、全12曲入り(日本版ボナトラ1曲)CD、紙ジャケット仕様。
♪Tara Jane O’Neil – Blow
吉松 |
ベストマッチじゃないですか。まさに春の夜風に吹かれながら聴きたい。 |
クワケン |
ね。タラはひとりでやっている人で、アルバムによってはエクスペリメンタルというかサイケデリックな要素が強かったりするんだけど。これは本人が「シンガーソングライター作品です」っていうくらいで、いままで以上に歌。タイトルも自分の名前になってるし。 |
吉松 |
そうなんですか。フォークの要素は強めですね。えーと、アズールレイ※みたいな。 |
クワケン |
ああ、はいはい。ちょっと被るところがあるかもね。ちょっと物悲しい感じもするけど、優しい声ですーっと癒されるような。 |
吉松 |
これ聴きながら1杯いきたいですね。 |
クワケン |
夜ね。できればひとりがいいね。ひとりで夜風にあたりながらとか、それかごくごく限られた人数でとか。まあ、全体的にこんな雰囲気だから、ずっと聞けると思うよ。折に触れて(笑) |
吉松 |
(笑)色あせることがなさそうな1枚ですね。 |
クワケン |
だね。あとタラは何回も来日していて、浜松でも2回ライブしているんだよね。1回目はセコンドっていうクラブで、2回目はなんかの縁で僕の企画だったんだけど、それがめちゃくちゃよくてね。また来日したら観に行きたいくらい。 |
※AZURE RAY(アズール・レイ):アメリカの女性インディーユニット。曲調はフォークとエレクトロニカが混ざった物憂い感じ。
春の夜風に吹かれながら「Novella / Change of State」
吉松 |
それでは春の夜風でもう1枚。 |
クワケン |
そうか。これかなー、ノベラっていうイギリスのバンド。 |
「Novella / Change of State(税込2,981円)」。イギリスはブライトン発、ロンドンを拠点に活動する男女混合4人組インディーバンド「Novella」による、2年ぶり2作目のアルバム。角のないスマートなレトロサウンドを、浮遊感のあるミステリアスなメロディが色をつけるサイケフォークロック。2017年2月17日リリース、全10曲入りLP+DLコード付き。
♪Nobella – Change of State
吉松 |
UKっぽさすごいですね。なんだろ、薄暗いけどポップというか。 |
クワケン |
それこそヴェロニカフォールズ※は? |
吉松 |
ああ、知ってます。 |
クワケン |
ヴェロニカフォールズのジェイムズ(ギター)が持ってる、ベットルームスタジオでレコーディングしたらしくて。でも彼は、ほかにサイケデリックというか、フォ-クロックというかそういうバンドもしているんだけどさ。音的にはそっちっぽいんだけどね。レトロフューチャーで、音の質感とか60年代っぽいし。 |
吉松 |
なるほど。レトロフューチャーですか。 |
クワケン |
あとはやっぱり一時期のステレオラブ※っぽい。ギターバンドがステレオラブやってる感じ。 |
吉松 |
ああ~めちゃくちゃしっくりきました。この聞き覚えのある感じはステレオラブか。 |
クワケン |
やっぱりあるよね。全体のイメージは夜だし、いいんじゃないすか。 |
吉松 |
いいですね。さっきとは違った方向ですけど、春の夜風に合ってます。抑揚もないですし。もちろんいい意味ですけど。 |
クワケン |
ほんとそうっすね。ハンマービートというか。キャッチーさもそこまでないし。だからこそ相当なインディ好きじゃないと、ノベラは手を伸ばしづらいんだよね。まあ、どっちがいいとかじゃないんだけどさ。 |
※Veronica Falls(ヴェロニカ・フォールズ):ロンドン発4人組のインディーポップバンド。キャッチーでグルーヴィーな男女混成ツインボーカルで、現地ではもちろん日本国内でもたしかな人気を集める。
※Stereolab(ステレオラブ):1990年にデビューしたロンドン発のオルタナバンド。実験的な音楽性に、政治的な歌詞、そしてポップなメロディという唯一無二の存在感で、世界中のミュージシャンに影響を与えた。
静岡のバンドから「herpiano / friend」
吉松 |
そしたら最後です。これやってみたかったんですけど、静岡のバンドでひとつっていう。 |
クワケン |
そしたらもうこれしかないでしょ。ハーピアノしかないでしょ。 |
吉松 |
わお。ハーピアノですか。もちろん知ってます。隠れファンです。 |
クワケン |
俺も昔から大好きでね、結構前のカセットも持ってるよ。でも前回はリョウハダノで、今回はハーピアノっていうね(笑) |
「herpiano / friend(税込1,296円)」。静岡市を拠点に活動を続ける男女混成インディーロックバンド「herpiano」が、4人編成から3ピースになって初となるミニアルバム。不思議と落ち着くノスタルジックなメロディ、シンプルだから沁みるバンドサウンド、そんな淡いギターロック。2016年11月23日リリース、全5曲入りCD。
♪herpiano – デイドリームビリーバー
吉松 |
なんていうか音が若いですね。 |
クワケン |
もう10年選手で長くやってんのにね、このフレッシュ感はすごいよね。 |
吉松 |
このアルバムはどうですか? |
クワケン |
そうだねえ。この前に出したアルバムもすごいよくて。でも俺なんかが言うのもおこがましいんですけど、出すたびに最高傑作というか。EPではあるんだけど全曲よくて、前より若々しい音になってるし。 |
吉松 |
出すたびに最高傑作って理想的。 |
クワケン |
アメリカのスーパーチャンク※も出すたびに最高傑作みたいな感じで。変に枯れていかなくてさ、常にフレッシュ。ハーピアノはそういう感じがするなって。
・・・すみません、偉そうでね。マキノブラザーズ(ハーピアノのギタボとドラムは兄弟)にぶん殴られますよ。「なにいってんすか、クワケンさん」っつってね(笑) |
吉松 |
(笑)じゃあ、ハーピアノは静岡のスーパーチャンクみたいな。 |
クワケン |
ほんとにそうだね。僕のなかでは。同意してくれる人もいると思うけどな。 |
Superchunk(スーパーチャンク):1989年結成、アメリカの4人組インディーロックバンド。
以上、月刊ソネレコ【#2】でした。来月は「5月病」をテーマのひとつに加えたいなと思っています。また違ったソネレコの一面を届けられるかも。それではまた来月!