80年以上紡がれ続けた糸と伝統
「ふじのくにシャツ」に織り込まれた地元への愛

  • posted.2017/06/08
  • 山口拓巳
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80年以上紡がれ続けた糸と伝統 「ふじのくにシャツ」に織り込まれた地元への愛

地元の伝統芸能や工芸品、昔から続く産業にはどこか惹かれる魅力があります。自分が生まれ育った場所のものだから。伝統品には価値があるから。そこにはさまざまな理由があるかもしれませんが、「地元の誇りに感じられるから」というのは、誰にも共通する理由ではないでしょうか?

リスペクトの上に成り立っている、という言い方もできるかもしれません。

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意味深な入り方をしてごめんなさい。こんにちは、miteco編集部の山口です。

今回の記事は、静岡県「ふじのくにシャツ」ブランドPRの機会をいただいて、企画しています。ふじのくにシャツというのは、地域それぞれで伝統のある柄や生地を使用して作られたシャツのブランド。

僕が紹介するのは、そのなかでも「遠州織物」を使って作られたふじのくにシャツのひとつ「武襯衣(むしゃ)」について。なんですが。

いや、遠州織物ってなに? 聞いたことない。

という方がほとんどではないでしょうか・・・。かくいう僕も、正直に言ってまったくピンときません。

伝統の織物「遠州織物」を使ったシャツ?

遠州織物は県のWEBサイトを見てみると、浜松市を中心に静岡県西部地方で盛んだった綿織物のことのよう。

静岡県西部の遠州地域は、江戸時代には日本でも有数の綿花の産地でした。綿花を栽培する農家は、副業に綿織物の生産をはじめ、やがて定着。明治時代になると紡績工場がつくられ、織機の発明や染色技術の研究が進み、繊維産業(遠州織物)は地場産業として発展してきました。そして遠州地域は、織布、染色などの分業工程の工場が集まる日本有数の綿織物の産地となります。

遠州織物とは|静岡県公式ホームページ

・・・。

全然、知らなかったです。

にしても、ふじのくにシャツについて県のWEBサイトで一覧を見てみると武襯衣は・・・。

musya_02静岡県公式ホームページより。

普通にオシャレ。

江戸時代から、みたいな話なので浴衣や甚平のような和服テイストなのかと思いきや、普通にシャツ。ビジネスユースでもカジュアルファッションでもOKな着やすいデザインだな、と思いませんか?

いったいどんな過程を経たら、地域の伝統的な生地をこうまで現代的にアレンジした商品になるんだろうか・・・。というか、昔のいわゆる和服向けの生地だと思うんですが、それを思いっきり西洋な服に仕立てて着心地とか大丈夫なんですかね?

・・・よし、これは直接聞きに行こう。

わからなければ実際に足を運んで聞いてみるべし。というわけで、遠州織物とふじのくにシャツについて知るために、静岡県は西部地方へと向かいます!

地元と地元で手を組んでイノベーションを起こせたら

まずは武襯衣を作っている会社「制服のキンパラ」さんへ。

磐田市に本社を持つ企業さんで名前の通り、学校制服や企業の制服を取り扱うメーカーさんとして昭和9年創業、今年で83年目という老舗中の老舗です。

西部地方で制服メーカーといえば、キンパラさんというイメージをお持ちの方も多いみたい。

musya_57磐田市の本社からからすぐの場所にある工場。看板からも歴史を感じさせます。

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着きました。ここが武襯衣の製造場所。さっそく事前に取材申し込みしていた旨を伝えると・・・。

musya_f9 お待ちしておりました。本日はよろしくお願いします。
musya_f1山口 あ、miteco編集部の山口です。よろしくお願いします!

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取材対応は開発ご担当者さまとお聞きしていたんですが、なんだかすごそうな面々が3人も・・・! 名刺を交換すると、写真左から静岡ビジネス部係長の伏見さん、代表取締役社長の金原さん、工場長の伊藤さんとのこと。

こ、これは・・・。いい話が聞けるに違いない・・・!

いかんせん緊張してきました。きちんと話をきけるかしら・・・。

musya_41さて、気を取り直して取材です。

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ちなみに、3人とも着ているのはもちろん武襯衣。めちゃめちゃ気合入ってます。

musya_f2山口 本日はお忙しいところお時間を作っていただき、本当にありがとうございます。

 

今日は、ふじのくにシャツの武襯衣についてお話しをお伺いにきたわけですが、キンパラさんで作っている武襯衣ですね。これは、ビジネスユースはもちろん、カジュアル志向も取り入れたシャツだと思うのですが、普段制服を作られているメーカーさんが、こうしたシャツを作られていることが意外に感じられまして・・・。

 

開発の経緯からお伺いしてもよいでしょうか?

musya_f8伊藤 2010年の話なんですが、静岡県庁から「地産ブランドとしてシャツを作りたい」というお話しをいただきまして、県内にある服の仕立てをする工場を視察して回っているなかで、私たちの工場も見ていただいたんですね。

 

そこで、イメージしているシャツの生産が可能な工場であると認めてもらいまして、そこから本格的にシャツを開発・販売する準備に入った。というのが大まかな経緯です。

musya_f2山口 なるほど。県から静岡に根付いたブランドを作ろうという動きがあったんですね。
musya_f9金原 そうなんです。具体的には地場産品である「遠州織物」を使った、ビジネスシーンで着用できるような夏のウェアを作ろうというコンセプトでして。

 

弊社の開発する武襯衣はそのブランドのひとつで、「クールビズ」にあわせた商品として現在でも展開しております。

musya_f2山口 このプロジェクトでは、遠州織物がひとつのキーワードだったということですね。
musya_f7伏見 その通りですね。ふじのくにシャツは、川勝県知事を中心として県の繊維協会とかも協力してのものなんです。だから、初年度の開発・販売はものすごく不安が大きかったですね・・・(笑)

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musya_f2山口 川勝知事! 県知事も肝いりとなればプレッシャーはすごそうですね・・・。
musya_f8伊藤 それはもう。県の一大ブランドを作り上げるという立場をいただき、ありがたかった一方で、そのプレッシャーはすごかったですね(笑)

こだわりにこだわりぬいた「至高の逸品」を作り上げるために

キンパラさんのご厚意で、縫製(生地を縫い上げ、仕立てていく工程)の工場をみせていただけることに。

musya_53キンパラさんは縫製をおこなう「仕立て屋さん」。工場にはミシンがたくさん並んでいます。

基本的にパソコンの前でパチパチタイピングするオフィスにいる僕にとって、こういう工場ってすごく新鮮。「モノが作られている」というだけで、ちょっと興奮します。

そして話はふじのくにシャツ、武襯衣の「こだわり」へ。

musya_f2山口 県のふじのくにシャツのコンセプトをもとに武襯衣を作り上げるのにあたって、こだわった部分というのはありますか?
musya_f8伊藤 大きくは4つです。ひとつは「遠州織物」を使用していること。そして、名前の通りサムライを意識したものですから、「凛としたイメージ」。さらには、「富士山と武襯衣の頭文字であるMを想起させるロゴマーク」・・・。

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musya_f2山口 このロゴ。かっこいいですよね。さりげないけど富士山がアピールされていて静岡っぽいです。
musya_f8伊藤 ありがとうございます。これはふじのくにシャツのなかでも、武襯衣にのみ取り入れているものです。柄や色に合わせて作っていて、色も数種類用意しているんですよ。
musya_f2山口 こ、細かい・・・。
musya_f8伊藤 こういった部分もこだわりですね。目立つのと目立たないのと、そのバランスを見ながらロゴも決めてます。そして、こだわりの最後が「扇子が収納できる胸ポケット」ですね。
musya_f2山口 ・・・扇子?
musya_f9金原 ここはもうたぶん、川勝県知事が一番にこだわられたところではないですかね。じつは、扇子が入るシャツってほとんどないんですよ。武襯衣はこんな感じで入ってしまうんだけど。

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musya_f2山口 あれ? ほんとだ。すっきり入りますね。というかみなさんの胸にもさりげなく・・・。
musya_f8伊藤 これ、パッと見ではわからないんですけれど、胸ポケットにさらに扇子用の内ポケットがついているんです。
musya_f7伏見 ちょっと深めの内ポケットなんで扇子がすっぽりなんです。とくにご年配の方を中心に、このポケットを嬉しがってくれる人も多いですね。入れる場所がなかなか。というお話しで・・・。

 

若い方で扇子を使う方は少数派かもしれませんが、たとえば夏祭りに甚平替わりに着ていただいてもサマになりますから、そういうときにはぜひ扇子を入れてほしいですね。

後ほど自分で購入した武襯衣の内ポケットを見てみると・・・。

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普通のポケットよりも数センチ長く深さがとられています。

こうした細やかなこだわりが随所に入っているのも、武襯衣に対するキンパラさんの思い入れが感じられるところですね。

せっかくのよい生地だからよい縫製を

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musya_f9金原 私たちは縫製を担当する会社でもあるので、こだわりでいえば縫い方も。遠州織物ですから高級な生地ですね。

 

せっかくですから「長く使えるシャツ」に仕立てたいと、「折り伏せ縫い」という通常とは異なる特殊な縫い方で耐久性を高めているんです。

musya_f2山口 高級生地。こういう聞き方をするのは失礼かもしれないんですが・・・。遠州織物の生地というのはそんなに優れた素材なんでしょうか?
musya_f9金原 それはもう、ものすごくよいものですよ。肌触りからして違います。
musya_f2山口 あ、本当だ。柔らかいです。
musya_f8伊藤 そうでしょう(笑)

 

武襯衣は、いくつもの生地屋さんのなかから実際に足を運んで生地を見ながら選んでいっているのですけれども、どの遠州織物も通気性と清涼感に優れ、吸汗性も高いので、とにかく夏の暑いシーズンに着やすいですね。

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musya_f8伊藤 いま山口さんが触れている生地は、その生地屋さんのひとつ、「古橋織布」さんという会社の生地ですね。もう、ここはすごいですよ。

 

昔ながらの織機を使っていまでも生産をなさっていて・・・大変な歴史と伝統をお持ちのところです。これはものすごく細い糸を緻密に織っている生地で、こういう言い方はアレですが、ものが違います。

musya_f2山口 古橋織布さんですか。
musya_f9金原 ここの生地は誰もが知っている世界的に有名な高級ブランドでも採用されるくらい、品質の高い生地なんですよ。

 

古橋織布さんの生地は、ふじのくにシャツの初年度で採用させてもらって。触った瞬間から「あ、これだ!」っていう質感だったんです。

musya_f2山口 ええええ!? めちゃめちゃ高級な生地ってことじゃないですか・・・。触っちゃったよ・・・。
musya_f8伊藤 生地自体も古い織機を使って作っている分、大量生産ができないんですね。

※織機:糸から生地を織る機械のこと。

musya_50裁断機であらかじめ決めた部分を切り取るところ。裁断可能なのが画像の台の黒い部分ですが、武襯衣用の生地はそれよりも幅がずいぶん狭いことがわかります。

musya_f2山口 ちなみに1日に何着生産できるんですか?
musya_f8伊藤 多少の前後はありますが、1日20着くらいが限度ですね。
musya_f2山口 20着!
musya_f7伏見 これだけこだわって生地から縫製からやっていると、原価も高くなってしまって販売価格も高級志向なものとなっているんですが・・・。

 

なかには毎年買ってくださるようなリピーターもいっらしゃって、それだけご納得いだいているのはありがたいですね。

musya_f2山口 たしかに、こういってはなんですが、ファストファッションでは味わうことのできない肌触りのよさを感じます。これは、一度着たら何着もほしくなっちゃうかも・・・。
musya_f7伏見 ありがとうございます。本当にこれでもかというくらいこだわって作っていますので、ぜひこの着心地は実感してみてほしいです。

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ちなみに武襯衣はセミオーダーメイドでの注文も可能なのも特徴。制服屋さんならではの、一人ひとりにあわせた微妙なサイズや、柄・生地が複数あることを利用した自分だけの武襯衣も作れるので、「こだわり抜いたシャツをさらにこだわって自分だけの1着」を作ることだってできるんです。

すごい。のひと言。

とにかく伝わってきたのは「地元産のものでどこまでこだわって作れるか」ということ。扇子が入るような内ポケットも、特殊な縫製手法である折り伏せ縫いも、全部はその逸品を作るためだったワケです。

で、そのなかでもやっぱり大切とおっしゃっていたのは「生地」。シャツの着心地をはじめとして、機能性や見た目にも大きな影響があるのが生地ですから、もちろんこだわって選定しているというお話しでした。

そこで次は、商品を作る立場の人も「これだ!」と思わずうなってしまった生地屋さんのひとつ、古橋織布さんに取材へ行くことにしました

※セミオーダーは各店頭にて受け付けています。最寄りの販売店へとご相談ください。

この地で創業して90年「古橋織布」が続けている生地の作り方

musya_200取材を受けてくださるのは、3代目社長の古橋さん。着ているのはもちろん「武襯衣」。

後日、浜松市にある織物屋「古橋織布」さんへ。こちらの会社も2018年に創業90年を迎えるとのこと。まさに、浜松の織物産業とともに歩んだ企業さんです。古橋社長自らが「遠州織物についてなら」とふたつ返事で取材を快諾いただき、取材前からその熱意を感じた状態の僕はやっぱり緊張気味。

musya_23取材は工場の向かい側にある建物で。

musya_f4 山口 ものすごく趣のある場所ですね・・・。この建物や工場はいつからあるものなんでしょうか?
musya_f5古橋 ここは・・・。どれくらいだろう。2年前にリノベーションをして、こういう奇麗な建物にしていまは方々から来てくださるお客さんとの話し合いの場所にね。でも、昔は住み込みの女工さんが使う宿舎で・・・
musya_f4 山口 女工さん! もう、映画とか教科書でしか知らないような世界の話なんですが。
musya_f5古橋 とはいえ、それはもうかなり昔の話になるね。私が子供のころだから、昭和30年(1955年)ごろかな。ここに(2階部分)に若い女性の方が寝泊まりしていて、下で私たち家族が暮らしてました。
musya_f4 山口 なんというか・・・。本当に歴史を感じました。すみません感想が浅くて。
musya_f5古橋 いえいえ。
musya_f4 山口 そういう歴史という観点も関係しますが、ふじのくにシャツに使われている生地に古橋織布さんのものが採用されているというお話しで。
musya_f5古橋 そうです。おかげさまで選んでもらってますね。
musya_f4 山口 で、まずは大変恐縮なんですけれども、遠州織物そのものについてお伺いしてもよいでしょうか?

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musya_f5古橋 はいはい。遠州地域は江戸時代から綿の栽培が盛んだったから、その周辺では糸を作ったり手機(てばた)がおこなわれていたり・・・。それから発展が続いていって、機械が取り入れられてという流れ。
musya_f4 山口 それを総称として遠州織物、というわけですか。
musya_f5古橋 機械が入ったあとだったかな、名前として聞くようになったのは。当時は日本三大織物産地というのがあって、浜松もそのひとつに数えられていた。あとは三河(愛知)と泉州(大阪)だね。

 

昭和のはじめから40年前半くらいまでが一番栄えた時代だったな。世界的に有名な紡績会社が日本にも15くらいあったんだけど、そのうち10社くらいが浜松周辺。

 

それで、「そんなすごい紡績工場があるなら生地もやろう」ってんで、織物工場もたくさん。多いときで1500社くらい。浜松の産業の8割が繊維産業だから、とにかく盛んだったな

musya_f4 山口 1500社・・・! そんなに栄えていたのにいまの世代にはあまりなじみがないというか・・・。
musya_f5古橋 知名度はなくなってしまった。時代の流れだね。いまはもう紡績会社もゼロになっちゃったから。みんな海外へ行って。それで織物屋さんも廃業していってしまった。
musya_f4 山口 たくさんあったのに、なくなってしまったんですね。
musya_f5古橋 そうそう。やっぱりそのあとになると円高が進むでしょ? 輸入品が増えてきて、価格では勝てないからと工場はみんな辞めちゃった。いまもやっているところはここも含めて、この地域では70くらい。
musya_f4 山口 1500から70って・・・。すさまじい変化だ。

いまに当時の織物を伝える古橋織布の織機

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musya_f4 山口 そういった時代の流れのなかでも変わらずに続けている古橋織布さんですが、制服のキンパラさんでお聞きしたら、なんでも古い織機を使われているというお話しなんですが。
musya_f5古橋 ええ。そうですね。
musya_f4 山口 ちなみにどれくらい前の織機なんですか?
musya_f5古橋 んー。40,50年前のものを使ってやっていますね。もちろん、ガタはくるから直し直し。

 

古いことには間違いないのだけれど、ウチにとっては扱いやすい織機だからね。最新の高速織機がダメという話ではないんだけれど、使い慣れてるから。それに、これにしか出せない味があるんだよね。風合いというか、肌触りのよい生地がね。

musya_f4 山口 たしかに、キンパラさんでも古橋織布さんの生地はすごい。ほかには作れないものを、新しいものとして提供してくれる、というふうにお話しされていました。
musya_f5古橋 ウチが作っているものは、新しいわけじゃない。なにしろ古い機械でやってるくらいだし(笑)

musya_18室内は色とりどり、素材もさまざまな生地のサンプルがびっしり。

musya_f4 山口 でも、一流の高級ブランドにも選ばれたとか・・・。
musya_f5古橋 ウチは25年くらい前にいつまでも下請けでやっても仕方ないからって、長年の技術を活かして直接売りを目指し始めた。20年くらい続けて、こうしてたくさんのサンプルを用意できて・・・。いまは9割のお客さんと国内海外問わず直接取引をさせてもらってる。
musya_f4 山口 続けてきたからこそ、それを武器に。すごい・・・。
musya_f5古橋 でも、本当に時代というのは面白くって、今日も山口さんの前に若いデザイナーが3人ばかしここにきて、「もうちょっとこういうのはできないか」「柔らかいのはあるか」って聞いてくるんです。古い織機でつくった味のある生地を気に入ってくれる。

 

だから、私はそれに対して自分の持っている技術と知識で、できる限り近いものを提供してあげる。いっときはいらないと市場からはじき出されそうにはなったけど、こうしてまた認めてもらえるのは、いまの若い人たちが質感を求めてくれるようになったからだと思いますね。

musya_f4 山口 そうしたなかでふじのくにシャツの話も出てきた、っていうのはとてつもない流れを感じますね。世代も超えて、「そのよさが伝わるからこそこれを残すんだ」という意思に、すごく魅力的だなって感じます。
musya_f5古橋 そうそう。もともとはシャツを作るための生地ではなかったんだけど、うまくアレンジすれば使える。

 

伝統だからと昔の形なんじゃなくて、昔の技術を使っていまに合わせた、時代に合わせたものをこれからも作れたらなって思ってます。

60年前から変わらぬ風景と紡がれ続けるモノ

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こうして遠州織物について伺ったあとは、古橋さんの案内で工場内を見せていただけることに。こちらの工場もできて60年というスケールの大きさ。僕の年齢の軽くダブルスコアですよ。

musya_f6古橋 中はかなり音が大きくて・・・。それだけはどうしようもないので、先に覚えておいてください。
musya_f3  山口 ・・・はい!

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musya_f3  山口 うわー! これはすごい!!

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みてください。この壮観な景色。

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でも、ここの工場にとっては当たり前の、60年前から続く景色。古橋さんにとっては、生まれたときから必然的に存在した景色なんです。

musya_f6古橋 ウチで作ってて武襯衣でも使われている生地は、こういう細い糸を使っていてね。これだと、ちょっと波打つような生地になるのが特徴なんだけど・・・。ちょっと触ってみて。すごく肌触りがよくて薄いよ。
musya_f3  山口 たしかに! とにかく触り心地がいいですね。
musya_f6古橋 そうでしょう。
musya_f3  山口 この細い糸というのは、遠州織物特有のものなんですか?

musya_36古橋さんの注意通り、工場内は織機の音が鳴り響き、耳を近づけないと声が聞き取れないレベル・・・!

musya_f6古橋 細い糸を使うこと自体は特有というより、技術だよ。浜松は昔から紡績が盛んだった場所だからいろいろな企業がさまざまな技術を持っていて。細い糸を作る技術もあった。

 

綿織物というのは、生地を織るときには糊付けをするのが普通。そうしないと織るときに毛羽がすごいことになっちゃうから・・・。この織機の周りにあるのが毛羽。

musya_30これホコリとかが堆積したんじゃなくて、織るときにどうしても出てしまうものだった。

musya_f6古橋 産地によっても糊付けの有無は違うんだけど、細い糸であれば糊付けしないで織るのも珍しい話じゃなくて、こうしていまでもその手法でやってる。
musya_f3  山口 遠州織物の質が高いというのはそういうところにも秘密が・・・。織機もこれじゃないと細い糸を作るのは難しいんですか?
musya_f6古橋 そうだね。いま、大量生産で使われる高速織機とここのシャトル織機の違いはスピードなんだけど、どうしてそのスピードの違いが出るかというと、シャトルが通るかどうか。シャトルが往復して経糸を通すかっていうところで、高速織機は一方通行で経糸が通っている。それが違いになるんだ。
musya_f3  山口 シャ、シャトルが通る・・・?

musya_07中央下の木の部品がシャトル。かなりのスピードで動いているのでハッキリ撮影できません。

と言いながら、シャトルについて教えてくれました。

musya_f6古橋 まず機械でシャトルの通る隙間が空いて、ここをシャトルが通る。

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musya_f6古橋 それでいったん閉じて、また開く。

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musya_f6古橋 で、開いたところをシャトルが戻ってくる。これで1往復。こうすると細い糸でも切れづらくて丈夫な生地ができる。
musya_f3  山口 ははあ・・・。細い糸だから経糸をかませることも大切で、それを往復させるシャトル織機だから時間がかかるんですね。

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musya_f6古橋 そう。どうしても速いものと比べちゃうと、2から3倍程度遅いスピードになっちゃう。昔は女工さんに手伝ってもらって、24時間工場を動かしていたけど、いまは12時間稼働だから作れる生地は限られちゃうんだよ。
musya_f3  山口 大変貴重なものだということですね。
musya_f6古橋 でも、ただ遅くて出来上がるのに時間がかかるだけなら、それは別に意味はないでしょ?

 

ほかの生地よりも時間も手間もかかってしまうけど、だからこそ他所では作れないものを提供したいんです。

地域の歴史とこだわりとそれを残したい、続けたいが詰まったシャツ

ふじのくにシャツを思い浮かべたとき、そこにあるのは「ちょっと高いシャツ」。1枚1万円前後が主流です。一方で、ファストファッションなら新品のシャツでも2~3,000円も出せば半そでのシャツ1枚買うには事足ります。おしゃれさを求めても、1万2万とお金をかけてシャツを買い揃える方は少ないかもしれません。

でも、一方で当たり前のことではありますが、その価格には必ず理由があります。ふじのくにシャツ、武襯衣には十分すぎるほどにその理由が「こだわり」が詰まっていました。90年前から機械の使い方から織り方まで受け継がれ、そしてそうやってできた世界に認められる生地を同じく80年間続く企業が、機能性や見た目にこだわり抜いて縫い上げていく。

それは、武襯衣に携わる方々の言葉にも表れていました。今回取材させていただいた会社の社長さんはそれぞれ、

musya_f9金原 いまは昔に比べて遠州織物の知名度も下がってきてしまったところがこのプロジェクトの起点になっております。その点については地元で長く縫製の仕事、いわば生地を服にしていく過程の最後をやらせていただいている私たちが、地元の人と連携して「よいもの」をきちんと伝えていこう。展開していこうという気持ちがありました。
musya_f5古橋 時代時代の流れはあるけど、そこで自分たちが残し続けてきたものを活かすことを考えて、それを欲しいと言ってくれる人がいるから続けてこられました。

これらの言葉には、「熟年の」という言葉ですら薄っぺらく感じるほどの厚みがこもっていました。

musya_150そんな熱意に打たれて買ってしまった僕。すごく着やすくて、たしかに夏場はこれなら楽そう。

クールビズにあやかり紳士層に向けて開発された、武襯衣は父の日のプレゼントとして価格感もよく、選ばれやすいといいますが、一方で近年は若者向けを意識したデザインも登場。2016年からは、天然由来の染物の生地を使用した「ボタニカルダイ」のシリーズも展開。優しい色合いは、肌触りも含めて抜群です。

お父さんへ送るシャツと一緒に自分が着るための1着にもピッタリです。これからの季節、地元の想いが紡がれた逸品を身に着けて涼しい夏を過ごしてみませんか?

静岡県ふじのくにシャツのホームページはこちら⇒http://www.pref.shizuoka.jp/sangyou/sa-560/261003hujinokunishirts.html