趣味で絵を描いてたらいつの間にか独立!?
静岡・起業家のホンネ【第2回】
こんにちは、編集部の安藤悟です。
私は株式会社エストリンクスで代表取締役社長をしています。2012年9月に独立開業してからちょうど4年が経ちますが、同じ時代を生きる起業家は、何を考え、どんなことをしているのか、ふと知りたくなりました。
そんな経緯で始めた「静岡・起業家のホンネ」という企画の第2回目です。
フィーリングを大切にするイラストレーター
今回お会いしたのは、静岡県富士市を拠点に活躍する、イラストレーターのサノユカシさん(以下、ユカシさん)。
2009年から活動中・・・と、さっそく第1回に掲げた条件(独立後3年以内)と少し違いますが、「弊社の白鳥が紹介してくれたこと」「クリエイティブ職のお話が聞きたい」という理由で取材させていただきました。
さて、ユカシさんとお話しした第一印象は、お腹の底から笑う人というイメージです。
見たものや聞いたものをそのまま受け取る人というか。「フィーリングを大切にする方なのかな?」と思いながら、話を聞いてみました。
(個人的には最大級の賛辞ですがいかがでしょうか・・・?)
「絵を描きながらインタビュー」という、イラストレーターさんらしいスタイルでお届けします。
「なんか、苦しいぞ」と思って独立
今日のために用意してくれた過去のイラスト作品。
「元々、起業する気がまったくなかった」というユカシさん。趣味のつもりで描いていたら忙しくなって、本業から押し出されるように独立したそうです。
安藤 |
ユカシさんはイラストレーターさんなんですよね。元々、絵を描き始めたのと、絵を仕事にしたきっかけはなんですか? |
ユカシさん |
幼稚園のときからずーっと絵を描くのが好きだったので、覚えてないです。大人になってからも絵を続けていたんですけど、職業にしたいとは一切思っていなくて。友達に「絵を描いて」って言われたらお小遣い程度にお金をもらうくらいでした。 |
安藤 |
なぜ、独立しようと思ったんですか? |
ユカシさん |
成り行きですね(笑) 独立直前は「絵を描いて楽しく暮らせる毎日を過ごそう」と思ってパン工場で働いてました。朝8時から夕方5時まで工場勤務で、余った時間はずっと絵を描いていたんです。
でも、いつの間にか睡眠時間を削るくらい、絵のお仕事が忙しくなって。「なんか、絵を描くのが苦しいぞ」と思って、パン工場を辞めちゃいました。 |
安藤 |
僕と似てます! 倉庫作業員をしながら趣味で文章を書いてたら、ライターになっちゃいました。 僕は独立するときに不安だったんですが、ユカシさんは不安じゃなかったですか? |
ユカシさん |
「生活できなくなったら、また就職すればいいかなぁ」くらいに思ってて。でも、7年続いちゃいましたねぇ(笑) |
お酒を飲みながら、みんなでいいものを作るくらいの気持ちが楽しい!
趣味で絵を描き続けていたというユカシさん。いまどんな仕事をしていて、どんな気持ちで描いているのかを教えてくれました。
安藤 |
イラストレーターさんって、どんな仕事が多いんですか? |
ユカシさん |
絵に関してはなんでも・・・というか文字も書いたり、アートディレクターみたいなこともしたり。イラストレーターっていうのが伝わりやすいと思うんだけど、なんか違うなとも思っていて、自分のことは「絵かき屋さん」って呼んでます。 |
安藤 |
じゃあ、これからはユカシさんのことを絵かき屋さんと呼びます(笑)趣味で描き始めたと言いますが、どこかで勉強したんですか? |
ユカシさん |
ぜんぜん! 独学って言ったらカッコイイけど、ずっと勝手に描いてただけ。画風もどんどん変わってるし、絵を描くときは「偶然性」も大事にしたいなと思ってて。偶然できたアートってワクワクしませんか? |
スケッチブックを見ずに引いた線に色付け。かわいいイラストになってます!
安藤 |
確かに、偶然生まれたモノって素敵です。でも、仕事はどうやって進めてるんですか? |
ユカシさん |
もちろん、クライアントさんがいるときはきちんとやってますよ(笑) 逆に、「色は?」「イメージは?」とか、しつこいくらいすごいいろいろ聞く。でも、お酒でも飲みながらあーだこーだ言って、いいものをみんなで作るほうがよっぽど楽しい! |
会話から生まれる作品。「ノリさんのかき氷」の手ぬぐい(写真右)、山口県産コシヒカリ・「たわらの山」(写真左)。
安藤 |
じゃあ、クライアントさんとイメージを共有してから描いてるんですね。少し話は変わりますが、憧れているイラストレーターさんっていたんですか? |
ユカシさん |
うーん・・・一番は楳図かずお先生ですよね(笑) |
安藤 |
イラストレーターじゃないですね(笑) |
会いたい人に会うことは絵を描くよりも大切
よく絵を描きに来るという公園。
「気付いたら独立していた」と話すユカシさんですが、絵を勉強していたわけではないそう。さらに、営業活動らしいことも全然しなかったとか。どうして7年間も仕事が続いたのでしょうか?
安藤 |
独立してから、どうやって仕事をもらったんですか? |
ユカシさん |
最初は友達からもらってましたね。結婚式のウェルカムボードとか。元々、有限会社ケンブリッジの森(デザイン事務所)のカフェで、師匠の藤原さんの下で働いていたので、その縁でいろいろな人とつながりました。 |
安藤 |
へぇ。でも、縁だけで仕事って増えるんですか? |
ユカシさん |
それが、お仕事がなくならないんです。ホントに周りの方のおかげでいただけている感じです。まぁ、宣伝して、忙しすぎたらギスギスしちゃう気がするし、お待たせしても悪いし・・・。
忙しいことも大事だけど、ちゃんと遊んだり寝たりすることも大切(笑) |
安藤 |
どうして、宣伝しないのに仕事が続いたと思いますか? |
ユカシさん |
お仕事をいただけているのは、ホントに人間関係ですね。師匠から、「上手な絵や美しい絵を描くための技術を磨くことも大切だけど、それ以上に人のつながりなくしてはお仕事にはならない」と教わりました。
たとえば、たくさんの縁がなくてもいいけど、せっかく出会ったのに、それからお手紙や電話がないのは寂しいじゃないですか。会いたい人にはちゃんと会うし、せめて忙しくても電話をすることのほうが、絵を描くよりもよっぽど大切だなって私は思います。 |
7年間でアレが一番泣きました
絵本「ちんじゅうくん」(作・あしざわまさみ/絵・サノユカシ)。こちらも知人の縁で誕生したそうです。
「人間関係を大切にしたい」と話すユカシさん。だからこそ、人間関係で真剣に悩んだり、つらかったりしたこともたくさんあるようです。
安藤 |
「絵を描きながら楽しい毎日を過ごしたい」とお話していましたが、つらかったことってありますか? たとえば、お金とか。 |
ユカシさん |
最初の1年くらいは、お金の問題も気にしてました。でも、フリーランスは頑張ったら稼げるし自由にお休みも取れるから、いちいち考えなくなりました。どっちかというと、人間関係のほうが悩みましたね。 |
安藤 |
人を大切にするイメージがありますが、人間関係の悩みですか? |
ユカシさん |
一時期、一気に人が離れてしまって。「どうして必要とされないんだろう?」って思ってたけど、いま考えると、常識で考えたらありえないことをしてたんですよね・・・。あっ、でも、これ独立する前だ。 最近だと、アレですね。 |
安藤 |
アレ? |
ユカシさん |
廃ホテルのスペースを使って子どもと絵を描くことがあったんです。ちょっと目を離したスキに、子どもたちがトイレとかに筆を突っ込んだりして。
廃ホテルだからトイレも汚れているのに、絵を描かれちゃったんです。「私の大事な道具になんという・・・!」と思って、起業してから7年間でアレが一番泣きました。もう、子どもみたいにわんわんと。 |
安藤 |
うわっ、それは悲しいですね・・・ |
ユカシさん |
でも、私の落ち度とか情けなさもあったんで、仕方ないなぁって。これも人間関係の悩みのひとつかな。 |
起業したいって言うヒマがあるならやったらいいじゃん
安藤 |
すごく面白い話でした! 最後に、「これから起業しよう」って思ってる人にメッセージとか、アドバイスってありますか? |
ユカシさん |
「起業したい」って言うヒマがあるなら、「やったらいいじゃん」って言うかな~!
たとえば、何年も「外国行きた~い!」って言ってる人に「行けば?」って言うと、「いまは治安が悪いから・・・」とか言い訳が多いなって。
「死ぬときはどこでも死ぬんだから、行きたいときに行け!」って思うんですよね。 |
安藤 |
・・・これ、記事にして大丈夫ですか? |
ユカシさん |
先輩方に「エラそうだなぁ」と怒られそうですが(笑) |
ユカシさん |
・・・ぜんぜん関係ないんですけど、趣味ってありますか? 趣味が仕事になっちゃって困ってたんですが、私、最近釣りの楽しさを知っちゃったんですよ! |
安藤 |
釣り、好きそうですね! 最近は、ボルダリングやってますね。 |
ユカシさん |
あ~、筆が握れなくなるから、私は絶対やらないわ・・・(笑) |
途中から友達と話してるような感じになってしまいました。軽やかなタッチのイラストですが、絵かき屋さんとしてのプロ意識、フリーランスならではの根性みたいなものを感じます。街中に出かけるとユカシさんが描いた作品があるので、意外なところで出会うかもしれません!