アパレル業界から「みかん農家」へ転身!
世界一オシャレでカッコいい農家への道

  • posted.2018/03/21
  • kajo
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アパレル業界から「みかん農家」へ転身! 世界一オシャレでカッコいい農家への道

静岡県の特産品として、私たちにも馴染みの深い「みかん」。

県内にいくつもある品種のなかで、沼津・西浦地区を中心に栽培される沼津ブランド「寿太郎みかん」は、濃厚な甘みとバランスのいい酸味が特徴です。

そんな寿太郎みかんが有名な沼津・西浦地区で、アパレル業界出身・5代目みかん農家という異色の経歴を持つ方がいるのだとか。

アパレルから新規就農者としてみかん農業に足を踏み入れた理由や今後の展望を、5代目みかん農家の関野拓郎さんに伺いました。

アパレル出身の僕がみかん農家を継いだワケ

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5代目みかん農家 関野拓郎さん

「農業には全く興味が無かったです、継ぐなんて思ってもなかった(苦笑)」

みかん農家4代目である父と祖母の2人で営んできた実家のみかん農家を継ぐため、関野さんが地元・沼津に帰って来たのは2016年春。3人兄弟の次男ですが、家業を誰が継ぐのかという話はそれまで出ていませんでした。

継ぐ大きなきっかけとなったのは、おばあさんが亡くなったこと。また結婚して子供を持ったこと、ファッション業界の今後にかげりが見えていたことも要因のひとつだったと言います。

それまで関野さんは新卒で飛び込んだアパレル業界で10年間働き続け、沼津に戻るまでは、大阪でファッションブランドの販売統括(セールスマネージャー)に就いていました。

mikan_face_02関野 はじめこそ戸惑ったものの、いまではアパレルの小売販売で培ったノウハウや感覚的なセンスを、農業になにかしらの形で落とし込めたら面白いんじゃないかなと思っています。

息つく間のないみかん農家の1年間

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約9,000坪、年間約60tの出荷量を誇る関野さんの畑

360度、見渡す限りのみかん畑は圧巻で、開墾中だという土地にはショベルカーが待機しています。普段、筆者の私が西伊豆の海岸線に見慣れていたみかん畑は一部的なもの、その山の裏側にこのような広大な畑が広がっていたことに驚きました。

開墾の時期は春。生命力の衰えた古い木を切り、新しく植樹をします。夏には余分な果実を摘み取る摘果の作業をし、秋が収穫のピーク。9〜12月の間に、みかんの収穫は全て終わっている状態です。

収穫期は朝の6時から作業に入り、まだ日も明けぬ暗い時間から父と黙々、みかんの木と向き合う……。シーズンごとに農薬や肥料を散布して、木のメンテナンスも行わなければなりません。

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貯蔵庫の寿太郎みかん

1〜3月には、貯蔵庫に寝かせていたみかんの出荷作業、春の改植のための準備を開始。年間を通して、絶え間なく農作業は続きます。

直面した壁の先に見えた「自分の道」

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朝が早く、休みはない。ですが体力的な部分も含め、仕事面での苦労は想定していたと話します。そのなか関野さんは「農業だけやっていてはダメになる」と思った瞬間があったようです。

実際にみかん農家に転身した関野さんが、もっとも辛く苦しいと感じたこと。それは「農家になったら、向き合う相手はみかん、会話をするのは師である父や家族」 という息苦しさでした。

関野さんの前職場では、話題の共有や意見交換が活発だったそう。自分の興味はあっても、話す相手や話題はおのずと限定されることがこんなに苦痛だとは思わなかったのです。

しかし、この環境だからこそ、見えてきたものはありました。

mikan_face_02関野 自分は5代目みかん農家として、なにができるのかということをよく考えます。その結果、農業以外でもコミュニティを広げ、自分も発信媒体に所属することで、地域や西浦のみかん農家のことを発信していく立場になりました。

静岡県の農業就業人口は、60歳以上が過半数を占めており、高齢化が進んでいます。人材不足が嘆かれる現在、関野さんのような若い世代が今後の農業を背負っていくのです。

常識に捉われない「かっこいい」農家へ

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先代が受賞してきた表彰状の数々

父から子へ受け継ぐ、みかんづくりの技やノウハウは、マニュアル化されているものではありません。ですが今後新規就農者の獲得を目指すには、作業のマニュアル化が必要。

そのため現在はインフラ整備をして、新規就農者受け入れのための器の準備を進めている段階です。関野さんいわく、いまの農業に変化は不可欠。市場のニーズにスピード感を持って対応していく、柔軟性が求められます。

ビジネスとしての農業を考える。若者が将来の職業の候補に、農家を選べるような未来を描いていく。みかん農家の現状を変えていくベースとして、ここ西浦が今後舞台のひとつとなっていくかもしれません。

mikan_face_02関野 僕は、実際に自分がみかん農家になったことで、面白さやかっこよさを痛感しました。西浦地区のみかん農家を、世界一オシャレでかっこいい農家にしたいんです。みかんをひとつのツールとして、この土地にストーリー性を与え、人にその魅力を体感して欲しいと思っています。

5代目みかん農家として、3回目の春を迎える関野さん。その目には一切の迷いも感じられませんでした。今後は、メディア露出や写真を使用しての地域活性の活動にも力を入れていくと言います。

西浦みかん農家が、世界一オシャレでかっこいい農家になる日はそう遠くないのかも知れないと、強く思いました。

沼津で新たなストーリーが生まれる場所