浜松引佐で青春の夢を実現させた「CLOVER13」
大切なふるさとに刺さる場所をつくるには
空気は澄んで風の音ばかり聞こえる、コンビニもスーパーもない山奥の町。ここにひときわ目立つ大きな一軒家がありました。
浜松市北区引佐町のカフェ&バー「CLOVER13(クローバーサーティーン)」。大学の先輩が「浜松のド田舎で生まれ育った友人が4年前、故郷に戻ってカフェを始めてさ――」と、ずいぶん楽しそうに話してくれたお店です。
店主は故郷のつながりを大切にしていて、カフェ&バーとしてだけでなく、地域の課題にも向き合った活動をしているとか。CLOVER13から見えるローカルってなんだろう?
CLOVER13=引佐の秘密基地?
かつては、隣にある美容院「向日葵」が使っていたCLOVER13の建物。外観はそのままに、内装だけリノベーションしています。外に張り出しているテラスデッキは店主によるDIY。
CLOVER13の店主、伊藤翔さんです。昭和63年生まれの29歳。人口は約660人の小さな町(2017年時点)、渋川寺野で生まれ育ちました。高校卒業後、工場で5年間働いたあと、3・11のボランティアや東京での飲食修行を経て、いまに至ります。
吉松 | CLOVER13ができるまで、どんなストーリーがあったんですか? |
翔 | 中学校のころさ、この辺を自転車で走り回る、地域のみんなが知ってるような集団にいて。でも集まる場所ってのは近くの商店だけ。「なんか秘密基地みたいなものはないかね」「誰か作ってくれんかね」みたいなことを、みんなでずっと言ってたんだよ。 |
吉松 | もしかしてそれを実現したのがココですか。 |
翔 | まあ、言ってみればそうだね。1度は社会に出たけど、秘密基地を求める気持ちは残ってて。自分でお店やりたいとか言いふらしまわってたら、隣の向日葵が「お前やるか~?」って言うから「え! やっていんですか! じゃあ!」ってさ(笑) |
内装は美容院だった名残はほぼなく、テーマにしているらしい「アメリカンガレージ」な雰囲気。
吉松 | 当時、一緒にいた友達集団はどういった反応で? |
翔 | めちゃくちゃ応援してくれてるね。「お前やるのか! じゃあ、俺らも最大限協力するから」みたいな。リノベーションだってデザインからなにから全部相談に乗ってくれてさ。俺ひとりじゃできないことを担ってくれてるかな。 |
吉松 | 実際に、秘密基地みたいなものにはなってますかね。 |
翔 | ちょっとなってるかな。日曜の夜には同年代が集まったり、ちょっと下の人らがなんか買ってきてくれたり。地元の中学生が「打ち上げやるんで使わせてください!」って、4~5人で来たこともあったね。「あ、いいな! 俺が中学のころやりたかったことをこいつらがやってる!」みたいな。羨ましかったよ。 |
吉松 | 羨ましかったんですか(笑) |
翔 | そうそう。まあ、やる意味があったとも思ったし、目指してることができてきてるのは嬉しいな。 |
地元のつながりが大きな力に
CLOVER13から外を見渡すと新東名高速と山、そして生い茂る緑が広がります。
吉松 | あの、言ってしまうとここは田舎じゃないですか。すごく。 |
翔 | そうだね(笑)間違いないよ。 |
吉松 | 引佐で飲食店を4年も続けられているのは、どんな理由があると思いますか? |
翔 | やっぱり地元のつながりかな。友達もそうだし、この店を見てくれる人がたくさんいる。たとえば、ここで使ってる野菜は、地元のおじいちゃんおばあちゃんのやつでさ。もちろん仕入れもするけど、ケーキを持って行ってそれと交換とかもよくあるし。 |
CLOVER13の看板メニュー「野菜カレー」。10種類のスパイスと引佐の畑で採れた新鮮な野菜を贅沢に。
吉松 | 地元のつながりを一番に感じる瞬間はなんですか? |
翔 | 出会いの場とかじゃないけど、「この場所で知り合いました」みたいな話を聞くと「おっ!」って思うな。俺の知ってる先輩が来てるときに、地元の子も来て意気投合。後日、仲良くなって思い出話になったときに、「そういえば、最初の出会いはここだね」とか。 |
吉松 | おー、秘密基地のメンバーが増えていくみたいでワクワクしますね。 |
翔 | 面白いだよ、これが!(笑)小さい街だけど、全員が顔見知りなわけではないからさ。でも小さい街だからこそ、つながるのも早いんだよ。 |
吉松 | 秘密基地を作ろうっていう気持ちから、みんなの秘密基地になってきてるのはすごいですね。お店の意義はここにあるというか。 |
翔 | そうだね。うちのコンセプトは「フルサト ツナガリ タノシク」だからさ、もう全てここに詰まってるね。 |
地元に刺さる「場所」をつくるには?
吉松 | ここを教えてくれた先輩から、翔さんは地域でいろんな活動をされてるって聞いたんですけども。 |
翔 | おおお(笑)喋るねえあいつ。 |
吉松 | お祭りの話とか、詳しく聞いていいですか? |
翔 | あー、このあたりでやってる、お盆のお祭りの話だと思うんだけど。ここから出た人が自分の子供の顔を見せに帰省するタイミングで、小学校のグラウンドを使ってワッとお祭りをやっててさ。昔から。 |
吉松 | それが廃れてきてるんでしたっけ。 |
翔 | そう。人が減るなかでつぶれたり、復活はするけど小規模になったり。だから「お盆はこんなお祭りがあるから帰ってこよう」って思えるお祭りをまた作りたいんだよね。 |
翔 | でもここは保守的な風潮があるから、新しい意見を出しても受け入れられづらい。だからいまはお祭りでカレーを提供しつつ、小刻みに意見を言ってる(笑)最終的にはドカンと変えていきたいかな。5年とか長いスパンだけどさ。 |
吉松 | 保守的な場所での活動ほど、地道にやっていくしかないんですかね? |
翔 | 最初から新しいことを持ち込んでもいいけど、「どうぞどうぞ。やってますね」とかさ、反感というより他人事になっちゃったりするから。きっと文句は言われないけど、賛成もされないだろうなと思うんだよ。 |
吉松 | 無関心ってことですか。 |
翔 | そうそう。地元に刺さるかどうかは大事で、せっかくいいものをやってもあんまり沁みないのは意味ないと思う。「いまあるものから形を変えたほうが根付くのかな」っていう感覚はあるね。 |
伝統を「引佐っぽく」変えていく
吉松 | 形を変えていくってことは、もちろん伝統を残しつつですよね。 |
翔 | そうだね。伝統もすごく大事だと思う。でもいまの人たちに合う形にちょっとずつでも変えていかないと、ごちゃごちゃの地域になるか、すごい固いところになるかのどっちかだから。そのバランス感覚かな。 |
吉松 | 先ほどの話をひっくり返すようですが、新しいことをとにかく続ける方法もあると思うんです。 |
翔 | ガッツリ変えちゃうのは、やっぱり僕も地元の人間として悲しいんだよね。「引佐っぽくなくなっちゃったな・・・」みたいのは起こり得ると思うんだよ。
地元に戻ってきたからこそ、親たちが受け継いだ形を引佐っぽく変えていきたくて・・・。ガッツリ変える形もいいけど、「それでいいのか?」って。ただ、まじで難しいんですよ(笑)まだまだ試行錯誤だね。 |
「コンビニもスーパーもない山奥にアメリカンなカフェ&バーをつくった」。話を聞く前、これだけを知っていた僕は、新しいものをどんどん地域に取り込む人、それが翔さんだと思っていました。
でも「ガッツリ変えちゃうのは地元の人間として悲しい」「親から受け継いだものを引佐っぽく変えていきたい」という言葉から、むしろ地域に寄り添って一緒に考える人なんだと気づきます。
思い返してみれば、CLOVER13だって美容室「向日葵」の形を変えて出来上がったものでした。
中学生のころに思い描いた「秘密基地」はオープンから4年目を迎えたいま、引佐のみなさんにとっての秘密基地となりつつあります。
もしかすると翔さんの想いが地域に届いて、形になる日もそう遠くないかもしれません。
編集後記
そんなCLOVER13の店主、伊藤翔さん。9月30日(土)開催の「mitecoまつり2017」にて、トークイベント「静岡横断!静岡のローカルコミュニティを創る人々」に登壇いただくことになっています!
静岡県で活動する「ローカルコミュニティのキーマン」を集め、「静岡県というローカルで活動する意義、課題、可能性」について話し合うこのイベント。引佐の現状を踏まえた視点からお話いただく予定です。
詳細は「mitecoまつり2017」のメインページをご覧ください!