玉川できこりの暮らしを受け継ぐ環境づくり
「玉川きこり社」原田さやかさんが描く未来とは

  • posted.2017/10/19
  • Takashi
  • Hatena 0
玉川できこりの暮らしを受け継ぐ環境づくり 「玉川きこり社」原田さやかさんが描く未来とは

「安倍奥の会」代表としての玉川での活動を紹介した前編に続き、今回も原田さやかさんの山村での取り組みについて触れていきます。そのうえで、原田さんが今後、成し遂げていきたいことも伺ってみました。

原田さやかさん前編

harada_9

この写真がその答えにもなるのですが、まずは「きこり」という選択となった経緯から質問。当時は本当にびっくりしたので……。

ミッション=受け継がれていく環境づくり

harada02_face_02

Takashi

「きこりデビューしました」といった感じの文面とともに、チェーンソーを担いだ原田さんの姿をSNSで拝見したときは驚きました。「ええっ!?」 って。いつごろから林業という選択を考えていたのですか?
harada02_face01

原田

安倍奥の会としてやってきたことをさらに発展させていくうえで、なにがよいかを仲間で話し合ってきたんです。それで、ホームページに書いてあるんですが、まず「理念」が先に決まって
harada02_face_02

Takashi

ミッションと書かれているところですね。「この魅力的な玉川や日本の農山村がこれからもずっと受け継がれていくための環境づくりを担い 自然と共生する暮らしの本当の豊かさを伝えていく」。
harada02_face01

原田

はい。さらにU・Iターン者を増やし、玉川が受け継がれていくこと。みんなで話しあった結果、玉川の林業を復活させることが、それにつながるんじゃないかと

harada_10玉川の山林。 画像提供:玉川きこり社

harada02_face_02

Takashi

復活とおっしゃいますと、実態はやはり厳しかったのですか? 静岡に限らず日本の林業、後継者不足などもあって衰退の一途をたどっているというのはよく耳にします。
harada02_face01

原田

そうですね。手を入れられていない森が多くありました。そこで、まず私の出版社時代からの同僚で安倍奥の会のメンバーでもあった繁田が腹をくくって、退職してきこり見習いになったんです

harada_11玉川きこり社・取締役の繁田浩嗣さん。 画像提供:玉川きこり社

harada02_face_02

Takashi

すごい腹のくくり方……。まったくの異業種で、仕事の大変さも容易に想像できますし。理念が先だったとのことで、職種から選択したわけでもないし。
harada02_face01

原田

じつは、起業したことをちょっと後悔したときもあったりして。起業するということは想像以上に責任も重く、大変なことでした。

 

最近は落ち着いてきて徐々に楽しさも感じられるようになって。しかし社長の私が育休取得第1号になってしまいご迷惑を……

harada02_face_02

Takashi

育休は逆に、ほかの社員さんもあとで取りやすくなるから、とてもいいことだと思います。
harada02_face01

原田

子供を、絶対玉川で育てたいと思っていました。子供たちが心身ともに豊かに生きるために必要な環境が、ここにはあるんです

生きる力に触れる「きこりじゅく」

harada02_face_02

Takashi

ここへ来るまえに林業のことを少し調べてみたのですが、じつは国産の木材って、いまでは輸入木材より安いのだとか。

 

それなら家を建てるにも国内産のほうがいいに決まっているんだけど、建築会社がそれを効率よく仕入れて活用できる仕組みができていないそうですね。

harada02_face01

原田

そのとおりです。国内産は輸入産に比べて流通網が悪くて、結局輸入産に頼るケースが多いのが現状だと思います。

そんな林業の実態のなか、筆者は玉川きこり社で実践しているさまざまなアプローチに感銘を受けました。

私が取材前に調べたというのは、とある家具メーカーの社長が書いた記事。「なぜ林業は衰退したのか」というタイトルに始まり、おおむね以下のようなことが書かれています。

商品には製造、広報、販売・流通というプロセスが必要。林業も同様で木を育て伐採し、その価値を伝え、求めやすい流通経路を構築する必要がある。そういった経営的視点を持った林業事業者が少ない。

 

林業再生のために必要な視点は、商品価値を伝える能力がない場合、その力に長けている人々とチームを組んで補うこと。また、森林は木材供給だけでなく地球温暖化の緩和をはじめとするソーシャルな価値に加え、食文化や健康を育む場所でもある。

 

そのような、森林が有する多面的価値を読み解き、地域の特性や資源を林業と組み合わせる、つまり林業×〇〇の追求が大切である。

この後半部分、まさに玉川きこり社が意識、実践していることなのです

「価値を伝える」というのは、出版業界で腕を磨いた原田さんや繁田さんが得意とするところ。また、ただ木を伐採するのではなく、家づくりのサポートもおこなっているようです。

harada02_face01

原田

建築の請負ではなくて、家づくりを検討しているみなさんに信頼できる建築屋さんを紹介したり、地元のきこりが伐った木を使った家づくりをサポートする「木材コーディネーター」的な役割を担っています。

地元の大工が地元の木で家を建てる。ひと昔前は当たり前だった家づくりを静岡に取り戻したい。玉川きこり社ホームページにはそんなふうに書かれていました。

harada_12玉川きこり社のホームページは林業の会社とは思えないほどオシャレ。ぜひ覗いてみて。

さらに「森林の多面的価値を活かす」という点では、きこりの暮らしを体験できる「きこりじゅく」をはじめとする体験プログラムがあります。

harada_13繁田さんをリーダーとして開催しているきこりじゅくの様子。 画像提供:玉川きこり社

親子で学べる未就学児編や小学生編、妊婦向けのマタニティ編などに分かれているきこりじゅく。きこりの暮らしを山中での火起こしから体験したり、秘密基地を作ったり山菜を探したり。

マタニティ編では、玉川で暮らしている「元きこり」のおばあちゃんが、心豊かに生きるための知恵を授けてくれるのです。

harada_14画像提供:玉川きこり社

撮影された写真を見ているだけでも、目をキラキラさせた子供たちのイキイキとした姿が目に浮かぶような、元気な声が聴こえてくるような気がしました。

harada02_face01

原田

自然の厳しさとやさしさを知るきこりの暮らしに触れて、子供たちが心豊かに育ってくれたらな、と思って。弊社のミッションはすなわち、子育てを意識した会社として存在することでもあるんです

harada_15

安倍奥の会結成から玉川きこり社創業、そして現在に至るまで、想いを行動で示してきた原田さん。その影響力は目を見張るばかりです。もちろん、その考えに賛同し、行動を共にしてきた人たちの力も大きい。

前編で紹介した、安倍奥の会が主催していた「流しそうめんまつり」はいま、「玉川夏まつり」として、玉川住民の手によって開催されているそうです。

「若者がいない。空き家が多い。やばい。移住を呼びかけよう」。

中山間地域における移住促進の施策は、そういった“懸念”から始まり、田舎であればどこにでもあるような魅力を、とりあえず並べてみる……というものだというのが、浅はかな私の個人的な印象でした。

そのため、原田さんのように「自身が与えられた感動をほかの皆にも伝えたい」というプラス思考からのケースを、とても新鮮に感じたのです。その動向に、これからも注目していきたいと思います。

玉川きこり社の歩みをたどる前編はこちら

玉川きこり社

住所:〒421-2222 静岡県静岡市葵区桂山712-4
電話番号:054-292-2730