出世祈願のパワースポット「久能山東照宮」
苦しすぎる1159もの階段があるわけとは?
こんにちは、miteco編集部の山口です。皆さんは「久能山東照宮」をご存じでしょうか? 東照宮って聞くと、日光東照宮が思い浮かぶ方も多いかもしれません。
じつは東照宮は、江戸幕府を開いた徳川家康公を祀る神社で、日本各地に点在しています。そして久能山東照宮はそのなかでも、初めにつくられた東照宮なんです。
また徳川家康は戦乱を終わらせた大名としてよく知られていますが、出身は決して有力な大名ではありません。駿河国(現在の静岡市を中心とする一帯)を治めていた今川氏の人質として幼少期を過ごし、苦難の連続を味わいます。
のちに知略と政略で戦乱の世をのし上がったことから、いまでは”出世大名”と呼ばれることもしばしばです。浜松市のゆるキャラである、家康くんのキャッチコピーにも出世大名とついています。
つまり、日本きっての出世を果たした家康公が眠る久能山東照宮には、絶大なパワーがあるに違いない。
そう考えた僕は、自身の出世を祈願しに参拝へ行ってみました。
しかし、待ち受けたのは前途多難な道だった・・・
さて、鳥居の前にたどり着いた僕ですが、周りを見渡しても参拝できるような場所が見当たりません。
では、どこにあるのか・・・。
・・・
まさかここ・・・?
簡単に出世祈願をさせてくれないのは、なにかのいじわるでしょうか? しかし、来たからには足を運ばないわけにはいきません。
・・・
(きつい・・・)
たどり着いたところからの眺めが凄い!
こうして長々と続く階段を登ること30分。下から見えていた門へと到達。
・・・でも参拝できる場所がない。どうやらここは、「一の門」という境内への入り口となる場所だったようです。
※写真は辿り着いたと勘違いした図
ただ、ここからの景色は絶景。ここは海が目の前にあるため、せり出した階段から山と海が一緒に見えます。
さらに眼下には静岡特産の、「久能の石垣いちご」を栽培するビニールハウスがびっしり! この眺望を見れば、階段で溜まった疲れも吹き飛びます。
とはいえ、心がリフレッシュできても脚に溜まった疲れはなかなかぬぐい切れず・・・。
“どうしてこんなに長い階段をつくって高い位置に東照宮を設けたのか”
そんな疑問がわいてきました。
一の門をくぐって社務所へ向かい、経緯を話すとなんと宮司さまがお答えしてくれることに。
宮司:落合偉洲(おちあい ひでくに)さん
久能山東照宮の宮司さま。2002年より久能山東照宮宮司 久能山東照宮博物館館長に就任し、東照宮をはじめとした静岡の重要文化財の保護や普及に努められている凄い方です。宮司のほかに、(社)全国国宝重要文化財所有者連盟理事長、静岡県重要文化財等所有者連絡協議会会長、静岡県文化財保存協会会長を務めていらっしゃいます。
山口
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わざわざ時間をつくってくださりありがとうございます。突然なんですが、ひとつお聞きしてもよいでしょうか? |
宮司さま
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なんでしょう? |
山口
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毎日、階段を登ってこちらにいらっしゃるんですか? |
宮司さま
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ええ。事情がない限りは階段できていますよ。 |
山口
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・・・。 |
もとはお城だった久能山東照宮
山口
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さっそくですが、どうしてこんな高いところに久能山東照宮をつくることになったのでしょうか? 参拝される方は大変に感じるはずです。 |
宮司さま
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この地(久能山)にはもともと、1,000年以上前※に久能寺というお寺があって、そのあと武田信玄が侵略した際に久能城がつくられた土地なんです。のちに武田氏が滅ぼされ、家康公が静岡の所領を得ると久能城は徳川家が治めるようになります。 |
あとで調べてみると、久能城を治めていたのは榊原氏という武士。家康公の家臣のなかでも側近中の側近として知られる人物で、俗に”徳川四天王”と呼ばれる榊原康政の兄でした。その信頼はとても厚かったといわれています。
山口
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なるほど。それで信頼の厚かった榊原氏の元で埋葬しろ、という話になるわけですね? |
宮司さま
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そういうことですね。また、家康公が久能の地を愛していたことも知られています。海に面しており、崖の上に位置する久能城は難攻不落の要塞。
“駿府城の本丸は久能城にあり”
といって側近に守らせているわけですから、重要視していたことがわかります。家康公の愛した風光明媚なこの地で死後は西に睨みを利かせる、というのが願いだったのでしょう。 |
山口
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ということは、久能山東照宮の階段は“久能城が難攻不落を誇った証”でもあるということですね。 |
宮司さま
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そうですね。 |
※久能寺:飛鳥時代に建立された堂。奈良時代に高僧である行基が、久能寺と名付けた由緒のあるお寺。久能城築城の際に清水区に移され、いまは明治期に山岡鉄舟が復興した縁から、”鉄舟寺”として名をあらためて地元の人に愛されています。
1159段あった久能山東照宮の階段
山口
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ちなみに久能山東照宮の階段は全部でどれくらいあるのでしょうか? |
宮司さま
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諸説あるようですが、久能山東照宮では1159段としています。これは私が赴任する前の話ですが、静岡市の商工会議所が社殿の前から階段を、一段一段降りていく形で計測したことが記録に残っています。
以前から、「イチイチゴクロウサン(1159)」というゴロ合わせで呼称されていることもありましたが、それが実証される形になりました。 |
久能山東照宮の階段には、道中に現在何段目であるかを示すプレートが設置されています。写真は410段目を示すものですが、僕はこの時点でヘトヘトでした・・・。
簡単には出世は果たせない! 久能山東照宮で学んだこと
じつは、久能山東照宮にはロープウェイが整備されており、アクセス道路である日本平パークウェイ経由で利用すれば、階段を登らなくても社殿へ足を運ぶことができます。
ただ階段を使って参拝をすることは、久能山東照宮の古くからのお参り方法です。家康公はなくなる直前に、「人の一生は重荷を負て遠き道を行くが如し」と遺訓を遺されていますが、まさにそれを実感できるのが久能山東照宮の階段だといえるのではないでしょうか?
出世へのパワーも一段と得られそうです。
もし、僕と同じように出世祈願をしに久能山東照宮へ訪れるのであれば、ぜひ階段を利用してみてください。
※冗談にならないほど大変ですので、怪我をしている方や体力に自信のない方は十分に注意してくださいね。
宮司様のお部屋には、家康公の遺訓を直筆でしたためたものが飾られていました。
ちなみに社殿は国宝指定されているとおり、「権現造」と呼ばれる東照宮独特の建築様式と荘厳な漆塗りや随所に描かれた装飾が施され、家康公のご威光を示す豪華絢爛なつくりです。社殿の奥にひっそりとたたずむ神廟も含めてじっくりと回りながら、帰りの体力を養ってみてもいいかもしれません。
社殿はいたるところに装飾が施され・・・
山のなかにひっそりとたたずむ幽玄さを感じられます。
ちなみにこの取材のあと、宮司様にわざわざついてきていただき、社殿や神廟でお参りさせていただきました。
趣深い久能山東照宮でパワーを充電!
久能山東照宮
終点「東大谷」バス停下車。