『天城越え』にも登場する伊豆半島の名勝地
怪しくも美しい伝説残る浄蓮の滝をお散歩
演歌歌手、石川さゆりさんの代表曲といえば『天城越え』。
その舞台になっているのが、静岡県伊豆半島の天城ということはよく知られています。
歌詞の解釈はさまざまにありますが、人肌に触れただけでやけどしてしまいそうな季節に、じっとりとした男女の歌を聴くのはたまらないですよね。
そんな天城越えをつい口ずさみたくなる、景勝地「浄蓮の滝」。
日本国民であれば誰しもが耳にしたことのある曲中に登場するのに加え、日本の滝100選にも選定されていると聞き、足を運んでみることにしました。
体力なし子に待ちうける試練! ただしその先には……
編集部の山口さんとともに向かったのは、伊豆市湯ヶ島。
近くになると案内がいくつも出ているので、迷子になることはなさそうです。
山口 | ここが入り口だね。 |
あおい | 観光スポットなだけあってきれいに整備されてますし、結構楽にたどり着ける気がします。 |
そう思ったのもつかの間——。
あおい | ……これは永遠の階段! 閉じ込められた! |
山口 | たしかに。もう5分以上急な階段をくだってる……。 |
あおい | ひい……ふう……。わたし、もう膝が笑うどころか大爆笑してます。がっくがく。 |
山口 | 貧弱すぎでしょ……。 |
体育の成績平均2(たまに1)の馬場には苦しかった。だんだんと近くなる涼しげな水音がなければ、泣いていたかもしれません。
山口 | はあ、だんだんきつく……。お! 滝の音がかなり近づいてきた。 |
あおい | あーーー! みてください、滝! |
山口 | 本当だ、木のすきまから見える。 |
あおい | わ~わ、すごい。行きましょう! |
山口 | 転ばないでね……。 |
たどり着いた深い緑の奥、垂れ下がるシルク生地のようにも見える浄蓮の滝。
高さ25m、幅7mにもなる勢いある流れは、柵の向こうから見ても迫力満点です。
熱のこもった身体を、ひんやりとした冷気がなぞるのが気持ちいい。
峠を越える前後、あまたの旅人たちがここを訪れその疲れを癒したそうですが、彼らの気持ちがよくわかります。
「ワ―壮観!」のポーズ。
エメラルド色をした滝つぼは、吸いこまれてしまいそうなほど神秘的です。
くらくらするほどの圧倒的な美しさに加え、なんだか怪しさも感じられます。
浄蓮の滝周辺にも見どころあり
滝の手前には、石川さゆりさんファンでなくともつい鼻歌が出てしまいそうな「天城越え」の歌碑。
しげしげと眺めたあと、嬉しそうに滝の前で写真を撮るご年配の方がたくさんいらっしゃいました。
すぐそばには、伊豆の名産であるわさびの沢が柔らかなじゅうたんのように広がります。
伊豆半島はわさび栽培が有名な土地でもありますが、水がきれいじゃないとおいしいわさびにはならないんだとか。ここもまた、水がきれいな証拠ですねえ。
浄蓮の滝から繋がる狩野川を少しくだったところには、マスの釣り場。恋人同士で訪れても楽しいだろうなと感じました。
一緒に行ってくれた人(編集部の山口さん)。
浄蓮の滝に残る女郎蜘蛛の伝説
荘麗な自然に癒されたあと、行きの道中は素通りしてしまった看板に目を通してみました。じつはここ浄蓮の滝には、古くからの神秘的な伝説があったというお話しです。
とあるきこりが滝のそばの大木に目をつけ斧を片手にやってくると、その足にぐるぐると糸を巻きつける1匹のジョロウグモが。
きこりは糸から足を抜き、代わりに近くにあった切り株へかけます。すると切り株は唸りを上げて地面を離れ、深い滝つぼへ引きずり込まれていくのです。
「あのジョロウグモはこの滝の主だった」と恐れをなしたきこりは、この話を多くの人に伝え、滝へは誰も近づかなくなりました。
それから何度か季節はめぐったある日、別のきこりがやってきて大木を切り倒そうと斧を振るいます。すると斧は手からすべり落ち、滝つぼへ吸い込まれていく。大切な商売道具をなくすわけにはいかず水中へ飛び込むと、そこには美しい女性が立っていました。
「浄蓮の滝の木を切ってはなりません。そして、このことは誰にも話さないと約束してください。守れるのなら、斧は返しましょう」
斧を持ち、家に帰ったきこりはその後、約束を忘れることなく過ごします。
しかしあるとき、酒に酔うあまり滝で出会った美女のことをなにもかも話してしまいました。話し終え横になったきこりは深い眠りにつき、目を覚ますことはなかったと言います。
(参考:浄蓮の滝入り口の看板 ※見出し冒頭写真)
滝つぼを覗きこんだときに感じた美しさと怪しさの正体は、この伝説にあるジョロウグモだったのかもしれません。
これからの汗ばむ季節、滝の冷気に当てられ寛ぐのもいいですが、足元に糸をかけられてはいないか、よく注意してみてくださいね。なんちて!