うなぎの名店に潜入!三島「桜家(さくらや)」
静岡が誇る江戸時代から続く伝統の味
こんにちは、編集部の山口です。
最近少し疲れがたまったのか、寝起きが悪くなりました。精力をつけなければならない!
精力をつけるには・・・そうだ、うなぎ食い行こう!!
というわけで、編集長と一緒に知る人ぞ知るうなぎの名店、三島は「桜家(さくらや)」に来ています。
桜家は創業安政3年、西暦でいうと1856年。江戸時代から続く老舗中の老舗として、観光客をはじめとした多くの方が訪れるお店です。
うまくないわけがない。
三島「桜家」にいざ潜入!
桜家の外観は、小粋な日本料理店を思わせるような佇まい。平日のお昼過ぎにもかかわらず多くの方が待っていました。
山口 | 平日なのにすごい人だね。 |
編集長 | さすが老舗ですね。 |
山口 | こりゃ期待高まりますねぇ! そして、この匂い! |
店外まで漏れてくるうなぎの香ばしい匂い。お腹を空かしてきた僕にはたまりません。勇み足で店内へ・・・。
店内には座敷席とテーブル席、床は石になっていて、壁にはあちらこちらに絵画が飾られる風景。いかにも老舗の日本料理屋さんといった具合です。店内には外でも漂ってきた匂いが充満していて、食欲をそそります。
いざ名物の「うな重」を注文すると、その期待は最高潮に・・・!
圧倒的うまさの桜家名物!だけどなんか違う?
運ばれてきた重には、重厚なうなぎが・・・。
山口 | こりゃたまらん! |
山口 | いただきます!! |
山口 | う、うまぁい! ははは、すっげぇうまい。 |
うますぎて、もはや笑いが出てくることはありませんか? もうひと口と食べ進めるごとに、笑い声と「うまい」しか出ない山口でした・・・。
が、ここで気づいたことが。
山口 | でもここのうなぎ。あっさりした風味に感じるね。 |
編集長 | たしかに、うなぎっぽいガツンとした感じはないですよね。 |
山口 | そうそう。うなぎの旨みはもちろんすごいんだけど、必要以上には攻めてこないというか、タレが強くないような。思った以上に軽くてたくさん食べれそう・・・。 |
編集長 | 予算もあるんで、あんまり食べすぎないでください。※桜家のうな重は2枚で3,750円 |
山口 | あ・・・はい・・・。 |
食べてみて浮かんだ疑問を、お店のご主人に直接確認してみることに。
まずは店員さんに話しかけてみると、「いまからちょうど焼きをするところなので、もしよければ」ということで、なんと焼きの現場を見させていただきました。
桜家の厨房は真剣勝負
桜家さんの厨房へ足を踏み入れると、そこはまさに職人の世界。入ってよいと言われたものの、おののいてしまいような緊張感が厨房いっぱいに広がっていました。
とはいえ、取材で訪れたからには、なにかしらをつかんで帰らなければなりません。焼きを担当していたご主人へ、意を決して話しかけてみることに。
山口 | あの、お忙しいところすみません。少しお話よいでしょうか・・・? |
ご主人 | いいよ・・・! あ! やっぱだめだ。またあとでうかがうから集中させてくれ。 |
山口 | すみません。わかりました。(ですよね) |
ひとときもうなぎから目を離さずに受け答えをするご主人。うちわを使いながら焼き加減をコントロールして、時折うなぎをタレのはいった入れ物の中へ。
と、唐突に
ご主人 | 写真撮るならここがチャンス! |
うおおお。きちんと取材対応してくれている! ありがてぇ!
張りつめる現場でも、取材に対して快く応じようとしてくれるご主人の器量の大きさに感服。僕たちはその場を離れ、別室でご主人の手が空くタイミングを待つことに。
知られざる桜家のこだわり
しばらくするとご主人がわざわざやってきてくれました。
山口 | お忙しい中、お時間をいただきありがとうございます! しかも現場まで見せてもらっちゃって。 |
ご主人 | いやいや、そういうのは全然かまわないよ。さきほどはうまくインタビューに応じられず申し訳ない。 |
ほとばしるいい人感!
山口 | いえいえ、すごい緊張感でこちらにもそれが伝わってきました。やっぱり一瞬も気が抜けないものなんですね・・・! |
ご主人 | そうだね。うなぎは素にタレをつけて食べることが多い食材。シンプルなだけに、どの調理工程も手が抜けないんだ。 |
山口 | とくに焼きについては、ご主人が直に携わるなんてびっくりです。とてもこだわりがあるように感じました。 |
ご主人 | そうだね。ウチでは、焼き場に入るのはほんとどが私だよ。 |
山口 | え! 調理場にはあんなに人がいたのに、ご主人だけなんですか? |
ご主人 | うん。もうひとりだけできる人がいるけれども、ほとんどは私ひとり。捌くとかそういうのって技術と知識があればできるんだけど、焼きだけは知恵だけではどうしようもないところがある。
うなぎっていったって、一つひとつ身の厚さも違うし個性がある。そのうえ、炭火だからコントロールが難しい。
「いまどこがどのくらいの温度で、身はどれくらい焼くのがいいか」というのは、常にうなぎを見ながら判断をしていかなければならない。これはもう一生の勉強みたいなもの。
だから、調理場の全員に教えるわけにはなかなかいかず、ほとんど私ひとりでやっているような形になっているんだ。 |
そう話すご主人は、さっきまで焼き場に立っていたから、全身に汗をかき、さらに目元は赤くなっていました。
ひとときも目をそらさずに、全身全霊で焼き場に向かう。そこには職人としてのプライドがうかがえました。
桜家伝統のうちわ
山口 | さきほど炭火のコントロールの話が出ましたが、桜家様でうちわを使っているのは伝統的なものなんですか? |
ご主人 | 実際にどれくらい前かというのはちょっとわからないのだけれど、少なくとも先代もそうだった。
炭火はうちわでなくともある程度のコントロールはできるけれど、どうしても炭自体を動かしたりしなければならない。
うちわなら、動かさずに火加減を強くしたり弱くしたり自在に操れるんだ。 |
山口 | うちわだけで・・・? 熟練の技ですね・・・。 |
ご主人 | そう。そういうこともあるからやっぱり後継を育てるのも、技術や知識よりも「根気よく研究できるか」が大切になっちゃうんだ。僕もここで30年。それでもまだまだだっていう日もある。 |
3、30年・・・(ゴクリ) ただ100年を積み上げたのではなく、そのとき、そのときのご主人が真剣に向き合えったからこその伝統。これが、桜家のおいしさの秘密だったんですね。
さらに、話は三島とうなぎの関係についてに及びます。
山口 | 桜家さんのうなぎは、食べていてどこかふわっとした触感でくどくない、というか、ほかのうなぎ屋さんとは少し違うように感じたのですが、その秘密も焼きにあるんですか? |
ご主人 | ああ。なるほど。ウチは基本的に蒸しの工程を入れる方法を採っているんだけど、西の方ではかば焼きがメインだから、そこの触感の違いはまずあるかな。
でも、それだけではなくて、タレも継ぎ足しで使っている伝統のもので、この味も大きい。さっぱりしてて、うなぎ本来の味を邪魔しないよね。 |
山口 | そうなんです! こう、うなぎって聞くとタレの濃厚な味わいが思い浮かぶんですが、もっとジューシーでかろやかな味が同居しているんですよね。 |
ご主人 | その味をウチでは「かるみ」って呼ぶんだ。やっぱり、捌くところ、焼き、タレ、それからうなぎをしめる工程が伴わないとなかなか難しいと思うよ。 |
山口 | ・・・しめる・・・ですか? |
どうやら桜家さんのおいしさの秘密は、「しめる」と呼ばれる工程にもあるようです。
三島の水で清められたうなぎ
山口 | 無知で申し訳ないのですが「しめる」とは何のことでしょう? |
ご主人 | しめる、というのは簡単に言うと、うなぎを水に浸して毒素を吐き出してもらうことだよ。
うなぎというのは神経質な生き物で、少しでも害のある物質に触れるとヌルヌルとした成分を肌から出すんだけど、きれいな水でないとそこから栄養も抜けていってしまうんだ。
だからウチでは、富士山の伏流水を使ってしめるんだ。この水は本当にきれいで、うまみがギュッと濃縮されるんだよ。 |
山口 | なるほど! 水の都ならではのうなぎだったんですね。 |
ご主人 | そうだよ。しめる作業自体は、うなぎ料理では定番の下準備のひとつだけれど、やっぱり水質というのはすごく大切。
僕はそんなに詳しくはないけれど、富士山の伏流水というのは雪解け水が地下にしみこんで200年、300年とかけて湧いて出てくる水。
これはすごくきれいで、しかもミネラルもたっぷり。だから、水道水とは比較にならないほどおいしくしまるんだ。 |
特別にしめている場所を拝見させていただきました。上のホースから出ている水はすべて富士山の伏流水!
山口 | 焼きといい、このしめる作業といい、本当に伝統と伝えられ続けた味に対するこだわりがうかがえます。まさに、静岡の三島という場所でしか体験できない桜家さんの味ですね。 |
ご主人 | そういっていただけるとありがたいですね。水のこともそうだけれど、じつは焼きをひとりでやる関係もあって限界が決まっていて・・・。
平日は1日に400匹、休日は800匹というラインを決めているのだけれど、仕込みを含めてこれを超える量は調理できないのが現状なんだ。
でも、この味を崩したくないし、限られた数にもかかわらず毎日こうしてたくさんの方が足を運んでくださるから、そういったお客様に対して満足できるものを提供したい。
だから、支店は出さない。これは僕の代が続く限りはそのつもり。 |
山口 | 本当にこだわりぬいたものだからこそ、自信をもって提供できるということですよね。ただただ感服いたしました。取材させていただきありがとうございました! |
ご主人 | いえいえ、こちらこそありがとうございました。 |
僕は普通、飲食店といえばたくさん提供することに努力するものだとばかり考えていました。しかし、桜家様のご主人は新しい誰かというよりも、来てくれる方に満足してほしいという気持ちがひしひしと伝わります。
そして自分の限界までそれを提供しようとするご主人の熱意は、姿勢や言葉の一つひとつに込められており、取材していて「ああ、こういう人が伝統というとその重みが違うな」と何度も感じました。
精をつけるために訪れたうなぎ屋さんでしたが、すっかり桜家の魅力に取りつかれてしまいました。三島の水でしめ、伝統のうちわと炭火で焼き上げるふんわりとしながらも芯のある味は、全国的にも知られるここだけのブランド。
一筋に挑戦と勉強を続ける、ご主人の焼きによる極上の味を堪能しに、三島へ訪れた際はぜひ立ち寄ってみてください。