ママの“好き”が詰まった喫茶店「草里」
1日に食べる量は決まってるから大事編
こんにちは、miteco編集長の吉松です。
アンティークな調度品ばかりの店内、無添加の手作りケーキが100種類以上、飲み物は40種類以上、というウワサを聞いてやってきた静岡市清水区の喫茶店「草里」さん。そしていま、お店を始めた横沢まりさん(以下、横沢さん)に、草里の一から十までを伺っているところです。
店内の調度品について語っていただいた前回を、3行で振り返ると
- 「好きなものを集めていたら、いつのまにかこうなっていた」
- 「店内には美校(現:東京芸術大学)の校長だった和田英作さんの絶筆がある」
- 「調度品の一つひとつに、自分自身の歴史が詰まっている」
でした。さてここからは後編。無添加の手作りケーキと飲み物、そして草里の今後について伺ってみます。
ケーキの数は○○種類以上!?
草里 横沢まりさん
吉松 |
公式サイトでは、100種類以上のケーキを紹介していますよね。いったいなぜこれほどに増えたんでしょうか? |
横沢さん |
100種類ですか? 数えたら300種類くらいはあると思いますよ。 |
吉松 |
あれ、300種類ですか!? |
横沢さん |
たとえばさ、タルトでいえばイチゴを乗せたらイチゴのタルトでしょ。ブルーベリーを乗せればブルーベリーのタルトだし、桃を乗せたら桃のタルトなんですよ。
ショートケーキにしても一緒です。そうやっていくとね、やっぱり300種類くらいはいきますね。 |
ショーケースには季節のケーキがずらり。日によってケーキの種類は大きく変わります。
吉松 |
なるほど・・・。それでは今後もどんどん増える可能性も? |
横沢さん |
いやー、もう極端には増えないです。ここで使っているフルーツはすべて、私が長年をかけて農家に足を運んで味を確かめたものだけですから。あと旬のフルーツ以外は使いませんし。
つまりは、種類を増やそうとして増やしたというよりも、その日に仕入れた新鮮なフルーツを使っていたら、結果的に増えちゃったということです。 |
ケーキの修行は一切していない!
吉松 |
そういったケーキへの哲学といえばいいんでしょうか、考え方というのはどこで学ばれたんでしょうか? |
横沢さん |
んー。じつはね、私はケーキの修行とか、なにもしていないんですよ。適当に作ったら売れちゃったんです(笑)。 |
吉松 |
・・・え? ほんとですか。 |
横沢さん |
いや、ほんとの話。あんまりに世の中のケーキが口に合わなかったので。クリームが甘すぎたり、スポンジがガサガサしたりしてね。
だから自分が作ったほうがいいかなと思って。いーっぱい本を読んでから、東京でケーキを食べて食べて食べまくって、それで作ったんですよ。 |
夏から登場する「桃のタルト」。6月は静岡の桃、7月は山梨の桃、秋は福島の桃を使います。
吉松 |
ああ、驚きました・・・。適当というか、かなりの努力はされていたんですね。 |
横沢さん |
あ、そうかもしれませんね(笑)。 |
吉松 |
ちなみに当時といまを比べて、ケーキの作り方は変わりましたか? |
横沢さん |
いや、当時の作り方は、いまでもまったく変わっていません。たとえば、タルト台は全部手ごねで、家庭料理本とかケーキの本に書いてある内容をそのままやってます。カスタードクリームもそうですね。
でも、カスタードはマダガスカルのバニラビーンズを使っていたり、フルーツはさっき言ったように旬のみずみずしいものだけだったり。素材にだけはこだわっていますね。
添加物とか余計なものも入れてないから、素材の味がそのまま感じられて。だからおいしいんですよ。 |
非日常感を演出するために
吉松 |
それでは40種類以上あるという、飲み物へのこだわりはどこにあるんでしょうか? |
横沢さん |
んー飲み物だけの話ではなくなっちゃうんですが、やっぱりこういうところに来たら、非日常を味わいたいじゃないですか。おうちで飲んでいるものがここでも飲めるよ、なんて嫌ですよね。
だからおうちでは飲めないとか、よそでは出してないとか。それがこだわりですね。もちろんケーキをはじめとした食べ物も一緒です。 |
吉松 |
あー納得です。家で食べたり飲んだりしているものがお店で出ると、急に現実に引き戻されて嫌になりますね。 |
横沢さん |
ですよね。まあ、そんなこと言いながら、私が好きなケーキや飲み物を出しているだけなんですけど(笑) |
吉松 |
やっぱり調度品と同じように、ケーキや飲み物も好きが原点になるんですね。 |
横沢さん |
草里はすべて自分が好きなことなので。食べ物に関しては、おいしいものを食べるのが好きだし、おいしいものを探すのも好きだし・・・。だって、おいしいもの食べたいじゃないですか。
人間は1日に決まった量しか食べられないんですよ。ダイヤモンドが10個あっても、車を何台も持っていてもです。だからすごい大事。大切な一品にしたいですよね。 |
草里さんの今後について
吉松 |
最後に草里さんの今後について教えていただけますか? |
横沢さん |
今後ですか――。あ、皿盛りのデザートを充実させたいですね。ケーキ1個ではなくて、たくさんのケーキをわーっと出せるようなもの。
いままでに何回か作りましたが、手間がかかるし、あまりに複雑すぎて長続きしなかったんです(笑)
広い意味でいえば、ずっと続けられるような、トキメキのひと皿を作りたいですね。 |
吉松 |
トキメキのひと皿ですか・・・! |
横沢さん |
私が望んでいるのは、お客さんにもっともっと満足してほしいというだけなんです。ここ清水はやっぱりローカルだから、新しいお客さんより常連さんが多かったりするんですよ。
だから何十年も来てくださっているお客さんが、また行きたい、また行きたいってなるお店にしたいんです。これを食べたからもういいやではなくて、次のなにかがあったほうが絶対いいですよね。 |
吉松 |
たしかに、次のなにかがあるお店には足を運んじゃいますね。 |
横沢さん |
ふふ(笑)だからずっとおいしいものを探し求めてね、何回でも行きたくなるお店をもっと追及していきたいです。
・・・でもじつは、もう私はケーキをあまり作っていなくて、息子に伝授して任せているんですよ。
時代とともにお客さんは変わりますし、私もずっと生きているわけじゃありませんから。私が私がと言っても仕方がありませんよね。
いまは毎日お店に立っていますけど、そのうちウィーンやローマに遊びにいきたいなって思います。 |
深い。懐が深すぎる。自分の好きと歴史が詰まった場所に対して、これほど潔い言葉が出るんでしょうか。「私がお店のすべてをつくったから、最後まで見届けなきゃ!」と考えてもおかしくないと思うんです。
横沢さんには生涯現役でいけるくらいのバイタリティを感じますし、「トキメキのひと皿を作りたい」と話されたように、新しいデザートの開発への意気込みもあります。でも、横沢さんは自分自身しかわからない、引き際を感じているのかもしれません。
ただひとつ、横沢さんがウィーンやローマに遊びに行っても、伝統を守りつつ新しいことにチャレンジする草里は、これからもきっと変わらないと思います。
喫茶店「草里」の前編記事はこちら
珈琲処 草里(ぞおりー)
駐車場あり