ママの“好き”が詰まった喫茶店「草里」
アンティークの調度品に隠された歴史編
こんにちは、miteco編集長の吉松です。暑苦しい笑顔から失礼します。
ここは静岡市清水区にある、創業45年の喫茶店「草里」さん。アンティークの調度品がずらりと並ぶ店内、無添加の手作りケーキが100種類以上、そして飲み物は40種類以上、という話題たっぷりのウワサを聞きつけてやってまいりました。
しかもそのすべては、草里を始めたママの趣味が発端になっているとか。
そこで草里のママという、横沢まりさん(以下、横沢さん)に草里の一から十までを伺ってみることにしました。
ありがたいことにお話を伺う前、ブルーベリータルトとコーヒーを出していただきましたので、ティータイムっぽい雰囲気でお届けしちゃいます。ちなみに横沢さん(写真右)がいらっしゃるカウンターは、いつもの立ち位置だそう。
草里はママの趣味そのもの
草里 横沢まりさん
吉松 |
まず店内の調度品についてですが、はじまりは横沢さんの趣味からだそうですね。 |
横沢さん |
そうですね、私の好きなものを集めていたら、いつのまにかこうなっていたという感じです。そもそも、この建物も私が設計をしておりますので、お店そのものが私の趣味といっていいかもしれませんけど。 |
草里さんの内装。調度品がいちいちオシャレで、どこを見ても絵になります。
吉松 |
え、設計もされたんですか? |
横沢さん |
お店を作るときにいろんな設計者が入ったんですけど、どれもまったく気に入らなくて。だから私の身長にあわせて、カウンターはここまで手が伸ばせるとか、椅子は胸より下くらいとか、洗い物はここから渡したいとか、すべて自分の都合でやっちゃいましたね。 |
吉松 |
やっちゃいましたで、できるもんなんですね・・・。 |
「女性がどこに座っても楽しいように」
吉松 |
この店内は好きなものを集めた結果とのことでしたが、それにしては統一感がありますよね。 |
横沢さん |
昔のものが好きなんですよ。アールヌーヴォー※様式とか。テーマでいえば、統一感につながるかわかりませんが、「女性がどこに座っても楽しい」っていうのがそうですかね。
この席がダメってのはありませんし、たとえばあちらには華やかな器を入れた大きな棚を置いていて、チラっと見えるだけでとっても楽しめますよね。あとはお座敷に座れば、テーブルの中に猫ちゃんがいたりして。
※19世紀末~20世紀初頭に、ヨーロッパを中心として起こった芸術運動のこと。おもに植物のような曲線的なデザインが知られています。 |
店内の奥にあるお座敷。テーブルの中にいる猫ちゃんは実際に見るまでのお楽しみに。
吉松 |
素敵なテーマだ・・・! もしかして、店内のいたるところにバラが置いてあるのも、そのテーマに沿った演出ですか? |
横沢さん |
それもそうなんですが、清水はバラの産地でありますし、私がかなりのバラ好きなので。働いているときにバラが見えると、ずっとご機嫌でいられるんですよね。
私はいつもカウンターに立っていますけど、ここならお店の全体が見渡せますし。まあ、結局は自分の都合のいいようにですね(笑) |
店内で一番高いものは・・・
吉松 |
ネット上の口コミで、かなりお高いものがあると書いてあったんですが、これはほんとですか? |
横沢さん |
あー、高いものもあります(笑)。 |
吉松 |
一番高いものを教えていただくことは・・・? |
横沢さん |
なにをもって高いというかですけども、一番高いっていったら、後ろのバラの絵でしょうか。
和田英作さんっていって、美校(現:東京芸術大学)の校長をやっていた人の絵なんですが、絶筆なので値段がついたらすごい高いかなーと思いますよ。
うちのおばあちゃんがいただきまして、それから私にっていう流れですけどね。 |
日本を代表する美大の学長を務めた和田英作氏の絶筆。これに値段がついたら・・・。
横沢さん |
あとは向こうにある、芹沢銈介※さんの「花」という版画ですかね。あれはサインがないんです。
なんでないかっていうと、うちの父がいただいたものでして、売買するものでもないからと書かなかったんですよ。
※芹沢銈介(1895-1984)は、静岡市出身の世界的な染色工芸家。「重要無形文化財保持者(人間国宝)」「静岡市名誉市民」「文化功労者」などの栄誉を授けられています。 |
吉松 |
(もう、高いとかそういうレベルの話じゃないぞ・・・) |
一つひとつが自分の歴史
吉松 |
少し気になりましたが、調度品のなかには、ご家族からもらったものもあるんですね。 |
横沢さん |
そうですね。家族以外からもらったものもありますよ。一つひとつに自分自身のね、歴史が詰まっているんです。 |
吉松 |
歴史? それはどのような・・・? |
横沢さん |
これは嬉しいときに買ったもの、これは頑張ったときに買ったもの、これは辛いときにもらったものとか。
目の前にあるカウンターテーブルは、実家の近くのおじさんが「カウンターを作ってやるよ」って言って、もらったものなんですよ。 |
吉松 |
はーなるほど。一つひとつって、カウンターテーブルまで含まれるんですね。 |
横沢さん |
そう、若いころから45年もお店をやっていることになるんですけど、そのすべてがここにあるんです。 |
・・・グッときてしまいました。店内のものすべてに、横沢さんの想いが詰まっているのかと。それから「すべてがここにある」って言い切れるカッコよさですよね。力強い言葉に心が揺さぶられます。
さてここまでは、草里をつくっている調度品のお話でした。このあとケーキや飲み物のお話に入るんですが、なんと横沢さん――。
横沢さん |
じつはね、私はケーキの修行とか、なにもしていないんですよ。適当につくったら売れちゃったんです(笑)。 |
後編に続く。