「さわやかな気持ちになる映画」5選!
映画日和 ~4月号~
みなさん映画は好きですか? 真っ暗闇のなかでスクリーンに映しだされた色彩やサラウンドで聴こえる音楽に身をゆだねていると、さまざまな感情が湧いてくる素敵な時間。好きな映画に出会えたとき、思わぬ発見をする映画を観たとき。不思議と嬉しさがこみあげてくるのが映画の素晴らしさのひとつですよね。
でも一方で、「どれを観ようか迷ってしまう・・・」そんな方もいるかもしれません。年間に公開される映画は、日本だけでもじつに1,000本以上。そのうえ、DVDレンタルのお店に並んでいる映画も合わせればその数は無限といってもいいくらいですよね。
そこで、そんな数ある映画を前にひとつを選べない方へのお手伝いを、miteco編集部の山口と静岡市のミニシアター「静岡シネ・ギャラリー」の副支配人のお二方で、毎月おすすめの映画をテーマに沿って選出する企画が、こちら「映画日和」。
これを読んで、「映画が観たい!」と思ったらその日が映画日和です。
映画にどっぷりな3人が送る、「雑談あり、ネタバレなしのおすすめ映画コラム」。今月号もはじまります。
4月号のテーマ「さわやかな気持ちにさせてくれる映画」
4月といえば、入学式に入社式、引っ越しをして新しい環境で、気持ちも装いも新たにスタートを切る季節ですよね。私ごとですが、僕自身もオフィスを引越ししたので、ちょっと新しい気分です。
そういうときには、映画を観てもどんよりした気分や、泣けてきてしまうような感動作というよりも、なんだか晴れやかな気分になるような作品がみたいもの。そこで今回のテーマは、
「さわやかな気持ちさせてくれる映画」
ということで、シネ・ギャラリーのおふたりにお願いしました。果たしてどんな映画を紹介いただけるんでしょうか・・・?
では、さっそく行ってみましょう。
癇癪持ちでとにかくキレちゃう青年とひと目惚れした女の子|『パンチドランク・ラブ』
2003年『パンチドランク・ラブ』 監督:P・T・アンダーソン |
川口 | 先月は海野君からだったので、今回は僕からいきましょうか。 |
山口 | よろしくおねがいします。1作品目は・・・。 |
川口 | 『パンチドランク・ラブ』ですね。これは、アメリカの映画で2002年の作品です。主人公バリーは、スッポン・・・って、あれですね「トイレのラバーカップ」を売っているっていう、もうそこからなんか変なんですけど(笑)
しかも、7人もお姉ちゃんがいて、過保護だったんですね。それのせいか癇癪持ちで突然キレちゃうような人。トイレぶっ壊したり、窓ガラスをいきなりぶち割ったりするような性格です。 |
山口 | 強烈な主人公ですねえ(笑) |
川口 | で、この映画はそのタイトルの通り、そんなバリーにパンチドランク・ラブつまり、「ひと目惚れ」をしてしまう女の子とのラブコメディなんです。観てるとわかるんですけど、よくこんな変な男にひと目惚れしたなって思うくらいめちゃくちゃなんですけどね。 |
山口 | なるほど。そしたら、はちゃめちゃな主人公とそれに振り回される女の子的な展開ですかね? |
川口 | それが、全然違うんです(笑)この映画は2軸で、ラブストーリーのほうは結構順調に展開していくんです。一方でバリーが出来心で、ある夜にテレクラ※で詐欺というかゆすりのグループの罠にかかっちゃって、トラブルに巻き込まれるという話が挟まってくるんです。 |
山口 | なんだか、急にディープになった・・・。「さわやか」っていうのは? |
川口 | この詐欺グループというのが、かなりしつこくてバリーにつきまとって恐喝もエスカレートしていくんですが、あるときにグループの下っ端がちょっと嫌がらせをした際に、恋人にケガをさせちゃうんです。
もう、そしたらそれまで嫌々応じていたバリーがブチ切れちゃって、その手下たちをボコボコにしちゃうんですね。これが、なんというかもう「スッキリした!」っていう気分になる。
仕返しを「さわやか」って言っちゃうとアレですけど、それまでこらえてきたけど好きな人を傷つけられて爆発しちゃうって、いいなって思いました。「守ろう」っていうのはアメリカ映画っぽくていいですね。 |
山口 | たしかに、そういう「復讐」までいかない「仕返し」って、スッキリするものが多いですよね。 |
川口 | 極めつけは彼女が入院しているのに、その見舞いに行くんじゃなくて「もう許さん!」ってなって手下だけじゃなくグループのボスまで殴りこみをかけるという・・・(笑) |
山口 | アメリカ的なマッチョになった(笑) |
川口 | ほんとに(笑)そのあとは、まあお楽しみで。
100分程度の映画で、テンポ感もよくてサクサク観られますので、ぜひ観てみてください。これは、ラブストーリーとしても面白いですし、スッキリ度もあっておすすめです。 |
テレクラ(テレフォンクラブ):電話を介して女性とやり取りをするサービス。いまでいう出会い系やチャットに近い。
ど田舎の学校へ越してきた男の子と地元の娘の初々しい恋物語|『天然コケッコー』
2007年『天然コケッコー』 |
海野 | じゃあ、次は僕で。1本目は『天然コケッコー』ですね。監督が山下敦弘さん。 |
山口 | 『リンダ・リンダ・リンダ』の監督さんですね。 |
海野 | そうですね。作品としてはそのあとで2007年のものです。
舞台は小学校と中学校を合わせても10人に満たないような、ものすごい田舎。そこに暮らす中学生の女の子「そよちゃん」が主人公。中学3年生のある日、都会の男の子が転校してきて自分にとってはじめての同級生ができるというところが物語のスタートになります。
そこから恋人同士になって、高校生に上がる春までの1年間を描いたのが『天然コケッコー』ですね。原作ではふたりの高校生以降のストーリーもあるんですが、映画はこの中学時代にフォーカスされています。 |
山口 | あー。これは景色もよさそうですね。 |
海野 | 原作と同じく島根県をロケ地にして撮影が行われていて、おっしゃる通り映像が奇麗ですね。 |
川口 | 独特な方言だったねえ。あれは、島根特有のやつなのかな。 |
海野 | どうなんだろう。「いってきます」のことを「いって帰ります」とか印象的だったね。そよちゃんを演じる夏帆ちゃんがかわいかった。 |
山口 | かわいい子の方言はいいですよね(笑) |
海野 | また田舎というところで、中学生同士の恋愛でありがちな、「恋するライバル」というのもほぼ登場しない。付き合うことに対する気恥ずかしさとかすらもない、全体がほのぼのした雰囲気に包まれているのも「さわやか」というポイントですね。
ラストはあんまり言えないところですが・・・。ちょうど春で桜の舞う風景にくるりの『言葉はさんかく、こころは四角』が流れるシーンはすっごくさわやか。
山下監督というと、ちょっと皮肉の聞いた笑いがあったり、エグかったりするような作品が多いんですが、これは直球で「青春映画」っていう感じで、その辺も含めて観ていただけると面白いかもしれません。 |
ぽっちゃりなお孫ちゃんが美少女コンテストに!?|『リトル・ミス・サンシャイン』
2006年『リトル・ミス・サンシャイン』 |
川口 | 次はロードムービー。2006年の『リトル・ミス・サンシャイン』という作品。これは一癖も二癖もある家族の話で、主人公の娘「オリーブ」が美人コンテストの予選を通過して、その会場へ一家全員でワーゲンバスに乗り合わせて向かうというストーリーの映画ですね。 |
山口 | あ、いい話感がすごい。一癖も二癖もある家族というのは・・・? |
川口 | まず、主人公に当たるお母さんのお兄さんが哲学研究者でゲイでしかも自殺未遂をしたばかり。主人公のお母さんはバツイチで前の夫との間にできた男の子・・・つまり美人コンテストに出る娘のお兄さんなんですけど、これがまたクセモノでパイロットになる夢を実現するために「沈黙の誓い」を立ててる。 |
山口 | じゃあ、話せないんですか? |
川口 | 筆談なんです(笑)なんでそんなことしちゃったんでしょうね・・・。で、この作品でアカデミー賞で助演男優賞を受賞するアラン・アーキンが演じる主人公のお父さんは、重度のヘロイン中毒という、もうほんとに観てて思わず「どんな家族だ!」って思っちゃいますね。 |
山口 | で、その家族がみんなで孫娘のために大移動をする話なんですね。「家族愛」がテーマの作品となるんですかね? |
川口 | そうですね。最初はなんだかチグハグな感じなんですけど、だんだん一体感が出てきて最後の美人コンテストでまとまるみたいな感じですかね。ロードムービーって、基本的には「ゴールがはっきりしている」ストーリーになりますよね。
観ていて心地がいいですし、家族の描き方もトラブルや癖のある家族同士でのぶつかりあいはあるんですけど、さわやかですね。 |
山口 | 印象的なシーンでいうとなにかありますかね? |
川口 | いろいろあるんですが、マイクロバスのクラッチがぶっ壊れちゃってギアがなかなか入らなくなっちゃったときに、家族全員でバスを押してある程度スピードが出たら飛び乗って、「うおっしゃー! ファーストギアに入ったー」っていって走りだすっていうのをやるんですけど。ここに家族、というかさわやかな感じが表れているかなあと思います。 |
ちなみに、この作品と似た雰囲気の作品と川口さんが評するロードムービー『はじまりへの旅』が、5月13日(土)から静岡シネ・ギャラリーで公開!
こちらは同じように一癖も二癖もある家族ではあっても、人里離れた山奥で厳格なお父さんに必死に育てられた結果、「体力はスポーツ選手並み」「6か国語を話せる」「狩猟も一人前」とサバイバル能力溢れる子供たちのお話し。
これだけでそそられちゃいますね。
気になる方は来月をお楽しみに!
どうしてもサッカーが観たい女の子たちの場外での戦い|『オフサイド・ガールズ』
2007年『オフサイド・ガールズ』 |
海野 | これは2006年のイラン映画なんですが、じつはイランでは当時、女性によるスポーツ観戦が禁止されていたんです。そのことを扱った作品ですね。
当時は、ちょうどいまと同じようにワールドカップの予選が開かれていて、イランと予選が同じグループになった日本の女性サポーターが現地で見ることは許されたことなんかも発端になって・・・。 |
山口 | かなり政治的な内容ですね。そういう映画は重そうに感じるのですが。 |
海野 | いえ、この監督さん、ジャファール・パナヒさんというんですが、この人は政治的なメッセージを入れ込んだ作品を撮る監督として知られているのはたしかで・・・。実際に逮捕されたこともありますし、『オフサイド・ガールズ』自体も現地では上映禁止作品になっているはずです。 |
山口 | え、そうなんですね・・・。 |
海野 | でも、観てみると、そういう政治的な重さは一切感じない、軽さと無邪気さの溢れる作品で。「なんとかしてサッカーが観たい、イラン代表を応援したい女の子たち」がなんとかスタジアムの警備員が守るディフェンスラインをかいくぐるか、まさにオフサイドを決めたいわけなんですけど(笑)そこが軽快に描かれた良質な娯楽作品ですね。 |
山口 | それはすごい気になる・・・! |
海野 | あと、特徴的なのはじつはこの映画にはサッカーそのものの映像は出てこないというところ。スタジアムから漏れ聞こえてくる歓声があるくらいですね。だから、すごく感情移入もできます。 |
川口 | でも、映画の外ではかなり大事になって・・・。現在、パナヒはイランで映画製作が禁止されちゃってるんです。 |
山口 | この作品が上映できないだけじゃなくて新しい作品も作れないんですか? |
海野 | そうです。それで、『オフサイド・ガールズ』の次に撮ったのが『これは映画ではない』という映画で(笑)
もう、「これは映画じゃないよ!」って言わないと作れないという、なんとも言えない状態ですね。 |
山口 | でも、イランから出てハリウッドというのは選択しないんですね。 |
海野 | 政治に対する活動もやっている方なので、そこはポリシーなんでしょうね。 |
川口 | で、そんななか最新作が、シネ・ギャラリーでも4月15日(土)から公開の『人生タクシー』。これもそんな状況でなんとかして映画を撮ろうと考えた名匠パナヒが・・・。 |
海野 | なんと自らがタクシー運転手に扮して、そのタクシー内に設置した車載カメラで撮影をするという離れ業で作った作品ですね。 |
山口 | もうめちゃくちゃやりますね(笑) |
川口 | なんですけど、これがまた素晴らしいんですよね。もちろん、乗り込んでくるのは役者さんですし脚本もあると思うんですが、とにかくリアルだし、お客さん一人ひとりのストーリーが面白い! |
山口 | こちらも政治的な部分は感じつつも楽しめそうですね。 |
海野 | それは間違いないですね。娯楽に対するセンスというか、「さわやかさ」を描くことに関しては本当に抜群な監督さんだと思います。 |
さわやかな感動を味わうならコレ|『ショーシャンクの空に』
1994年『ショーシャンクの空に』 |
山口 | では、僭越ながら最後は僕から。自分で出したテーマだったんですけど、じつはめちゃめちゃ悩みまして・・・。というか、「さわやか」ってすごく難しいですね。 |
川口 | 山口さんが出したのに(笑) |
山口 | 反省してます・・・。で、そんななか「これだ」と思ったのが、名作中の名作ではあるんですが・・・。『ショーシャンクの空に』ですね。 |
川口 | おお、なるほど。 |
山口 | なんというか、あの作品も登場人物やストーリーは一癖ある感じなんですよね。というか、そもそも冤罪で捕まって牢獄に入れられるという、かなりヘヴィな話なわけで。でも、どうしてか「嫌味」を感じないなあと。主人公「アンディー」の人柄や表現だな、と考えるとティム・ロビンスの功績かな・・・。 |
川口 | ほうほう。たしかにそうかもしれないですね。 |
山口 | 迷ったのがグリーンマイルなんですが、あっちはちょっとイラっとしちゃうんですよ(笑) |
川口 | ええ!? それはわかんない(笑) |
山口 | いや、なんか電気椅子のシーンも「そんな酷い殺し方しちゃう!?」みたいな(笑) |
川口 | あーー。なるほど! 両方スティーブン・キングの原作だよね? |
山口 | そうですね。監督も同じくフランク・ダラボンです。 あと、グリーンマイルと圧倒的に違うのは結末ですかね。先ほど出てきたパンチドランク・ラブではないですが、きちんと「仕返し」があって・・・。そして、感動的なのはやっぱりパッケージにも描かれているし、タイトル通りのシーンです。アンディーがあの雨に打たれるシーンは、じわーって感動するんですよね。 |
川口 | うん。あれは名シーン。 |
山口 | これは誰が観ても感動できるかなあ、というところで、おすすめの映画です。 |
気になる作品はぜひチェックしてみて!
いかがでしょうか? 20年以上前の名作から日本やアメリカ、ヨーロッパ以外の国の作品など、さまざまな映画の「さわやか」を紹介してみました。もし、気になる作品があれば、ぜひチェックをしてみてください。
また、静岡シネ・ギャラリーで公開予定の作品『はじまりへの旅』と『人生タクシー』も良作間違いなしです。こちらも併せて覚えておいてくださいね。
新シーズンのはじまりで少し疲れを感じてしまったら、今回紹介した映画でぜひ気分をリフレッシュしてみてください。ちょっとだけリラックスして次の日を迎えられるかもしれませんよ。
それでは5月号もお楽しみに!