3776を聴かない理由があるとすれば発売記念!
石田プロデューサーがアルバム全曲解説編
こんにちは、編集部の安藤です。
去る11月3日(木)、富士山ご当地アイドル「3776(みななろ)」の『3776を聴かない理由があるとすれば』のレコード(LP)盤が発売されました!
CD盤では、「富士登山の疑似体験ができる」というこのアルバム。
そこで作品の楽しみ方を聴くべく、富士宮市制70周年記念事業で誕生し、3776の定期公演にも使われている公園「花と食の元気広場」である人と待ち合わせ中ですが・・・。
富士山ご当地アイドル3776をおさらい
先日のGOOUT CAMP取材時のちよのさんの写真です。
ある人を待つあいだ、3776について簡単におさらいしましょう。
3776は、静岡県富士宮市を拠点に活動するアイドルグループ。2016年現在、#3(第三期)として井出ちよのさんがソロで活動中です。複雑ながら練り込まれた楽曲の数々は、音楽業界を中心に話題になりました。
mitecoでは今年10月、GOOUT CAMPで3776のライブを取材しています。
さて、今回発売されたレコード盤『3776を聴かない理由があるとすれば』のCD盤は、2015年10月に発売。アルバムを富士宮口からの富士登山になぞらえ、「1秒=1m」として曲が進む驚きの構成です。
ちなみに、3776のヲタさんはハイカー(山歩きをする人)と呼びます。そんなわけで、初心者ハイカーの私も登山用のファッションで来ました。
静岡や富士登山をテーマにアルバムを楽しもう
3776についておさらいしているうちに、”ある人”が到着しました。
3776のプロデューサー・石田彰さんです。
アルバム『3776を聴かない理由があるとすれば』は、2015年の大傑作として音楽業界を中心に広まりました。しかし、静岡や富士登山という点に注目したメディアはまだないみたいです。
たしかに、普通に聴いていたら、静岡や富士登山という部分は気にされないかもしれません。静岡のローカルWEBメディアmitecoは、あえてこのアルバムを「富士山ご当地」という切り口で尋ねます。
ちなみに、私もこのインタビューに仕掛けを用意してみました。
前置きが長くなってしまいましたが、それでは・・・
スタート~っ!
1.『登らない理由があるとすれば』
安藤 |
タイトルを見る限り、アルバムのリードトラックですか? |
石田さん |
そうですね。ただ、アルバムタイトルはこの曲に引っ掛けて生まれました。だから、曲が先なんです。
最近はだいぶ改善されましたが、「富士山って遠くから見るとキレイだけど、近くに行くとゴミだらけだった」というイメージがありましたよね。
それに、「簡単に登れる」と思ったのに実際に登るとキツくて、イメージと違うと感じませんか? |
安藤 |
たしかに。私もこの夏に富士登山をしたのですが、あまりにキツくて失敗しました。 |
石田さん |
ですよね。富士登山の大変さと、「気になった異性に近づくときに、相手を知ることへの不安」を重ね合わせました。 |
安藤 |
インターネットで「富士山を“彼”にたとえている」という話がありましたが、恋愛の要素もある曲なんですね。 |
石田さん |
そうですね。アルバムには収録されていませんが、『ラブレター』という曲でも同じような手法を用いています。 |
2.『水でできている』(描き下ろし曲)
白糸の滝。富士山の世界文化遺産を構成する一部にもなっています。
安藤 |
ブックレットを読む限り、白糸の滝がテーマでしょうか? |
石田さん |
そうですね。ただ、白糸の滝に限らず、富士山麓は水が豊富だと感じました。 |
安藤 |
どんなときに、水が豊富だと感じますか? |
石田さん |
私は関西出身で東京にも住んでいたんですが、富士宮市を自動車で走っていると、用水路がたくさんあることに驚きます。それに、何年か前に「市内で湧水が湧いた」と、ニュースになりましたよね。
だから、「こんな町があるのか」というか、富士山や富士宮市の町自体が、水でできているというイメージがありますね。 |
安藤
|
言われてみると、静岡県は水と縁が深い地域だと思います。ちなみに、この曲はアルバム用の描き下ろしなんですよね。 |
石田さん |
「水でできている」という歌詞とメロディ、ギターリフだけがオリジナルです。
ただ、他の歌詞は『私の世界遺産』をはじめ、昔の3776の曲をサンプリングしています。だから、古くからのファンの人でも楽しんでもらえるかもしれません(笑) |
3.『洞窟探検』
ちよのさんも探検したと思われる人穴神社。現在、洞窟は立入禁止です。
安藤
|
ここまで693秒・・・つまり、標高693mで人穴洞窟がテーマですか。 |
石田さん |
はい。ただ、私は行ったことがなくて。ちよのが小学生のころ、夏休みの自由研究か何かで人穴洞窟を探検したらしく、そのときのレポートの内容がタイトルや歌詞になっています。 |
安藤 |
ちよのさんの実体験をもとに、石田さんが創作したんですね。あと、この曲は言葉選びが独特でした。 |
石田さん |
「ちょこんと」とか「こちこち」とか、とにかく擬音を使ってみたかったんです。
あと、「心の氷」と「心残り」という同じ音の言葉も意識しています。ちよのくらいの年ごろの女の子って、心に壁があるような感じがあって、この気持ちを表現したくて。 |
安藤
|
言葉遊びですが、印象的な歌詞です。 |
石田さん |
曲のタイトルは「心の氷」とか、「心残り」としてもよかったかもしれません(笑) |
4.『避難計画と防災グッズ』
安藤 |
イントロから不安を煽るサウンドというか、「ドキッ」とさせられました。 |
石田さん |
ちよのが「BELLRING少女ハート※みたいな曲がやりたい」と言って生まれました。 |
安藤 |
タイトルや歌詞のモチーフは、静岡の防災訓練の多さですか? |
石田さん |
そういう部分もあるかもしれません。富士山の噴火や東海地震への備えに対し、「どこまで対策すべき?」という意図があります。
余談ですが、台風や自然災害に対する防災情報が、「広報ふじのみや」という無線放送で流されることにも驚きました。いろいろな地域に暮らしましたが、いままで経験したことがなかったです。 |
※BELLRING少女ハート:真っ黒なセーラー服を着たメンバーと、60年代サイケデリックロックやグランジなどの楽曲で、ロックファンからも人気のアイドルユニット。2016年で活動休止。
5.『日本全国どこでも富士山』(描き下ろし曲)
安藤 |
全国のご当地富士山がテーマで、あまり静岡と関係ない曲ですね(笑) |
石田さん |
はい(笑)全国にご当地富士山がありますが、当然どれも富士山がモチーフになっています。全国に300以上もそんな山があるなんて、驚きませんか? |
安藤 |
たしかに。 |
石田さん |
あくまでアルバムを3,776秒にするための場つなぎ曲ですが、『コケモモ』など、昔の3776やTEAM MIIからサンプリングしているので、こちらも楽しんでもらえるかもしれません。 |
6.『春がきた』
安藤 |
少しテイストが変わりましたが、どんな曲でしょうか? |
石田さん |
あまり富士山や静岡とは関係ないです。強いて言えば、四季折々に姿を変える富士山をイメージしています。
それと、ちよの自身、寒くなると鼻をすするんです。なので、そういう本人の体験も歌詞に入っています。 |
7.『湧玉池便り』(セルフカバー)
富士山の雪解け水でできたパワースポット、湧玉池。
安藤 |
いま話している「花と食の元気市場」のお隣にある、富士宮浅間大社の湧玉池がモデルですよね? |
石田さん |
そうです。こちらも「水でできている」と同様、水を意識しました。ただ、すでにTEAM MIIの曲でイメージができているので、アルバムではもう少し自由にやろうかと。 |
安藤 |
どんなイメージにしようと思いましたか? |
石田さん |
湧玉池の妖精が歌うようなイメージを出したくて、裏声で歌ってもらいました。原曲よりもテンポを遅くしたので、ドラムはダイダラボッチが歩いているみたいですよね。
ただ、それは後付けでアルバムの構成上、「アンビエントな曲を入れたいな」という気持ちが大きかったですが(笑) |
安藤 |
なるほど。この曲については、後ほど湧玉池へ行ったときに詳しく聞かせてください! |
8.『生徒の本業』
安藤 |
GOOUT CAMPではじめて聴いたとき、3・7・7・6拍子でびっくりしました。歌詞の内容は、静岡よりもちよのさんを意識していますか? |
石田さん |
はい。まだ学生であるちよのが歌うのは、必然性があると思っています。大人になると当たり前のことを忘れてしまうので。 |
安藤 |
歌詞でも「大人になって忘れそうだから」と言ってますね。 |
石田さん |
はい。ただ、理科のパートは火山、とくに富士山を意識してますね。 |
9.『旅ふぉとセレクション』
富士山の六合目。この場所でちよのさんも記念撮影したのかも?
安藤 |
CD盤の『Interval D』では、「このあたりで記念写真でも撮りましょうか」という言葉とともに、この曲が始まりますよね。
六合目(2,490m=2,490秒)に到着して、写真を撮るというストーリー構成に驚きました。 |
石田さん |
アルバム全体に言えますが、せっかく3,776秒で作り込むので細かい仕掛けをしました。
ただ、本当は「旅ふぉと」というグッズの宣伝のために作りました。なので、静岡とはほとんど関係ないんです。 |
安藤 |
そうなんですか! すっかりアルバムになじんでいますね。ちなみに、歌詞はどんなテーマがあるのでしょうか? |
石田さん |
人はどんどん成長して変わっていくので、元の姿に戻ることはない・・・そんなイメージで作っています。 |
10.『八合目にゃまだ早い』
八合目・・・と思いきや元祖七合目。富士登山中、先の長さに愕然とする瞬間でした。
安藤 |
富士山の元祖七合目がテーマですね。私も富士登山をしたのですが、「まだ八合目じゃないのか」と、少し絶望的な気分になりました・・・。 |
石田さん |
わかります(笑)私も富士山へ登ったときに「区切りがアンバランスだな」と感じました。
ほら、実際に恋愛していて、こちらは相手のことを分かったつもりでも、まだ相手の気持ちの八合目にもたどり着いていないってことあるじゃないですか。 |
安藤 |
なるほど。それをちよのさんに歌わせているんですね。 |
石田さん |
そうです。「上から目線の、昔のアイドル」みたいな歌詞にしたいという気持ちもありました。「私のことを知ったつもりなんて、まだ早いわよ!」みたいな(笑) |
11.『春は巡る』(描き下ろし曲)
安藤 |
アコースティックギターが特徴的なバラードですね。 |
石田さん |
私がはじめて富士登山をしたときのことがモチーフです。春というのは季節ではなく、その人にとっての区切りの時期だと考えて作りました。 |
安藤 |
なるほど。だから、「あれは何月」という抽象的な歌詞なんですね。 |
石田さん |
どの曲でもそうですが、あくまで富士山や静岡はモチーフで、普遍性のある歌詞として受け取ってくれたら嬉しいです。 |
12.『3.11』
『3.11』のPVに登場した倉庫について語る石田さん。
安藤 |
「震災復興応援ソング」というテーマで作ったと聞きましたが、ショッキングなタイトルで驚きました。地震という意味で、静岡県民も決して他人事ではないと思います。 |
石田さん |
もし、富士山の噴火や東海地震が起きたら、3.11のように大混乱が起きるはずです。
仮に、ちよのが生き延びても3776という数字(アイドル)に意味がなくなり、周囲の環境は何もかも変わってしまった・・・そんな日が訪れるかもしれません。 |
安藤 |
ちよのさんも、ライブでこの曲をする前のMCは雰囲気が違いますね。 |
石田さん |
そうですね。 |
安藤 |
この曲はPVにもなっていました。 |
石田さん |
はい。あ、この倉庫についている「×」の跡はPVで赤テープを貼っていた痕跡ですよ。 |
安藤 |
へぇ。思い出がある場所なんですね。あらためて、「花と食の元気広場」が年内いっぱいで終わってしまうのは寂しいです。 |
・・・3776を聴かない理由があるとすれば。ふぅ。
あらためて「3776を聴かない理由があるとすれば?」
『3776を聴かない理由があるとすれば』の全曲解説、いかがでしたか?
「2015年の大傑作」と言われるアルバムですが、静岡という切り口で見ると違った聴き方ができそうです。mitecoのメインテーマのひとつである、「県外出身者から見た静岡のイメージ」も見えた気がします。
さて、ダウンロード配信やYouTubeなど、デジタル環境で音楽を聴くのが当たり前になりました。でも、『3776を聴かない理由があるとすれば』で石田さんが用意した仕掛けはCDならでは。そう思うと、あらためてアナログ環境で音楽を聴くのも乙なものです。
私のような初心者ハイカーはまずCDで、再生環境があればレコード(LP)も一緒に楽しんでみてください!
ちなみに、明日は石田さんと一緒に湧玉池へ行きます。この記事の仕掛けの答えも正解発表するのでお楽しみに!