富士山麓の作家が集まる「RYU GALLERY」
空間の異質さに隠されたアートの筋とは
富士宮市の富士山麓にたたずむ「RYU GALLERY(リュウギャラリー)」。
オープンから今年で8年目となるこのアートギャラリーは、富士山麓で活動する作家さんの作品を中心に、広い意味でのアートをテーマにした企画展を月2回ずつ開催しています。
僕(吉松)が足を運んだ9月下旬には、クラフト作家によるバッグ展「RYUの秋のBAG展」を開催中でした。
アートギャラリーと聞けば、絵画や彫刻が並んでいる様子をイメージしてしまいますが、それを考えるとRYU GALLERYは少し異質な存在に思えます。
でもオーナー山仲久美子さん(以下、山仲さん)に、ここの成り立ちからギャラリーへの想いを伺ってみると、そんな異質さもストンと腑に落ちました。
山仲久美子
RYU GALLERYのオーナー。武蔵野美術大学造形学部卒。自身も作家で現在も制作活動を続けており、過去には東京の銀座などで個展を開催した。また「女流陶芸大賞受賞/TOKYOオブジェ展入選」「静岡県女流美術協会大賞受賞/亀山画廊展」をはじめとした多数の受賞経歴もある。
始まりはご主人の他界から
RYU GALLARY オーナー 山仲さん
吉松 |
まずRYU GALLERYの成り立ちから教えていただけますか? |
山仲さん |
最初はですね、主人を8年前に亡くしまして。それをきっかけに、自分でなにかを始めましょうってことでした。 |
吉松 |
・・・そうだったんですか。 |
山仲さん |
じつはRYU GALLERYの「RYU」は主人の名前なんですよ。リュウジって名前だったので。 |
吉松 |
あ、ご主人の名前なんですか。なんでRYUなんだろうとは思いましたけど。 |
山仲さん |
それはよく言われます(笑)主人はアートに造詣が深い人だったので、その意志を継ごうってことなんです。ですから、私は主人とふたりでやっているような気持ちでいます。 |
山仲さん |
あとですね、ここの成り立ちという意味では、私が焼き物をしていますから、自分の仕事場が欲しかったというのもあります。 |
吉松 |
仕事場ですか。最初はいまのように、企画展がメインのギャラリーではなかったんですか? |
山仲さん |
そうですね。最初はそれこそ仕事場であり、自分の作品を展示するスペースでした。でも作品を展示していくなかで、いろんな作家さんと触れ合いまして。
そしたらギャラリーとして、きちんと作家さんと対話をしなければならないと思ったんです。ひとつの筋を通したギャラリーをやらなければっていう。 |
吉松 |
ひとつの筋というのは? |
山仲さん |
うちのコンセプトは”面白いものをやりたい”なんです。みなさんが見ていて面白いねとか、楽しいねとか。なんか心に響いてくるというかね。お客さんの心に自然に溶け込んでいくっていう面白さ。
ですから、ひとつの企画展をするにあたっては、キャリアも経歴も関係なく、私が「面白い!」と思った作家さんに声をかけるようにしています。・・・結局は私の感性なんですけどね。
あと企画展に参加する人数も気にしていませんから、ときには20人くらいの作家さんが集まることもありますよ。 |
RYU GALLERY=インスタレーション?
オーナーの山仲さんはギャラリーを運営しつつも、いまも現役で作家活動をしています。活動について伺ってみると、RYU GALLERYの背景がより浮き彫りになりました。
吉松 |
RYU GALLERYの公式サイトで山仲さんの経歴を拝見したんですけど、すごい経歴ですよね。 |
山仲さん |
いやいや、とんでもないです。・・・まあ、一応は美大を出まして、ずっと空間デザインをやってきました。そのなかでもインスタレーション※をやることが多かったですね。
※インスタレーション:現代美術におけるジャンルのひとつ。特定の空間全体を演出し、ひとつの作品として表現する芸術のこと。 |
「たとえば、こんなことを」と言って山仲さんが見せてくださったのは、ご自身の作品集。
写真は銀座の個展で制作した作品です。床から壁まで、”なにか”が敷き詰められた不思議な空間。
こちらは自然の空間を使った作品。落ち葉に敷き詰められた”なにか”が、異世界のような雰囲気を作り出しています。
吉松 |
この無数にある石みたいなものはなんですか? |
山仲さん |
すべて焼き物です。中の色については、象嵌(ぞうがん)という技法を使ってまして、色のついた素材を埋め込んであります。 |
吉松 |
ほー・・・。どういう意図があるんですか? |
山仲さん |
細胞ですね。命のもとです。これがどんどん集まっていって、ひとつの生命体になるんだってことで。 |
RYU GALLERYに隣接する「Ryu Cafe」の一室にある山仲さんの作品。
吉松 |
ちょっと思ったんですが、こういうインスタレーションの活動は、RYU GALLERYのコンセプトにつながっているんじゃないですか? |
山仲さん |
あ、そうかもしれないですね。
企画展で大勢の作家さんの作品を集めたあと、「これどうやって飾ろう・・・」って思うんですけど、その過程はすごく楽しいです。作家さんの作品を借りて、自分のインスタレーションをやっているみたいな(笑) |
吉松 |
そういう感覚は常に持っているものですか? |
山仲さん |
持ってはいるものの、あまり考えていませんでした。私がいままでやっていたことと、ここでやり始めたことが、いつのまにかつながっていたんでしょうね。 |
吉松 |
そうですか。さきほど「ひとつの筋を通したギャラリーにしなければ」と話されてましたが、無意識のうちにひとつの筋が通っている気がしましたね。 |
山仲さん |
きっとそうですね(笑)たぶんそうだと思います。 |
RYU GALLERYの異質さとは
山仲さんの考える面白さが集まって、ひとつの企画展が開催されている。その企画展は、山仲さんによるインタスレーションであって、つまりはひとつの作品であると。
ギャラリーそのものが作品だったから、僕はRYU GALLERYのことを異質に思ったのかもしれません。
・・・なんて考えていたんですが、RYU GALLERYのこれからについて伺ってみると、異質さに対するきちんとした答えがありました。
吉松 |
RYU GALLERYがこうなったらいいなっていうのはありますか? |
山仲さん |
これだけ長くやっていて、作家さんやお客さんも来てくださる環境になったので、次の段階として新しい作家さんたちを育てていきたい、成長してほしいという気持ちがあります。それを私はすごい期待していますね。 |
吉松 |
あ、だから企画展では、作家さんの経歴やキャリアを気にせずに声かけているんですか。 |
山仲さん |
そうそう。あと作家さんという広いくくりで考えているから、アートのほかにもクラフトや工芸の作家さんにも声をかけているんです。
アートだからってえらそうにする必要はありませんし、クラフトとか工芸を卑下する必要もありませんよね。
ですから、ごっちゃにしましょうですし、お互いの考えを学んでいきましょうっていう場所にしたいなと思っています。 |
吉松 |
・・・なるほど。 |
山仲さん |
まあ、ギャラリーを作っていろんな作家さんと触れ合うと、結果として気持ちがそうなりますね(笑) |
吉松 |
そういうものなんですかね。 |
山仲さん |
そんな気がします。流れとしてというか。なんでも流れだと思いますね。 |
RYU GALLERYの異質さに対するモヤモヤがパッと晴れました。僕はアートというものを狭く捉えすぎていたから、バッグをはじめとした企画展に違和感を抱いていたんだと思います。
そもそも山仲さんからすれば、RYU GALLERYそのものがインスタレーションなので、空間全体がアートだったわけで。
ちなみに山仲さんは今年の7月からスタートした、「Do Arts fujisan」というアートグループのキュレーター兼副会長を務めています。このグループは富士山麓に集まる作家さんが中心となり、より魅力的な地域づくりを目指してアート活動をしていくそう。
またグループ設立の提案は山仲さん本人で、そのきっかけは「RYU GALLERYで触れ合った作家さんたちのエネルギーを集めたら面白そうだと思ったから」。
事務局はRYU GALLERYに構えるとのことで、これからの富士山麓は、もっともっと大きな流れができるかもしれません。